幸せ家族計画 結婚式編 ◆M2vRopp80w氏

  

神無月の巫女 エロ総合投下もの

幸せ家族計画 結婚式編

 

 「よし…これでいいかな。」
    姫子は最後のダンボールをガムテープで止めると、ホッと一息ついた。
    ドアがノックされ、千歌音が様子を見に来たようだ。
    「姫子、荷造りは済んだかしら?」
    「うん、今やっと終わったよ。」
    「そう、じゃあお茶にしましょう。喉も渇いたでしょう?」
    「うん、すぐ行くね!」
               
    「やっぱり乙羽さんの淹れた紅茶と、手作りのケーキは美味しいね。」
    「ええ…」
    テーブルには温かい紅茶と、乙羽の手作りのケーキが置かれている。
    「ありがとうございます。」
    「私、ちゃんと乙羽さんみたいに作れるかなぁ…」
    「大丈夫ですよ。レシピもお渡ししましたし…この間はお上手に作られたじゃないですか。」
    姫子は数日前から乙羽に美味しい紅茶の入れ方や、ケーキの作り方などを教わっていた。
    これから先は姫子が千歌音のために作る。
    しっかりと教わっておいたのだが、こんなに美味しいケーキを食べると自信をなくしてしまいそうだ。
    「でも、やっぱり乙羽さんの紅茶とケーキは絶品だよね、千歌音ちゃん?」
    「………」
    「千歌音ちゃん‥?」
    「えっ…?」
    「どうしたの、大丈夫‥?」
    「え、ああ…ごめんなさい。それで、何の話しだったかしら?」
    まただ。
    千歌音は最近こんなふうにボーッと考え事をして、ずっとうわの空だ。
    その理由は、姫子も乙羽も分かっていた。
    (やっぱり…気にしてるんだ‥千歌音ちゃん)
    「本当に此処を出て行かれるんですか?」
    ティーカップを片付けながら、乙羽は姫子に尋ねた。
    「はい、いつまでも此処でお世話になるわけにはいかないし…自分達の力で生きていこうって決めたんです。」
    「そうですか…」
    「でも、千歌音ちゃん…やっぱりまだ気にしていると思うんです。この間の事…」
    数日前…。
    千歌音は両親に電話で知らせたのだ。
    姫子と結婚する事を…。
    やはり分かってはいたが、大反対されてしまった。
    千歌音の説得で母親は分かってくれたのだが、 父親は許してくれなかった。
    どうしても結婚したいなら姫宮家を出るように言われた。
    もちろん、お屋敷からは最初から出るつもりだったが、父を慕い尊敬する千歌音はショックを受けたようだ。
               
    千歌音は自分の窓から庭を覗いた。
    たくさんの思い出が詰まっているこの家を、明日の結婚式が終われば離れる。
    「もう最後なのね…ここで過ごすのも‥」
               
    結婚式当日‥。
    その日は晴天で、まるで2人の結婚を祝ってくれているかのような青空だった。
    「本日はおめでとうございます、どうぞこちらへ。」
    すでに先に来ていた、姫宮家のメイド達に控え室に通される。
    「なんだか緊張しちゃうな…」
    姫子は小さな声で呟いた。
    「大丈夫よ、私達と乙羽さんと神父の方だけなのだから。」
    「うん…でも本格的なんだもん。ドキドキするよ‥」
    千歌音は結婚式をあげるために、天火明村にある唯一の教会を選んで貸し切りにしてもらった。
    今日はそこで式をあげる。
    「乙羽さん、遅いね。間に合うのかな?」
    姫子はたった一人の出席者である乙羽を心配していた。
    今日の朝、乙羽は出発する直前に用事があるので遅れて行くと言い出した。
    必ず行くと言っていたはずなのに、まだ来ていない。
    「もうそろそろお時間です。お着替えの方を‥」
    しばらく待っていたがメイド達に促され、仕方なく頷いた。
    「確かに遅いわね…式ももうすぐだし。とりあえず着替えだけでも済ましておきましょうか?」
    「うん…」
    2人がウエディングドレスに着替えようと、立ち上がったその時だった。
    「お待ちくださいっ!」
    控え室の扉が勢いよく開かれ、大きなふたつの箱を抱えた乙羽が息を切らせて入ってきた。
    「乙羽さん‥!ど、どうしたんですか?」
    「はぁ‥はぁ‥なんとか間に合ったようですね。」
    「いったいどうしたと言うの、何かあったの?」
    心配そうに乙羽の側に駆け寄る2人。
    「着替えるのは、まだお待ち下さい。」
    「どうゆうこと?」
    「これを…」
    乙羽は2人にそれぞれ大きなふたつの箱を差し出した。
    「これは‥?」
    「それは‥御自分の目でお確かめ下さい。」
               
