天火明にある大きな姫宮邸のお屋敷。
今夜は姫宮家の令嬢の誕生日を祝う盛大なパーティーに、大勢の人々が集まっていた。
「おめでとうございます、千歌音お嬢様。」
「ありがとうございます。」
千歌音は姫宮家の親族、姫宮グループの関係者、有名な政治家、様々な人達に囲まれてお祝いの言葉をかけられている。
「あ~あ、あれじゃぁ近づけないな…せっかく宮様に会えると思ったのに。」
真琴はシャンパンを飲みながら、ため息混じりに呟いた。
「仕方ないよ、千歌音ちゃん忙しいから。」
姫子は真琴をなだめる。
「姫子はいいよなぁ…あんな人が恋人なんて。みんなが知ったらどれだけ驚くか…とくにイズミとか?」
「こ、声が大きいよ、マコちゃん!」
姫子は周りに聞かれていないか辺りを見回した。2人が恋人同士なのは、乙羽、真琴、などの身近な人にしか知らせていない。
その時だった。
「宮様~!」
聞き覚えのある声の方を見ると、数人の女性達が千歌音の下に駆け寄っていく。
「あ…噂をすれば…イズミ達の奴、変わらないね。相変わらずだ…」
千歌音の周りには、あの取り巻きだったイズミ達がいた。
「なんか懐かしいね。高校生の頃を思い出すよね。」
高校を卒業して数年、大学も去年卒業した。
もう立派な社会人だ。
皆それぞれの道を歩んでいる。
姫子は大勢の人々の中で、ひときわ輝く千歌音を見つめる。
今日姫子は、ある決意をしていた。
「どうした、姫子?あ、宮様に見とれてたんだろ。」
「ち、違うよ。マコちゃん酔ってるじゃないの?の、飲み過ぎだよっ。」
「いいの、いいの。今日はパーティーなんだからさ。あ、あれ美味しそう!」
真琴は次々と運ばれて来る豪華な料理の下へ、行ってしまった。
「もう…」
姫子は再び千歌音に視線を戻すと、千歌音がこちらを向いた。
千歌音は遠くから、姫子に微笑みかける。
姫子も微笑み返し、周りに気づかれないように千歌音に手を振った。
(今日こそ、ちゃんと…)
「誕生日おめでとう、千歌音ちゃん。」
「ありがとう、姫子も誕生日おめでとう。」
2人はシャンパンの入ったグラスで乾杯した。
パーティーも終わって、やっと2人だけで過ごすバースディパーティーの時間。
姫子の目の前には、先ほどのパーティーの主役である美しい千歌音がいる。
「ごめんなさい、さっきはあまり話しも出来なかったわね。」
「ううん、みんな千歌音ちゃんのお祝いに来てるんだから気にしないで。」
「そう言えば、早乙女さんはもう帰ってしまったの?」
「うん、ちょっと酔ってたしね。イズミさんの車に一緒に乗って帰ったよ。」
「イズミさんと?珍しいわね、あの2人が…」
あの後、酔っ払っていた真琴を心配したイズミに車に乗せて送ってもらっていたが…大丈夫だろうか?
「マコちゃんとイズミさん、実はああ見えて仲いいんだよ。」
「そうなの…挨拶もろくに出来なくて申し訳なかったわね。」
その頃…。
「う~ん…あれ、ここどこ?」
「ここどこ?じゃないですわよ、まったく!」
目を覚ました真琴が周りを見ると、そこは車の中だった。
前を見ると中年の運転手が車を運転している。
そして隣に目をやると…。
「え、あれ…なんでイズミがいるの?あたし宮様のパーティーに居たのに…」
「あなたねぇ、酔っ払ってた事全然覚えてらっしゃらないの!?」
「あ…そう言えば…」
「あ、じゃないですわよ!いい迷惑ですわ!」
「ごめん、ごめん。そう怒んないでよ。」
真琴はイズミに手を合わせて謝った。
「ま、まぁ…見ず知らずの人ではないし…今回だけ送って差し上げますわ。」
イズミはプイッと窓の方へ顔を背けた。
どうやら本気で怒っているようではないらしい。
「さっすが、イズミ!やっぱ持つべき物は友達よね。」
「はぁ…調子のいいかたですわね、まったく…」
真琴の様子に呆れながらも、どこかまんざらでもなさそうにイズミは苦笑いした。
(どうしよう…)
姫子はいつ切り出そうかと、タイミングを見計らっていた。
(今日は絶対言うって決めてたんだから…)
姫子はあらためて決意を固めると、シャンパンを一気に飲みほした。
「姫子、大丈夫?」
その様子を見て心配した千歌音が声をかける。
「え、な、何が?」
「姫子、少し飲み過ぎよ。」
シャンパンのボトルを見ると、もう半分も無くなっていた。
姫子は先ほどから自分で気づかないほど、シャンパンをあおるように飲んでいる。
まるで、酒の力でも借りるように。
「ほら、顔も赤いし…もう休む?」
「だ、大丈夫だよ。千歌音ちゃんっ…!」
「そう?それなら、いいけれど…」
(危なかった…せっかくのチャンスなんだから、しっかりしないと…)
「そういえば、はいこれ。姫子に。」
千歌音は突然姫子に少し大きめの箱を手渡した。
「え…私に?開けても…いい?」
「ええ、もちろん。」
包装紙を取って箱を開けると、そこには新品のカメラと一冊のアルバムが入っていた。
「あ、このカメラ…」
それはずっと姫子が欲しがっていたカメラだった。
かなり高価で、お金を貯めれば買えない事もない品物なのだが、姫子には手を出せない理由があった。
