ことばのぱずる

神無月の巫女 エロ総合投下もの

 ことばのぱずる

    注意
    1.姫千歌前提の千歌真琴?浮気じゃないです。
    2.キスあり。
    3.マコちゃん、ごめん。

 

    「なら、どうしたら?」
    自分を見つめる彼女の瞳は、本当に真剣で。
    そんな彼女を、ひとつからかってやろうと思ったのだ。

    姫子と宮様…目の前に居る少々思いつめたような瞳で、私を見つめる[姫宮 千歌音]とい
    う名前を持つ人物が再会して、数ヵ月。
    つまり、私…[早乙女 真琴]が姫子から「運命の人」に出会えたと報告を受けてから数ヵ月。
    姫子は学業と写真のコンテストのことで、私は冬を迎えてシーズンとなったマラソンのちょ
    っと大きな大会にエントリーした関係で、互いに多忙といえば、多忙な日々を過ごしてい
    た。
    勿論、時間が空けば電話もするから、別に疎遠になったわけでもない。
    が、学生時代は片時も離れないようにつるんでいたことを知っている宮様は、自分と再会
    したことで私たちに距離感ができたのではないかという誤解をしたらしく、自分に気にせ
    ず今までどおりの付き合いをして欲しいと言いに来た訳だ。

    そもそも私としては、姫子との付き合いを変えるつもりもなかったし、そんなことできっ
    こない。
    そのことは、きちんと目の前にいる宮様に言おうと思っていたから、その申し出はありが
    たかった。
    だが、ちょっとだけ予想外だったのが、何故かそのことが[宮様]の希望で、それを[私]が
    かなえてあげると言う流れにいつの間にかなっていて、さらになにか[交換条件]をつける
    という話になっていたことで。
    そして、さっきの宮様の台詞になったわけ。

    酷く長い間が開いた。
    気まずいと言うか、宮様はこちらの答えを求めて身じろぎもしないし、こちらは当たり障
    りのないものはないかなーと視線を宙にさまよわせたまま。
    だから、からかって水に流そうと、提案をしてみる。
    「じゃぁ、何もなしと言うのも、気がすまないでしょうから、宮様からのキス一つという
    ことで」
    こちらの軽い声と、あわせた視線とは反対に、ちょっとだけ宮様の瞳が動揺の色を含んで、
    視線をこちらからそらした。

    誤解のないように誓って言うけど、本当に冗談で。
    できるだけ冗談っぽく言ってみたつもりだし。
    けれども、なんとなくまた不思議な間が開いて、少しだけその場が静まる。
    姫子だって、私が仕掛けるキスは拒否してたから、記憶の中の宮様らしく、さりげなくご
    まかしてくれる…はずだった。

    「わかったわ…それで、どのようなのが?」
    「そりゃ…折角だから、情熱的なのがいいなーとか…あはは」
    あんまりにも真剣に詰め寄られるように聞くもんだから、こちらとしても少々ひるむ。
    宮様の顔って真剣になればなるほど、表情から余計なものがそぎ落とされていくんだ。
    学園内の穏やかな笑みを絶やさない宮様しか、知らない自分にとっては新鮮で、見とれて
    しまう。
    それを振り払って、わざとらしい笑いを、言葉の後に付け加えてみる。
    と、とりあえず、気がついて欲しい…気がついて欲しくないような気もちょっとだけはす
    るけど。
    そんなこちらの気持ちに気がついたかどうか、宮様はわずかに視線を下に向けた後、人差
    し指で一回、自分の唇をなでた。
    そして、ゆっくりソファの脇にひざまずき、私を見上げると私の唇に唇を合わせて来る。
    余りにも一連の動作が自然すぎるから、一瞬何が起こったか理解できなかった。


    やわらかい、優しくあたる唇。
    顎に当てられた宮様の手が優しく、顎のラインをなぞって包み込まれる。
    もう片方の手は私の後頭部に回し、軽く宮様のほうに身を寄せられた。
    わずかに頤をくすぐるように指を曲げ、こちらが閉ざしている唇を緩めるように誘ってく
    る。
    かすかに鼻腔をくすぐる薔薇の薫り、口移しに伝わる吐息は、甘くて酔ってきそうな気が
    した。
    びっくりした拍子に固まった身体も緊張が解け、もっとこの時間を深くしたくて、誘いに
    乗ってみる。

