爆弾投下予告
注意
1.しつこくまた前世です。今回はほのぼの
2.百合萌え板にあった『乙羽さんが医者の娘で姫子とは親友』ってゆー面白いシチュがあったので許可もらって書いてみました
3.話が随分と無理やり
4.エロはなし
5.乙羽さんと姫子がだいぶおかしい
それではどんぞ
「姫さまーっ!」
「どうしたの?真琴」
昼下がりによほど焦ってるのか、ものすごい速さで駆けてきた真琴は姫子の元で立ち止まり、ハァハァと息を整える
「それが…千歌音のご様子があまり…」
表情を落とし小さな声で言う真琴に姫子の表情が強張る
「分かったわ、直ぐに屋敷に戻るわね」
ここ数日千歌音は体の調子が良くなかった
今日も朝から千歌音が咳込んでいるのを姫子も気づき、朝出掛ける前に休むように促したのだが
「咳だけですので」と千歌音は我慢して仕事をしていた
しかししばらくして仕事の捗らない千歌音の様子に見兼ねた真琴が部屋で休むように手を回してくれていた
「少し寝てれば大丈夫」と言っていたのだが…
昼食を持っていったとき、部屋でぐったりと容態が悪化している千歌音を見て真琴は
慌てて朝から大神神社へ行っていた姫子の元へと駆けたのだった
「それで?千歌音の様子は?」
屋敷に着き険しい表情で廊下を早歩きで歩きながら真琴に問う
「それが熱がどんどん上がってしまって、咳も止まりません…」
姫子の半歩後ろを同じ速さで歩く真琴は眉を潜めながら答えた
千歌音が体が弱く病弱なのは今に始まったことではない、真琴はいつもの事だと思って軽視していたのだが今回は勝手違うらしい
「薬は飲ませたの?」
「はい、ですが余り効果がなくて」
姫子は顔を曇らせながら「そう…」と答えた
この村に駐在する医者はいない、ある程度の怪我などの外傷を治療する程度の簡単な医学の知識ならばあるが、病気は別
更にただの風邪ではないのなら話は違う
「千歌音、入るわよ」
離れにつき襖を開け部屋へと入ると、部屋の中央に敷いた布団の上で苦しそうな表情を浮かべ寝ている千歌音がいた
心配そうな表情で布団に近づく姫子に気づいて体を起こそうとした
「すみません、姫さ…ごふっ!げふっ…!」
「そのままでいいわ、寝ていなさい」
姫子は大きく咳き込む千歌音の肩を抑え、優しく制した
そのまま布団に寝かせると千歌音は目を閉じて「はぁ、はぁ…」と苦しそうに呼吸を繰り返している
「ひどい熱ね…」
千歌音の額に手をあてると燃えるように熱い
「氷は?」
「あと少ししかもう…」
このままでは治りそうにもない…
「仕方ないわ、町の医者に連れてかなくてはダメね…
真琴、馬の用意を。私が連れてくわ」
千歌音の額に手をあてたまま振り返り背後に立っていた真琴に命じた
「しかし今日は確かお休みでは…」
真琴は怪訝そうな顔で返してきた
今日は町の病院は休日の日だった、姫子は悔しそうに眉間に皺を寄せた
「しょうがないわ。…多分あの家のものなら診てくれるわ
急いでもらえるかしら?」
「分かりました」
一礼してから真琴は離れを出て馬の準備へと急いだ
「…ごめんなさい…姫子」
襖が閉められ2人きりになった部屋でか細い声で千歌音が謝ってきた
蚊の鳴くような声、姫子は千歌音を見てにっこりと笑みを浮かべ首を振った
「苦しくはない?」
「胸が…少しだけ…」
優しい問いかけに千歌音は小さく答えた
ものすごく苦しいだろうに…
熱に魘され潤んでいる瞳で微かに笑う千歌音が堪らなく愛しい
姫子は千歌音に顔を近付け、額と額を合わせた
「今お医者さまのところへ連れていってあげるから、もう少しだけ頑張って」
「…うん」
目を閉じ頷いた弱っている千歌音を励ますように姫子はそっと唇を重ね合わせた
