爆弾投下予告
注意
1.しつこくまた前世です
2.日常のお話。ほのぼの系
3.エロなし
4.ほんのちょっとだけイズミさん登場
5.注意書きが少ないことが要注意
それではいってみよー
学校を終え、姫子は真琴と2人で並んで帰っていた
笑い声をあげ楽しそうに談笑しながら、日の暮れた道を歩き屋敷の入り口が見えてきた
「あ…」
「どうされました、姫様?」
屋敷の入り口でピタリと歩くのを止め、振り返りじっと一点を見つめている姫子に真琴は問いかけた
すると姫子はにっこりと真琴を見た
「真琴、すぐに屋敷に入るから先に戻っててもらえる?」
「え?あっ分かりました」
少し不思議そうな表情のまま頷き、言われたとおり屋敷へと入っていった
真琴の姿が見えなくなったのを確認した後、姫子は踵を返し入り口の近くに生えている大きな木に近寄りしゃがみ込んだ
「おいで」
「……」
手を差し伸べ言うその視線の先には草むらに隠れるように小さくなっている黒い仔猫がいた
姫子は一目見た瞬間どうしてもこの猫が気になって仕方がなかったのだ
しかしその仔猫は姫子が優しく声掛けるも警戒心が強いのか、姫子から視線を離さずにピクリとも動かない
近くに生えてた猫じゃらしを振って気を惹こうもビクともしない
恐いのか時折「みゃあー」と鳴いている。座ったまま一歩近づくと、仔猫も素早く一歩下がってしまう
「お前、親と逸れてしまったの?」
言葉など通じないのに怯えているようなその仔猫に笑顔で言い続ける
一人立ちするには少し早すぎる猫のサイズ。姫子はどうしても放っておけなかった
優しく声を掛けても、おもちゃで誘惑しても真っ直ぐ自分を見据える不安そうな仔猫の目
その仔猫の目には見覚えがある
初めて出会ったときのあの子もこんな風に怯えていたっけ…
姫子は懐かしそうに目を細めた
「大丈夫、怖がらなくてもいいのよ」
愛情をこめ呼びかける。すると、ずっと縮こまっていた仔猫が立ち上がりゆっくりと恐る恐る姫子に近づいてきた
そして差し伸べられた姫子の手の平に甘えるように頭をすりすりと擦り付ける
姫子は自分を信用してくれたその仔猫を抱き上げその小さな顔をじっと見つめた
「少し小さいけど美人だね、お前も」
「にゃあーん」
可愛い声で鳴く仔猫。姫子は仔猫に似ている遠い昔ここに来たばかりのときの彼女を被らせていた
「ただいまー」
仔猫を抱いたまま屋敷へと入り、草鞋を脱いで玄関に上がった
「あ…姫さ…」
「ん?」
自室に戻ろうと足を向けた時ふと誰かに呼ばれた気がして振り向いた
「お帰りなさいませ姫様ぁ~っw!」
「あら、イズミ達」
姫子の帰宅に下女のイズミ、ミサキ、キョウコの3人が大きな声をあげパタパタと姫子に向かって駆けて来た
途中「きゃっ…!」と小さな悲鳴が聞こえたがイズミはそのまま姫子の前に立った
「お帰りが遅いのでどうしたのかと皆で心配しておりましたわっ」
「ごめんなさいね」
いつもと変わらず大袈裟過ぎとも思えるイズミらの出迎えに姫子は苦笑しながら応えた
「あら?どうされたのです、その仔猫」
「ん?ああこの子?表にいたのよ。親猫と逸れてしまって迷い猫のようなの」
姫子の抱く仔猫の存在に気づいたイズミに姫子は腕に抱く仔猫の背を撫でながら答えた
「ま~可愛いですわねぇ」
イズミが仔猫に顔を近付けると姫子の腕の中に隠れるようにしていた仔猫が突然「ウゥ~~ッ!」と低い声で唸り声をあげた
爪を立て恐いのか怒っているのか毛が逆立っている
「ほらほら、イズミ達が大きな声出すから恐がってしまったじゃない」
