千歌姫嫉妬 続き ◆33uUMeu > 9c氏

神無月の巫女 エロ総合投下もの

千歌姫嫉妬 続き ◆33uUMeu/9c氏

 

「千歌音ちゃん……、ね、泣かないで」
 熱い涙が落ちて、胸を伝って流れる。どんなに懸命に嗚咽を殺していても、千歌音が
泣いている事はすぐに分かる。
 千歌音に泣かれると、胸が苦しい。

「姫、子……」
「私、全然嫌じゃなかったよ。最初は辛かったけど、千歌音ちゃん……愛してる、って
言ってくれたでしょ?だから……」
 だから、それから後はむしろ嬉しかったのだ。
 強く抱かれるほど、激しくされるほど――それだけ執着されているのだと、愛されている
からなのだと感じられて身体が熱くなった。
 
「愛しているからって、そんなの免罪符には……っ」
 千歌音が胸に手を置いて身体を離そうとする。けれど、ぐっと力を込めて離さない。
 そんなに力は入らないけれど、千歌音も全力で身体を離そうとしているわけではないから。
「千歌音ちゃんは、難しく考えすぎだと思うな……」
 免罪符とか、資格とか。そんなに難しいもの、いらないのに。

「傷ついたりなんて、しないよ。してないよ。私……本当に嫌な事は、千歌音ちゃんにだって
ちゃんと言えるもん」
「姫子……」
「大切な事は、ちゃんと伝えよう、って。私も強くなったんだよ、千歌音ちゃん。ほめてくれないの?」
「……っ」
 千歌音は顔を上げて、首を左右に振る。その度に髪が胸をさわさわと撫でて、くすぐったかった。

 噛み締めた唇は小さく震えている。
 抱きしめた肩からも千歌音の怯えは伝わってきて、なんだか可哀想だ。
 早く楽にしてあげたいと思う。こんな千歌音は確かに庇護欲を掻き立てられて、とても愛しい
けれど、やはり見ていて忍びない。
 
「怖がらないで……千歌音ちゃんが悪いんじゃないよ。ごめんね、私また千歌音ちゃんに
寂しい思いさせちゃたね」
「違う…ちがう……っ、私が、勝手に。勝手に嫉妬して、それだけで、こんな――最低な事を、
姫子にしてしまえるの、私は……っ」
 ――嫌じゃない、って言ってるんだから、そんなに自分を責めなくても良いのに。

「もう。嫉妬してもらえるの、私はすごく嬉しいんだよ、千歌音ちゃん。私も……嫉妬してる事、
あるもん。だから千歌音ちゃんも私と一緒なんだなぁ、って」
「……え?」
「だって……乙羽さんは、子供の頃の千歌音ちゃんの事、知ってるんでしょ?
ずっと千歌音ちゃんの一番近くにいた人だし、千歌音ちゃんのお世話とかお仕事の手伝いとか、
私には出来ないし……」
「でも、乙羽さんとは……っ!私が好きなのは、姫子だけで……ずっと、姫子だけを探してて……」
 必死に身を乗り出して弁明する千歌音の額に、首を伸ばして口付ける。千歌音の気持ちは
分かっているつもりだから、別に釈明して欲しいわけではない。


「うん、ありがとう。私も、一緒だよ千歌音ちゃん。もし――そんな事無いと思うけど、もし、
マコちゃんが私の事……好きだって、恋人に、って言ってくれたとしたら」

 千歌音と――運命の人と出逢えたと一番最初に報告して、一番喜んでくれた人。
 真琴は大切な友達で、その気持ちは千歌音と比べてどちらが大切かなんて言える種類の
ものではなくて。
 千歌音が怯えたような目で姫子を見上げる。
 そんな顔しなくても良いのに。微笑んで、千歌音の頬をつつく。

「私、ちゃんと伝えられるよ。私には好きな人がいるから、って。千歌音ちゃんじゃないと
駄目だから、って。千歌音ちゃんに嫉妬されるのは嬉しいけど、誤解されるのは悲しいの。
だから、ちゃんと言っておくね。もっと早くに言えば良かったね、ごめんね」
「姫子……っ」
 首筋に顔を埋めて泣く千歌音の髪に頬を寄せて、頭を撫でる。千歌音はしゃくり上げながら、
姫子の背中に手を回した。少し痛いくらいにすがりつかれて、姫子は満足を感じた。
 可愛い。思わず、頬が緩む。
 
