「初めての夜に」

神無月の巫女 ハアハアスレ投下もの

「初めての夜に」

「お土産買ってくるからいい子にして待ってるんだよ」マコトはまるで子供をあやすが如く言って寮を去って行った
夏休みが始まり、大多数の寮生達は一時期帰省をする
部活や補習、家庭の事情等で夏休みでも寮に留まる生徒はいる…姫子もその中のひとりだ
天涯孤独な姫子には…帰る家は無い
寂しくないと言ったら嘘になるが、それでもここを離れたくない理由もあった
賑やかなマコトが去った後の部屋でひとり、山のように出された宿題と格闘していた
明日からは成績が不良だった数学と物理の補習も受けなければならない
姫子にとっては、夏休みは決して楽しいものではなかった

夕方になりようやく涼しい風が吹いてきた頃、姫子は勉強で使いすぎた頭を休める為散歩に出かけた
姫子の足は自然と「薔薇の園」へ向っていた
…そう都合良く、自分の逢いたい人が待っているわけでもなく…姫子は少し苦笑して、大木の下に腰を降ろした
(千歌音ちゃん…夏休みはどうしているんだろう?)
千歌音は自分と違う意味で忙しい人だから、きっと夏休みになったからとはいえ逢える機会なんてほとんど無いんだろうな、と思う
でも…一日でもいいから大好きな千歌音と過ごすことが出来たら、どんなに楽しいことであろうか…
姫子はささやかな夢を抱いていた
「姫子、姫子…」ほんの一瞬だけ記憶が飛んだような気がしたのはどうやら寝てしまっていたから…らしい
軽く体を揺すられて瞼を上げると、目の前には千歌音の姿があった
あまりにも極至近距離にその端正な顔があったので、姫子の目は一瞬にして醒めた
「わわ…千歌音ちゃん」
「こんなところで寝てるなんて」千歌音は笑った「夏だからといって風邪ひくわよ」
「う、うん…ここに座っていたら気持ちよくなっちゃってつい…それより千歌音ちゃんはどうしてここに?」
「生徒会の仕事があったから…少し休憩と思ってここに来てみたのだけれど」
それは半分本当で半分は嘘、千歌音は心の中で呟いていた
生徒会室の窓からあなたの姿を見つけたから追いかけてきたのよ、と
「そっか、やっぱり千歌音ちゃんは夏休みでも忙しいんだね」
「そうでもないわ…」千歌音は姫子に伝えたい言葉を躊躇っていた
「姫子は…夏休みの間は寮にいるの?」そんな事聞かなくても、とうに調べはついていた
姫子には帰る場所がない、ルームメイトの早乙女さんは帰省している、残っている寮生は極少数…そう、ふたりきりで過ごせるチャンスがいくらでもあることを
でも、それも姫子が同意してくれたらの話しであるけれど…

「補習受けなくちゃいけないし…ほら、私、千歌音ちゃんと違ってデキ悪いし」
姫子は笑いながら言う
千歌音は思った
この子はいつもこうだ 自分の前では決して、身の上の不幸とかは話さないし、悲しいとか寂しいとか口には出さない
いつも笑っていてくれる…嬉しいけれど、切ない…とても切なくなる
「それにね…千歌音ちゃんもずっとこっちにいるんだし…えへへ」
「!?」千歌音はその言葉を聞いて覚悟を決めた
「姫子…私ね、一度寮に泊まってみたかったの 招待してくれないかしら?」


「本当に?」姫子は丸い目を更に丸くして信じられないといった表情を見せた
「本当に遊びに来てくれるの?」
「ええ、姫子が招待してくれるのなら」
「勿論だよ!!あっ…でも…」姫子は困惑した表情を見せる
「寮長に許可とか取らなきゃいけないし…他の人が知ったらきっと大騒ぎになっちゃうよ…千歌音ちゃん、落ち着いて過ごせないかも…」
「だからね…」千歌音は悪戯っぽく笑う「みんなには内緒で…こっそりと行くの これは私と姫子だけの秘密よ」
「大丈夫かな?」
「ええ、大丈夫よ」千歌音の妙に自信のある物言いに姫子は安心したようだ
「うん、それじゃいつにする?千歌音ちゃんの都合に合わせるから、いつが予定、空いているか言って」
すぐに、一日でも早く…今日でもいいのよ、千歌音は心の中で呟いていた
「そうね…明日なら…空いているんだけれど」逸る心を抑えて口に出した言葉
「えっ…明日」姫子は部屋が乱雑のままであることを思い出して焦っていた
(掃除しなきゃ…明日までには片付くかな?ヤダなあのままじゃ千歌音ちゃんにだらしのない子だと思われちゃう)
「ダメ…なのかしら?」
「ううん」姫子は少し顔を赤くして言う「いいよ、明日ね…じゃあ、寮の裏門はわかるよね?裏の非常口の鍵は開けておくから、そこで9時に待ってるよ」
「ええ、わかったわ」
「じゃ、じゃあ…明日ね ごめんね、私ちょっと用事を思い出したから行くね」
姫子は手を振りそそくさと薔薇の園から出て行ってしまった
「姫子…」千歌音はそんな姫子の後姿を見送りながら、もしかして迷惑だったの?と心が沈んだ
姫子といえば一刻も早く乱雑なままの部屋を片付けて、千歌音を迎え入れる万全の態勢を整えておきたかっただけなのであったのだが…


