美しい月が浮かぶ、秋の夜空。
庭から鈴虫が鳴く音だけが聞こえてくる。
千歌音は部屋で一人、孤高に輝く美しい月を眺めていた。
せっかくの美しい月光がもったいなくて、蝋燭の灯りを消す。
障子を少し開けた部屋には、明るい月光が差し込んでくる。
あまり体が丈夫でない千歌音は、ここからいつも外を眺めている。
外に出るのは、巫女の儀式の時だけだ。
「綺麗…」
千歌音は月を見つめ、誰にも聞こえないような小さな声でぼそっと呟いた。
「そうね、とても綺麗…」
「え…ひ、姫子さま…!?」
突然、開けていた障子の向こう側から声が返ってきた。
その穏やかで優しいお日様のような声は、千歌音のたったひとりの愛する人…陽の巫女である姫子だった。
「眠れないの?」
障子を音を立てずに開けて、顔を見せる姫子。
「は、はい…それに、月がとても綺麗だったので…」
なぜか千歌音は恥ずかしくて、顔を俯く。
「そうね、こんなに綺麗な月だもの。お月見でもしないともったいないわね…」
そう言って姫子は月を見上げる。
千歌音には月に照らされたその横顔が、月よりも遥かに美しく見えた。
「そういえば、今日庭を少し歩いたんですって?下女に聞いたわ…」
姫子は見上げていた顔を下ろして、千歌音を優しく見つめる。
「え、あ…はい‥今日は体の調子が少し良かったので…」
千歌音は姫子が屋敷を出ている間、広い庭に出て少し歩いた事を思い出した。
いつもはそんな事はしないのだが、今朝はいつもより調子が良かったのだ。
「そう…」
姫子は嬉しそうに微笑んで、部屋の中に入ってきた。
スッと障子を閉められ、千歌音の胸が高鳴った。
「あ…の…」
薄暗い部屋の中を月の光がほんのりと障子に差し込み、微かに照らしてくれる。
千歌音はスッと伸びてきた腕に、ふわりと温かい感触とお日様の匂いに包まれた。
「姫子…さま…」
抱きしめられ、顔を赤らめる千歌音。
見上げてると、姫子が柔らかく微笑んでいる。
「千歌音…」
それは誰も知る事のない、二人だけの秘密の合図だった。
千歌音の体調がいい時は、こうして姫子が部屋へやってくる。
そして、それがどうゆう意味なのかも千歌音は分かっていた。
近づいてくる唇を拒む事なんて出来なかった。
「ん…っ」
重ねられた唇から、吐息が漏れる。
優しい口づけに千歌音の強張った身体の力が抜けていく。
「あっ…ま、待ってください…」
帯に手をかけられて、慌てて姫子の手を止めた。
「…だめなの?」
決して怒ってはいないが、寂しそうな眼差しを千歌音に向けてくる。
「だ、だって私は…姫子さまに相応しくないのに…こんな‥」
千歌音はいつも愛されるたびに思っていた。
本当に自分がこの人に愛されていいのか?
病弱でなんの取り柄もない、愛する人の何の役にもたてない自分を、無償の愛で包んでくれる姫子の隣にいてもいいのだろうか?
いつも自分自身に疑問を抱いていた。
「まだそんな事を気にしているの…?」
「ご、ごめんなさい‥」
千歌音はおそるおそる姫子の顔を見上げたが、姫子は怒ってはいなかった。
むしろ、穏やかな笑みを浮かべている。
「言っても分からないのなら、何度だって言ってあげる…私は千歌音が好きよ…」
姫子は優しく千歌音の頬を指で撫でた。
大切なものに触れるように。
「千歌音は私の事、好きではないの?」
「そんなこと‥わ‥私も、私も姫子さまが好きです…」
「ありがとう。」
姫子が嬉しそうに笑うと、再び帯に手をかけた。
「あっ…」
あっという間に着ていたものを取られ、布団の上に倒された。
「好きよ‥千歌音…」
「寒くはない?」
「はい…」
姫子は千歌音の肩に布団をかける。
愛された後も、こうして姫子は優しく千歌音を包んでくれる。
恥ずかしくて、申し訳なくて、千歌音は姫子の顔をまともに見ることが出来ない。
「あの…ごめんなさい。いつも、何も出来なくて…」
千歌音はいつも愛されてばかりで、姫子に何ひとつ返せない事が申し訳なくて謝った。
「気にしなくていいのよ‥」
「でも…」