「千歌音ちゃん、子供みたい。――ね、千歌音ちゃん……千歌音ちゃんが、どうしても
今夜の事許せないんだったら……」
「――な、に?」
 千歌音が涙に濡れた顔を上げた。真剣な瞳は、切羽詰まった色をしている。

「私、なんでもするわ…なんでも」
 指の背で涙を払って、頬を撫でる。
「私を、満足させて……ほしいな」
「……っ」
 そんな辛そうな顔しないで欲しいのに。
 
「姫子……でも、私にはもう――んっ」
 言いながら余計につらそうに眉を寄せて瞳を潤ませるから、姫子は唇で言葉を遮った。
 重ねただけの柔らかい唇からは、涙に濡れてしょっぱい味がする。そして、少し苦い。
 千歌音の味だ。自分に厳しいからこそこうして追い詰められてしまう、姫子との関係に
真面目すぎる千歌音の。
「ん……ね、千歌音ちゃん。私、今日たくさん気持ちよかったよ。変になりそうなくらい……」
 言いながら、先ほどまでの自分の痴態を思い出す。

「……。…ちょっと、変になっちゃってたかも。あの、はしたなかった?幻滅…しなかった?」
「そんなの、するわけない…」
 自分の唇を手で押さえて、千歌音が小さく首を振る。
 どういう意味だろう。キスされたのが嫌だったのだろうか。
 
 ――そんなこと、ない……よね?
「あの、だから、ね……私におかえしさせて?千歌音ちゃんがどうしても気にするなら、
それでおあいこにしようよ」

 ようやく身体に力も戻ってきた事だし。全身ちょっとだるいけれど、それでもまだ
満足していないから眠る気にはなれない。ましてや、こんな不安そうな顔をした千歌音を
そのままにしておくなんて、できそうもない。
 ね?と首を傾げて笑うと、千歌音は泣きそうな顔のまま、こくりと頷いてくれた。


「千歌音ちゃん……力、抜いて。そんなに緊張しないで」
 身体の下に千歌音を組み敷いて、姫子は千歌音の肩に、首筋に唇を落とした。
 キスしながら、手でワンピースの寝間着をたくしあげていく。

「あ……、やっ!」
 白い膝上が露わになったあたりで、千歌音の手が姫子の手を抑えてそれを制した。
「えっ?……脱がしちゃだめ、なの?でも、私…千歌音ちゃんの裸見たいよ……」
「あ、あの……」
 千歌音の瞳が揺れる。

 いつもなら、どちらがするにしてもされるにしても、千歌音は服を脱いで身体を重ねて
くれるのに。今日は、何度懇願しても、千歌音は聞き入れてはくれなかった。
 布越しでは、どんなに抱きしめられても今ひとつピンとこない。
 やっぱり、素肌のあたたかさや柔らかさ、脈打つ肌の表情を感じていたい。
 それも意地悪のひとつだと思っていたのだけれど、どうやら違うようだ。
 
「千歌音ちゃん……」
 哀願するようにじっと見つめていると、千歌音はようやく手をどけてくれた。
 姫子は身体を起こして、千歌音の腰元に座る。
 顔を背ける千歌音に首を傾げながら、まくり上げていって――
「あ……すごい」
 姫子が思わず呟きを漏らすと、千歌音は息を飲んで恥ずかしそうに吐息を震わせた。
 そんな顔、しないで欲しい。動悸が収まらなくなってしまう。
 
「千歌音ちゃん、こんなにしてたんだ……」
 手を、膝裏に触れさせてその感触を確かめる。
 千歌音の女の子の部分から滴り落ちる甘い蜜は、白い脚を伝って膝裏まで達していた。
 濡れて張り付いた薄いショーツは肌を透かして、何とも言えないくらい扇情的だ。
「んっ、あぁっ!」
 思わず指を其処に触れさせると、千歌音が身体を大きく震わせて甘い声を上げた。