    頭の中が段々霞がかっていく。こちらも自然に宮様の背に手が回った。
    部屋の中に不釣合いなんだけど、息を継ぐたびに鳴る水音と漏れる吐息。それだけが耳に
    入ってくる。

    あ、なんか大切なこと忘れてるような気がする。
    忘れちゃいけない、すごく大事なこと。
    でも本当に心地よくて…これがファーストキスの味なんだ…
    あ…思い出した。
    これ、ファーストキスだった。

    一気に正気に返ると慌てて宮様から顔を離して、上がった息を落ち着ける。
    こちらも顔は赤くなっているだろう。
    けれど宮様の方はさらにというか、顔だけではなく髪の合間から覗かせる首筋までほのか
    に染めている。
    恥じらいなのか、それとも別の感情なのか読み取ることができない潤んだ瞳は、こちらを
    真っ直ぐに見つめていて、それもいっそう自分の鼓動が早くなる原因になった。
    私の首に回された腕は解かれてなくて、まだ触れ合っている身体からくる暖かさが、体温
    を上げているような気がしてならない。
    「…これじゃ…駄目なの?」
    少しだけ不安そうな小さな声の問いかけに、条件反射的に首を振る。
    「いっ、いえ。じゅーぶん堪能させていただきましたっ。ちゃんと約束は守りますのでご
    安心くださいっ」
    変な気分になってきたからやめさせたけれど、姫子が宮様に夢中になるのも、こんな瞳で
    みられた今だったら理解できた。
    親友の姫子が恋敵になるのでなかったら、今のこの時だけでも…危なかったかもしれない。

    「付き合いはこれからも変わりませんから。そのときになって、嫉妬されても止めません。
    だから…覚悟してくださいよ。宮様」
    言葉の裏には、貴女がそう求めたんだからと言う意味を込めて。



    それが数時間前。
    その後何もなかったように、二人でお茶を飲みながら、姫子の話を少しだけして、宮様を
    駅まで見送った。
    その背中が見えなくなった直後、即効で姫子に連絡を取って、今二人で頭を抱えているわ
    けだ。

    「ええええっ?!いいなぁぁぁ!私、一回も千歌音ちゃんからやってもらってない!!」
    「ええええええっ!」
    「いいなぁ…マコちゃん……いいもん、今日帰ったら絶対やってもらうから」
    目の前の姫子は、頬を膨らませてむくれている。
    じゃあの戸惑ったような、下に向けた視線は、姫子がやったキスを思い出していていたの
    か…
    と、いうか…姫子を覗き込みにやりと笑う。
    「あれは姫子が宮様にやってるやり方な訳だ…ほほぉ。いつの間に来栖川姫子さんはあん
    な情熱的なのを覚えたのかなーっ。」


    姫子に白状させるべく、くすぐっている間にもまた先ほどのことを思い出す。
    あのお固い姫子一途の宮様だったら、冗談だと解らなくても、うまく断る理由なんて幾ら
    だって言えたのに。
    学校内でもそういう告白の場面は男女共に、聞いたことも目撃したこともあるし。
    ああ、いつだったか屋上で宮様と出くわしたときの告白はすごかった。
    あんときはすごい鮮やかにふられてた。そういや大丈夫かな、あんときの子。
    そんなことは、今どうでも良かったんだっけ。

    「ねー姫子。私たちの関係ってなんだっけ?」
    「?どうしたの?急に。…友達だよ…ね」
    「普通の友達?」
    「ううん。マコちゃんは一番の友達だよ」
    「宮様よりも?」
    「…千歌音ちゃんは、友達じゃないもん…恋人だもん」
    「あーかわいいなぁ、姫子はっ。で、宮様には私たちの関係ってどういってる?」
    「一番の親友って、言ってるけど?違うの?マコちゃん」
    「あってる」

    姫子の顔を見ながら、冷めかけた珈琲を飲みながら、ぼんやりと頭の中を整理してみる。
    つまり、こういうことだろう。
    宮様にしてみたら、元が誤解であるにしても、大切な姫子を悲しませる親友との行き違い
    を解消したいと思ったわけで。
    その仲たがいの原因が、宮様自身だと思い込んだわけで。

    姫子の一番の親友の私は、宮様にとっても[特別]で。
    姫子が[嘘はつかない]と言った以上、その[特別な]友達である[早乙女 真琴]も[本当]し
    か言わない。嘘はつかないと考えたのだろう。
    だから、キスをしたら元通りといった私の交換条件を呑んだ訳だ。

    ……本当に?
    ……本当に、そんな単純に考えて、そんなことができる?

