Episode 2:Remember Kiss その3

神無月の巫女 エロ総合投下もの

Episode 2:Remember Kiss その3

 


視聴者の皆様、こんばんわ。毎度ご愛顧頂きまことに有難うございます。
インターネット百合脳大河ドラマ 
「神無月の巫女:番外編」第4話「太陽と月を仰いで」のお時間です(違

さすが堂々と「抱かれたい神無月キャラNo.1」の宮様人気!
深夜にも関わらず視聴率も急上昇(大嘘)でして、めでたくこのたび
第三部の放送もケテーイ(大迷惑)しました。

今回は第二部ラストまでを投下。16レスほど1時間半以上枠を予定しております。
合言葉は「千歌音ちゃん、>>728からの続き、受け取って!」

(拙稿に皆様の心温かいレスありがとうございます!作者冥利につきます、です)

↓では、どーぞ。


姫子が心臓を抑えるようにして、身を強張らせているのが、千歌音は気がかりだった。

抱きかかえた少女の手首を掴みながら、尋ねてみる。
その手首の付け根からも、姫子の間断なく音を刻む脈拍が読み取れる。

「姫子、胸が痛むのかしら?」
「千歌音ちゃん、ちがっ…っひゃ、あぁんっ…!」

姫子は、ひやりとした冷たい感触を、一瞬、地肌に感じて声を上げる。

姫子の交叉している腕を振り解いて、千歌音がおもむろに下着の中へ左手を滑り込ませて、
直に心臓部分の肌を探り当てて、掌を当てたのだ。
そうして、その掌ごと後ろにいる自分の左胸にぐいっと押し寄せた。

千歌音が姫子の耳元で甘く優しく囁く。

「ほら、ね。こうすると、貴女の心の音が直接私の心にも聞こえるの」


――ドクン、ドク、ン、ドックン、ドクン……。

 


姫子は自分の異常な周期で波打つ胸の音動が、千歌音に聞こえるのが恥ずかしかった。
そしてなにより、千歌音に乳房を掴まれている状態と彼女の掌の感触に。

耳を澄ますと千歌音も鼓動が早まり、背の肌を通して接した彼女の胸が、小刻みに
膨張と収縮を繰り返しているのが分かる。

――もしかして、千歌音ちゃんも、私にときめいてる…?


それを直接聞くのももどかしいし、そのために必要な心の落ち着きが、
姫子には足りなかった。

しかし、当初は不協和音だった自分の心音が、千歌音のそれと重なり合ってくるにつれ、
姫子は緊張を解きほぐしてゆく。
遂に、二人の鼓動のリズムは調律するように融けあって、快いハーモニーを奏でている。


―――とくん、…とくん、…とくん、…とくん、………。
―――とくん、…とくん、…とくん、…とくん、………。
 

千歌音の掌の冷たさも、今や温もりに変わっている。

いつのまにか、ちゃっかりと千歌音の空いていた右腕も回ってきて、
後ろから抱きすくめられていた。

姫子はもはや抵抗を感じていない。
千歌音との生命のリズムを刻む音を育んでゆく一体感に喜びを感じ、
共鳴する心音に恍惚と耳を傾けていた。


姫子の体温を背中から感じている千歌音が、ふと口を開く。

「フフッ…やっぱり姫子は陽の巫女なのね。
 わたしと違って身体がすごく暖かいわ、羨ましい…。
 肌もこんなに艶があって、生き生きしているもの」

日頃は氷のように冴え渡る瞳をもつ千歌音の、斜め上からの舐め回すような視線に、
姫子はやや戸惑いと恥じらいを感じる。

「そんな…千歌音ちゃんこそ、すっごく透き通るように色白で、私、うらやましいよ。
それにスタイルもよくて頭もいいしさ、みんな『宮様は素敵』って褒めてるんだよ」

「他の子たちはきっと私が近寄りがたくて、血の通ってない人間って思ってるかもしれないわ……。
本当の…真実の私を知ったら、姫子もみんなもがっかりするでしょうし…」

「ううん、そんなことない。 それに千歌音ちゃんは、お日様よりもお月様だよ。
だって太陽はあって当たり前と思われてるけど、
 月はいつもみんなが大好きで見つめてくれるものだもの。
 千歌音ちゃんには月みたいな素敵な引力があるんだよ、きっと」


千歌音がふっと顔を曇らせたので、姫子は必死にフォローする。

「あ、それに最近さ、国語の授業で習ったよね。え、えーと……
 与謝野晶子…だっけ?
 『原始人は太陽みたいだったけど、現代人は月みたいだ』って言ったの…?」

「……………」
千歌音が数秒の沈黙の後、嘆息まじりの苦笑いで応じる。

「……姫子。それをいうなら平塚雷鳥の
 『原始、女性は太陽であった。現在、女性は月である』なのよ……。
 それに、その言葉は明治・大正時代の女性に対してで、
 しかも誉め言葉じゃないのよ……」      (´д`;) オイオイ 