「素敵……」
「……っ」
「何もしてないのに……こんなに、千歌音ちゃんも、興奮してたんだね。だから……脱いで
くれなかったんだね」
 ショーツの底布を撫でると、布が滑って濡れた音がする。千歌音の秘所が、それだけ
ぬかるんでいるという証拠だ。
 
「だって…こんなの、知られたら…っ」
 やりにくいだろうな、と思う。千歌音は表面上はずっと平気な顔をして姫子を抱いていたのに。
 意地悪な言葉も、態度も、こんなにしていては全然説得力がない。
「私は、嬉しいけどなぁ……。でも、これに気づいてたら……その時点で、我慢できなく
なっちゃったかも」
 今日は、千歌音に全部任せると決めていたのだけれど。こんな様子を見せられては、
それを守れたかどうかは怪しい。早々に拘束を解いてしまって、千歌音を押し倒して
しまったかも知れない。


「我慢なんて……しなくて、良かったのに」
「うん……今は、そう思うよ。でも……千歌音ちゃんが悲しくなったのは、私のせいでしょ?
だから、良いかなって。千歌音ちゃんが私を、その、好きにして……それで、悲しくなくなるん
だったら良いかなって思ってたんだけど」
「ひめ……こ」
「でも、違ったんだよね?千歌音ちゃんが悲しいのは、マコちゃんとの事誤解してただけ
じゃなくて……私の、そんな態度も原因だったんだよね?」
「違う……姫子が悪いんじゃない……っ!私が、ちゃんと自分を抑えられないから……
そのくせ、姫子にその分を求めてしまったから……」

 言葉を交わす間にも、姫子は千歌音の寝間着を脱がせて、肌を露わにしていく。
 きめ細かくて、透き通るように白い肌。無駄なく引き締まった腰、服の上から見るより
ずっと目立つ大きな胸。そして、その頂で鮮やかに色づいている硬い蕾。

 そのどれもが、姫子をドキドキさせる。

「気づけなくて、ごめんね……千歌音ちゃん、ずっと泣いてたのに。――あ、ばんざいして」
 千歌音が頬を真っ赤に染めて、躊躇いながら両腕を上げる。背中を浮かせて寝間着を
上から抜き取ると、その拍子に豊かな胸が瑞々しく揺れた。
「んっ。……泣いて、なんか」
「ううん。ずっと、泣いてたよ。だから、私……どうしたら千歌音ちゃんが辛くなくなるのか
分からなくなって、やっぱり今も分からないんだけど……」
 千歌音の寝間着をベッドの下に落として、千歌音をまたぐように上になる。

「姫子……」
「私で悲しくなったんだから、きっと私で……その気持ち、無くせるよね?全部、伝えるから。
私が千歌音ちゃんを大好きな気持ち……」
「私……っ」
 震えるまぶたに口付けて。一筋流れた涙を追って、頬に唇を這わせる。舌で舐め取ると、
涙の塩辛い味がする。でも、さっきよりずっと口当たりはやさしい。
「泣かないで、千歌音ちゃん」
「違う……悲しいんじゃなくて、でも……っ」
「そっか。じゃあ良いよ、泣いても。千歌音ちゃんが泣いたら、私が全部拭ってあげるから」
「は……お陽様のハンカチ、ね……」
 千歌音は頬を引きつらせた不器用な笑顔で姫子を見上げる。
 笑ってくれた。それだけで、身体の内側が弾むくらいに、すごく嬉しくなる。

「考えないで……感じて、千歌音ちゃん。愛してるから……千歌音ちゃんが心配するような
ことなんて、きっとなんにもないから」
「ん……」
 頬に、額に、唇にキスを落とす。出来るだけ優しく、大切な気持ちが伝わるように。
「優しく、するね……でも、あんまり我慢できないかも……」


 ずっと、触れたくてしょうがなかった。
 キスをして、舌を絡めて、千歌音の声を飲み込んで――手を、千歌音の胸におく。すっかり
硬く尖っている先端を手のひらで揉むと、千歌音が反射的にぐっと喉を反らして、唇が離れて
しまう。まだ途中なのに、と姫子は首を伸ばして千歌音の唇を追いかけた。

