もしも姫子がニブチンでなかったら」~三話「秘恋貝」よりの妄想~

神無月の巫女 ハアハアスレ投下もの

もしも姫子がニブチンでなかったら」~三話「秘恋貝」よりの妄想~

オロチの襲撃により、住む場所を失った私は千歌音ちゃんの好意に甘え姫宮邸で暮らす事になった
そこはまるでおとぎ話の中に出てくる宮殿のようだった
広い邸内、豪華な調度品の数々、大勢の使用人…私の日常とはあまりにもかけ離れている世界…
本当にいいんだろうか?きっとここは私のような人間が居ていい場所ではないはず…不安だった

そんな私の不安を見透かすかのように千歌音ちゃんは色々と気を遣ってくれる
感謝しているし、本当に嬉しかった
けれど…同時に胸が苦しくなってくる
どうしてだろう?側にいるだけで心臓が爆発しそうなくらいドキドキしてキュッと痛みも伴ってくるのだ
…あの日、オロチの第一の襲撃があった日、千歌音ちゃんは私にキスをした…
それがどういう意味なのか?考えただけでも赤面してしまうし、頭が混乱してくる
最初は半分気を失っていたから、きっと夢だと思ってた
でも確かに感じたリアルな唇の感触…
人口呼吸かとも思った
けれど…唇を割って絡み付いてきた舌の感触…ハッキリと覚えている
千歌音ちゃんは何も言わないし、何事も無かったように普段通りに接してくれている
だから私は何も聞けなかった…聞くことが怖かった


一緒にお風呂に入ろうと言われた時、正直戸惑った
「広いお風呂だし、女同士なんだからいいじゃない」そう千歌音ちゃんは言ってたけれど…
いざ裸になって一緒にお風呂に入ってみると、恥ずかしくて視線さえマトモに合わせられない
チラチラと盗み見した千歌音ちゃんの体は本当に綺麗だった
胸も大きく締まるところは締まっている モデルのような体つきだ
貧弱な自分の体とは違いすぎる…何だかとても惨めな気分になってくる

お風呂にも千歌音ちゃんの体にも逆上せてしまい、フラフラしていたら千歌音ちゃんが自分のお古だけれど、と言ってパジャマを貸してくれた
千歌音ちゃんの匂いがする…甘くて花のようないい香り
千歌音ちゃんは笑ってたけれど、私は本当に嬉しかった
これで夜寝てる時も千歌音ちゃんと一緒にいられる気分に浸れるから…そう思ってハッとした
何でこんな気持ちになるんだろう?
私は千歌音ちゃんに対して特別な感情を抱いているのだろうか?

…怖い夢を見た 深い深い闇の中から迫りくるオロチの者達 私を捕らえ命を奪おうとする無数の負の怨念…
私はうなされ、飛び起きた
鼓動が早鐘のように鳴り、うっすら額には汗をかいていた
「姫子…大丈夫?」千歌音ちゃんが扉の向こうから声をかけてくる
何でわかったのだろうか?明日から千歌音ちゃんは隣りの部屋に移ってくると聞いたけれど、離れている今の部屋にでも届くような声をあげていたのだろうか

理由はどうあれ、今こうして千歌音ちゃんが側にいてくれることが嬉しかった
私が寝付くまで側に居てくれるという…
千歌音ちゃんは私の手をそっと握ってくれた
…これじゃドキドキして眠れないよ…私はそんな気持ちを悟られないように目をつぶった
「今晩は一緒に寝ましょう…」千歌音ちゃんはそう囁いた後、布団の中に入ってくる
「…」千歌音ちゃんの体温を感じた 匂いも息遣いもすぐ近くで感じられる
そんなくすぐったいような快感が嬉しくて、私は少し体を動かし千歌音ちゃんとの距離を縮めた
千歌音ちゃんは私の背中に腕を伸ばし、包み込むようにして抱いてくれる
頬に豊かな胸の感触が当る…今夜は寝られそうにもなかった


次の日学園に行くと、もう既に私の事は噂になっていた
冷ややかな視線と毒を含んだ言葉が投げかけられる
「何なのかしらね、あの子」「少しいい気になってるんじゃなくて」「まるで拾われた犬っころね」「宮様も何を考えていなさるのかしら」
耳に突き刺さる妬み、嫌味、非難の言葉…それも仕方ない
千歌音ちゃんはみんなにとって「特別な人」なのだから
私とは違う…居ても居なくてもどうでもいいような自分の存在とは違うから…
「あっ!!」ボンヤリと歩いていた私は突然誰かに背中を押された
階段の上から転げ落ちそうになる
寸でのところでソウマくんに助けられたけれど、何だか涙が溢れてきそうになる
自分は…誰に何を言われても何をされても我慢できる たぶん…
でもそれによって千歌音ちゃんまでが変に思われたり、迷惑を被るようなことがあったらとても耐えられそうもない
(やっぱり…一緒に居ちゃダメなのかな…)