「ええぇ――っ、そーだったの?!あはは、ごめん。
 千歌音ちゃん、やっぱり物知りなんだねえー」 (*´∀゚*)アハッ


頓珍漢な物言いが恥ずかしく、姫子は赤い舌先を小さく出して、気まずい顔をした。

その姿があまりも可笑しくて、千歌音は思わず噴き出しそうになる。


「ふふっ、…姫子はいつも面白いわね…相変わらず、明るくて。
 それに、慰めてくれてありがとう、姫子。
 そうね、私が月の巫女で貴女が太陽の巫女。この運命は変わらないわ……
 でも、今日の貴女を抱き締めると火傷してしまうかしら、ね?」

「千歌音ちゃんの看病のおかげで、もう熱は引きはじめてるみたいなの。
 でも、千歌音ちゃんの体温が低いのなら、私、
 千歌音ちゃんのカイロになってあげる」


姫子はいたずらっぽく微笑むと、千歌音の方へ自分からもたれかかる。
完全に体を預けようとする少女の両肩を、後ろの少女がしっかり受けとめる。
千歌音は、身につけていた少し大きめの緋色のガウンの前を開いて、
姫子を後ろから優しく包み込む。

二人羽織の格好で乙女たちは寄り添い合っている。

――ずっと、千歌音ちゃんとこうしていたいな。


発熱も気だるさも、病人という特権を利用して千歌音を独り占めできた
この至福のひと時にあっては、なんら障害ではない。
姫子は人肌の温もりと安堵感とで、心身ともに満たされていた。

んんっ…。

思わず愉悦の溜息をもらす。


その吐息がなんとも切なく甘美な囁きに思われて、千歌音の欲情をまたしてもそそる。

千歌音は姫子の肩に顎を乗せ、頬をくっつけ合って、姫子のお腹の前で組んだ腕に
ぐいと力を込めて、後方へ引き寄せる。
正座を崩したような姿勢の千歌音の太腿の上に、姫子はちょこんと乗せられてしまった。
千歌音は女性にしてはやや長身のほうなので、自分の顔が膝上に乗せた姫子よりも、
およそ頭ひとつ分高い位置にある。

いまや、上半身の皮膚が触れていないところない位、姫子の肌は千歌音の上半身に
吸い寄せられていた。
それは、二枚貝の貝殻が皿の窪みどうしを重ねているような姿、とでもいえるかもしれない。

千歌音の締め付けがきつかったので、姫子は少し身を捩じらせて訴える。

しかし千歌音はまったく気づかない。
目を閉じて全意識を、姫子と接した自分の体表に集中させ、そして陶酔していた……。


抱きかかえた少女の肉体の特徴――滑らかな肌触りや温もり、髪の香り、重さ、
華奢で細い腰周りやお尻の柔らかさや肉の厚み――
をまざまざと感知しつくし、酔いしいれる。

千歌音の心の中の「私」が呟く――。


  抱きかかえたときのこの感じ、やはり「あの方」と同じだわ…。
  あのとき残酷な運命に遮られて、遂げられなかった、
  この千年越しの想いを、姫子の身体を使って実らせたい…。
  でも、大事な使命を果たす前に今そんなことをしたら…
  それに姫子の気持ちは私にはないのかも……。


自分の潜在的欲望と理性とが葛藤を繰り返している千歌音は、
姫子の声でハッと我に返る。

「あの…千歌音ちゃん、ごめん、悪いけど、私ちょっと、きつい…んだけど」
「あ、ごめんなさいね、姫子。随分苦しかったでしょう?」


千歌音は慌てて腕力を弱めたけれども、相変わらず身体は密着させたままだ。
この甘美な感触を手離すつもりは毛頭ないらしい。

姫子も千歌音の柔肌の太腿椅子の座り心地がよく、相当気持ちいいので、
そのままの体勢でよかった。

千歌音の、先ほど眉に皺を寄せてなにやら考え事をしていた顔と、
今のちょっぴりの狼狽振りとのギャップが、姫子には少し可笑しかった。
もっと向かい合って顔が見えるように、千歌音の首に両腕を回して、
くるりと左向きに回転。
両足を千歌音の太腿と直交するように座りなおした。