「は、あぅ……んんっ」
 深く唇を交わすと、熱い千歌音の舌がおずおずと姫子のそれに応えて、少し控えめな反応に
うっとりしてしまう。なんだか硬くなっている千歌音が、とても可愛い。
 いつもだけれど、自分がされる側になると途端に弱気になる。慎ましやかで、控えめで、
恥じらい深くて――こういうことに関しては、姫子よりずっと、千歌音の方が本当は臆病で。
 今日は、いつもよりなんだか身体も態度も硬い。
 それをほぐすのは、姫子の役目で。誰にも譲れない。

「んぅっ、んん……っ!」
 手を滑らせて指先で敏感な胸の先端を揉むように擦ると、千歌音がくぐもった声を上げて
姫子の肩を掴んだ。
 けれど、やめない。
 硬さを増す胸の先とは反対に、千歌音の身体からは力が抜けて柔らかくなっていくのを
感じるから。恥ずかしがるけれど、本当は止めて欲しいなんて思っていないのを知っているから。

 唇を離しては角度を変えてまた交わる。千歌音が求めるように舌をのばすのを捕らえては、
また放して焦らすように遠ざかる。
 そんなキスを繰り返しながら、胸を揉みしだいて、敏感なところを刺激して、千歌音が何も
考えられないようにしていく。次第に、千歌音は姫子に夢中になる。

 感じればいい。考える必要なんて何もない。
 ただ、姫子を――千歌音を愛する姫子の気持ちだけを、千歌音は感じてくれたらいい。

「んっ……はぁ、あぅ…ん、姫子……」
 唇を離すと、潤んだ瞳で千歌音が見上げてくる。それでまたキスしたくなる。病み付きに
なってしまう。けれど、キスだけじゃなくてもっといろんな事をしたいから。
「ん……好きだよ、千歌音ちゃん。ごめんね、私馬鹿だから……千歌音ちゃんの不安を
なくしてあげられる言葉とか、うまく言えないの」
「そんなこと……」
「でも、好きだよ。千歌音ちゃんが思ってるよりずっと、私……千歌音ちゃんのこと大好き」
「なんだか、恥ずかしいわ……」
「あっ、そういうこと言うの、ずるい」
 胸の先を挟んだ指に軽く力を入れる。
「ゃんっ!」
「わ…可愛い声」

 余計に我慢できなくなってしまう。身体の中がざわざわと千歌音を求めて騒ぐ。
 出来れば、優しくゆっくり心をほぐしてから、してあげたいのだけれど。

「ん、もうっ、姫子」
「可愛いよ、千歌音ちゃん……」
 身体をずらして、胸元に唇を寄せる。白い肌にキスを落とすと、千歌音の口から押し殺した
声が小さく漏れて姫子の身体を熱くさせた。
 千歌音の豊かな胸は、横になっても十分に大きくて、とてもさわり心地が良い。
 触れていた方も、まったく触れていない方も、その先端はほの赤く色づいてつんと上を
向いている。
 くにくにと指先で揉んでも、手を放すとすぐに硬く尖る。ぐいと押し倒しても、引っ張って
のばしても、また――。
 それを見つめながらごくりと喉を鳴らすと、千歌音が口元を手で覆ってぎゅっと目を瞑った。
「~~っ!」

 ――ごめんね、千歌音ちゃん。


「おかえし、していい……?」
 今日は、ずいぶんと千歌音に胸で感じさせられてしまった。まさかこんなに、と自分でも
驚くくらいに、すごく良かったのだ。
 同じくらい、千歌音も気持ちよくしてあげたい。千歌音ほど手も舌も器用ではないけれど、
そこは気合いと愛情でカバー……出来ると良いと思う。

「んっ、……うん」
「ありがと」
 お許しをもらってすぐに口に含む。少し焦り過ぎてはしたないかな、と思ったけれど、
もう我慢が出来なかった。
 かり、と甘く歯を立てると、千歌音の身体が大きく跳ねた。
 目を上げると、千歌音は手の甲を口に押し当ててぎゅっと目をつぶっている。
「ふ……っ、う…!」
「……?」