    宮様だったらやる。それが姫子が大切にしているものだったら、護るために何でも。
    宮様にとっては、全部を含めて姫子なのだから。

    …確かにやったし。


    姫子が宮様と再会し、姫子がすべてを思い出したときに見せられたアルバム。
    学生時代に見たときは、確かに姫子一人しか映っていなかったはずの写真。
    それが二人写っている写真になっていて、彼女らが護ってきた物語を聞かされて。
    それで自分も思い出したのだ。

    姫子を護るためだけに、すべてをだまして、命まで絶ったのだ。
    私たちの宮様であり、姫子の月のお姫様は。

    存在のすべてを消しかけた。
    姫子の記憶にすら、切り捨てるよう憎まれる様に仕向けて。
    一日、一分。いや、一秒でも長く、姫子が宮様に出会わないように。
    惹かれあって、月の封印が解けないように。
    引き裂かれる運命が、姫子に来ないように。
    ただ自分はもう見られない姫子の笑顔と未来のためだけに。

    そのたくらみは宮様の考えていた以上に、姫子が頑固すぎて、すべて失敗したと先ほど宮
    様に苦笑混じりに告白されたけど。


    背筋がぞっとした。
    そんな自分でない誰かのために、やれるものなのだろうか?
    確かに自分だって、危険を考えることなく、体が動くと言うのはわかる。
    でもさ、そのためにその人の周りの人にというのは、ちょっと無理。
    姫子のためにだって、多分そうはいかない。
    姫子のためじゃなくてもいい、誰か本気でここまで好きになって、そんなことができるの
    だろうか?

    「マコちゃん、マコちゃん?どうしたの」
    心配そうな姫子の声に、物思いにふけっていた頭を元に戻す。
    「姫子ーーーーー。宮様危ないって!」
    あんなに素直すぎる宮様は、危なっかしくて、一応部外者の自分だって心配になってきた。
    「確かに千歌音ちゃんに言ったよ、嘘も隠し事もだめだって」
    「だからって…冗談すら…真に受けるなんて…」
    そう自分が言うと、姫子がため息をついて、二人で考えないように珈琲をすすった。
    やっぱり千歌音ちゃんの考えることって、良くわからない。
    と姫子が言うと、こちらも賛同の意味で頷いた。
    「…マコちゃん、絶対、千歌音ちゃんはあげないからね」
    姫子にしては珍しく、じとりと横目でにらみながら宣言してくる。
    それは謹んでお断りします。というか、宮様は姫子じゃなきゃ絶対無理だと思う。
    そういうと、余計ノロケを聞かされそうなので黙ったが。

    「で、宮様は?出てきて平気?」
    「うん。帰りは夕方になるって…あ、そういえば、午後から大神君に会いに行くとか…」
    同時に、二人の顔から血の気が引いた。
    姫子なんかは口をパクパクさせて、何か言おうとしているが、言葉になっていない。
    何の用事で大神神社まで出向くのか、多分姫子も聞いていないということだろう。
    もしも…もしも、私と同じ理由で会いに行ってるとしたら…
    ジン様に限って、そんなことになるとは思えないけれど…
    「マコちゃん!次のバスって何時!」
    「それより大神先生に電話しよう!二人をあわせちゃ駄目だって」
    とりあえず、姫子は喫茶店の公衆電話に飛びついて、私は入り口に貼ってあった天火明村
    行きのバスの時刻表を腕時計とにらめっこして照会する。

    しかし、本当に困ったことが一つ。
    別に宮様が悪いわけでもないし、どちらかというと自業自得なんだけど。私のファースト
    キス…
    これから先、誰かとキスしても、比べちゃうんだろうなぁ…あのキスと。
    宮様、レベル高すぎ。

    END

最終更新:2010年02月16日 20:25
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