転生後 夏のプレゼント ◆M2vRopp80w氏

神無月の巫女 エロ総合投下もの

転生後 夏のプレゼント ◆M2vRopp80w氏

 

人通りが多い街の通りを歩くと、うるさいくらいに鳴き響く蝉の声と日差しに照りつけられ熱されたアスファルトが、姫子に真夏の季節が訪れた事を感じさせる。
眩しいくらいの太陽の光に目を細めた。
今日は大学の授業が午前中までだったので、必要な物を買って帰ろうと街へ寄った。
しかしこの暑さでは日射病になりかねない。
姫子は早く買い物を済ませ、家に帰ろうと思った。
その時だった。
一瞬、通り過ぎた店に振り返りショーウィンドウを覗くと一着のワンピースに目を奪われる。
色は淡い水色で、デザインはシンプルだが清楚で爽やかな印象のワンピースだった。
姫子は真っ先にそのワンピースが似合うであろう人物を思い出す。
(素敵なワンピース…きっと千歌音ちゃんに似合うだろうな…そうだ!)
姫子は何かを思いつくと店の中に入って行った。ちょうど数日前にバイト先からボーナスを貰ったばかりだった。
値段は少しばかりしたが、どうしてもそのワンピースを手に入れたかった姫子は店の定員に声をかけた。
「すみません、あのワンピースを下さい。」             


姫宮邸に帰りついたのは夕暮れ時だった。
姫子が門の前にあるインターホンを押して名前を言うと、大きな門が自動で開く。
邸に入ると大勢のメイド達が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、来栖川さま。」
「ただいま帰りました、あの…」
先頭に立って出迎えてくれたメイド長の乙羽に、姫子が尋ねようとしたその時、ちょうど階段からその人物が降りて来た。
「お帰りなさい、来栖川さん。」
まだ帰って来たばかりだったのか、制服姿の長い黒髪の美少女が姫子に気づき、笑顔で階段を駆け降りてくる。
「ただいま、千歌音ちゃん。」
嬉しそうな少女に姫子も自然と笑顔になる。
姫宮千歌音。
この姫宮家の一人娘で、姫子の愛する想い人。
長い黒髪に、すらりとした細い身体、彫刻のように美しい顔立ち。
まだ幼いはずの千歌音はどこか大人の女性のような艶やかさと色気を感じさせた。
「もうすぐ夕食の時間だから一緒に食べましょう?」
「うん、分かった。じゃあ着替え来るね。」             


姫子は自分の部屋に戻り服を着替える。
姫子には懐かしいこの部屋は、あの前世の頃と全く変わっていない。
千歌音と再会してまだ数ヶ月。
姫子が街の交差点で、同じ貝のネックレスをしている少女と出会ったあの日、姫子は全ての記憶を取り戻した。
抱きしめた少女は姫子の事を一切、覚えていなかった。
それが千歌音だった。
記憶は無かったが、千歌音も漠然とたった一人の想い人を待っていたらしい。
姫子が同じ貝を着けている事に、千歌音も何かを感じ取っていた。
そんな二人が惹かれ合うのには時間はかからなかった。
いまでは想いが通じ、再び恋人同士になった姫子と千歌音。
先月から居候し始めたのも、千歌音からの提案だった。
両親が居ないひとり暮らしの姫子に、良かったら姫宮邸に住まないかと言われ、一瞬躊躇したが千歌音とまた一緒に過ごせる事が嬉しくてお世話になる事にした。
姫宮邸は男子禁制だが姫子が女である事と、千歌音と顔見知りである事で何とか承知して貰えた。
あの時の千歌音の嬉しそうな顔は今でも覚えている。
コンコンとドアのノックがした。
「はい、どうぞ。」
「失礼致します。来栖川様、お食事の用意が出来ましたのでどうぞ一階の方へ。」
夕食の知らせを乙羽が告げにきた。
「ありがとうございます。すぐに行きますから。」

