注意深く耳を傾けるとわずかに聞こえる程度の振動音と、少女の喘ぎ声が部屋に響く。
窓からは朝日が差し込み、二人の少女の繊細な裸体を明るく照らしていた。
「ぁ…やだ、姫子っ…恥ずかしっ…」
「千歌音ちゃんは機械にもこんなに感じちゃうんだぁ…エッチだね…」
「違っ…ああっ!っ…あっ…ふぁっ!」
「かわいいよっ…千歌音ちゃん…」
手元のリモコンを操作すると、少し遅れて届いた電波によって機械の振動が強まる。
千歌音ちゃんは堪えきれないといった感じで、その場にへたり込んだ。
「姫子の指でっ…指でして、欲しいのっ…」
潤んだ瞳で、上目遣いでおねだりされて。
いつもだったら、とてもではないが断りきれずに。
指と舌で愛して、思う存分に乱れさせて、それから抱き合って、キスをして。
そんな朝になるのだけど。
でも、今日は違った。とっても楽しい計画のためなんだから、我慢我慢。
「っ…?」
機械の振動を止めてじっとしていると、千歌音ちゃんが不安そうに見つめてくる。
「今日はこのまま、学校に行こうね。千歌音ちゃん」
今日は千歌音ちゃんの、高校への入学式。
私は本当はもう社会人なんだけど…千歌音ちゃん(姫宮の力?)にお願いして、一緒
に通えることになっていた。
「っ…」
「どうかなさいましたか?お嬢様」
「…いいえ、なんでもないわ」
乙羽さん、鋭いなぁ…。
椎茸をあまり咀嚼せずに飲み込みながら、左手でリモコンを操作する。
頬を強張らせていた千歌音ちゃんが、小さく息を吐いた。
乙羽さんは千歌音ちゃんの様子を訝しがりながらも、千歌音ちゃんをいじめている機
械の存在には気づかなかったみたい。
さすが、千歌音ちゃんにおねだりして買ってもらった最高級な機械だけある。
まさかそれで自分がいじめられちゃうなんて、思ってもみなかっただろうな…。
「今日もおいしかったわ。ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
乙羽さんににっこりと笑いかけて、千歌音ちゃんの背中を押すようにダイニングを出
る。
なんだか不穏な視線を感じるが、いつものことなので気にしない。
417 名前:ある日の学園生活3[sage] 投稿日:2007/03/04(日) 01:40:03 ID:8cl1E/d5
屋敷を出て、二人きりになると千歌音ちゃんに手を握られた。
「姫子、やめましょう…このまま学校へなんて、無茶…ああっ!」
ボタン一つで、肩口にキュッとしがみ付いてくる千歌音ちゃん。
かわいい…。
「ダメだよ、千歌音ちゃん…。もし勝手に取ったりしたら、私…千歌音ちゃんのこと嫌いになっちゃうから」
そんなこと、あるわけがないのだけれど。
こんな言い方は、自分でもずるい、と思う。でも、でも…。
心細そうに。
こくん、と頷く千歌音ちゃんがかわいいから。
愛おしすぎるから、いけないんだ…。
「千歌音ちゃん、ルールを説明するね」
抱き寄せたら千歌音ちゃんが熱くて…
――我慢できなくなりそうっ…。
――ダメ!ダメだよ!自分の計画なんだから!
頭の中で、黒いのと、黒に近い灰色なのが戦って、灰色の方が勝った。
触りたい欲望を抑えて、耳元で囁く。
「今日は一日、入れたままにしておいてね。みんなに気づかれちゃダメだよ…。入学早々なのに、宮様はエッチな子だって、バレちゃうからね」
「っ…」
もう既に耳の後ろまで真っ赤だけど、隠しきれるかな?
