抱擁

神無月の巫女 エロ総合投下もの

抱擁


    「ふう、だいぶ散らかしてくれたわね…」
    先ほどの騒ぎからしばし。部屋に戻るとなかなか荒れていた。
    何人かの下女が残り一生懸命片しているが本棚やら畳や障子までめちゃめちゃになっている。
    全く姫宮さんの事になると向きになるのだから…。
    それが可笑しくて自分もついからかってしまうのだが思い出すと苦笑してしまう。
    「姫宮さん、来栖川のお嬢様呼んできてもらってもいいですか?」
    気紛れなレーコは騒ぎが終わったあと遊び相手もいなくなりどこかへと消えてしまった。
    自分の予想が正しければ今頃部屋でいじけてるところだろう。
    そんな時は自分が行くよりも千歌音に頼んだ方が効果はある。
    「はい、分かりました」
    頷いて千歌音は荒れ果てた乙羽の部屋を後にした。


    姫子大丈夫かしら?
    廊下を歩きながら少し心配になる。
    レーコが居座ってから取り乱すことが多くなったような…。
    オロチだから当たり前かもしれないけど、敵意を感じないしむしろ無愛想ながらに親切にしてくれるし…。
    その優しさが自分にだけ向けられてるものとは露とも知らず、歩いてるうちに姫子の部屋へと辿り着いた。
    「姫様、乙羽さんがお呼びですよ」
    閉められた襖の外から声掛けたが返事がない。聞こえなかったのかと思ってさっきよりも大きめ声でもう一度声を掛けるがそれでも返事がない。
    まさか部屋にはいないとか?
    そう思いつつほんの少しだけ襖を開いて中を覗いてみた。
    すると、部屋の真ん中に布団を敷いてこちらに背を向けて寝ている姫子の姿が見えた。
    間違いなく不貞寝である。

    どうしよう…。
    基本姫子の部屋に入れるのはお側役の真琴のみ。
    でも今は破損した屋敷の修理に追われ不在だし、乙羽に呼んできてと頼まれている。
    起こしたら怒られちゃうかな…?
    さっきまであれだけ怒っていたし、寝起き悪いし…でもそんな事よりも何よりも姫子の寝顔がみたい。

    ちょっぴし迷ったがそ~っと部屋に入ることにした。


    ゆっくりと襖を閉め、足音をたてず近づく。
    正面に座ると起きてしまうかもしれないので緩やかに広がる姫子の色素の薄い髪を踏まぬように姫子の背後に座る。
    猫のように体を丸めて寝る姫子の寝顔を見ようと、体を乗り出して覗き込むと、さっきのレーコとのやり取りの余韻なのか眉根に少し皺がよっている。
    その不快そうな寝顔に千歌音の体からしゅんと力が抜けてしまう。
    そんな顔しないでほしい。姫子には笑っていてほしい。
    心が痛い…。
    労わるようにそっと眠る姫子の肩に手を置き、少しだけ力を込めた。
    すると小さい声で「ん…」と呻き、千歌音の方に向かってごろんと寝
    返りを打ってきた。
    慌てて後ずさりし姫子に場所を譲ると、その動きに人の気配を感じた姫子の目が僅かに開いた。
    「……あ」
    仰向けになった姫子と目が合い起こしてしまったと驚き固まる千歌音。
    ここは「お早う」と言うべきなのか「起こしちゃってごめんなさい」と謝るべきかと思った瞬間、寝惚けたままの姫子に腕を掴まれ、そのままぐっと引っ張られ姫子の胸に倒れこんでしまう。
    そして姫子はその千歌音を抱き締めまた目を閉じてしまった。
    「ひ、姫子…?」
    暖かな姫子の温もりが着物越しに伝わり顔を真っ赤にする千歌音に姫子は目も開けず「まだ眠たい……」とだけ返す。
    そ、そうじゃなくって…!
    重たいだろうと起き上がろうとするが、寝てる姫子の腕は千歌音を離そうとはしない。
    それどころか千歌音を抱き締めたまま再び寝返りをうち、お互い横向きで向かい合うようになった。
    え?え?とパニックを起こす千歌音だが、ドキドキしながら上目遣いでちらっと姫子を見ると、さっきの寝顔と違い気持ち良さそうな寝顔に変わっていた。
    どう見ても姫子マジ寝中。
    深く息を吸い込みながら千歌音をぎゅっと抱き締め、千歌音の香りに落ち着いたかのように脱力しゆっくりと息を吐く。
    その包み込んでくれるような優しい抱擁に千歌音の体からも力が抜けていく。
    はあっと短く息を吐き頭を姫子の胸に預け、そっと姫子の背に腕を回しゆっくりと瞼を落とした。



    「姫様もそろそろ手伝ってくださいよ~!ってあれ乙羽さんどうしたんですか?そんなところで」
    手に刷毛を持った真琴が姫子の部屋へ行くと、同じく中々戻ってこない2人を呼びに来た乙羽が少しだけ開いてある襖の傍に立っていた。
    近づく真琴に気付くと振り返り、そっと人差し指を口にあてし~っと静かにするように促した。
    「?」
    首を傾げる真琴に手招きし、襖の奥が見えるように場所を空けてやる。
    何だろうと中を覗き込み、「あっ」と一言だけ声を漏らすと納得したように同じく口元緩めている乙羽を見た。
    「ま、今日ぐらいはいいんじゃないかしら?」
    「そうですね、誰も近づかないように釘刺しときます」
    「それと、今晩の晩ご飯の材料は決まりね」
    「そこは譲れませんね」

    そう言ってくすくすと笑いながら襖をそっと閉め、寄り添いながら子供のように眠る2人の部屋を後にした。


    了

最終更新:2009年02月19日 18:14
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