私服に着替え、一階に降りダイニングルームへ向かうと既に千歌音が座って待っていた。
「お待たせ千歌音ちゃん。」
「いいえ、じゃあ食事にしましょう。」
テーブルの上を見ると、最近何故だか椎茸が入った料理が多いような気もするが…。
(前にも椎茸が沢山入ってたような気がするんだけど…)
夕食を食べながら、姫子と千歌音の会話は楽しく弾んだ。



夕食もお風呂も済ませ部屋で過ごしていると、千歌音が姫子の部屋へやって来た。
千歌音を部屋に呼んだのは姫子だった。
「あ、千歌音ちゃん。ちょっとここに来てもらえるかな?」
「…なぁに?」
不思議そうに首を傾げる千歌音の前に、大きな紙袋を差し出す。
「はい。」
「…私に…開けてみていい?」
「もちろん。」
千歌音が紙袋から箱を取り出し、中を開けると水色のワンピースが入っていた。
「これ…」
「あのね今日街に行った時、このワンピースを見かけて千歌音ちゃんに似合うんじゃないかって思って…気づいたら買っちゃった。」
「でも…私…誕生日でも、特別な日でも無いのに…いいの?」
「うん、千歌音ちゃん。着てくれる?」
「………うん。ありがとう姫子さん。」
照れくさそうに頬を赤らめ、はにかみながらお礼を言う千歌音。
まだ記憶を取り戻していない千歌音は、姫子の事をこう呼ぶ。
これでもやっと下の名前で呼んでくれるようにはなったのだが。
「それとね千歌音ちゃん、お願いがあるんだけど…」
「お願い…?」
「千歌音ちゃん、もうすぐ夏休みでしょ?あの、もし良かったら…デートに行かない?」
「デート?姫子さんと…」
それを聞いて、千歌音はさらに顔を赤く染めて下を俯く。
「あ…そっか、千歌音ちゃんは夏休みでも部活とか、お茶会とかあるよね。忙しいよね、ごめんね無理言って…」
少し気まずくて姫子が背を向けると、手をキュッと握られた。
「千歌音ちゃん…?」
「…行きたい。」
小さな声で呟いた千歌音は、今度は顔を上げて姫子を見つめる。
「姫子さんとデートに行きたい。」
「いいの…?」
「うん…。」
こくりと千歌音が頷いたのを確認した姫子は、嬉しくて頬を少し染めた。
「これ…デートに着て行ってもいいかしら?」
「うん…!きっと似合うよ。」
姫子は実はそのつもりで買って来たのだが、千歌音には秘密にして置いた。
きっと数日後に見るワンピースを着た千歌音は、誰よりも綺麗だろうなと姫子は思った。

その夜、千歌音がもうそろそろ眠りに就こうとした頃だった。
遠慮がちに小さくコンコンとノックする音がした。
(こんな時間に…?誰かしら…)
「どうぞ。」
声をかけるが返事が返ってこない。
一向にドアを開けてくる様子もないので、千歌音が不思議に思いながら静かにドアを開けると、そこには姫子が立っていた。
「姫子さん?」
「ちょっと…いいかな?」
とりあえず部屋の中に姫子を招き入れた。
「ごめんね、もう寝るところだったんでしょ?」
千歌音はもうネグリジェに着替えていた。
見れば就寝するところだったのがわかる。
「ええ…それよりどうしたの?こんな時間に…」
「……あのね、最近千歌音ちゃん…何か私に隠してない?」
姫子が尋ねると、千歌音の表情が一瞬だけ変わったのを見逃さなかった。
「あ…何か困った事とか、悩みがあるんだったら何でも話して欲しいの。ほら、千歌音ちゃん色々大変でしょ?」
「……何も。」
「え?」
「何もないわ…悩みも特にないし、毎日忙しいけれど…もう馴れているし。」
「そっか…」
(でも、千歌音ちゃん何か隠してる…私に言えない事なの…?それとも乙羽さんにだったら話せるの?)
姫子は不意に、あの時乙羽と一緒に楽しそうに笑っていた千歌音の笑顔を思い出した。
「そういえば、千歌音ちゃん最近乙羽さんと一緒に居る事…多いよね?」
「……っ!」
その時、千歌音の肩ビクッと揺れた。
明らかに狼狽したのがわかる。
「千歌音…ちゃん?」
「……」
何故かその場で、千歌音は黙り込んでしまった。(どうして?どうして何も言ってくれないの…?千歌音ちゃんやっぱり…乙羽さんと…)
姫子はきゅっと唇を噛み締める。
胸が痛い、苦しい、それは明らかに姫子の嫉妬だった。
乙羽の前で見せていた笑顔も、あのワンピースも姫子の隣で見せて欲しかったのに。
それなのに…。
姫子の心の奥に抑えきれない何かが破裂しそうだった。
「あ…あの、実はね…乙羽さんに…」
長い沈黙の後、ようやく千歌音が口を開くと後ろからドアのカギを閉めたような音がした。
「えっ…?」
そして今度は、部屋の照明まで消えて真っ暗になった。