「じゃ、真琴。お父様には医者に行ったと伝えておいて」
馬に跨り、厚着をさせた千歌音を前に座らせ村の出口まで見送りにきた真琴に言った
「お二人だけで大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、そんな遠くないし」
心配そうな顔の真琴に笑顔で返した
「じゃあ行って来るわね」
「はい、お気をつけて」
そして姫子はゆっくりと馬を歩かせ村を出た
「千歌音、大丈夫?」
しばらく歩いた後、目を閉じ自分にもたれ掛り、時折咳をする千歌音に声をかけた
「…大丈夫、よ…」
少し間を空けた後、ゆっくりと答えた
その辛そうな声に姫子は千歌音の顔を覗き見た
顔色がさっきよりも悪くなっている…
時間が経てば経つほど衰弱していく千歌音を姫子は片手で抱き締めた
「少し、辛抱してね…」
そう耳元で呟き、千歌音が落ちぬように支え手綱を握り馬の腹をバシッ!と蹴り町へと急いだ
一刻ほど馬で駆け、町へと着いた
大勢の人で賑わう町の片隅に目的地である診療所はあった
人を避け、尚も苦しそうに咳をする千歌音の背を摩りながら馬を歩かせた
大きな西洋風な外観の診療所に着き馬を下りて入り口に行くと、そこには『定休日』と書かれた木の札がぶら下がっていた
ドアノブに手をかけても鍵が掛かっていて開かない
姫子はそのまま知っているかのように迷わず建物の裏側へと回り、もう一つ西洋風のドアに前に立ちドンドンと大きくノックした
しばらくすると奥のほうから人が近づいてきて「どちら様?」と家の者が出てきた
「失礼するわよ、乙羽さん」
「あら、姫子…?」
同じ学校に通う2つ上の如月乙羽だった
お互い名家の出身、何かと学校の注目を集める2人は友人同士だった
「大おば様はいらっしゃる?」
彼女の家は代々医者の家系でこの町で診療所を設けていた
その中でも彼女の祖母は名医で有名だった
「出てるけど…どうかしたの?」
姫子の突然の来訪に少し驚いた表情の乙羽、しかし他に頼る先がない姫子は諦めない
「急患なの、うちの下女なのだけど診てもらえないかしら?」
焦る気持ちを抑え腕に抱える千歌音を見せた
苦しそうに息をする千歌音、立っていられずぐったりとしている
すると乙羽の顔が真剣なものに変わり、屈み込んで千歌音を見た
「…症状は?」
千歌音の顔を見たまま姫子に聞く
「今朝から少し熱があったみたいなの、しばらく寝かしてたのだけど熱は上がる一方。
薬は効かない、胸が痛むみたいでしばらく前からずっと咳こんでたわ」
まだ学生とは言えど医者の卵、小さな頃から何人もの患者を尊敬する祖母のそばで手伝ってきた
千歌音の額に手をあて更に姫子に問う
「咳はいつから?」
「5日ほど前から」
「痰は?」
「ここに来るまで何度か出ていたわ」
真剣なその目は医者そのものだった
乙羽は立ち上がって姫子を見た
「分かりました、中に入ってください」
入り口を開け姫子を招きいれ、診察室へと向かった
診察室へと入り、千歌音を椅子に座らせ姫子は千歌音の背後に立ち背中を支えてやる
「前を見せてもらっても良いですか?」
千歌音の向かいに座り、聴診器をつけた乙羽が千歌音に声を掛ける
うっすら目を開いて頷き千歌音は言われてた通りにしようにも意識が朦朧として手がおぼつかない
そんな千歌音の変わりに姫子が後ろから着物を左右に開き乙羽の前に胸元を見せた
そのまま乙羽は表情を変えずに千歌音の胸元に聴診器をあて「息を吸って…吐いて」と何箇所か繰り返した
「はい、じゃあ次は背中を見せて下さい」
姫子は黙って乙羽の言うとおりにし、千歌音の着物を肌蹴させ、一つに結わっている千歌音の髪を邪魔にならぬように持ち背中を見せた