普段は宮殿のような部屋で過ごしているであろう千歌音を一晩とはいえ、こんな寮に泊まらせるにはそれなりの気を遣う
千歌音に不快な思いをさせてはならないと姫子はそれなりに頑張って、部屋を飾った…とはいえ、出来ることは限られていたのだけれど
塵ひとつなく掃除を念入りにし、シーツを新しいものに替え、花を飾る
あと数分でこの質素な部屋には千歌音という何よりも華やかな飾りが添えられるのだ
姫子は逸る気持ちを抑えて、約束の30分も前から裏門に出て千歌音を待った
誰かを待つというのは楽しいようでもあり、実は切ないものだ
もし、来てくれなかったらどうしよう、出掛けに急に用事が出来たとか途中で事故に逢ってたりしないだろうか…ふと頭を過ぎる不安
何だかこんな気持ちって恋人を待つ気持ちに似てるのかな?姫子はそんな事を考えてひとり顔を赤らめていた
(私ってやっぱり変なのかな?千歌音ちゃんにこんなにドキドキしてるなんて…)
時間の経過がこんなにももどかしいものだったなんて…

「姫子?」暗がりの中から足音が聞こえて千歌音が姿を現した
「千歌音ちゃんっ」姫子は時計を見て千歌音が約束の時間より早く来てくれたことに喜んだ
「顔…赤いみたいだけれど大丈夫?」
「う、うん平気」姫子は千歌音が持っていた荷物を取り上げると満面の笑みを見せた
「良かった…本当に来てくれて」
私があなたとの約束を破るはずなんてないでしょ、千歌音はその可愛らしい笑顔を見て心が昂ぶる
「さぁ、中に入ろう」
姫子に導かれて、非常口から入り二階へと上がる
しんと静まり返った寮内…普段ならこの時間はまだ寮生の活気に満ち溢れているのだが、今寮内に残っている生徒は数人程度
おかげで千歌音は身を隠すことなく堂々と姫子の部屋まで辿り着くことが出来た

「ここだよ、入って」8畳程の広さに二段ベットと学習机がふたつ、本棚にクローゼット…
部屋の真ん中には花が飾られた小さなテーブル シンプル過ぎるほどの部屋だったが、姫子の努力の甲斐もあって小奇麗に整理整頓されていた
「可愛いお部屋ね」千歌音の反応を見て、姫子はホッと胸を撫で下ろした
千歌音が少なくとも不快な感じを抱かなかった事に安堵する
千歌音にしたら、例えどんな廃屋であったとしても姫子と一緒に過ごせる場所なら不平なんて言うはずも無いのだけれども…


ふたりは千歌音が持参してくれたケーキやクッキーを食べて楽しい時間を過ごす
他愛も無い話しをして、笑いあう時間…
開け放たれた窓からは涼しい夜風が入り込んで来る
山間部なので夜になればかなり気温も下がるので、7月後半のこの頃はまだクーラーは必要としない
でも姫子も体温は上がりっぱなしのようだった
何故なら千歌音が自分にピッタリと身を寄せるようにして座っているから…
(千歌音ちゃん…どうしてこんなに近づいているんだろう?)
お風呂を家で済ませてきたという千歌音からは、何とも良い香りが漂ってくる
姫子は自分の体が徐々に汗ばんでくることに気がついていた
(千歌音ちゃんの胸…さっきから腕に当ってるんだけど)柔らかくて何ともいえない良い感触…
姫子は顔を赤くし頭を振る
(何考えてるんだろ…私ったら これじゃ変な人だよ)
「姫子どうかした?」
「う、ううん…何でも無い」姫子はさりげなく千歌音から離れた
「も、もうこんな時間になっちゃったね」楽しい時間というのは、残酷な程に早く流れていく
「おしゃべりに夢中になってたから…千歌音ちゃん、そろそろ眠いでしょ」
時計の針はもう12時を指そうとしていた
「いつまでも明りついてたら見回りとかきちゃうかもしれないし」
「そうね…じゃあ寝ましょうか」