暗くなった部屋を、わずかな月明かりだけが照らしてくれている。
「姫子さん…?」
千歌音が振り返ろうとすると、後ろからギュッと抱き締められた。
「あっ…」
「千歌音ちゃん…」
姫子は、千歌音が離れないように力を込めてさらに身体を密着させた。
「あのっ…姫子さ…ん」
突然の事に慌てた千歌音は姫子の方へ顔向けた。
「どうし…んっ…!」
不意に唇が塞がれて、千歌音は言葉を発せなかった。
姫子はキスをしながら千歌音を正面に抱き寄せてくる。
「ん……ぁ…っ」
何度も角度を変えながら口づけをする。
息継ぎも出来ないほどのキス。
姫子が舌で千歌音の唇を何度か舐めると力が抜けたのか、千歌音の唇がわずかに開いた。
躊躇うことなくそこに舌を入れる。
柔らかくて甘い口づけに酔ってしまいそうだった。
「…はぁ…ちゅ…んっ」
千歌音が姫子の背中に腕を回し、ギュッと服を握りしめる。
立っていられないのだろう。
姫子より少し小さな身体が腕の中で震えている。
「千歌…音ちゃ…ん…」
唇を離さないまま、姫子はすぐ側の窓際まで千歌音を抱きかかえ壁に押さえつけた。
「んっ…はぁ…っ」
ようやく解放された唇から、つうっと糸が引いた。
千歌音の肩が揺れている。
姫子の胸元に頭を寄せ、呼吸を整えているようだ。
「ひ…姫子さん…どうしたの…」
千歌音はいつもの姫子とは違う様子に、少し怯えているように見えたが頬は赤らんで上気している。
それがより一層、姫子の欲情を湧き上がらせた。
何も言わず姫子はネグリジェの上から千歌音の脚に触れてくる。
「あっ…やっ…!」
千歌音が姫子の手首を掴んで止めようとしたが、逆に姫子に掴まれ押さえられた。
「じっとしてて」
それだけ言うと、ネグリジェの裾を捲り上げ直に細い脚に触れてくる。
「……っ!!」
あまりにも急な求め方に、千歌音は怖くなって身体を固くした。
姫子はお構いなしに千歌音の耳にもキスをしてくる。
「んっ…や、くすぐった…い」
くすぐったくて身をすくめ抗議するが、姫子は止めてはくれなかった。            

