「千歌音・・・・・・・・千歌音」
その声に私は目を覚ました
「あっ・・・姫ちゃん・・・ご、ごめんなさい、また私っ!!」
「ううん、私のことは心配しないで、千歌音が無事ならそれで・・・いいよ」
そう声を掛けてくれる女性、私の憧れの姫様
病弱な私をいつも見守ってくれる陽の巫女
私の力がないばかりに姫ちゃんを・・・傷付けてばかり
私がいつも足を引っ張って、儀式を失敗してしまう
それをいつもかばってくれるのも姫ちゃんだった
姫ちゃんはとても強い、そして優しい・・・その姫ちゃんが好き
生まれも全然違う、貧乏で平凡な私と違って姫ちゃんはお嬢様育ちだから
皆にも人気あって私とは立場が違う
下を向いていた私にかさねた肌からの温もりが伝わってくる
姫子ちゃんに抱き締められ私は紅潮する
「ひ、姫ちゃん・・・」
「千歌音、好きだよ」
「あ、あ・・・私なんのとりえもないし、ごめんね姫ちゃん」
姫子ちゃんのそよ風に閃くシルクのようなサラサラな髪が頬に触れる
「私・・・私には出来ない、姫ちゃんを殺すなんて・・・」
「千歌音」
「たとえオロチを封印するためとはいえ、私・・・」
「千歌音」
「で、できない・・・無理だわ。やっぱり刺されるのは私が相応しいんだよ」
破壊された世界を正しい世界に戻すために1人の巫女の命を引き換えに・・・
それもその儀式というのは巫女が巫女を殺すこと・・・愛する人をこの手にかけるなんて
私は皆から必要とされてる姫子ちゃんと違って存在価値のない存在
姫子ちゃんに愛される資格なんてないのに・・・
「命と想いを引き換えにするなんて」
ベッドから起き上がりながら私は呟き続けた
「姫ちゃん、私が死ぬべきだよ」
「千歌音・・・っ」
私にとってたった1つの自慢は長い黒髪と黒い瞳だけだった
「姫ちゃん、ほんとに私のこと好き?」
「うん、好きだよ千歌音のことは・・・」
「嘘っ!!!」
「・・・」
「姫ちゃんはほんとは私のことなんて・・・っ!!」
幼少の頃から病弱な私、なんのとりえもない私と頭がよくて強くてなんでもできる姫子ちゃん
釣り合うわけがない、きっと私が可哀相だから・・・同情で付き合ってくれてるのね・・・
「そう、信じてくれないんだね千歌音、なら・・・試してあげる、私のほんと受けとってね」
「え?」
姫子は千歌音のベッドにそっと近寄ると・・・千歌音に突然キスした
「・・・ん!?や、やめて姫ちゃん!!」
唇を少し離しキスから逃げようとした千歌音を逃すまいと両腕で押さえつけそのまま押し倒す
唇を塞がれているため、声を発すことが出来ない
その上姫子の両腕で体全体をガッチリ絡められているため
力の弱い千歌音が抜け出すことは不可能だった
陽の巫女服に身を包んでいる姫子、いつも守られてきた相手・・・とこんなこと
ひ、姫ちゃん・・・どうしてこんなこと・・・
生まれて初めてのファーストキスの相手が姫ちゃんだなんて
「ん・・・んん・・・」
大人しくなった千歌音に気付くと優しくキスから解放する姫子
「千歌音、驚かしてごめんね、でも・・・私の気持ちは本当なの」
「姫ちゃん・・・」
「だから私のことを信じて、ね?千歌音、だから足手まといだとか自分が死ねばいいとか言っちゃだめだよ、千歌音」
姫子ちゃんの真剣な眼差しに私は・・・奪われた唇にそっと手をやる
私達は剣の巫女・・・愛し合えば愛し合う程引き裂かれていく
そして明日はオロチを倒し破壊された世界を下に戻す儀式を行う日
最後の最後に気持ちを伝えたかった・・・明日でどちらかの巫女は消えるのだから
涙を流し号泣する千歌音、それよ優しく抱き寄せる姫子、
「千歌音・・・泣いていいんだよ」
「私も・・・私も姫ちゃんのことが・・・!?」
その時記憶が途切れ・・・現実に戻される
「千歌音ちゃん・・・?」
私は、うっすらと目を覚ました
「っ・・・姫子?ここは?」
「うん、乙羽さんから千歌音ちゃんのことをよろしくって伝えられて、きっと疲れてたんだね、ずっと眠ってたから」
私の愛する姫子の笑顔に心が救われる
私達の前世でも・・・辛いことがあった、それは確か
巫女の運命を受け入れるしかない私達、でも・・・いまは違う
それを解放された私は・・・姫子と一緒に歩んで行きたいと思うの
そう、姫子を犯したあのおぞましくて残酷な悪夢の夜も1つの形
「千歌音ちゃん・・・?どうしたの?」
「いいえ、なんでもないわ」
私に見せたあの夢はなんだったのだろうか
あれが実在したかどうかはともかく
私達は運命から解放されこうして生きている、それだけでも幸せだわ
そう思うしかないもの、前世で貴女を手にかけたのは事実だけれど・・・
私に殺された貴女も、貴女を手にかけた私の覚悟もそうとうだとは思うけれど
過去に囚われてはいけない、いまを生きること、それが一番大事なのだから・・・
「千歌音・・・?」
「なんでもないわ・・・好きよ、姫ちゃん」
「え?姫ちゃん?」
「ふふ・・・好きよ姫子」
前世の記憶がどうとか巫女の宿命がどうとか関係ないわね、姫子・・・好きよ、貴女とこれからも一生生きて行きたい
この・・・天火明村で・・・ふふ。姫ちゃん・・・か。
END