姫子と一緒に暮らし始めた千歌音ちゃん。
住んで1年経った頃、千歌音ちゃんに異変が…。
「また陽性ね…」
これで2度目。
例の女の子の日が来なくなってちょうど今日で2ヶ月。
今まで一度も生理が遅れたことがないし、来なかった月など一度もない。
でも精神的に不安定でもないし、食事もちゃんと摂っている。ダイエットとは無縁なだけに生理不順になるとは思えない。
まさかと思ってこっそり買ってみた妊娠検査薬。
(2回とも陽性反応がでるなんて…)
トイレから出て自分のお腹を撫でた。
もちろん男性と交わったわけではない、千歌音が体を許すのは姫子だけでありその逆も然りである。
正直嬉しい。姫子との既成事実。
女性同士で出来るわけがないのは分かってはいるがふと脳裏を横切るはアメノムラクモの姿。
自分達の運命を司るあの神の力だと考えると納得できなくもないし、根拠はないが心のどこかでそう確信していた。
ただ、姫子がそれを受け止めてくれるかどうか……。
リビングに戻るとソファーの上で姫子が雑誌を読んでいた。
「あ、お帰り千歌音ちゃん」
戻ってきた千歌音に気づき、笑顔ですっと自分の隣を空けてくれる。
優しい気遣い。そんな姫子なら理解してくれるかもしれない。
姫子の隣に座り、千歌音は決心した。
「…あのね、姫子」
「なあに?千歌音ちゃん」
「その…私、デキちゃったかもしれないの」
「何が?」
「だから…姫子との」
「私との?」
「あ、赤ちゃんが…」
「えっ!?」
顔を真っ赤にして言った千歌音の告白に姫子は目を丸くした。
恐々と手に持っていた妊娠検査薬を渡すと、姫子は手にした雑誌を落とし泣きそうな表情になった。
その顔にあーやっぱり信じてもらえないのかも…。と不安がよぎる。
『で、でも私達女の子同士だよ!??』だとか『千歌音ちゃんまさか私以外の人と…』だとか次に姫子が言う言葉を考えると拒絶されるのではないかと恐くて目をぎゅっと閉じた。
「ありがとー!千歌音ちゃん!!」
「え?…きゃあ!」
千歌音の予想の遥か斜め上をいき姫子は突然抱きついてきた。
勢いあまって千歌音を押し倒しそうになってしまい慌てて離れる。
「あ、ごめんごめん。大事な体だもんね」
そう言って千歌音の肩を抱いてお腹をなでなで。
なんかもうデレデレモード。
「ひ、姫子…!疑わないの!?」
「え?どうして?」
姫子といえば姫子らしいかもしれないが、そんな信じきってる姫子に逆に千歌音が慌てる。
「だって!迷惑じゃないの?」
嬉しさと困惑が入り混じってぽろぽろと涙が出る。
たぶん千歌音自身自分が何を言ってるのか分かってない。
すると姫子はにこっと千歌音を安心させるように笑う。
「ちっとも迷惑なんかじゃないよ」
千歌音の目からこぼれる涙を指で拭ってやりながら姫子は優しく言葉を紡ぐ。
「私と千歌音ちゃんの子供なんだもん。とってもとっても嬉しいよ」
少し頬を染め言った姫子に、千歌音は自分の抱えていた悩みのちっぽけさに気づかされた。
いつもこの太陽の笑みに癒され救われてきた。
「ありがとう、姫子…」
落ち着きを取り戻し千歌音が笑うと、姫子も安心したように笑った。
「明日産婦人科に行くわ、ちゃんと確かめて来なきゃ」
自分のお腹を擦りながらそう言うが姫子は首を横に振った。
「うーうん、いるよ。私には分かる」
自信たっぷりに言い、屈んで千歌音の腰を抱き締めお腹にそっと耳をあてる。
「ここにいるんだね、私たちの赤ちゃん…」
とても嬉しそうな姫子の声。
まだ聞こえるはずがないのに。
くすっと笑ってしまう。でもそんな姫子が可愛くって頭を撫でる。
「名前…考えなきゃね」
「ええ、そうね」
そう幸せを噛み締め、2人はそっとキスを交わした。
FIN