「千歌音ちゃん、こんな高価なの…私…」
もちろん千歌音がくれた物なのだから、嬉しいに決まっている。
姫子は少しばかり戸惑っていた。
「いいのよ、私の気持ちだから。それにね、姫子にはたくさん思い出の写真を撮って欲しいの。」
「千歌音ちゃん…」
「私からの誕生日プレゼント、受け取ってくれる?」
「うんっ…ありがとう千歌音ちゃん。私たくさん写真撮って、このアルバムにたくさん思い出残すね!」
姫子の嬉しそうな笑顔に、千歌音の頬が緩んだ。
その千歌音の表情を見ていた姫子は、決心を固めた。
「あのね…私からも千歌音ちゃんに渡したい物があるの。」
「私に‥何かしら?」
「千歌音ちゃんは‥今幸せ?」
「え…?ええ‥そうね、毎日忙しいけれど幸せよ。だって姫子がこうして側にいてくれるから。」
千歌音は少し頬を染めて柔らかく微笑む。
その顔からは、幸せが滲み出ていた。
もっと千歌音の幸せな顔が見たい。
そしてずっと思っていた事を、姫子はようやく口に出した。
「千歌音ちゃん…私と結婚してくれる?」
「え…?」
千歌音は最初キョトンとした顔で姫子を見つめていたが、姫子の真剣な眼差しに動揺を隠しきれなくなった。
「いま…なんて‥?」
「私と結婚して欲しいの、千歌音ちゃん。」
「……!」
姫子のその言葉を聞いた途端に、千歌音の顔が真っ赤になって俯いてしまった。
「ご、ごめんね。いきなりだったからびっくりしたよね…」
「……」
「あのね、分かってるよ。千歌音ちゃんの言いたい事‥」
女同士で結婚なんて無理な事も、もちろん承知している。
ましてや千歌音は姫宮家の一人娘で後継者だ。
そんな事を知られたら、世間からどんな目で見られるかも姫子は分かっていた。
「でもね、私これから先もずっと千歌音ちゃんの隣にいたい。千歌音ちゃんの支えになりたい。千歌音ちゃん、さっき言ってくれたよね?私が側にいるから幸せだって。」
「ええ…」
「私も‥千歌音ちゃんとこうして一緒にいられる事が一番の幸せだよ。」
「姫子…」
姫子は平気だった。
たとえ世間からどんな目で見られようとも、千歌音に誓ったあの時のように、恥ずかしがらず誰の前だって言える。
千歌音の事を愛していると。
「千歌音ちゃんの幸せな笑顔を、ずっと隣で見ていたいの。」
姫子は真っすぐに千歌音を見つめた。
「千歌音ちゃん…」
その眼差しと言葉にうろたえる千歌音だったが…。
「私も…」
「えっ?」
「私も…っ…!私も…姫子の隣で、姫子の幸せな笑顔が見たい…」
千歌音は真っ赤になった顔を、ようやく上げて口を開いてくれた。
「千歌音ちゃん…それって…?」
「私も…姫子と結婚したい…んっ!?」
姫子はあまりにも可愛らしい千歌音に、そしてその応えを待ちきれなくて唇を重ねていた。
「ひめ…こ‥」
「いいの…?千歌音ちゃん、私と…本当に…」
唇を離してもう一度確認すると、千歌音はこくりと頷いてくれた。
姫子は嬉しそうに微笑んで、千歌音に優しく呟く。
「愛してるよ、千歌音ちゃん…」
2人の顔が再び近づいた…。
「結婚式…しましょうか?2人で。」
ベッドで愛し合った後、千歌音がふとそんな事を言い出した。
「結婚式?」
「ええ…2人だけの結婚式。別にね、誰かに祝ってもらわなくてもいいの。それに…」
「それに?」
「私、姫子のウェディングドレス姿が見たいの。」
そう言って千歌音はふふっと笑った。
「え、わ、私の?千歌音ちゃんの方が似合うよ、きっと。」
「じゃあ2人で着ましょうか?」
ベッドの中でキュッと手を繋いで、2人は寄り添った。
「そしたら私、いっぱい写真とるね。あ、千歌音ちゃんから貰ったアルバム、すぐいっぱいになっちゃうかも。」
「そうしたら、また私がプレゼントするわ。」
「うん‥!」
「でも…まさか姫子からプロポーズされるなんて、思わなかったわ…」
「本当はもっと早く言うつもりだったんだよ、ただ…いつ言い出そうか、ずっと迷ってたの。」
姫子は少し照れくさそうに、額をくつっける。
「そう‥でも、嬉しかったわ。姫子にそんな事言って貰えて…」
最愛の人とまた出逢え、側にいられるだけでただ幸せなのに。
千歌音は自分が世界で一番幸せなのではないかと思った。
「そうだ、千歌音ちゃん。私、渡したい物が…」
姫子は千歌音に、プレゼントをまだ渡していない事に気づいた。
「…‥千歌音ちゃん?」
聞こえるのはすうすうと穏やかで静かな寝息。
仕方ない。
あれだけ盛大なパーティーだったのだから、きっと疲れたのだろう。
千歌音は幸せそうな顔で眠っていた。
「あ、そうだ…!」
姫子は何かを思いついて、千歌音を起こさないように静かにベッドから出た。
そして…。
(千歌音ちゃん、喜んでくれるかな?)
姫子は微笑んで、ベッドの中に再び入り眠りにつく。
幸せそうに2人はまるで、二枚貝のようにぴったりと寄り添う。
そして…姫子の隣で眠る最愛の人の薬指には、小さなダイアモンドをあしらった指輪がキラキラと光っていた。
エロなくてすいません。
結婚式、書いた方がいいですかね?
あんまり上手く書ける自信がないんですが…。