爆弾投下予告
注意
1.しつこくまた前世です
2.2人が出会った時のお話
3.エロなし
4.ほんのちょっとだけマコちゃんとイズミさん登場
5.注意書きが少ないことが要注意
それではいってみよー
「貴女が姫宮千歌音さん?」
それが身よりも無い私に向けられた第一声だった
「貴女は…誰?」
「姫子。来栖川姫子よ、よろしくね」
恐る恐る聞く臆病な私を安心させるように答え、差し伸べられ繋いだ手がとても柔らかかったのを良く憶えてる
「村の人から話は聞いたわ、私の村に行きましょう」
赤の髪紐が良く映える紅茶色の髪が印象的で気品のあるその姿は本当に眩しくって、まるで暗い部屋の片隅で塞ぎ込んでいた私を照らしてくれる太陽のようだった
「貴女歳は?」
「12…」
「じゃあ私と同い年ね」
「……」
そんな会話をしながら綺麗な格好の姫子にすす汚れている私が手をひかれる姿に村のものが唖然とする中、連れて行かれた先には綺麗な栗毛の馬がいた
「馬には乗ったことある?」
主人を待っていた優しそうな目の馬の首を撫でながら問われ、大きな馬を目の前にし「ううん、ない…」と私は不安げに答えた
「じゃあ私の前に乗って。ちゃんと掴まっていれば大丈夫よ」
姫子はにっこりと笑いながら馬に跨って手を差し伸べてくれた
そして少し戸惑いながらも姫子の馬に横向きに座り、私は生まれて初めて村を出た
優雅に駆ける馬の背にしばらく揺られ、私は姫子にしがみ付きながらようやく私は口を開いた
「あのー来栖川さん…」
「姫子」
「え?」
「『来栖川さん』じゃ長いから下の名前だけでいいわ、千歌音」
私を見つめながら親しげに名前で呼んでくれた時、思わず胸の奥が熱くなった
ドキドキして姫子の顔が見れなくって俯いてしまった私にクスリと一度だけ姫子は微笑んだ
「あともう少しで私の村に着くわ」
頷いた私は何も喋れないまま、結局村に着くまで姫子にしがみ付くことしか出来なかった
この時、自分の体が熱かったのは姫子にしがみ付いていたせいだけではなかった
それからしばらくして私のいた村よりも大きく活気のある姫子の村へと着いた
のどかな村の中を馬で駆け村の子供達が「わぁーい!」とこちらに向かって手を振る手に姫子は答えながら屋敷が見えてきた
「え…これが姫子のおうちなの?」
「ん?そうよ」
初めて見た姫子の屋敷の敷地は自分のいた小さな村の半分くらいあるんじゃないかと思えるほど広過ぎて、只ならぬ事態に私は固唾を呑んだ
そして馬を降り、場違いなような気がして逃げたしたい思いを何とか堪えながらそのまま馬倉へと姫子と一緒に歩いた
「あぁー!いたぁー!姫様ー!」
「ん?」
「?」
突然聞こえた大きな声にその声のする方向に目をやると、茶色い短髪の髪の元気の良さそうな女の子がこっちに向かって全速力で駆けてきた
「もう!勝手に馬に乗っていっては駄目ではないですかっ!」
その子は姫子の前で立ち止まりしかめっ面で言ってきた
「ごめんね、真琴。この子が走りたそうな目をしてたから」
真琴と呼ばれた怒ってる少女に対して姫子は苦笑し、自分の馬の鼻筋を愛しそうに優しく撫でた
「も~姫様に何かあったら怒られるのは私なんですからねっ」
真琴は慣れているのだろうか、手を腰に当て頭を掻きやれやれと言った顔で答えた
そして姫子の後ろに隠れるように立っていた私に気づき、覗き込んできた
「誰ですか?その子は?」
「隣村の子よ。今日からこの屋敷に世話になるから色々と教えてあげてね」
「へ~~、そうなんだ」
好奇心にあふれた視線で見られ、人前に出ることに慣れてない私が姫子に縋るように隠れると察した姫子が真琴の前にすっと立つ
「真琴、そんなにジロジロ見ては駄目よ」
「え?あぁっはい!」
注意され慌てて姫子と向き合う真琴に、姫子は手綱を渡した
「じゃあこの子をお願いするわね。行きましょ、千歌音」
そして再び姫子は私の手を取り、屋敷の中庭へと進んでいった
「イズミー!いるのかしらー?」
屋敷の縁側に着き、広い屋敷の中に向かって大きな声で下女を呼んだ