千歌音は持参したネグリジェに着替えた それはこんな部屋にはおかしいくらい不似合いなもの…
(わぁ…凄く色っぽい)姫子はそんな千歌音の姿をマトモに見ることが出来なかった
自分はといえば、いつものパジャマの上だけの姿…あまりにも対照的な二人の格好だった
しかし、姫子は気づいていなかった
パジャマの上だけを羽織るという無防備なその格好は千歌音にとって刺激的すぎるものであったということを…
「千歌音ちゃんは私のベッド使ってね そんなベッドで悪いんだけれど」
本当に千歌音を二段ベッドの下に寝せるなんて忍びないのだけれど…
「姫子は?」
「私は床の上に布団敷いて寝るから」姫子はクローゼットの中から予備の布団を出して床の上に敷く
千歌音はいそいそと寝支度をする姫子の姿を目でじっと追っていた
姫子にとってはいつもマコトの前でしている格好、恥ずかしいとも変だとも思った事はない
ただ楽な格好だったから…しかし千歌音にとっては屈む度に見える下着や露出している肌の多さ、明りに透けて見える体のライン等全てが刺激的だった
「こっちで一緒に寝ない?」ふいにかけられた言葉
「えっ…でも、それじゃ千歌音ちゃんが狭くて窮屈だよ」
「大丈夫よ…」千歌音は手招きをする「来て…」
「う、うん…」
千歌音にとっては慣れない場所だから仕方ないのかな、などと思いながら姫子は部屋を明りを消し千歌音とともにベットの中に入る
「狭くて寝づらかったらいつでも言ってね 私すぐにあっちに移るから…」
「平気よ…」千歌音の息遣いがすぐ側で感じられた


「ねぇ、姫子…姫子はいつもそんな格好で寝てるの?」
「う、うん…変かな?マコちゃんには何も言われないし…」
「変じゃないわ…」そう、早乙女さんにはいつもその無防備な格好を見せているのね…
変なんかじゃない…可愛いわよ、姫子…とても…
「お腹出して風邪ひかないようにね」千歌音はフフと笑った
「マコちゃんにも良く言われるんだ『姫子ー、腹出して寝てると風邪ひくぞー』って…それでね、マコちゃんが私のベッドの中に入ってきて『抱き枕』ってギューっとして暖めてくれるんだけれど」
「抱き枕?」
「うん…マコちゃん抱き枕すると気持ち良くて熟睡できるって言って、別に私も嫌じゃないんだけれど、でもそれって何か私が太ってるみたいで…」
無邪気に話す姫子に千歌音は微かな苛立ちを感じていた
マコトに抱かれて眠る姫子の姿…想像するだけで心が軋みをあげてくる
姫子が私以外の人に向けている笑顔…姫子が私以外の人の腕の中で安らかな寝息を立ててるなんて…
千歌音はキュッと唇を噛んだ
嫉妬…そう完全に私は早乙女マコトに嫉妬している…
「姫子…」千歌音は手を伸ばし、やや乱暴に姫子を引き寄せた
「千歌音ちゃん?」
「抱き枕って…こんな感じかしら」
姫子を背後から抱きしめるようにして、足を絡めた
「ど、どうしたの?」
「私にも…姫子の抱き枕…ちょうだい」
密着した体からお互いの体温が伝わり合う
マコトとは全然違う感触に姫子はドキドキした
(千歌音ちゃんの体…熱い…)心臓の鼓動もハッキリと伝わってくる

「早乙女さんとは…いつもこうしてるんでしょう?」囁くように言う千歌音
なんだか体がゾクゾクしてくる
「い、いつもってわけじゃないよ…時々…」
「…そう…で、他には何をするの?」
「何って?」
「こうして抱きしめて、姫子の体温感じて…その後は…何もしないわけ?」
(千歌音ちゃん…何だか怖い…どうしちゃったんだろう)
姫子は体を捩って離れようとしたが、思いの外力強く抱きしめられていて上手く身動きがとれなかった
「ふ、ふざけてくすぐったりするだけ…それだけ…それだけだよ」
「そう…なら良かった…」何?姫子には千歌音の言った言葉の意味が理解出来ないでいた
次の瞬間、髪の毛を掻き揚げられて首筋に生暖かいものを押し付けられた
「!?」体に電流が走ったような衝撃を受けた
千歌音は姫子の首筋に唇を押し付けている それはゆっくりと場所を移動しながら何度も繰り返された
「ち、千歌音ちゃん…」暗闇に響くチュッチュという音、千歌音の荒くなった息遣い…姫子の体は硬直したかの如く動けなくなっている
「…こういうことはされてないのね…」
千歌音の手がパジャマの胸元から入り込んできて、姫子の胸を触る
「あっ…」最初は形をなぞるように優しタッチで…


