屋敷内のある場所にて。
「あ、あの…姫さまっ」
「え?」
「きゃー姫さま~」
勇気を出した千歌音が物陰から声をかけようとするがイズミ達の声により遮断される。
「私達、姫さまのために手作りチョコ作りました♪」
「そう、ありがと…」
イズミ達取り巻きに囲われる姫子に声などかけられない。
今日はバレンタインデー…千歌音も用意をしていた。
もちろん、心から愛する姫子のために。
だが姫子は何十年と続く名家の一人娘であり。
村のシンボルであり、皆のアイドル的存在、それに引き換え自分は仕える身。
そのような恋心などしてはいけない、だけれど…。
千歌音も病弱ながら手作りチョコを作るはずだった。
が、調理場はイズミ達に占領された上、材料も全て使われた。
だから姫子に上げるチョコなどない、お金もない千歌音は…。
その夜、姫子の部屋を訪ねた、姫子の専属侍女である真琴以外はあまり出入りできない。
そもそもこのような時間にお嬢様の部屋を訪ねるなど許されることなどではないけれど…。
「…………」
「千歌音、居るのね?」
「あっ…は、はい、申し訳ありません、このような遅い時間に」
「構わないわ、入りなさい」
「あ、は、はい……」
静かに開けると…中に入る。
「どうしたの?辛いことでもあったの?」
布団から起きた姫子が起き上がる。
「いえ、私…その、姫さま――」
「千歌音、二人きりのときはその呼び方はやめて頂戴といつも言ってるでしょ?」
真顔になりそう言ってきた姫子に自分に確かめるようなすると。
「あ、は、はい…ひめ…こ」
「それで、なにかしら?言いたいことがあるのでしょう?」
「その、わ、私だけ…姫子にチョコを上げられなかったから…」
「あら、いいのよ…その気持ちだけで嬉しいわ、千歌音の言葉だもの」
「だ、だから…、そ、その…私」
と着物に手をかけ脱ぎ始める千歌音――。
「やめなさい!」
その仕草を見て姫子が声を張り上げ震える千歌音の手を止める。
驚いて顔を上げる千歌音に姫子はお日様の笑顔で優しく微笑んだ。
「体が震えているわ…大丈夫、無理しなくていいのよ千歌音」
「で、でも私はいつも姫子に迷惑かけて、こ、こんなことくらいしか――」
「バカね…ふふ、ほら、一つ真琴から貰ったチョコがあるけれど…食べる?」
と寝床の背後にあるチョコを取り出すと千歌音の口元へと差し出す。
「い、いえ私がそのような――」
「食べなさい、命令よ千歌音」
顔を近づけ耳元でそう囁く姫子に千歌音は――。
「は、はい……」
と、姫子から差し出されたアーモンド入りのチョコを一口舐める。
本来、お嬢様の前でそのような行為は許されないのだが~。
千歌音は美味しそうに舐めながら頂く、口の中に甘い香りが広がっていく――。
そして食べ終えた千歌音が顔をあげると――。
姫子の顔があった。
そして目の前に顔を寄せていた姫子にそのまま唇を押し付けられる。
「んっ………」
チョコの甘い香りと姫子の蜜のような甘い唇が交錯し色んな味をかもし出していく。
そのまま抱き寄せられ、驚いて目を開けていた千歌音も…心地よいキスの香りに…ゆっくりと
目を閉じた――。
「あっ……」
千歌音から唇を開放すると姫子は微笑む。
慌てて唇を手で押さえると奪われた感触を確かめながら千歌音は頬を染めている。
「千歌音、貴女から甘いチョコを頂いたわ…どんな味にも変えられない究極の――」