すると奥のほうから足音がパタパタと近づき「お帰りなさいませぇっ姫様~!」緑色のクセのある髪の少女が満面の笑顔で現れた
「私の着物出してくれる?この子に着させたいのだけど」
姫子が首を傾げながらお願いすると、イズミの表情が急に険しくなり姫子の後ろにいるみすぼらしい私の格好を不審そうな目で見た
「…?どちら様ですの?」
「隣村の子よ」
あっさり答える姫子にイズミは大きく息を飲み、信じられないとでも言うような顔になった
「い、いけません!姫様のお召し物をどこの馬の骨とも分からぬ者に着せるだなんて…っ!」
「いいじゃない、一着ぐらい」
「だ、駄目ですっ!」
息もつかずに捲くし立てるイズミ
私はそわそわして姫子に「姫子…別に私はこの格好のままでいーよ…」そっと囁いた
「ぬぁっ!あ、貴女…っ!姫様を呼び捨てで呼ぶだなんて何て無礼ですの!!?」
「……っ!」
聞こえてしまったのかもの凄い剣幕で叱られ、私は思わず恐くて姫子の背に隠れた
「このお方がどなたか…!」
「お止めなさい、イズミ」
言葉を続け小さくなっている私に近づいてくるイズミに姫子がすっと腕を伸ばし割って入り制止した
「で、でも…っ!」
「私の言うことが聞けないの?」
「い、いえ…そういう訳では……」
姫子の宥めるような口調に納得のいかないイズミの声も小さく萎んでいく
「誰でも始めは何も知らないものよ、まだ右も左も分からぬこの子にきつく当たらないでもらえる?」
「…はい」
そう言って反省するように頭を垂れた
「いいわ、後で自分で着物を選ぶから。おいで、千歌音。貴女のお部屋に連れてってあげる」
「…は、はい」
そして中庭を抜け、屋敷の奥にある離れへと連れて行かれた
離れへと着き、整頓された部屋へと入り用意してくれた座布団に向かい合うように座った
「すまないわね、引っ張りまわしてしまって。疲れたでしょ?」
「うーうん、大丈夫…」
「説明してなかったわね。今日からここが貴女の新しい家よ。貴女は体が弱いと聞いてるからこの離れが貴女のお部屋ね」
俯き少し疲れた私に姫子はにっこりと笑顔で薄々気づいていた事を言った
「と、言ってもまだお父様の許可もらってないのだけど…まあ何とかなるわ。私が説得してあげる。
だからお父様に会う前に私の着物を貸してあげるわ。イズミが五月蝿いから私のお古になるかもだけど」
あさっての方向を見ながら頬をかき、うんうんと頷きながら自問自答する
「前のおうちに置いてきた物はまた明日にでも取りに行くわ。あ、学校はどうしようかしら…
まだ教科書が残ってたと思うけど…って、千歌音?どうしたの?」
ずっと俯き口を閉じている私の顔を覗きこんできた。そして私はずっと気になっていたことを口にした
「姫子は…偉い人なの?」
「え?ん~偉いというか、一応ここの村の村長の娘だけど…それがどうかした?」
私の問いに姫子は少し困ったように返した
「どうして…」
「?」
目に熱いものがこみ上げる。不思議そうに私を見る姫子の顔がぼやけていく
「どうして今日会ったばかりの見ず知らずの私にここまで優しくしてくれるの?」
腿の上に置いていた手を握り締め、目に涙を溜めながら声を震わせた
「私は体が弱くって力も無いし何も役に立たない、だから村の人たちだって私のこと厄介者だって思ってた。
それに学校にだってまともに行った事が無い、世間のこともよく分からない、姫子のことだって何も知らなかったのよ?」
そこまで言い終わると同時に私は唇を噛み締め、泣いてる顔を見られないよう下を向いた
親が居なくなった悲しさと、人から優しくされてる嬉しさと、無知で無力な自分に対して悔しさと苛立つ気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまい、
どう受け止めて良いのか分からずに混乱してしまっていた
すると泣いてる私に姫子は近寄り頭を撫でながら「今日ね…」とゆっくり口を開いた
「朝からとてもワクワクしてたの。きっと今日は楽しい事が起きるって。何の根拠も無いのに可笑しいでしょ?
