「千歌音ちゃんの日記」より その1
12月●日
姫子と暮らし始めてもうひと月が経とうとしている
楽しくて幸せな充実した日々…
でも最近心配ごとがある とても心配なこと
それは…姫子が通勤に使っているバスで痴漢にあってるらしい…相手を殺したくなる
姫子はあんな性格だからきっと我慢してしまっているのだろう…相手、次やったら本当に命の保障はしないわよ
私が毎朝会社まで車で送る、と言ったら「迷惑かけられないよ」と断られた
迷惑どころか大歓迎なのに…少し悲しいわ
「自転車を買って自転車通勤もいいかな ダイエットにもなるし」…却下、危なっかしくて見ていられないわ
「運転免許はあるけど車での通勤は無理だと思う 私運転ヘタだし」…当然よ、姫子 あなたを死なせるわけにはいかないわ
リバースとドライブを間違えるなんて…信じられ…
いいえ、あなたが悪いのではないわ姫子
きっと教習所での教え方が悪かったのよ そうねきっと
姫子を魔の手から守る最善の方法を考え中…
とりあえずは変装して毎朝、同じバスに乗り込もうかしら?
相手を確認したら、身元を調べ上げて軽く制裁でも加えましょか
矢で撃ち抜くのもいいし、サンジュストで蹴り倒すのもいいわね
姫宮家所有の山に埋めてしまうのも有りね
姫子…あなたの事は私が守るわ 絶対に…
「千歌音ちゃんの日記」より その2
12月●日
今日は変装して姫子と同じバスに乗り込む
鈍い姫子は全然気がついてないらしい 良かったわ
朝のバスなんて乗ったことがなかったから少し驚いた
こんなにも混み合ってるものだったのね なんだか酔いそう…
私は姫子から少し離れた場所に立ち、様子を伺う
途中から乗ってきたやけに馬鹿デカい男が姫子の側に立った
いかにも粗野で乱暴そうな男
姫子の動きがおかしい そう、その男なのね姫子…今、助けるわ
(この下衆めっ)私は男に近づき、腕を捻り上げた
「痴漢!!痴漢よ!!」声をあげる
男は悪態をつきながら取り押さえようとする周囲の人間を突き飛ばして、次の停留所で慌てて降りていったわ
とりあえず私の仕事は終わったわ
後は連絡を受けた姫宮家お抱えの精鋭部隊が身元を調べてくれるはず…
あの男の処分は帰ってからゆっくりと考えることにするわ
さて、帰りましょうか
「あの、千歌音ちゃん…何で同じバスに乗ってるの?」
「………」
私の完璧な変装を見破るなんて…さすが姫子ね
愛してるわ
「千歌音ちゃんの日記」より その3
12月●日
痴漢男の身元が早々にわかった さすが精鋭部隊ね 侮れないわ
その男は街にある教会のシスターの弟らしい
私はさっそくカチこみをかけ…いえ、話し合いに行った
保護者がわりだという姉に事の詳細をチクってやったわ
弟の卑劣な行為に聖職者である姉は静かに怒り「懺悔なさい」と一喝した
この「懺悔なさい」のひと言で、馬鹿デカい大男が震えて反省している姿には笑えたわ
姉凄いわ姉…
姫子のことを「ちっこくて、柔らかくて、胸も小さくて」ですって…ふざけるんじゃないよ
こいつ…貧乳嗜好家だったのね
でもね、私と暮らし始めてから確実に姫子の胸は大きくなってるわ
これは間違いなく事実よ…残念だったわね、馬鹿男
ともかく私は二度と姫子には近づかないと馬鹿男に一筆書かせたわ
もし破ったら今度こそ「懺悔」ね…でも何をするのかしら、姉??…興味があるわ
さぁ、今夜も頑張りましょうね
姫子を貧乳なんて言わせはしない為に…
「千歌音ちゃんの日記」より その4
12月●日
今日は乙羽さんが姫子に料理を教えにやって来た
乙羽さん…あなた凄く生き生きとしてるわね
姫子…おぼつかない手つきだけど、一生懸命なところが可愛いわ
エプロン姿も可愛いわ…あぁ、イケない妄想が始まる…鼻血が出そう
それにしても乙羽さんの指導は厳しいわ
乙羽さん…もう少し姫子に優しく教えてあげて
あなたまるで姑のようよ
姫子はやれば出来る子なの ただ…少しだけ味覚がおかしいだけなのよ
乙羽さん、あなた今が12月って事忘れてなくて?