「…‥そんなに気にするのなら、たまには千歌音に愛してもらおうかしら?」
姫子はクスッと冗談まじりに笑って、千歌音の髪を撫でた。
「え、わ、私がですが…?」
千歌音は真に受けて、顔を赤くし慌てる様子があまりに可愛くて、姫子の悪戯心に火をつけた。
「そうね…今日は体調もいいのでしょう?」
「あ、あの…」
「千歌音、私を愛して…ね?」
「あの…」
「なぁに?」
「本当に‥するのですか?」
不安そうな、か細い声で尋ねる千歌音の顔は、すでに真っ赤だ。
「大丈夫、千歌音が思う通りにしていいのよ。」
「で‥でも…私、どうしたらいいか…」
思う通りにと言われても、千歌音はそんなことをした経験がない。
正直、どうしたらいいのか分からなかった。
姫子に救いを求めるような眼差しを向けると、千歌音が悩んで戸惑う様子をにこにこと楽しげに見つめている。
(ど、どうしよう…姫子さまは、自分の思う通りにしろって言ったけれど…)
「千歌音‥?」
「あ…はい‥」
とりあえず、千歌音はいつもされるように、姫子と同じことをし始めた。
おずおずと、姫子の肩に手を置いて唇を近づけていく。
「あのっ…」
「どうかした?」
だが声と同時に、千歌音の動きがピタリと止まる。
「姫子さま…目を‥」
見ると姫子が瞳を開いたままだった。
「続けて。」
「でも、閉じていただかないと…その‥」
「いいから続けて‥」
ねだるような甘い声で唇を差し出す姫子に、やはり千歌音は逆らえない。
ゆっくりと顔を近づけると唇が重なった。
姫子は瞳を開いたまま、間近にある千歌音の美しい顔を楽しむように見つめた。
千歌音の頬は赤らんで、ぎゅっと閉じた瞼が微かに震えている。
姫子はただ唇だけを重ね、幼い口づけを繰り返す千歌音を促すように、唇を少し開いた。
「っ…ふぁ‥」
怯えるように舌を差し入れてくる。
姫子も応えるように舌を差し出す。
何度か絡み合うと、千歌音の身体が微かに震えた。
「姫子…さま‥」
濡れた唇を離し、瞳には今にも溢れそうなくらい涙が滲んでいる。
千歌音の顔はすでにとろけていた。
「千歌音…さあ、続けて…」
姫子のおねだりに、千歌音は健気に応えようと今度は頬に口づける。
「あっ…」
頬から耳、首筋、肩などにぎこちなく口づけていくと姫子の唇から甘い吐息が聞こえた。
(姫子さま…感じてるのかな…)
千歌音が様子を窺うように、顔を見上げると姫子が優しく頭を撫でてくれた。
「もっと強くしても大丈夫よ…」
それは痕を残せと言うことだろうか?
千歌音は姫子の肌を少し強めに吸った。
唇を離すと、わずかに痕が残っている。
「千歌音に愛された証ね…」
姫子は痕を嬉しそうに眺めながら、微笑んだ。
千歌音は恥ずかしくて、姫子の胸元に顔をうずめた。
「姫子さま…その‥気持ちいい‥ですか?」
千歌音が小さな声で、姫子に尋ねてきた。
耳まで真っ赤になっている。
よほど恥ずかしいのだろう。
「ええ…だって千歌音が愛してくれてるのだもの…」
「本当…ですか?」
姫子の言葉に、ようやく顔を上げてくれた千歌音の顔はいつもより幼く見えて可愛いらしい。
最初は虐めるつもりなんてなかったのだが、こんな可愛い姿を見たらからかわずにはいられなかった。
「信じてくれないの?」
「だって…私は、こんなことしたことないし…姫子さまみたいに上手に出来ないし…」
「千歌音は私にされた時気持ちよくなかった?」
「えっと‥その‥気持ちよかったです。…とても‥」
千歌音は先ほどの行為を思い出したのか、姫子から視線を逸らした。
「大事なのは気持ちよ。好きな人と愛しあえたらそれだけで幸せと思わない?」
姫子は両手で千歌音の頬を包み込んで、逸らした視線をあわせる。
「私はね、千歌音がこうして一生懸命に愛してくれるだけで幸せなの。」
「姫子さま…」
「だから、そんなことを気にしなくていいのよ。」
「はい‥」
千歌音は素直に頷く。
「千歌音…私に触って…」
姫子は千歌音の首に腕を回して、耳元で囁いた。
「あ…千歌音…」
姫子の胸を口に含んで、空いた手で片方の胸に手を伸ばすと姫子の甘い声に千歌音は酔いしれた。