窓から差し込む月明かりが、千歌音の白い脚を照らした。
美しくてすらりと長い脚を姫子は優しく撫でる。
「姫子…さ…」
唇は首筋を這い、右手は脚を撫で、左手で腰を引き寄せる。
千歌音の深い湖のような瞳が、視点が合わず段々と虚ろになっていく。
脚を撫でていた手は千歌音の腰を撫で、いつの間にか胸元にたどり着いていた。
幼い千歌音の胸は前世の時までではないが、中学生にしては豊かだった。
姫子は、柔らかくて弾力があるそれをゆっくりと揉み始めた。
「やぁっ…」
姫子の耳元に千歌音の吐息がかかる。
おもわずゾクッとして千歌音の首筋を強く吸った。
唇を離すと紅い痕がついた。
「痕…残っちゃうね。」
姫子はそれを承知でつけたのだ。
肌の露出が多いこの季節にわざと見えるように、しかも一番見えやすい首筋につけた。
まるで千歌音は自分の恋人である証のように…。
「そんなの…誰かに見られたらっ…」
「見せてあげればいいよ、だって千歌音ちゃんは…私の恋人でしょ?」
「やん…っ!」
不意に姫子が、千歌音の胸の先端をネグリジェの上から指で摘んだ。
衣服の上からでも固くなっていくのがわかる。
「……んっ!」
千歌音は恥ずかしくて、じっと見つめてくる姫子の顔から自分の顔を逸らした。
だが、姫子の手が服の中に入り込んでくる。
千歌音はハッと息を飲んだ。
姫子の掌が直に胸に触れる。
「千歌音ちゃんの…大きい…胸って揉んでいると大きくなるんだって。」「え…っ?」
姫子が何故か唐突にそんな事を口にした。
「まさか…千歌音ちゃん、誰かに触らせたりとかしてないよね…?」
「なっ…そんな事、あるわけ…ないっ!」
ムキになって抗議する千歌音に姫子はさらに問いただす。
「本当に?例えば…乙羽さんとか…?」
「わ、私は…乙羽さんにだって、何でそんな事…」
千歌音の黒い瞳が滲む。
泣き出してしまいそうなか細い声。
姫子は千歌音をいじめたいわけではなかったが、あまりにもその姿が愛しくて、ついそんな事を言ってしまう。
「じゃあ、証明してくれる?」
「証明…?」
「千歌音ちゃん…私の事好き?」
千歌音は疑われたくないのか素直に頷く。
「それなら私を好きだって証明して」




姫宮邸の庭は広くて、周りの近所から屋敷の中はほとんど見える事はない。
その点では安心だった。
ましてや夜なんてほぼ見えないだろう。
まさか姫宮邸の窓から、一人の美少女が淫らな姿を晒しているなんて、きっと誰も思うはずがない。
「……っ」
曇りひとつも無い、大きな窓に手をついて涙を浮かべた千歌音の姿が窓に映る。
月明かりに照らされた千歌音の肌が、白く浮き上がりさらに美しく見えた。
姫子は後ろから千歌音を抱きしめ、千歌音の胸を愛撫している。
優しく、もどかしく、だが時々指で固く尖った先端を刺激してくる。
「千歌音ちゃん、綺麗…」
「やっ…もう、やめ…て」
潤んだ瞳で訴えられても、今の姫子には何の効果もない。
逆に姫子を燃え上がらせるだけだ。
「千歌音ちゃん…証明してくれるんじゃなかったの?」
「でもっ…こんなの…」
いくら何でもこんな体制は千歌音には恥ずかしかった。
もう深夜を回っている。
誰にも見られる心配は無いだろうが、千歌音は安心出来なかった。
「大丈夫…もうみんな寝てるよ…」
「あっ…駄目っ!やあぁ…っ」
姫子の指がショーツの中に侵入してきた。
熱を持ったように熱いそこに触れると、クチュッと濡れた音がした。
「感じてくれてるんだね、千歌音ちゃん…嬉しい。」
千歌音が窓に視線をやると、頬を染め嬉しそうに千歌音を見つめる姫子が映っている。
窓に映った二人の視線が合わさった。
まるでお日様のように優しい眼差しに、千歌音は視線を逸らす事が出来ない。
窓に映った姫子が目を細めた瞬間、千歌音の中に姫子の指が入ってきた。「…ぁ…」
「熱い…」
千歌音の身体が強張った。
姫子の指が千歌音の体温に包まれる。
そこは温かくて溶けてしまいそうなくらい心地良かった。
「はぁっ……姫子さ…ん?」
しばらく中に入れたまま、一向に動き出さない姫子の指。
わずかに不服を持ったような千歌音の声の呼びかけに、姫子はある提案をした。
「ね…千歌音ちゃん、自分で動いて見せて…」            