私は担任の先生にそれとなくホームステイさせてくれそうな民家があるかどうか相談してみた
先生も学園内に流れていた不穏な雰囲気を察知していてくれて、親身になって相談に乗ってくれた
「すぐには無理だけれど、探してみるわね」
私は気づかなかった
こんな行為が千歌音ちゃんを深く傷つけるなんて、この時は思いも寄らなかった

私はその夜、千歌音ちゃんの部屋に呼ばれた
千歌音ちゃんは開けはねた窓から夜空を見上げていた
「姫子…先生から聞いたのだけれど、あなたここを出て行きたいんですって?そんなに…ここに居るのが嫌だったの…?」
「ち、違うよ…」胸が痛くなった
「嫌だとかじゃない…ただ…千歌音ちゃんの迷惑や負担になりたくないだけ…私が一緒にいると…その、学園でも色々と言われるだろうし…」
「迷惑だなんて…一言でも言ったかしら?あなたの事を負担に思うだなんて…何か悲しいわね…そんなふうに思われていたなんて…」
千歌音ちゃんは怒っている?…私は焦った
「ご、ごめんね…そうじゃなくて…」上手く言葉が繋がらない
「そうね、私からも…頼んでみるわ この家に出入りしている村人は何人もいるから きっと…いい人を紹介してあげられるわ」
「千歌音ちゃん…」体から力が抜けていくようだった
違う、こんなふうになる事を望んでいたわけじゃない

「ねえ、姫子は貝合わせの話しは知ってる?」
千歌音ちゃんは足元のさくら貝を拾い上げた
貝合わせ…カルタの元になったもの 
そして千歌音ちゃんは言葉を続ける「2枚貝って互いにぴったりと合うのは一組しかないの この世に一組しか でもね、一組は絶対にあるの」
「だから…この世界のどこかには姫子を待っているただ一人の人がいるはずよ」
「千歌音ちゃん…」
「それまでは…絶対に私があなたを護ってあげるから だからそんなに落ち込まないで…元気を出して 姫子は…今、自分が出来ることをゆっくりやればいいから」
涙がこぼれてきた
何でこんなにも優しくしてくれるのだろう…こんな私なのに…
千歌音ちゃんは私の肩に手を廻し抱き寄せてくれた
暖かい…すべてを包み込んでくれるようなこの温もり…そう、あの時に感じたのと同じ…
私は顔を上げて千歌音ちゃんの顔を見た
長い睫毛を伏せている…本当に綺麗な顔だと思った
あの時のキスをされた時の光景がフラッシュバックされる…胸がドキドキした
「千歌音ちゃん…」私はこの時、何を求めていたのか?何が私を突き動かしたのか?
きっとそれを口に出して説明するのは難しい…
ただ引き寄せられるようにして、私は千歌音ちゃんの唇に自分の唇を重ねていた

ほんの数秒だけの唇を重ね合わせただけだけれど、私には長い長い時間に感じられた
どうしてこんなに大胆なことが出来たのだろう…
私は千歌音ちゃんの反応が怖くて、視線を落としたまま離れる
「…」きっと顔は真っ赤になっているはずだ
「ごめんなさい…」声にならない声
「…謝ることなんか…無いわよ、姫子」千歌音ちゃんが手を握ってくる
「姫子が謝るなら私も謝らなくちゃ…」千歌音ちゃんの頬がほんのり赤く染まっていた
「私は…姫子に謝って欲しくなんてない だってとても嬉しいから…例え今のキスがどんな意味を持っていても…
ただの気まぐれでも挨拶の意味でもアクシデントであっても構わない…嬉しいわ」
胸を衝かれた瞬間だった
「違うよ、千歌音ちゃん…私ね、私…す、好き」どうして肝心な時に上手く言葉が出てこないの?私は焦った
「好き…凄く好きの…そういう意味の…キス…」
そう、本当は「愛してる」って意味 自分ではもうハッキリとそう自覚できる

「姫子…」千歌音ちゃんの顔が近づいてくる
「偶然ね…私も同じ…」再び重ねられた唇
「でもね、私のはもっともっと好きって意味のキスよ」


どちらかともなくしっかりと抱き合い、お互いの唇を求め合う
遠い遠い昔にもあったような、幾度となく繰り返された…そんな光景が私の頭の中でかすかに浮かびあがる
それが何を意味しているのか私には解らなかったが、それでも今の私は幸せだった
きっとずっと以前からこんなふうになる事を望んでいたんだ…
千歌音ちゃんの絡みつく舌に必死に応えながら、全身で喜びを感じている
愛している、愛されている…そう思えた瞬間
「側に居てね…もう、出ていくなんて言わないで」
潤んだ目で見つめる千歌音ちゃんに私はただ頷いた

私は信じて疑わなかった
この時の想いがずっと続くことを…悲しい別れが待っているなんて思いもしなかった

                        ~END~

最終更新:2007年05月24日 18:33
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。