そろそろボーナスの時期…査定に響くわよ
今日はシチューに挑戦したのね おいしいわよ、姫子
乙羽さんは何だか顔をしかめてるけど、私には姫子の作る料理は何でもご馳走だわ
例え、甘いたこ焼きだって全然平気…たぶん…
「そういえば千歌音ちゃんって…何の料理が一番好きなの?次は頑張ってそれに挑戦するよ」
ついうっかりと口から出た私の言葉に、姫子と乙羽さんは固まっていた…
「裸にエプロン」
「千歌音ちゃんの日記」より その5
12月●日
早乙女さんが遊びに来た 約一名、邪魔なお供を連れて…
今日は晴れて駅伝のレギュラーメンバーを獲得した早乙女さんの慰労会と予選会に向けての壮行会を兼ねた食事会
何故そんな席にあなたがいるの…大神ソウマ
「あの…千歌音ちゃん…何で弓を持ってるの?」
あら…イケない これって条件反射ってヤツかしら
テーブルを囲んで食事を摂る四人…あら、姫子は楽しそうね
姫子にはこの飛び交っている火花が見えないようね…
大神ソウマ、鼻の下を伸ばしてヘラヘラ笑ってんじゃないわよ
姫子に少しでもちょっかい出そうものなら、すぐに矢が飛んでく事を忘れないでね
それにあなた、教職は失いたくはないでしょう?ふふふ、理事長は誰かしら?
早乙女さん、あなたも少し姫子に触りすぎ
大体、私が許可したのは一回だけのチュウよ あなたどさくさに紛れて二回してたわよね
いくら頬でも許し難いわ
大会のスポンサーが姫宮なのを知らないのかしら?
姫子の周りには日々危険がいっぱいね
あの変態馬鹿男の始末がついたら、今度はこの二人…何かいい策はないかしら?
ピコーン!!あら、閃いちゃった
伊達にアメリカの大学を首席で卒業したわけじゃないわ
この二人をくっつけるのよ
くっつけて結婚させてしまえ…そう、我ながらなんてナイスな考え
「千歌音ちゃん、凄く楽しそう…良かった」
ええ、姫子楽しいわ 今後の展開を考えたら…笑いが止まらないの
「千歌音ちゃんの日記」より その6
姫子がとても嬉しそうに帰ってきた
聞けば仕事の関係で「大好きな 『私の』レーコ先生」に逢えるそうだ
パキッ…
「千歌音ちゃん…どうして、矢をへし折ってるの?…握力凄いんだね…」
いいえ、姫子…気にしなくてもいいのよ
あなたが漫画家のレーコの大ファンであるという事は知ってるわ
ただ…日本語の使い方が間違ってるような気がするの
『私の』は余計だと思うわ
そう…出版記念パーティーに出席できるのね
良かったわね、出版業界に勤めていて…
相変わらずミーハーなのね まだサインが欲しいなんて…私のサインはいかが?「姫子命」
「千歌音ちゃん…なんでパーティー会場にいるの?」
姫子、心配しなくてもいいのよ レーコが契約している出版社を軽く買収しただけだから
さぁ、レーコのサインが欲しいのなら何百枚でも書かせるわ…あなたの為に
しかし、このレーコという漫画家…暗いし無愛想ね
姫子がこんなにも感激しているというのに、あの冷めた態度はなんなのかしら?
あなた…もしかして…ついこの前までいろんな人を地獄に流してた少女じゃなくて?
不気味だわ…大沢事務所にクレーム入れるわよっ
何はともあれ、姫子はレーコに逢えてサインも貰えたことだし、とても喜んでるから今回のことは良しとするしかないわね
私は姫子の笑顔を見ているだけで幸せになれるから
でも…明日から少し国語の勉強しましょうね…『私の』の後に続く名詞は必ず『千歌音』なのだから