「えっ…?」
「自分で腰を動かすの。千歌音ちゃんが、ね…」
姫子が空いている手で千歌音の腰を撫でた。
言葉の意味を理解した千歌音は、顔を真っ赤に染める。
「いやっ…!そんなの出来ないっ…」
子供のように嫌々と首を横に振る。
「じゃあずっとこのままだよ。」
声はこんなにも優しいのに、どうして姫子はこんな意地悪な事をするんだろう?
千歌音が姫子に抱かれたのはこれが初めてではない。
初めて抱いてくれた時は、あんなにも優しくしてくれたのに…。
自分自身に、いつもとは違う形で熱い想いをぶつけてくる姫子。
例えどんなに酷い事をされても千歌音は姫子を受け入れてしまう。
「千歌音ちゃんは私の事嫌い…?」
窓に映っている意地悪な姫子は、どこか悲しそうにも見えて千歌音の胸の奥を締めつけた。
「……っ」
姫子が嫌いなはずがない。
千歌音はそんな姫子を見たくなかった。
姫子が悲しむくらいなら、自分が耐えればいい。
そう思った。
千歌音は唇を噛みしめ、ゆっくりと腰を動かした。
「あ、っ…」
声を出すのが恥ずかしくて、さらに唇を噛む。
千歌音の耳にも聞こえるほど、クチュクチュと濡れた音がする。
窓はギシギシと軋み、千歌音の腰が淫らに動く。
「ひ…め…姫子さ…っ!」
千歌音は虚ろな瞳で姫子の名を呼ぶ。
千歌音に求められている事が、姫子は何より嬉しかった。
「千歌音ちゃん」
急に姫子が指を動かし始めた。
千歌音の奥まで突き上げるように。
「あっ…もう…っ…」
はらはらと大粒の涙を流す千歌音。
姫子の指が容赦なく千歌音を責めたてる。
そして…。
「――あっ!」
千歌音が身体を大きく震わせた。
膝の力が抜け、倒れそうになった千歌音を姫子が抱きとめる。
「千歌音ちゃん、千歌音ちゃん…」
姫子は千歌音を愛しそうにぎゅっと抱きしめ、何度も名前を呼ぶ。
「…姫…子、さん」
(私は…この人が好き…)
千歌音は姫子に応えるように、力が入らない腕で姫子をぎゅっと抱き返した。

