「はぁ…」
気だるそうなため息。
仕事の休憩中、いつもの元気はどこへやら。
真琴は屋敷の詰め所のちゃぶ台に突っ伏していた。
何故元気な彼女が元気が無いのかというと、事の発端は先日乙羽が千歌音の治療のために乙羽の祖母の居る町へと去っていった日。
あれから真琴は姫子に自室に来てほしいと呼び出されていた。
そして…。
『今までごめんね、私もう千歌音以外抱かないって決めたから』
これまでの関係に終止符を打とうとの話だった。
正直驚きはしなかった。
やっぱり姫子を笑顔にする事が出来るのは自分ではないのだとハッキリと分かってしまったから。
それに…初めからこうなる運命だったんだと、心のどこかで覚悟はしていた。
でも…。
『いえ、いいんです!私の方こそすみませんでした』
とその場では笑顔で言ってみたものの…。
「分かってはいたけどさー…」
いざ直接言われると結構ショックなものである。
初めから叶わぬ恋だったおかげで失恋の傷はあまり深くはないが、それでもやっぱり切なくてちゃぶ台の木目を指でぐるぐるとなぞりながらいじけていた。
「姫様も酷いよ、『真琴なら私より良い人見つけられると思うわ~』だなんて… ブツブツ」
思い出すと泣けてくる。
「千歌音が帰って来てからまた朝起きるの遅くなってるし…。いや、まあそれはいいんだけどさ…ブツブツ」
ますますちゃぶ台に突っ伏し、腕で涙を隠そうとした。
「ちょっと!聞こえてますの早乙女さん!!」
「うわあああっーー!!イ、イズミ!?」
突然背後から大きな声で呼ばれ、振り返るといつからそこにいたのか、しかめっ面のイズミが立っていた。
「な、何…??」
心臓が飛び出すんじゃないかと思うほど弾む胸元を押さえながら尋ねると、イズミは呆れたようにため息をついた。
「とっくに休憩時間終わってるのに戻ってこないから呼びに来たんですのよ」
「え!嘘…!?」
イズミの言葉に休憩時間を計るために置いてある砂時計を見るととっくに砂は落ち切っていた。
「あ…」
「も~貴女がそんなんでは他の下女達にしめしがつきませんのよ?」
「ご、ごめん…」
滅多にしない失態に額に手をあてながら謝った。
その真琴の様子に少し間を空けた後イズミが口を開く。
「一体どうしてしまったんですの?貴女らしくもない。ここの所余り元気もないようですけど」
そう尋ねたイズミの口調はさっきよりも柔らかかった。
しかし理由を話せない真琴は「……ちょっと、ね」と言葉を濁した。
「…まあ、理由が仰えないのならば無理には伺いませんわ」
もし聞けたらなと思ったが本人が言わないのであれば仕方ないと判断したのかイズミはそれ以上聞かなかった。
その返しに真琴は安心しほっとため息をつき立ち上がった。
「ごめん、今仕事に戻るから」
そう言ってイズミの横を通り過ぎたとき「ちょ!まだ話は終わってませんわよ」と呼び止められた。
振り返ると何故かほんのり頬を桜色に染めたイズミが口元を押さえながら言葉を続けた。
「で、でも、早く貴女に元気になってもらわないと…ゴニョゴニョ///」
「え?何?」
上手く聞き取れなくてイズミの口元に顔を傾けると小さく息を飲み益々イズミの顔が赤くなる。
「あ、あ、貴女が元気にならないと私の、お!お!お仕事に張り合いがないんですの!///」
「わぁー!大きな声で喋るなよ~!」
開き直ったかのように大きな声で言ったイズミに耳を押さえながら文句を言うと、今度はぷりぷりしながら真琴の着物の襟をガシッと掴み歩き出す。
「あ、貴女のせいなんですからね!///全く調子が狂いますわ!///」
「えぇ!?な、なにが!??」
「~~~っ!///いいから!お仕事に戻りますわよ!///」
「~~????」
訳が分からずイズミにずるずると引き摺られながら仕事へと戻る真琴なのでした。
その一部始終をたまたま近くを通りがかった姫子は物陰から見ていた。
「ちょっと姫子?貴女そんなところで何やってるの?」
「乙羽さん、青春っていいわねぇ」
「はぁ?」