「えぇ!?そ、そんなぁ~っ」
姫子の言葉にぱっと猫から離れ困ったようにイズミは慌てた
仔猫を落ち着かせようと背を優しく撫で、おろおろと困っているイズミ達に姫子は微笑み
「そうだ、腹を空かしてるみたいだから魚でも用意してもらえる?」と頼んだ
するとイズミは表情をぱあっと明るくさせ「はい!分かりましたわ!」と台所の方へと嬉しそうに消えていった
走って廊下を曲がっていくイズミ達がいなくなったのを確認し、静かになった廊下で姫子は振り返った
「千歌音、大丈夫?」
「はい…」
先ほどイズミとぶつかったあとずっと物陰に隠れていた千歌音が腕をおさえながら出てきた
「私を迎えに来てくれたの?」
気が小さく控えめな性格の千歌音に近寄り微笑むと、千歌音は顔をあげほんのりと頬を染める
「え?…あ、姫様が中々屋敷に戻られないから様子見てきてって真琴さんに頼まれて」
「そう、ごめんね。わざわざありがとう」
思い出したかのように答えた千歌音に礼を述べると千歌音もほっと笑顔を浮かべた
姫子の抱える仔猫に目をやり、「その仔猫どうされるんですか?」と訊ねた
「ん?あぁここで飼ってあげたいのだけど、お父様猫は好きじゃないのよね…」
少し残念そうな表情で仔猫を見ると、姫子を見つめていた仔猫が不安を読み取ったのか「みゃあー」と小さく鳴いた
安心させるように姫子は笑って仔猫の額をこりこりと指で撫でてやった
「明日村を回って飼ってくれそうな者を探すわ、この村のものは皆優しいし」
気持ち良さそうに目を閉じる仔猫を姫子は母親のような優しい目で見つめる
微笑ましいその姿に千歌音は心が温まっていく
「お優しいのですね、姫様は」
見るもの全てを惹きつけるその美しい横顔をうっとりと見つめながら言う
かつて自分がここに連れられて来た時からもずっと変わらぬ姫子の優しさに胸の奥がきゅんと熱くなる
「弱いものは放っておけない性質なだけよ?」
千歌音の問いに顔をあげ笑みを浮かべながらさらっとそう答える
そう当たり前のように言えるところもまた姫子の魅力なのだと千歌音は思う
見詰め合う2人は互いに微笑んだ
すると姫子の腕に抱かれた仔猫が起き上がって「にゃあーん」と千歌音に向かって鳴いた
「お前、千歌音は恐くないのね」
「え?」
イズミの時とは違い興味津々で身を乗り出す仔猫を見つめ嬉しそうに言う
そして何か思いついたのか「じゃあ、千歌音に仕事をあげる」と千歌音を見た
「は、はいっ」と姿勢を正す千歌音にひょいと仔猫を渡した
「え?あ、あのー…」
仔猫を渡され目を丸くする千歌音ににっこりと微笑み
「あとで私の部屋でご飯食べさせるから、千歌音がこの子に餌を与えてやって」
「えっ…?わ、私がですか?」
驚く千歌音。姫子の部屋へは普段用が無い限り真琴以外は入ってはならない
その誰もが憧れ行きたがる姫子の部屋へと招かれ、胸の鼓動が早まる
頬を染める千歌音に姫子はゆっくりと頷いた
「だから、後で私の部屋にその子を連れて来てね?」
「…はいっ!」
姫子の誘いに千歌音は嬉しそうに頷いた
嬉しそうな千歌音に姫子も微笑み仔猫の頭を撫で「じゃ、ご飯もらってくるから」と言って台所へと歩いていった
その後姿を見送ったあと、じっと自分を見つめる仔猫に目を落とした
「良かったね、お前も姫子に拾われて」
「にゃあーん」
優しくそう呟いて自分と似た境遇の仔猫の頭を撫でてやった
そしてその後、仔猫に餌を与えながら仲良く遊ぶ2人の姿があったそうな
END