大好きな人が感じてくれている。
ただそれだけで、千歌音の身体も熱く感じ始めていた。
「んっ…ちゅっ…はあっ…」
姫子の温もりが心地よくて、いつまでも胸を愛撫していると姫子の手が千歌音の手を掴んだ。
「姫子さま‥?」
「千歌音‥そこだけじゃなくて‥ここも…ね?」
自ら導いた姫子のその場所は、熱くてもうすでに濡れていた。
触れると蜜が指先に絡みついてくる。
「あ…」
「ほら‥千歌音が触れてくれただけでこんなに…」
とろとろに濡れたその場所から、さらに蜜が溢れてきた。
(私が触っただけで…こんなに‥)
初めて触れた姫子の大事な場所は、とても温かくて千歌音の脳を溶けさせていった。
「千歌音‥私、初めてなの…だから、こうして少しだけ入れて…」
姫子は巫女なので、処女でなくてはならない。
千歌音に奥まで触れないように、入り口だけで止まるように教えた。
「きて…千歌音…」
熱いそこへ、ゆっくりと指を入れていく。
「あっ…ちか、ね…」
「姫子さまの…熱い…」
指先から感じる姫子の体温に、千歌音は惚けた顔を浮かべた。
「千歌音…あっ‥」
奥までいかないようにゆっくりと指を動かすと、姫子が身体を震えさせた。
初めて見る姫子の姿。
千歌音の指が、こんなに淫らな表情をさせるなんて。
(私が‥姫子さまを感じさせてる…‥っ!)
乱れる姫子の姿に、千歌音のそこが熱く濡れたのを感じた。
「千歌音‥どうしたの…?」
「あ、な、何でも…」
千歌音の異変に気づいた姫子が、千歌音の足下を見ると微かに膝をすりあわせていた。
「もしかして‥感じてしまった?」
「えっ…あ、違っ…あっ!」
「嘘、ほら‥こんなに濡れて…」
姫子が千歌音のそこを触れると、思った通り濡れていた。
「ご、ごめんなさい…」
「謝らなくていいわ、それが当たり前なのよ…」
姫子は千歌音の腰を掴み、千歌音が上になるように布団に倒れこんだ。
「あ、姫子さま‥何を…」
「…千歌音、一緒に気持ちよくなる方法があるの。脚を開いてみて…そう‥」
千歌音は姫子の言う通りに脚を開くと、さらに身体を密着させた。
姫子の開いた脚の間に身体を割り込ませる。
「あっ…」
すると、姫子の脚が千歌音に絡みつき二人の大事なその場所が触れ合った。
「やっ…熱いっ…」
クチュクチュと濡れた音がする。
「さ、動いて…」
「わ、私…こんなの…あんっ!」
「あっ…!」
腰を動かし互いに触れ、こすれ合う熱く熟れたそこは今までに感じた事のない快感を二人に与えた。
「だ‥め、私…変になって…っ!」
「大丈夫よ…このまま一緒に…っ‥」
二人は互いに強く手を握り、指を絡ませた。
腰の動きが早くなる。
「姫子さまぁ…っ!」
「あっ…千歌音っ…!」
姫子の上で千歌音が身体を痙攣させた。
「ああっ…!」
同時に千歌音の下で姫子も身体を震えさせる。
ゆっくりと倒れ込んでくる千歌音を、姫子は力のない腕で抱き止めた。
「姫子…さま…」
荒い息づかいと共に千歌音のかすれたような声が、姫子の耳元にいつまでも残っていた。
「ごめんなさい‥姫子さま…」
布団の中で抱きあって、先ほどの余韻に浸っていると再び千歌音が謝った。
「結局、最後は姫子さまにしてもらって…私なんにも…」
千歌音は落ち込んだように、悲しそうな表情を見せた。
「そんなことないわよ。初めて千歌音愛されて、私幸せだったわ。」
励ますようにそう言って、額に口づけをする。
「たまには、千歌音にしてもらうのもいいものね。」
「え、ええっ…」
「千歌音はきっと上手になるわ。」
「む、無理です、私じゃ…」
戸惑う千歌音に、姫子はクスリと微笑んだ。
「心配しないで、私がこれから教えてあげる。色々とね…」
先ほどしたばかりなのに、姫子は千歌音の上に覆いかぶさってくる。
「朝まで時間はまだあるわね。」
「えっ、あの‥待ってください!姫子さまっ‥」
「たくさん教えてあげるわ、千歌音‥」
「あっ…」
その夜、熱い手ほどきを受けた千歌音は、それ以降姫子にねだられ攻めさせられる日々が続いたとか…。