胸の時と同じように何箇所かに聴診器をあてる、その聴診器が冷たいのか千歌音が小さく「ぅ…」と呻く度に姫子は千歌音の頭を撫でた
「ありがとう、もう着物を着て大丈夫ですよ」
乙羽の許可が出ると、姫子は千歌音に着物を着させた
次に乙羽は千歌音に「お口開けられます?」と聞いて口を開かせ喉の奥を診たりと診察は続いた
「どう?治るの?」
一通りの診察を終え、乙羽の作った薬を飲ませてから隣の部屋にあるベッドに千歌音を寝かせたあと診察室にいる乙羽に聞いた
「肺炎に掛りかけてるわね。薬を飲んで安静にしていれば1週間程度で治るけど…今日はとりあえずこのまま入院ね」
姫子に背を向けたまま桶の水で手を洗いながら答えた
日は随分と傾き、時刻は既に夕刻を回っていた
乙羽の返しに姫子は開いたままのドアの向こうでベッドで千歌音がで寝ている姿を腕を組みじっと見ている
「じゃあ私も残るわ、千歌音の隣のベッド空いているのでしょう?」
「別に構いけど…移るかもしれないわよ?」
乙羽は少し脅すように姫子に聞いた
「それで千歌音が治るのならば別に構わないわ」
迷うことなく姫子は答えると、その返事に乙羽はクスッと小さく笑った
「何?」
聞こえた姫子は小馬鹿にされた気がして不快そうに乙羽を見た
「ごめんなさい、誰にでも優しい貴女がそこまで真剣になるなんて見たことがなかったから
それにここに来た時の貴女の表情もそう、あんなに血相を変えて…よほど大切なのね、あの千歌音という子が」
布で手を拭きながら姫子に言った。暗に千歌音は単なる下女ではない事を秘めている
見透かしているような乙羽の目から姫子は視線を千歌音に戻した
「…ええ、そうね」
胸の痣のある位置をそっと撫でた
そう、自分よりも大切な…かけがえのない、唯一の存在…
すると乙羽が近寄り姫子の隣に立った
「あの千歌音という子、姫宮の子でしょ?」
「何故知ってるの?千歌音はこの町に初めて来たのよ?」
一緒に千歌音を見る乙羽の思わぬ発言に驚いた
体の弱い千歌音は姫子の住む村を出たことがない、あまり表に出たことがないので村の者も千歌音を知らぬ者も多い
離れたところにある学校にも行けず、勉学は姫子が教えてやっている
一体どこで乙羽と面識があったのだろうか?
「あの子の亡くなったご両親もここの患者だったの。時々様子を見にあの子の居た村まで大おば様と行ったことが あるわ。
随分と美人になったけど面影が残ってるわ。大おば様が診ている間2人で良く遊んでたのよ」
当時を懐かしむように乙羽は笑みを浮かべた
しかし表情を落としてしまう
「でも…やはりあの子もご両親の血を継いでしまったのね」
「……」
重い空気が流れ2人はしばらく黙り込んだ
その沈黙を破るように姫子は一度ふぅと息をついた
「とりあえず礼が遅れてしまったわね、ありがとう。急に来たのにすまなかったわね」
「いえ、私で何とかなる程度で良かったわ」
「それでも感謝してるわ、私の手には負えなかったもの」
謙虚に答える乙羽に感謝の気持ちを述べると、乙羽は照れ臭そうに笑った
「さて、あの子も落ちついた事だし。とりあえず貴女も疲れたでしょう、そろそろ食事にしない?」
「そうね、お言葉に甘えさせて頂くわ」
乙羽の提案にずっと気の張っていた姫子も安堵の溜息をつき頷いた
そのまま姫子は音をたてないようにそっとドアを閉め、2人は診療室を出た
「この家にも久し振りに来たわね」
「巫女の仕事が忙しいし、貴女は健康体だからね」
自分の家とは違う西欧風の飾りのある廊下を歩きながらきょろきょろとする医者要らずの姫子に乙羽は笑いながら答えた
「でも昔、私がここに運ばれたとき治るからと言って人の嫌いな椎茸を山盛りに盛ったことは一生忘れないけど」
「…まだ根に持ってたの」