 ――あ、そう言えば。
 千歌音に此処を噛まれたりもしたから、いきなり歯を立てて『おかえし』に怯えさせて
しまったらしい。
 千歌音は懸命に声を殺しているけれど、身体の震えは誤魔化せるものではない。
 別に、そう言う意味でおかえししたいと言ったわけではない。
 けれど、少し迷う。後からすると、噛まれた部分の疼痛はむしろ気持ちよかったくらいで。
 今、何でもないときに自分で触れるとぴりっとした痛みが走るけれど、これも千歌音に
触れられたらまた違うのだろうと思う。そんな、甘い期待が微かに残る噛み傷だ。

「姫子の、好きにして……私が、そうして欲しいの」
 迷っている姫子に、千歌音は健気なことを言うから。
 やっぱり痛いことは止めて、先端を舌でくすぐった。

「あっ、や……ああっ?」
 気持ちよかったけれど、痛かったのも本当だから。優しくしてあげたいと思っているのに、
ただでさえ緊張している千歌音にそんなことする必要はない。
 甘く噛んではっきりさせた先端の蕾を強く吸いあげて、舌でこねて、舐め上げて。空いた
胸には手を当てて刺激する。
 ここは、他に比べてとても敏感で、繊細だから。指先や舌のちょっとした刺激で、十分に
千歌音は良い声を聞かせてくれた。

 敏感な部分あたりの肌は、とても舌触りが良くて、気持ち的に甘い。
 円を描くようにぐるりと舌でなぞって、最後に真中の感じやすい部分をつつく。
 舌先で表面を軽く撫でるように確かめていく。その一番先の部分はまたちょっと感触が
違っていて――舌での探索は飽きることがない。
 本当は、何時間だってこうしてキスしていたいけれど、そうしたら他のことが出来なく
なってしまう。
 時間が止まってしまえばいいのに、といつも思う。そしたら、時間を惜しむことなく、
いくらでも千歌音を味わって、感じさせて、愛してあげられるのに。

「っは……、ん…千歌音ちゃん、素敵」
 唇を離して、濡れた蕾を指先で摘む。滑ってうまくいかない。けれどそれにも千歌音は
甘い喘ぎで応えた。反ってむき出しになった白い喉が細かく震えているのが、どうしようもなく
扇情的で、眩しくて。

「あ……っ!」
 かぷり、と喉に噛みつくと、千歌音の身体がびくっと震えた。いっそう反った喉を唇で
食んで、舌で味わっていく。
「あ…あぁ、あぅ、ん……っ」
 胸の先を指で摘みながら、手全体は胸を包むように揉んでいく。そんなに器用に、
千歌音がしてくれるほど上手には手を動かせないけれど、揉む拍子に指先に少し力が
入る程度でも、敏感な千歌音は感じてくれる。
 あごから伝う唾液を拭っていって、唇にたどり着くと、軽くキスをして身体を離した。


「はぁ……ごちそうさま、千歌音ちゃん」
「言わないで……っ。私…また、姫子を穢してしまった……」
「ん、っと……汚くなんて、本当になかったよ。考えすぎだってば、千歌音ちゃん」
「ただでさえ、消えてしまいたいくらいなのに……っ!」
 両腕で顔を覆って、千歌音は身悶えする。両足の付け根を姫子に抑えられているから、
胸や腹を波打たせるだけに留まっているけれど……どうして今日はこんなにも姫子を煽るような
仕草をするのだろう。

 千歌音の媚態に身体の奥が熱くなって、姫子は疼く腹を押さえた。
「私、千歌音ちゃんに汚されたなんて思ったこと、一度もないんだけどな……。
でも、良いんだよ千歌音ちゃん。私、千歌音ちゃんのなら……たとえ千歌音ちゃんが
汚いって思ってても、欲しいんだから」
「姫、子…」
「だから、全部ちょうだい」
 ショーツに手をかけて脱がす。脚を開いて顔を近づけようとすると、千歌音は小さな悲鳴を
上げた。
「……もう。どっちなの?千歌音ちゃん」
 ショーツの上から愛撫すれば、汚いから嫌だと言うし。脱がしてみれば、恥ずかしがる。

「電気…消し、て……?」
 気弱な声にはいくらか諦めが混じっていた。明るいところで見られるのは恥ずかしいけれど、
でも自分が姫子にした事でもあるから、頼みづらいのだろう。

