「クリスマスイブ?」
昼食時、薔薇の園での出来事、今日は朝から姫子がなぜか楽しそう
当然ながら学園内で親しくお声をかけるようなことはできない
でも遠くから姫子を見てそう感じた、最も早乙女さんとご一緒だったけれど・・・
12月24日の今日、クリスマスイブ
やけに今日は学園の生徒がいつもより賑やかだ思ったら、そういうことだったのね
最も私はそのような行事にはあまり関心はない
普段通り登校して、姫子とお昼休みを楽しく過ごす、それだけで幸せだもの
「う・・・・・・うん・・・それでね、あ、あのね千歌音ちゃん」
弁当を口にしながら恥ずかしそうに姫子が俯いた
なにかしら、と私は思った・・・色んな期待が頭によぎる
しかしこんなときは対外物事は期待通りにはいかないもの
私は表情を変えることなく・・・聞き返す
「なにかしら・・・?」
「あ、あのね・・・今日はく、クリスマスイブでしょ?だから今夜は千歌音ちゃんと一緒に・・・その・・・」
その言葉にはっとして、一瞬耳を疑う、想像していたものとは答えが違うから
でも一瞬にして表情を落とす
「そうね、私もできれば姫子と過ごしたいわ、でも無理だもの・・・」
私には帰る家がある、使用人が待っている、それに対して姫子は寮生、その上、早乙女さんがいらっしゃるわ
難題が多すぎるもの、姫子を屋敷に泊める?いえ、無理があるわね
それに早乙女さんだってイブの夜は姫子と過ごしたいだろう、早乙女さんとの楽しみを奪ってまで姫子に泊まれとはいえない
「それに、早乙女さんがいらっしゃるわ」
「マコちゃん・・・今夜はいないの」
「いないって、早乙女さんが?」
姫子が寂しく感じたのか顔を鎮める
「う、うん、マコちゃん同じ部活のお友達に招待されて、泊まるかもしれないって言ってた」
そう・・・それで私に・・・
「マコちゃんも私と過ごしたいって言ってたんだけど、前から招待されてたらしくて、だから今夜は私1人なの」
「それで、寂しいのね?」
姫子が肯く、ふうっと私は息をついた
言い方は悪いかもしれないけれど、私は早乙女さんの代わりってことね
考えを悪い方に向けようとして私は首を振った、姫子が誘ってくれてる・・・それだけでも喜ばなければ
叶わぬ夢だとは思っていた、本来クリスマスなど一般行事は私は一切興味ない、でも姫子と聖夜の夜を一緒に過ごせたらどんなに幸せか
昨日、部屋で何度も思い描いた、ありえないことだとは感じながらも
ふと目を落とす、答えなど決まってるのに
「そうね姫子」
「え?」
「私も姫子と一緒に過ごしたいわ」
姫子の表情が輝く、この子はほんとに笑顔が似合う、とても可愛いわ
笑顔に見とれてしまいそうなほど・・・それにしても私はなんだろう
もっと喜ぶべきことなのに、これが私の性格・・・
「でもいいのかしら、寮長さんに許可が必要でしょう?」
「うん、いつもはそういうのに厳しい人なんだけど、今日はクリスマスイブだからって・・・簡単に許可してくれたよ」
ふっと私は微笑んだ、なにもかもがいい方向に進んでるのね
「特定の日は、皆結構外出とか他の寮部屋で集まったりしてるから珍しいことではないんだけど・・・」
でも姫子は外出などしないだろう、姫子の性格なら・・・
「本当はね、マコちゃんと千歌音ちゃんと3人で過ごしたかったんだけど・・・でも千歌音ちゃんがいるから・・・私それだけでも嬉しいの」
姫子が顔を赤く染めながら呟く
はっきり早乙女さんもご一緒だったらきっぱりお断りするつもりだった
私は姫子と2人だけの時間を過ごしたいだけだもの、他の人に介入されるのは堪らない
それに早乙女さんも姫子と2人でいたほうが楽しいだろうし・・・
弁当を食べ終えナフキンで口を拭いた私は呟いた
「それで・・・私はいつ頃行けばいいのかしら・・・」
千歌音の提案に姫子が慌てる
「ま、待って千歌音ちゃん!正面から堂々と入ったら皆興奮して大騒ぎになるよ・・・たぶん部屋に行けないと・・・思う・・・」
姫宮千歌音は皆のアイドル、普通に登校してきても騒がれるのに寮内にでも居たら・・・ただ事では済まない
なによりいつも生徒の取り巻きに囲まれ姫子から見れば遠くから見つめることしかできない存在なのだから
もし姫子と一緒にでもいたら・・・姫子は皆から嫉妬された上、冷たい視線を浴び虐められないとも限らないのだ
誘っておいて偉そうなことは言えないが姫子はそのことだけは慌てた
「こっそり裏からだよ、いいかな・・・?」
「わかったわ」
私は静かにそう呟いた
放課後、薔薇の園で落ち合い、その後こっそり離れて・・・寮の裏門から中に入る、そう姫子に言い渡され私は肯いた
部活は・・・休もう、姫子より大事なものなどないのだから、それに生徒会の仕事も今日は少ないもの
早めに済ませとこうかしら
「・・・」
放課後、一度姫宮邸に戻り充分な仕度をした千歌音は時刻通り夜8時頃に薔薇の園で待つ
姫子は、部屋を片付けたりしてるのだろうか?