そっぽ向きながらさらりと言う姫子をジト目で見た
「姫子…夜な夜な姫宮さんを襲うような真似はしないでね」
「あら?これでも時と場所は弁えてるつもりよ」
そして2人は家の奥へと進んでいった
翌朝
目が覚め千歌音が目を開くと誰かが頭を撫でてくれた
「お早う、千歌音」
「姫子…?」
太陽を背に笑顔で姫子が立っていた
「もう苦しくはない?」
優しく微笑みかけ顔を近づける姫子に千歌音は頬を染めこくりと頷いた
「良かった、薬が効いたのね」
嬉しそうに言い更に顔を近づけ、姫子が唇が合わせようと2人が目を閉じたとき
コンコンとノックする音が響き千歌音は驚いて慌てて布団で口元を隠し姫子は体を起こしドアを見た
「起きましたか?2人とも…って目が恐いんですけど、来栖川さん」
「気のせいよ」
部屋に入ってきた乙羽から邪魔をされた姫子は不機嫌そうに目を逸らした
そっぽ向いてる姫子に苦笑し、そのまま乙羽は姫子とは向かい側の椅子に座り千歌音に話掛ける
「お早うございます、お久し振りですね姫宮さん」
「はい、お久し振りです乙羽さん」
懐かしい乙羽との対面に千歌音も起き上がり嬉しそうに返した
「どこか痛むところはありますか?」
「いいえ、どこも」
「分かりました。じゃあ、一度お熱を計らせてもらいますね」
水銀の入った体温計を千歌音の脇の下に刺し込み、しばらくしてから取り出した
「熱も引いたようですね、1週間ほど薬を飲んで大人しくしていれば治りますよ」
「ありがとうございます、乙羽さん」
安心した千歌音が頭を下げると、2人をずっと見ていた姫子が乙羽に話しかける
「じゃあ村へ連れて帰っても大丈夫ね?」
「はい、ただし条件があります」
「条件?」
乙羽は顔を上げ、眉を顰める姫子を見た
「私も貴女の村に住ませて頂きます」
「え?」
乙羽の言葉に姫子は我が耳を疑った。千歌音も驚いて目を丸くしている
しかし乙羽は表情を変えずに続ける
「貴女の村には医者がいないでしょう?昨日は何とかなりましたが、場合によっては一刻を争う病もあります。
特に姫宮さんのような方のそばには居てやらないと。何かあってからでは遅いんです。
私にとっても勉強になりますし、貴女も毎度馬を走らせるほど暇ではないでしょう」
強引気味だがごもっともではある。自分の身ならまだしも大切な千歌音が病に伏せたときすぐに対処できる人がいるのは心強い
まだ卵とは言え乙羽の腕は確かだ…少し悔しい。いや大いに悔しい
「千歌音はどう思う?」
「私も出来れば…その方が姫様にもご迷惑にはならないと思いますので…」
姫子に余り迷惑を掛けたくない千歌音は少し遠慮がちに答えた
千歌音もそう思うならば…姫子は乙羽を見た
「そうね、まだ屋敷には空き部屋があったからそこでも良ければ」
「じゃあ決まりですね。実はそう言ってくれると思ってたので荷支度はもう出来てます」
にこにこと口元にてをあて笑う乙羽は振り返り千歌音の手を取り話し掛ける
「姫宮さん、また一緒に遊べますねw」
「え…?」
満面の笑みで言う乙羽にキョトンとする千歌音
やはりそれが一番の目的か…
姫子は立ち上がりズイッと千歌音に一歩近づいた
「一つだけ言っておくわ、乙羽さん」
「何かしら?」
顔を上げ姫子を見ると、姫子は乙羽から離すように千歌音をぎゅっと抱き寄せた
突然抱き締められた千歌音はどうしていいのか分からず顔を真っ赤にしている
「千歌音は渡さないわよ?」
見せ付けるように千歌音を抱き締め挑戦的な口調で姫子が言い退けた
「ふふ、ご自由にw来栖川のお嬢様」
姫子の態度に動じることなく乙羽は笑みを浮かべゆっくりと答えた
いつも賑やかな来栖川の屋敷が今日からますます賑やかになること間違いなかった
END