「……っ…」
しばらくずっと二人で、その場に座り込んだまま抱き合っていると姫子の微かな泣き声が聞こえた。
「……姫子さん?」
千歌音が身体を離して姫子の顔を見上げると、姫子が泣いていた。
「どうして…どうして泣いてるの?」
姫子が泣いているのを見て、千歌音は胸が痛んだ。
「私、私のせい…?何か姫子さんを泣かせるような事した…?」
「違うの。千歌音ちゃんのせいじゃない。千歌音ちゃんは何も悪くないよ…悪いのは…」
そう、悪いのは自分だ。
千歌音の記憶が無いからと、勝手に不安になって嫉妬して、千歌音のせいではないのに…。
千歌音を無理やり抱いてみても、結局最後は虚しさが残るだけだ。
前世では千歌音を苦しめ、悲しませていたのは自分なのに。
きっと今では姫子の方がもっと千歌音の事を愛している。
姫子はこんな自分勝手な自分の気持ちに嫌悪したのだ。
姫子が黙って泣き続けていると、突然ふわりと柔らかな感触に包まれた。
「ち…千歌音ちゃん…!?」
姫子は千歌音に抱きしめられていた。
慰めるように姫子の頭を優しく撫でる千歌音。
「泣かないで…貴女が泣くと私も悲しくなる…。」
「千歌音ちゃん…」
千歌音は姫子の涙を細長い指で拭ってくれた。
千歌音の瞳には今にも溢れそうな涙が浮かんでいる。
「あのね、私…千歌音ちゃんと乙羽さんの仲に嫉妬してた。千歌音ちゃん、乙羽さんと一緒にいる時すごく楽しそうにしてたから…。それにずっと千歌音ちゃんに避けられてるような気がして…」
「それは…その…違うの。」
千歌音は少し口ごもり、姫子から視線を逸らした。
「……え?」
「…あのね」
千歌音は立ち上がり、クローゼットの中から箱を取り出してきて姫子の前に置いた。
「これ…何?」
「開けてみて…」
姫子が箱を開けてみると、中には淡いピンクのワンピースが入っていた。
「千歌音ちゃん…これ…」
「あのね、乙羽さんに頼んで用意してもらってたの…姫子さんのワンピース…」
「私の…?じゃあ…」
「その…姫子さんとお揃いにしたかったの。デートに着ていくワンピースを…だから、その…姫子さんには前日まで内緒にしていてって…乙羽さんに頼んでたの。」
千歌音はそう言うと顔を赤くして恥ずかしそうに俯いてしまった。
「それじゃあ…あの時避けられてた気がしたのは…」


「本当は早く渡したかったけれど、その…姫子さんを驚かせたくて…」
千歌音の声が段々と小さくなっていく。
「ほ、本当はお揃いなんて子供っぽいんじゃないかって不安で…だから乙羽さんに頼んでどういうのがいいか相談…してたの…」
最後の方は消え入るような小さな声で、真っ赤になりがながら千歌音は本当の事を話してくれた。
「だから…それ受け取ってくれる?」
姫子は不安そうに見つめてくる瞳を、真っ直ぐに見つめ返した。
「もちろん…だって、千歌音ちゃんが私のために用意してくれたんだもん。嬉しい…ありがとう千歌音ちゃん。」
にっこりと姫子が笑うと安心したのか、千歌音も笑顔になった。
(そういえば…あの別れの時、千歌音ちゃんと約束したっけ…)
姫子は思い出していた。
前世の別れの時、姫子と千歌音はわずかに残された時間の中で、お揃いの服を着てお出かけしようと約束をした事を。
(でも千歌音ちゃん、記憶は戻ってないみたいだし…)
もしかして心の奥底で、覚えていてくれたのだろうか?あの時の約束を…。
「それと千歌音ちゃん…さっきはごめんね。酷い事をして…」
「ううん…もう気にしないで。」
千歌音は優しく微笑んでくれた。
姫子は嬉しくなって、千歌音を再び抱きしめる。
「大好き…千歌音ちゃん。」
「…私も、私も姫子が好き…」
「…?千歌音ちゃん、いま姫子って言った?」
「えっ…」
「私のこと、姫子って言ってくれたよね。」
喜んで嬉しそうな笑顔を向けてくる姫子に、千歌音は顔を赤くした。
「私そんなこと…」
「嘘、いまちゃんと言ったよ。」
「…し、しらないっ…!私そんなこと言ってない!」
千歌音は、嬉しそうな姫子になんだか少し悔しくてムキになる。
姫子はそんな千歌音も愛しく思った。
(でも…いまは記憶が無くてもいい…だっていまはこうして千歌音ちゃんと同じ気持ちだから…)
もしかしたら千歌音がこの先、いつか思い出す時が来るかも知れない。
その時は、前世の思い出を二人で沢山話そう。
「お休み千歌音ちゃん…」
「お休みなさい姫子…」その夜、二人は同じベッドで寄り添って眠りについた。
あの前世の夜よりも、幸せな気持ちに包まれて。

終わり。  

最終更新:2008年08月31日 17:50
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