やがてキャミソールが少しずつたくし上げられて直に胸を触られた
千歌音の長い指が絡み付いてくる
最初はふざけてじゃれついている延長の事かと思った
しかし違う…これはマコトとのじゃれ合いとは明らかに違うものだ
「だ、ダメだよ…」やっとのことで発した姫子の声は弱弱しかった
しかし千歌音は止めることなく、掌全部を使って胸を揉みはじめた
「姫子…好き…好きよ」後ろから囁かれるその言葉に姫子の体は熱くなる
信じられなかった、でもこれは夢なんかじゃない…千歌音が自分に対して愛の言葉を囁いている
仰ぎ見る憧れの対象だった、親友であったはずの千歌音が…
「姫子…」千歌音は上半身を起こし、姫子の顎を掴んだ
「んっ…」ふいに塞がれた唇
重ねられた唇からは甘い薔薇のような香りがした
その匂いに酔ってか気が一瞬遠くなりかけた時、ヌルッと千歌音の舌が口内に侵入してきた
拒否する事など出来ない一方的なディープキス それは遠慮なく姫子の舌と絡み合った 
「あ、あ…」姫子の目から一筋の涙が零れ落ちた
この涙は何?嫌だとかいう感情ではない…遠い昔に記憶が引っ張り込まれるような、切ない感じ…
何故だろう?この感じは…
姫子はいつしか無意識のうちに千歌音の背中に手を廻していた


「姫子、姫子…起きて」朝の眩しい光と聞き慣れた声に姫子は目覚めた
「おはよう…さぁ、仕度して」いつもと変わらない千歌音の笑顔
「うちに行って一緒に朝食を摂りましょう 補習は9時からでしょ…十分に間に合うわ」
「千歌音ちゃん…?」まだ頭がぼんやりとしている
のろのろと起き上がると、自分が半裸状態である事に気がつき慌ててシーツに包まった
(昨夜…)顔から火が出そうになる(何で…あんな事になっちゃったんだろう…)
千歌音は背中を向け荷物をまとめ帰る準備をしていた
姫子はその様子を見て、慌てて下着をかき集め着替えを始める
何事もなかったかのように流れていく時間…

寮を出て姫宮邸に向う
二人は無言のままだった
姫子は恥ずかしくて千歌音の顔さえまともに見ることが出来ない
一歩下がるようにして歩いていた
「姫子…」ふいに千歌音が立ち止まった
「ごめんね…私の好きは…ああいう好きだから」振り向く事なく千歌音は言う
「千歌音ちゃん…」
「私の好きは欲情の塊…あなたが誰かのものになっちゃう前に自分のものにしたいって…そんな自分勝手な自己満足な愛情なのよ…最低だわ
もう…嫌いになっちゃったでしょ?」
振り向いた千歌音の目にはうっすらと涙が光っていた
(千歌音ちゃんが泣いている…千歌音ちゃんは苦しんでいるんだ…私のせいで)
姫子は胸が痛くなった
昨夜キスされた時の切ない思いがフラッシュバックされる 切ない…込み上げてくる切ないこの想い
姫子は千歌音の腕の中に飛び込んでいた
「…嫌いになんかなれるはずない…なれるはずないじゃないっ」
「姫子…」
「ごめんね…気がついてあげられなくて 私がずっと千歌音ちゃんのこと苦しませていたんだね…ごめんね」
「姫子…」二人は強く抱きしめてあった
きっと…こんなふうになる事を望んでいたのは私自身だったのかもしれない、と姫子は思っていた
遠い遠い記憶の中に残されている想いを感じとった瞬間…
姫子は自ら唇を重ねていた


                      ~end~

~早乙女マコトの後日談~

お盆も終わって寮に戻ってみると、何だか姫子の様子が変わっていたんだ
うーん、上手く言えないけれど「恋する乙女」みたいに輝いているんだよね…私が留守の間に何かあったのかな?
抱き枕も拒否されるようになっちゃったし(ノД`)シクシク 外泊届け出す回数も増えた
あやしい…今度、とっちめて吐かせてみようと思う

最終更新:2007年05月24日 18:38
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