    「うわぁ‥綺麗なドレス!」
    姫子から先に開けると、そこには新しい純白のウエディングドレスが入っていた。
    「これ…どうしたの?ドレスなら用意していたのに…」
    千歌音は乙羽に尋ねた。
    ドレスならもう用意していたのに、なぜもう一着必要なのか?
    見たところかなり高価なドレスのようだった。
    「それは来栖川さまに‥奥様からの贈り物でございます。」
    「お母様から‥!」
    「千歌音ちゃんのお母さんから‥私に?」
    「はい…お嬢様も御自分のをご覧になってみて下さい。」
    千歌音は自分の目の前にある、もうひとつの箱を開けるとそこには…
    「これは…?」

    そこには、一着のウェディングドレスとカードが一枚入っていた。
    「素敵なドレス‥」
    姫子はそのドレスに見とれていた。
    純白の生地に美しいレースがあしらっていて上品なドレスだ。
    「このドレス…どこかで‥」
    千歌音はどこかで見たのか、そのドレスに見覚えがあった。
    「それは‥奥様が旦那様とご結婚された時に着たドレスです。」
    乙羽の言葉に、千歌音は思い出した。
    昔一度だけ、母が着ていた写真を見せてもらった事がある。
    「そうだわ…お母様が着ていたあの…でも、どうして‥?」
    千歌音がドレスを箱から出すと、一枚のカードが目に入った。
    「これ‥お父様の‥!」
    そのカードを見た途端、千歌音の瞳からポロポロと涙が溢れた。
    「千歌音ちゃん‥?」
    姫子は心配そうに千歌音を見つめる。
    「この字‥間違いないわ、お父様のよ。」
    そのカードにはこう書かれていた‥。
    “ 愛する娘へ、結婚おめでとう。“
    「昨日連絡を受けまして多忙な為、式には出席できないがこれをお二人にお渡しするようにと‥」
    「それじゃあ…」
    「たまにはお二人でお屋敷に顔を出すようにと…旦那様からの伝言にごさいます。」
    その言葉を聞いて、千歌音の涙がさらにこぼれた。
    「よかったね、千歌音ちゃん‥!」
    「ええ‥」
    (ありがとう‥お父様、お母様‥)
    千歌音は心の中で両親に感謝しながら、カードとドレスを抱きしめた。
               
    「よく似合っておられますよ、お嬢様。」
    長い黒髪を整えながら、乙羽は鏡に映った千歌音に微笑みかけると千歌音も微笑んだ。
    「乙羽さん、本当にありがとう。」
    「そんな‥有り難いお言葉、私には‥」
    「お父様を…説得してくれたのでしょう?」
    「……!」
    「このドレスと姫子のドレスを用意するために、今日遅れたのね。」
    千歌音にはなぜだか全て分かった。
    あんなに頑なに反対していた父が、なぜ許してくれたのか。
    それは母ではなく、乙羽だとゆう事を。
    「私は…何も…」
    「いつだって、貴女は私を支えてくれたわね。それなのに…ごめんなさいね、何もしてあげられなくて。」
    「そんな‥!私はお嬢様が幸せなら、私も幸せです。」
    「本当に‥ありがとう。ずっと側にいてくれて‥」
    「お嬢様…さあ、来栖川さまがお待ちですよ。」
    「そうね…」
    乙羽は、自分の涙を拭って鏡の中の千歌音にもう一度微笑んだ。

    ステンドグラスから、美しい光が差した教会の扉が開く。
    そこには美しい2人の新婦。
    その2人の新婦は腕を組みバージンロードを、神父の下まで歩いていく。
    その姿を乙羽は涙を浮かべ、見守っていた。
    「来栖川姫子。病める時も健やかなる時も、汝はこの者を愛し、敬い、死が二人を分かつまで愛し、共に歩むことをここに誓いますか?」
    「はい、誓います。」
    「姫宮千歌音。病める時も健やかなる時も、汝はこの者を愛し、敬い、死が二人を分かつまで共に歩むことを誓いますか?」
    「はい、誓います。」
    誓いの言葉を交わし、2人は指輪をそれぞれ薬指にはめた。
    「それでは、誓いのキスを‥」
    互いのベールを上げ、キスを交わす姫子と千歌音。
    大きな教会の鐘が響き渡る。
    2人の新婦の新しい人生を祝うように‥。
               