姫子・・・まだかしら、人を待つ時間というものは時には楽しいものだけれど・・・辛くもあるわね
「千歌音ちゃん・・・・・・?」
心配していた千歌音の前に、木の陰からこっそりと姫子が現れる
入浴済みだったのかパジャマ姿だ、風呂上りということもありつい綺麗に見えた
姫子のパジャマ姿、実に似合っているわ・・・私はつい見とれてしまった
可愛い、とっても可愛いわよ姫子・・・
この姿を誰かに見られると恥ずかしいかもしれないが、幸いこの時間になると生徒もいない
部活帰りの生徒を何人かみかけるものの微々たるものだ
誰にも見られる心配などはない
姫子はぜえぜえと大きく何度も息を吐き出す仕草をしてる
よっぽど慌てていたのかしら、それとも・・・
「姫子、息が切れてるわよ、どうしたの・・・」
私は気になって聞いた
「う、ううんなんでもないよ」
(ま、まさか慌てて掃除したなんて言えないよ!マコちゃんだって散かしてるんだもん・・・)
裏口からこっそりと進入する、今日はクリスマスイブということもあり寮生は遠出か部屋に篭っているらしく人影はない
千歌音が寮内を堂々と進んでいるものだから姫子は心配したが・・・部屋前まで来ると安心したのかふうっと息をつく
ここが姫子の・・・・・
あまり広くはない、7畳くらいだろうか?
ベッド2つに本棚、勉強用の学習机程度しかない
まあ鏡やクローゼットもあるにはあるが数に入れなくてもいいくらい小さい
まあお世辞に豪華とはいえないだろう
千歌音は普段はお城のようなお屋敷に住んでいるお嬢様
窮屈に感じないか心配ではあった
まあ自分なりに部屋をアレンジしたつもりだ
とりあえずマコトの筋トレセットや散らかっている本は全て片付けた
それとまあ・・・おしゃれとまではいかないが花を飾ったり個性を出してみた
それに今日はクリスマスということもありツリーを授業中(こらこらさぼるな)
自分で作ったり、マコトの手伝いもあってかクリスマスツリーを飾れた
最もマコトもあの宮様が部屋に泊まるなんて想像もしないだろうが
「綺麗ね・・・」
クリスマスツリーを見て私は呟いた
あまり大きくはないけれど姫子の手作りのツリーには・・・お金をかけたものより一層美しく思えた
「う、うんありがとう・・・わ、私なりに一生懸命作ったんだよ」
ツリーには色んなものが飾ってある、小さなサンタのぬいぐるみなど
以前から作っていたのだろう、姫子には安堵の表情が窺える
「あ、あの千歌音ちゃん、部屋少し狭いかもしれないけど我慢してね」
「いえ、私は大丈夫よ、可愛いお部屋だし・・・私こういうの好きよ・・・」
少なくとも貴女と過ごせるのなら地獄だろうが廃墟だろうが私は幸せよ・・・
姫子、貴女とこうして2人でいられるだけで私は・・・
姫子に誘われたとき、ほんとに嬉しかった、こういう性格だから顔には出せないけれど・・・
使用人が屋敷に大きなクリスマスツリーを作っていたみたいだけれど・・・はなから屋敷に帰るつもりはなかった
事情を説明したとき乙羽さんは少しショックを受けてたみたいだけれど、私はわくわくしていた
「あ、適当なとこに座っててね」
「そう・・・お言葉に甘えさせていただこうかしら」
丁寧に床に座る千歌音を見て姫子は小さく息を付く(ふう・・・お嬢様を扱うのは一苦労だよ)
と、千歌音は荷物の中から飲み物やお菓子など取り出した
その量の多さに一瞬姫子が唖然とした
「千歌音ちゃん・・・?」
「ええ、使用人に頼んで詰めてもらったの、ちょっと持ってきすぎたかしら?」
不思議そうに呟く千歌音に絶句したが、すぐに考えを改めた
千歌音は姫子のためを思って持参してくれたのだ感謝しなければならない
「ううん、そんなことないよ・・・ありがとう・・・」
「ち、千歌音ちゃん・・・その・・・メリー・・・クリスマス」
お菓子を食べながら、そう恥ずかしそうに囁く姫子に私は優しく微笑む
「ええ、メリークリスマス」
クリスマスがこんなに楽しいと思ったことはない
なにより・・・姫子と一緒に過ごせるのだから
「変だよね、ここ日本なのにクリスマスだなんて・・・」
「そうね姫子」
クリスチャンじゃないからおかしくはあるわね、でもね姫子・・・