「ん……しょうがないなぁ……」
「……えっ?」
「え?電気、暗い方が良いんでしょ?」
 身を乗り出してベッドの頭の壁にあるパネルを弄る。フッと明かりが消えて、一気に暗くなった。
サイドテーブルにある終夜灯のほのかな明かりと窓からの月明かりだけになる。
 カーテンを閉めていないから、結構明るい。でも千歌音はホッと安堵の息をついた。
 良かった。譲れないところはあるけれど、出来るだけ今日は千歌音に優しくしてあげたいから。

 今まで気づかなかったけれど。そういえば今日は、満月だったはずだ。
「お月様……綺麗だね」
「え……?」
 千歌音が首を巡らせて窓を見上げる。
 くす、と笑って、姫子は千歌音の胸の中心に口付けた。
「ゃんっ!」
「本当に、綺麗……」
「もう……っ、月なんて、見えていないくせに……」
 たしかに、このベッドからでは空の月は見える位置にないけれど。

「ホント、なんだけどなぁ……」
 笑って、軽くキスをして、こつんと額を合わせて。じっと深い色の瞳を見つめていると、流石に
千歌音も気づいたようで。
「……もう」
 照れくさそうに頬を染めて、視線を泳がせる。

 ――姫子だけの月。

 姫子に一喜一憂して、輝いて、心を曇らせて――そんな風に姫子に左右される千歌音が、
とても愛しい。守りたい、ずっと輝いていて欲しい、と思う。
「私、千歌音ちゃんのためだったら……ずっと、頑張れるから」
 ずっと、照らし続けるから。
「……うん」
 目を閉じて、深く唇を交わす。
 手を握り合って、肌を重ねて、身体を合わせて、気持ちを伝え合う。

 ――二人が一つになるのに、そう時間はかからなかった。


 一つの枕に、二人で身体を休める。姫子は軽く抱きしめた千歌音の髪に頬を擦り寄せて、
幸せを胸いっぱいに吸い込んだ。
「ん……姫子……」
「あ。起きちゃった?」
 千歌音は目を擦って瞬きを繰り返す。
「私……寝てしまったの?」
「うん、寝ちゃったって言うか、なんていうか……その、可愛かったよ」
「あっ……」
 千歌音の頬が赤くなる。思い出したのだろう、先ほどまでの千歌音の艶態を。

「でも……私、結局姫子を満足させてあげられなかった……」
 少し悲しげに、千歌音が呟いた。
「え?どうして?」
 姫子は今、すごく満たされた気持ちで胸がいっぱいなのだけれど。
「どうしてって……姫子、満足させて、って言ったのに。結局私にしてくれるばっかりで、
私は何も……」
「その……私、千歌音ちゃんに沢山してもらったよ?」
「でも姫子は満足していない、って言ったわ。激しくしても、うんと優しくしても……
満足、してくれなかったもの」
 千歌音が唇を尖らせて、少し拗ねたような顔をする。恥ずかしかったのかすぐに俯いて
しまったけれど。可愛かった。

「だって、あの時は……あの、気持ちよかったけど、でも、千歌音ちゃんがずっとつらそう
だったから私もなんか気がかりで。……千歌音ちゃんの身体にもさわれなくて、寂しかったし。
今は、満足してるよ?」

 自分だけ、身体だけ気持ち良いのではやっぱり駄目だと分かってしまった。
 気持ちが通わない交わりは寂しい。千歌音が幸せそうでないと、どうしても姫子は満足できない。
「そ、そうなの……?」
 上目遣いで姫子を見上げる千歌音は、耳まで真っ赤だ。
「う、うん」
「……これからどういう風にしたら良いのか、随分悩んだのに」

 ――ああ、そう言う顔見せられると……

「そ、そういえば」
 また変な気分になってしまいそうで、姫子は慌てて話題を変えた。
「何?」
「えーと…。あっ、ネックレス!」
 鎖を切ってしまった千歌音の二枚貝のネックレスは、何処に行っただろう。
 身体を起こして枕元を探る。見つからない。どうしよう。大切なものなのに。

「ここにあるわ、姫子」
 慌てる姫子の肩を、千歌音がつつく。
「あ……良かった。ちゃんとあったんだ」
「あるに決まっているわ。いきなり消えてしまったりしたら堪らないもの」
 千歌音の手の中で、鎖が鳴る。金具以外の場所で輪がとぎれたネックレス。