千歌音ちゃんが耐え切れるように。
それでも、かわいい姿を見せてくれるように。
…私も調整頑張らないと。
「もし我慢できなくなっちゃったら、休み時間にあの花園に来てね。かわいくおねだりしてくれたら、私がご褒美あげるから…」
スカートのポケットの上から、リモコンを押す。
反応しない千歌音ちゃんに、ちょっとした意地悪だ。
「っ…!あっ…ふあっ、姫子っ!」
「わかった?千歌音ちゃん」
「うんっ、わかった…っ!わかったわ…!っく…」
こくこくと頷く千歌音ちゃんに満足して、弱めてあげる。
「さぁ、行くよ千歌音ちゃん!」
楽しい一日は始まったばかり。
◇
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな朝の挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
私立乙橘学園。
創立うんぬんはよくわからないが、広大な敷地を持つのんびりとした校風の学校である。
彼女――、姫宮千歌音はそんな平凡な生徒の一人――
のはずがなく。
今日は入学式。
鮮やかな赤を基調とした制服に身を包む、可憐な女子生徒たちも、
明るい紺色に金色をあしらったブレザーに身を包む、男子生徒たちも、
皆、どことなく嬉しそうな表情を浮かべて階段を上って行く。
そんな中に一人、うつむき加減の少女がいた。
◇
「ひ…姫子」
「なぁに?千歌音ちゃん」
「あの、人が…たくさんいるわ」
「そうだね。なんだか懐かしいなぁ!ね、千歌音ちゃん」
千歌音ちゃんの言いたいことはわかっているけど、知らん振りして辺りを見回す。
「ふふ。あの時千歌音ちゃんが助けてくれなかったら私…下まで落ちて死んじゃってたかもしれないね」
「え、ええ…」
「ああっ、そういえば。学園内ではひみこって呼んでね」
「えっ?」
「私、二回目だし。一応、ね」
「なるほど、わかったわ」
「あれ、もうこんな時間だよ。急がないと」
「あ、姫っ」
千歌音ちゃんの手の平を掴んで校舎に駆け出す。
今日は少し汗ばんでいるけれど、私が一番大好きな手。
いつでも私を守ってくれる、優しくて暖かい手。
◇
「わ、もうみんな来てるよ」
「う…」
おじけて後ずさろうとする千歌音ちゃんの背を軽く押して、教室に入る。
私も千歌音ちゃんも初対面のクラスメイトたちの視線が、一斉に集まった。
「ごきげんよう」
私はにこやかに挨拶をした。
引っ込みじあんだった私だけれど、これでも少しは成長したのだ。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう…」
千歌音ちゃんはというと。
普段よりも火照っている頬に、潤んだ瞳。
少し不安そうな表情に、微かに震える声。
思わず抱きしめてキスしたくなっちゃうほど、かわいい。
千歌音ちゃんを見つめるクラスメイトの目が熱っぽいのも、仕方がないと思う。
女の子でも、男の子でも。
千歌音ちゃんの魅力に逆らえるはずがないから。
◇
黒板に席順が書かれていて、千歌音ちゃんは窓際の、前から3番目。
私は千歌音ちゃんの隣の列の、前から3番目。
つまり、隣の席。
名前順で偶然そうなったように見えるけれど、その辺はほら、姫…ごにょごにょ。
「なんだか不思議…千歌音ちゃんと同じクラスで、隣の席なんて」
「そうね…でも、嬉しいわ…その…」
この機械がなければもっと嬉しいのに、って千歌音ちゃんの目が言っている。
私は笑顔で応えた。
クラスメイトたちが、チラチラと千歌音ちゃんを見ている。
でも見ているだけで、近寄ってこようとする人はいない。
やっぱり、恐れ多いというか、美しすぎてためらっちゃうよね。
「ねえ、千歌音ちゃん。みんなが見てるよ…」
小さく囁いて、左手でリモコンを操作する。
10段階の6くらいまで振動を上げると、千歌音ちゃんの顔が強張った。
「あ…」
「うん?どうしたの?」
「な、なんでもないわ…」
「ふふ」
唇をキュッと結んで耐える表情を楽しんでいると、ドアが開いた。
名簿を持って、教壇に真っ直ぐ向かう女性。
生徒たちがざわめく。
千歌音ちゃんには敵わないけど、美人…。
スラっとしていて、メガネが良く似合っている。
少し、キツそうにも見えるかな。
「初めまして。担任の綾小路三華だ。これから1年間、よろしく。
さっそくだが、これから講堂で入学式が始まる。廊下に出て名前順に並びなさい」
命令口調だけど、声が艶っぽいせいか、それともその容姿に似合っているからか、生徒たちは素直に頷く。
ちらっと左を向くと、千歌音ちゃんはなんだかそれどころじゃなさそうだった。
リモコンを操作して振動を緩めると、こちらを向いて、むすっとした表情。
めったに見られないこんな顔も、やっぱりかわいい。
◇
廊下に出て並ぶと、後ろから肩を叩かれた。
「ごきげんよう。私、田中マキコ。マキって呼んで」
「初めまして。来栖川…ひみこです」
「あの、窓際の席の人。えっと、綺麗な人だよね。なんだか憂いを秘めているというか、なんというか…」
憂い…じゃなくて、本当は煩悩と戦っているんだって知ったらどう思うかな。
「千歌音ちゃん?」
「千歌音ちゃんっていうんだ。あれ…どっかで」
「も、もしかして、姫宮家の!?」
耳をそばだてていたらしい男の子が割って入ってくる。
「う…うん。そうだよ、姫宮千歌音ちゃん」
周りからため息が漏れる。
一様に頷いて、納得しているみたい。
千歌音ちゃんはというと、後尾の方で綾小路先生と話をしていて、自分について騒がれているなんて気づいてないみたい。
何を話しているのかは、聞こえないけど…。
綾小路先生が千歌音ちゃんを見る眼差しに、なぜか心がざわついた。