今日は姫子と過ごせる機会を作ってくれたクリスマスに感謝している私がいるわ
それより姫子は千歌音に見とれていた、2人は隠れた親友同士
いままで友達として接してきた姫子にとって千歌音は憧れの対象でもあり親友でもあった
でも実際こう見ると・・・千歌音はまさに美少女、綺麗に輝く青い瞳に黒長い髪、それに美貌
大きな胸も魅力だが、モデル並みの美貌で、締るところは締まっている、その上、成績優秀、運動神経抜群で名家の令嬢ときてる
ほんとにこの世のものとは思えないほど完璧で清楚なイメージそのものの美少女
それが宮様こと姫宮千歌音だ
そういえば千歌音ちゃんからは綺麗な香りがする、お風呂に入ってきたといってたけど
皆の宮様だもんね、馴れ馴れしく部屋に誘ったりして、少し私図々しかったかな・・・でも寂しくて
それに千歌音ちゃんは私の大切な人だから、いいよね・・・うん
姫子はそうだと納得した
「姫子、どうかしたの?」
ずっと顔を下げたままの姫子を気になって私は声をかけた
「う、ううん・・・なんでもない」
なぜか楽しい時間は早く進むように設定されている、気付いたときには時計の針は10時を指していた
「あ・・・千歌音ちゃんそろそろ寝る時間だね」
「あら、もうそんな時間だったかしら、ごめんなさい、気付かなかったわ」
私は持参したネグりジェに着替えた
幸せ、姫子と一緒ですものね・・・
透明なピンク色のネグリジェ姿に着替えた千歌音は言葉では表せないほど綺麗だ
文句のつけようがないくらい綺麗な美少女がそこには居た
(す、凄い・・・・・・・き、綺麗・・・・・・この部屋には全然似合わない格好、というか不釣合いだよ千歌音ちゃん)
あまりに眩しすぎて千歌音を直視できない姫子がそこには居た
「ま、マコちゃんごめんねっ!」
早乙女マコトのベッドに向かって姫子は小さく叫んだ
「姫子?なにか言ったかしら?」
「え、ううんなんでもない・・・」
姫子は振り返ると慌てて答えた
「あ、千歌音ちゃんは私のベッド使ってね、少し狭いかもしれないけど」
千歌音がいつも就寝しているベッドとの大きさや柄の違いは一目瞭然だ
「あら、ごめんなさいね、それじゃあ使わせていただこうかしら」
しかし千歌音はまったく気にしない素振りでベッドに静かに入った
「姫子?姫子は何処で寝るの?」
「え・・・・・あ、私はマコちゃんのベッドで・・・」
(床に寝るのは辛すぎる・・・・・!)
2段ベッドなので姫子は上に登ろうとした・・・すると
「姫子、一緒に寝ましょう・・・」
「え?一緒に?」
電気を消しながら姫子は聞き返す
私は迷うことなくはっきりと口にした
「ええ、今夜は寒いわ、一緒に寝たほうが温まるんじゃないかしら」
「で、でも窮屈だし狭いよ」
そんなこと関係ないわ、私は姫子、貴女といつでも一緒に
「大丈夫よ、ね・・・来て・・・」
「あ、う、うん・・・」
静かに姫子は千歌音のベッドに入る
とたんに・・・千歌音の胸が姫子の背中に触れる
「!?」姫子は頬を真っ赤に染めた
私は両手を伸ばすと姫子を引き寄せ・・・背後から優しく抱き締めた
「千歌音ちゃん!?ど、どうしちゃったの・・・急に」
「こうしたほうが温まるでしょ、ね・・・姫子」
さらに頬にすうすうと顔を押し付けている
ええ!?ち、千歌音ちゃんに抱き締められてる・・・
千歌音の香りや温もり、吐息・・・その全てが姫子を襲う
(あ・・・・ああ・・・千歌音ちゃん・・・温かい・・・で、でも眠い・・・ああ、もう駄目)
「好き、好きよ・・・・・姫子」
私は姫子の・・・耳元でそう囁いた
「!?」姫子が動かない・・・まさか
上体を上げた私は眠りについた姫子を見下ろすと少し躊躇し・・・
「姫子・・・」
姫子の唇に・・・軽く自分のを触れた
「・・・」
姫子の唇・・・とても柔らかくて甘い・・・姫子とのファーストキス・・・
姫子のパジャマに手をかけようとしてはっとした
これ以上は姫子を傷付けることになる・・・私は姫子の額に軽くキスすると
「好きよ姫子・・・メリークリスマス」
明日からはまたいままでの関係に戻るだろうけど、このキスの感触は忘れないわ・・・好きよ姫子
END