「……ごめんね、切っちゃった」
 でも、あの時はどうしても――千歌音を、抱きしめたかったのだ。
 千歌音は首を振りながら笑って、嬉しげに切れた鎖に口付ける。


「でも、あの……大丈夫だよね?」
 千歌音は姫子を愛していると言ってくれた。姫子だってそうだ。
 だから、絆が切れてしまったからって揺らいだりはしない。……しないはず。
「ええ、なんてこと無いわ。鎖なら、もっと丈夫なものにすればいいもの」
 言って、千歌音は微笑む。その言葉に、胸が震える。
「……千歌音ちゃんって、やっぱり素敵」
 満面に笑みを浮かべて姫子が千歌音の手に両手を重ねて包み込むようにすると、
千歌音は戸惑って首を傾げた。

「うん、もっと強いのになると、良いよね。それでまた切れちゃったら……もっと、
頑丈なのにしてくれる?」
「え?ええ……でも、あまり太いものにすると……重くて肩が凝ってしまいそう」
 自分の首をさすりながら困惑顔で言う千歌音に、姫子は我慢できなくなって吹き出した。
「姫子?」
「……っ、ごめん。そうだね、重いと疲れちゃうね」
 姫子がどうして笑うのか分からないようだったけれど、千歌音は曖昧に頷いた。
「疲れちゃうから。だから、千歌音ちゃん……もっと、楽にして欲しいな」
「姫子……」
 笑いをおさめて、千歌音を見上げる。ベッドの上でこんな風に座って向き合っているのは、
なんだか変な感じだった。

 口を開きかけて、言うべきかどうか迷う。これは、姫子のワガママのようなものだから。
「あの、ね……千歌音ちゃん。私、やっぱり嘘はつきたくないの」
 千歌音は、嘘を覚えた方が良いと言ったけれど。
「ん……でも、私は……きっと、私を抑えきれないわ。また姫子を傷つけてしまう。だから――」
 申し訳なさそうに目を伏せる千歌音の手をぎゅっと握って、首を振る。

「傷ついてなんて、無いよ。私、千歌音ちゃんにだけは嘘つきたくない。千歌音ちゃんにも、
できたらついてほしくない……それは、お互いに知らない方が良い事、ってちょっとはあると
思うけど、嘘ついてまで、隠すのは……いやなの」
 二人の間に意図して嘘を作ることは、何か、得体の知れない隙を作るような気がして。
背筋が寒くなる。

「姫子……」
「嘘をつかれても平和な方が良い、なんて私はまだ思えないの」
 これは子供じみた考えで、姫子がまだ大人になれていないだけなのかも知れないけれど。
 ずっと一緒にいたいなら妥協や嘘も必要だ、っていうのも正しいのだろうけれど。

 千歌音が、じっと姫子を見つめている。
「それでまた千歌音ちゃんを傷つけちゃうかも、って思うけど、嫌なの。千歌音ちゃんの本当を、
沢山知っていたいから……嘘の千歌音ちゃんを本当だなんて勘違いしたままじゃ、嫌なの」
「私も、姫子を勘違いしたままでは、嫌だわ……」
 千歌音の瞳が潤む。また、泣いてしまいそうだ。泣かせるつもりじゃなかったのに。
「だから、言うね。千歌音ちゃんに聞かれた事には、本当の事、言うから――だから、
傷ついたら、千歌音ちゃんは私にぶつけてね。――今日みたいに」
「ん……」
 千歌音が俯いて、身体を傾ける。姫子の肩に額を預けて、小さく頷いた。細い腰に腕を
回して、きゅっと抱きしめると、千歌音の腕も姫子の身体に回される。

「私、受け止めるから。わがまま言う分、千歌音ちゃんを傷つけた分、ちゃんと受け止める
から。つらい気持ちになったら、ちゃんと私に教えて、私に分けてね」
「うん……っ」
 千歌音は何度も頷いて姫子の肩に涙を落とす。悲しくて泣いているのではないみたい
だったから、姫子はただ千歌音を優しく抱き留めた。


「今日は、泣いてばかりね」
 しばらくすると千歌音が顔を上げて、決まり悪そうに笑った。
「明日、顔……大丈夫かな」
 笑って、千歌音を抱きしめたままゆっくりとベッドに引き倒す。姫子の言葉に、千歌音は
一瞬拗ねたような顔をした。可愛い。

