「姫子…さま…?」
一体どういう事なのだろう。
千歌音はただ、この時間に室へ来い、と姫子に告げられただけだ。
そして、室の襖を開いただけなのに。
そこには、服の乱れた二人の女性。
方や千歌音の愛する、千歌音を愛する、この邸のお嬢様である姫子。
方や邸の下女でありいつも明るい千歌音の友人である、真琴。
明るい真琴の瞳からは光は消え失せ、どこを向いているかわからなかった。
その茶色の艶やかな髪を梳きながら、姫子は薄い笑みを浮かべた。
「遅かったわね、千歌音」
姫子の声がやけに頭に響く。
痛い、と千歌音は思った。その鈍い痛さで千歌音の思考はさらに混乱する。
「な、にして…」
「見てわからない?」
わからないわけがない…わかりたくないのだ。
自分が一番愛する人と自分が一番信頼する人が――
「愛し合っているのよ」
頭痛が酷くなる。なんで、どうして。そんな疑問系の文ばかりが脳に浮かぶ。
どうしてなのだろう、どうして姫子はこんな事をしているのだろう、どうしてこんな事を言うのだろう。
どこか自分に至らない点があったのだろうか、もしくはなにか機嫌を損ねるような事をしてしまったのだろうか。
兎に角千歌音は、目の前の光景が信じられなかった。
「千歌音、私は…」
はっ、と千歌音が我に返ると、姫子は真琴を横にさせ立ち上がっていた。
「私は、……女性が大好きなの」
姫子は思わず「千歌音が」と言いそうになったのをぐっと堪える。
呆然と立ち尽くしている千歌音の目は大きく見開かれていた。
「女性の柔らかな体が好き」
(千歌音の柔らかな体が好き)
「女性のしおらしい笑顔が好き」
(千歌音のしおらしい笑顔が好き)
姫子は「千歌音」を「女性」と変えながら語り続ける。――溢れ出そうな涙を堪えながら。
「女性の豊かな胸が好き。女性の艶やかな髪が好き。女性の薄い唇が好き。女性の汚れのない涙が好き。全てが愛おしいの」
千歌音はまだ立ち尽くしたまま何も言わない…いや、何も言えないのだろうか。
「千歌音、もしかして私が貴女だけを特別に愛していたとでも思っていたの?」
「…!」
ゆっくりと進めていた足が、千歌音の目の前に着く。
姫子は微笑みながら、千歌音の腰をそっと撫でた。
「ん…っ!」
「そうね……千歌音は他の者と比べて特別敏感ね」
くすくすと笑いながら千歌音の腰を撫でた手を、更に下へ滑らせる。
その瞬間、強い衝撃と共に姫子の体が仰け反った。千歌音が姫子を思いっ切り押したからである。
しかし、非力な千歌音の力では体を引き剥がす事など到底できない。
細い体、か弱い力。こんな子にあんな重い運命を背負わせるだなんて、少なくとも姫子にはできなかった。だから、少しでもその荷が軽くしてあげたい。
その為の手段など、選んではいられないのだ。
「貴女が…そんな、」
「驚いた?でもこれが現実なのよ」
千歌音の瞳に浮かぶ涙。拭ってあげたいけれど、多分、もうできない。
千歌音の肩の荷を軽くしてあげる方法。
それは――……
姫子は泣いている千歌音の頬を手で固定させ、半ば強引に口付けた。
容赦なく舌を入れる。
「ん…、っ…んんー…ッ!」
千歌音の姫子の衣を掴む手が、僅かに震えているのがわかる。
(そういえば千歌音は、いきなり舌を入れると怯えてしまうのよね。
だから、いつもはゆっくりと入れるのだけれど)
「ん、んく……っ、ふぁ…」
そっと唇を離すと、千歌音の既にとろけているようだった。
ぐっと千歌音の衣を引き、床に押し倒す。
千歌音が僅かに呻いたようだが、構わず衣を剥ぐ。
「やだっ、やだやだ…!やだぁぁ…ッッ!」
ポカポカと姫子の背を叩く千歌音の手。
その力は痛くもなんともないのだが、その時の姫子にはとても痛く感じられた。
(千歌音…ごめんね)
できることなら、今すぐこんな酷いことを止めて、千歌音を抱きしめて、大好きだと囁きたい。
泣いている千歌音の頭を優しく撫でてやりたい。
しかし…もう、それは叶わない願いだということを姫子だけが知っていた。