でもね、いつもは真琴が起こしてくれるまで起きれないのに今日は屋敷にいる誰よりも早く起きたの」
口元に手をあてて楽しそうにクスクスと笑い、顔をあげぐるっと離れを見渡した
「ここの離れも全然使っていなくて汚れていたのだけど、今朝何となく掃除をしたの。
隅から隅まで一人で磨いて綺麗にしたわ。でもそれでも気持ちが収まらなくってね?
居ても立ってもいられなくて馬に乗ったわ、目的地も決めずにあても無く気の向くままに走ったの…」
そう目を細めながら言って、姫子はゆっくりと私の顔を見て笑い、優しく見詰め濡れた頬を指で拭ってくれた
「そしたらね、千歌音と出会ったの」
嬉しそうに笑う自分に向けられた姫子の笑顔
私はまた胸の奥がまた熱くなり自分の胸元を掴んだ
「素敵だと思わない?」
笑顔のまま言う姫子に私は顔が赤くなるだけで何も言い返す言葉が思い浮かばなかった
「理由にならないかも知れないけど、私は今日千歌音と会ったとき分かったわ。
今日私はずっと千歌音を探してたんだって。きっとこれは偶然なんかじゃないわ」
そう言いながらそっと壊れ物を扱うかのように優しく抱き締められた
姫子の柔らかな肌と温もりが着物越しでも良く伝わり、とても心地良くて、私の心の内にあった壁が取り壊されていく
「だから駄目かしら?千歌音はここに居たくない?」
「……っ」
耳元でそう問われ私はしばらく黙った後、姫子と離れたくなくて目をぎゅっと瞑り姫子を抱き返して首を左右に振った
私の返事に「良かった…」と姫子は安心したように私の背を撫で大きく深呼吸した
優しく撫でられやっと自分が居ても良い場所ができたのだと実感した私の目にまた熱いものがこみ上げてきた
すると「綺麗ね、千歌音は…」と姫子が小さな声でボソッと言ったような気がした
「え…?」
聞き取れなかった私が反応すると姫子は笑って「いいえ、何でもない」と首を振り体を離した
「家のことで色々と大変だったと思うけど、もう大丈夫よ。何も心配いらないわ」
髪を撫でながら、もう一度私に向かってにっこりと微笑んだ
「これからは私が千歌音を守ってあげる」
「…姫子っ!」
その言葉がとても嬉しくて…
私は堪えていたものがあふれ姫子に抱きついて、堰を切ったように大声をあげて泣いた
そして姫子は泣き止むまでずっと暖かく私を包み込んでいてくれた
「え?ここで働きたいの?」
それからしばらく経って、離れでの生活に慣れ始めた私の言った発言に姫子は目を丸くし驚いた
「色々と覚えなきゃいけない事もあるし、体も使うから大変よ?」
私の体を気遣い姫子は心配そうな顔で聞いてきたけれど、あの日泣き止んだ時からずっと決めていた私に迷いはなかった
「うん、分かってる。でも私も姫子の事を――……」
「千歌音?」
背後から聞こえた自分の名前を呼ぶ声に過去を思い返していた私の意識は現在に戻され、振り帰ると紅い陽の巫女の巫女服を身に纏った姫子が襖を開け立っていた
「どうしたの?そろそろ祝詞の練習が始まるわよ?」
「うん、分かった」
姫子に呼ばれ畳に座っていた私は立ち上がり、姫子の傍まで行くと「さ、行くわよ」と大神神社の縁側を歩いていく
ずっと追いかけきたその背中。自分の着ている紫の月の巫女の巫女服を見て、自分が姫子と同じ使命を担う対の存在である月の巫女で良かったと思える
「姫子」
「ん?」
私の呼び掛け振り返った姫子
その姿は初めて出会った時から変わらず誰よりも輝き眩しくて、歳を重ねより美しく綺麗になった
「私も姫子の事を守ってみせるわ」
守られてばかりじゃなくて、私も姫子を守りたい
泣き止んだ時に誓った何年経っても変わらぬその思い。私は笑顔で姫子に向かって手を差し伸べた
姫子もにっこりと微笑み、私の手にそっと手を重ねた
「そう、ありがとう。期待してるわね」
そして初めて出会ったときよりも少し大きくなった私達は固く手と手を繋ぎあい、境内の中を歩いていった
END