 きっと、明日目が腫れていても、千歌音は可愛いだろうと思う。
 艶々の髪を撫でると、くすぐったそうに目を細める。
 胸の上の重みが――愛しくて、しょうがない。

「……いいわ。そしたら部屋に引き籠もって、姫子としか会わないことにするもの」
「私もきっと筋肉痛だろうし、そうしようかなぁ」
 腰とか、背中とか、脚とか……いろいろなところの筋が、妙に強ばっている感じがする。
今寝て、次に起きたらきっと地獄が待っている――そんな予感が確かにある。

「良いわね。じゃあお風呂は早いうちに行かないと……人に見られてしまうかも。眠いかも
しれないけど、このままもう少し起きていましょうか?」
「うん。千歌音ちゃんが大丈夫だったら、良いよ」

 どうせあと数時間だから。このまま千歌音と他愛ない話を続けるのも悪くない。千歌音と
一緒なら、朝までなんてすぐだ。
 でも、身体は結構疲れているから、もしかしたら二人とも眠り込んでしまうかも。

「でも汗をかいてしまったから、入らないのは嫌だし……」
 千歌音の言葉に、姫子は笑った。
「汗だけ?」
「なっ……どうして、そういうこと言うの……!」
 千歌音は顔を真っ赤にして、姫子を睨む。髪を撫でていた手を捕まれて、姫子は小さな
痛みに眉を寄せた。

「あ……」
 姫子の手首を見て、千歌音が申し訳なさそうに俯く。縛られていたときに髪紐で擦れたのか、
鎖を切ったときに傷ついたのか、小さな擦り傷とミミズ腫れが両手首にできているようだった。
「お風呂、しみちゃうかなぁ……」
「私が、手を濡らさないようにお世話するわ」
「大げさだよ、ちょっと擦りむいてるだけだもん」
 それにたぶん、胸や肩や背中の噛み傷の方が染みると思う。言わないけれど。


「ね、千歌音ちゃん。私……今日、すごく良かったよ。でも、その…道具とか、なんていうか……」
「なに?」
「その……え、SMみたいなのは……少しだけ、苦手かも。だって、跡残っちゃうし……
私、変になっちゃうし……。千歌音ちゃん、ちゃんと抱きしめてくれないし……」
 こんな言葉、千歌音に面と向かって言う日が来るとは思わなかった。恥ずかしくて顔が熱い。
 それでも頑張って伝えようとしているのに。それを聞いた千歌音は、少し意地悪く笑って
姫子を見た。

 まずい。なんだか、余計なことを言った気配がする。

「姫子……その言葉、どういう意味か知っている?」
「えっ」
 千歌音が身体を起こして、姫子の肩を押す。仰向けに転がした姫子の上に、そっと覆い
被さってくる。

「さ……サドと、マゾ……みたいに、聞いたことあるんだけど……」
 すっかり、千歌音はもうその気だ。すごく嬉しそうな顔をしているから、なんとなく流されて
しまいそうだけれど……でも、筋肉痛が。それに今夜はもう随分千歌音にはしてもらったから、
せめて逆が良い。

「それも、あるかしらね。でも、私が姫子に苦手を作ってしまったんだから、私が誤解を
といて苦手を無くしてあげないといけないわよね?朝まで、起きていられないかも知れないし
……一石二鳥かしら」

 さわさわと優しく、千歌音の手が姫子の頬や首筋、胸を撫でていく。今日一番のあたたかい
感触に、気持ちよくて胸が震えた。

「は、ぅんっ……えっ?千歌音ちゃん、何言って…っ」
「サービスと、満足――と言うのも、あるのですって。私はこちらの意味の方が好きかしら。
――だから、朝まで……良いわよね?姫子?
私、うんとサービスするから。きっと、――姫子は満足するわ」
「な、あっ、ええっ?――んっ」
 姫子の抗議の言葉を、千歌音は優しい唇で塞いで、甘いキスで抵抗を忘れさせていく。
 

 そうして、二人のSMプレイは、朝まで続いたのだった。

最終更新:2007年04月29日 18:08
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