    「はい、乙羽さん。」
    教会の入口で姫子が乙羽にブーケを手渡した。
    「わ、私くしにですか?」
    「乙羽さんには幸せになってもらわないと。ね、千歌音ちゃん。」
    「ええ。」
    「…私はもうすでに幸せです。お嬢様の結婚式をこの目で見れたのですから。でも…せっかくですから。」
    乙羽はブーケを抱えて、青空の下で幸せそうに微笑んだ。
                          
    「千歌音ちゃん、お屋敷に戻らないの?」
    式も無事に終わり、車は姫宮邸とは反対方向へ向かう。
    「姫子に見せたい物があるの。」
    そう言って千歌音は微笑んだ。
    車はある場所で止まった。
    そこには小さくも大きくもない、ちょっとした会場のような建物が立っている。
    「ここは‥?」
    「さあ、行きましょう」
    手を差し伸べて、千歌音は姫子をエスコートした。
    扉を開けて進むと、中は真っ暗で何も見えない。
    「千歌音ちゃん、何も見えな‥」
    その時‥。
    真っ暗だった室内に突然明かりがついた。
    そして‥。
    「きゃっ‥!」
    パーンとゆう大きな音が響いた。
    「な、何‥!?」
    姫子が目を細めて辺りを見回すと、そこには数人の見知った顔があった。
    「結婚、おめでとう!!」
    いっせいにかけらたお祝いの言葉。
    それを理解した姫子の視界が涙で歪んだ。

    「みんな…どうして…」
    姫子の前には、真琴、イズミ達や、ソウマ、カズキ、ユキヒトらが集まっていた。
    「この親友の真琴さまが、姫子の結婚式を知らない訳がないでしょ!」
    皆の前でそう言うと、真琴は姫子の隣までやって来て本当の事をこっそりと囁いた。
    「なんてね‥本当は宮様に呼ばれたんだ。」
    「千歌音ちゃんに‥?」
    姫子が千歌音を見ると、にっこりと微笑んでくれた。
    (千歌音ちゃん…私のために…)
    「あの、宮様…ご結婚おめでとうございます。」
    イズミ達が千歌音に駆け寄り、花束を渡す。
    「どうもありがとう、とても綺麗ね。」
    千歌音に微笑みかけられたイズミは、顔を赤らめていた。
    その様子を姫子と真琴が見ていると、イズミがこちらに顔を向けた。
    「…はい。」
    「あ、あの…」
    突然姫子の前にやって来て、無愛想に花束を渡すイズミ。
    「べ、別にあなたのために来た訳じゃありませんわよ。宮様のために来たんだから…」
    背けた横顔は少し照れくさそうに見えた。
    「ありがとう…イズミさん…」
    「まったく、素直じゃないんだからイズミは。」
    真琴がイズミをからかうように、にやけた顔でそう言った。
    「なっ…大体、早乙女さん!あなたがどうしても来てくれって言うから、来て差し上げたのよ!」
    「はい、はい、そうゆう事にしておきます。」
    「早乙女さんっ!あなたねぇ…」
    その様子を見ていた人々は、微笑ましい笑顔を浮かべている。
    「来栖川、おめでとう。」
    「大神君‥ありがとう、来てくれて。」
    「よかったな、大切な人に会えて‥」
    「うん…」
    ソウマも微笑んでいる。
    姫子は心の底から幸せだった。
               
    「気持ちいいわね、風が。」
    パーティー会場の庭で姫子と千歌音は夜風にあたっていた。
    「うん…」
    「そういえば、もうひとつのブーケはどうしたの?」
    たしかもうブーケがもうひとつあったはずだ。
    「あれ、マコちゃんにあげたの。」
    自分の一番の親友に、幸せを願って。
    「そう‥」
    「千歌音ちゃん…今日は本当にありがとう。」
    「私は…何もしていないわ。」
    「そんなことない!こんなに幸せな時間をもらって…本当なら私が千歌音ちゃんを幸せにしなきゃいけないのに…」
    「もう十分幸せよ、姫子が笑顔を見せてくれるから…」
    「千歌音ちゃん…」
    夜空の下で寄り添う2人を月が優しく照らし祝福してくれていた。
               

最終更新:2008年11月19日 11:03
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