千歌音はお姫様抱っこのしかたで、横向きの姫子の肩を右腕で抱く。
腕の中の少女が、向日葵のような笑顔をふりまいてくれる。

「弓道で鍛えられてるからかな、千歌音ちゃんは。腕の力強いんだね。
 こんなに細いのに」


姫子は、千歌音のよく引き締まった白い二の腕を掴んだり、指先でつついたりする。
茶目っ気たっぷりの少女の仕草が可愛らしく、千歌音はにっこりと薔薇のように微笑んだ。

 

―――姫子は、同じ16歳だけれど、大人びた自分と比べるとかなり子供っぽくみえる。
姿形は「あの方」に生き写しでも、考えや喋り方は全然違う。

だが、そこがいいし、それでいいのだ。
泣き虫で弱虫で、あまり賢いほうではないけれど、純粋で律儀で、誰に対しても優しくて、
傷つきやすくて脆くて、それなのに仔犬を助けるのにも命懸けで…恋にも一途な姫子が、
自分は好きなのだ。

「あの方」の落ち着きと判断力とは、現世の自分が受け継いだのだから……。
姉のように自分を慕ってくれる妹分の姫子、この美しい少女をいつまでも好きでいたい。

私は「月の巫女」として「陽の巫女」をではなく、
「姫宮千歌音」として「来栖川姫子」を愛しているのだ―――。


そのように考え巡らすことで、千歌音は姫子を押し倒したいという邪念を、
頭の隅に追いやった。

千歌音はきりりとした口元で、姫子に言葉を返す。


「そうね…私は大事なものを守るために、強くなりたいから、
 常日頃から鍛錬は欠かさないわ」

  そうよ、姫子。貴女を守るために、
  私はこれからも、ずっと、もっと、強くなりたいの。

 

目が合って、くすくすと笑いあう二人。


――そう、千歌音ちゃんは強い人だ。

姫子は確信する。

自分と違って嫌なことがあっても泣き言ひとついわないし、ひとつの方向を見据えて
何事もテキパキと冷静沈着に対処してゆくのだ。
それでも姫子は、ときどき彼女の性格が分からなくなる。

  千歌音ちゃんって、どんな人?
  皆の目の前で気丈で格好よく、礼儀正しく振舞う優等生の「宮様」と、
  私の前でだけとびきりの笑顔をみせてくれる優しい「千歌音ちゃん」と。
  それにこうして二人きりでいるときも、千歌音ちゃんは、
  時々なにか遠くを見つめて物思いに耽っている。
  私と会話の最中に急に口をつぐんだり、話題を変えてきたり。
  最近は特にそれが頻繁になってきた気がする……。


しかし、それが自分の存在を蔑ろにされたと感ずるほど、
姫子は捻くれた考えの持ち主ではない。
ただでさえ、陽の巫女としての覚醒が不十分な自分と比べ、
千歌音のほうがおそらく前世の記憶が鮮明であろうし、その分だけ
抱えている悩みもさぞや大きいだろう。
 

  ほんの少しでも、その苦労を分かち合いたいと思うのに……。
  やっぱり、こんな柔な私じゃ当てにならないのかな……?

 

姫子は自分の、ぷにぷにした二の腕をさすって、千歌音のそれと見比べつつ、
少し溜め息をつく。

  私も千歌音ちゃんやマコちゃんみたいに、
  スポーツでもやっとけば良かったかな…。
  うーん、でも…私、かなりの運動音痴だし……。

 
腕の中の少女が、なにかぶつぶつ言いながら、溜息をついたり軽く頭を抱えこんだり
する様がいかにも愛嬌たっぷりで、千歌音には微笑ましかった。

姫子はいつ何時も、千歌音との友情と信頼が潰えないことを疑ってはいない。
それゆえに、千歌音がいつも自己の内面で、柵に囲った「想い」に囚われていることに
未だ気づかない。

なぜなら、彼女の心の領域に土足で踏み込んで、あれやこれやと詮索するようなタイプでは
ないからだ、あくまでこの時までは…。


身を寄り添わせつつ、二人の心は未だ錯綜している。
月の少女と太陽の少女は、ところどころで身体の接点と和音をもちつつも、
微妙な平行線と心の温度差を保ったままだ。


都会の喧騒のなかで、二人の心のシグナルに青信号がともり、歩みだしては抱きしめあう大団円
――互いの笑顔と「想い」が幸福に交差する、あの十字路までの道程はまだまだ遠い先のこと………。

 

――ある意味で姫子の、全てのものを許してしまえるような優しさに満ちた心根が、
幾ばくかの足枷となって、月面の表と裏のような千歌音の多面性を生み出している、
ともいえる。
太陽に照らされて月は光り輝くけれども、その裏側では魔力にとり憑かれた
人間の怨念が渦巻いている。

そして後になって、千歌音がオロチに魅入られたのも、人間の負の面を併せ持つ
「月の巫女」であったからなのだろう。
例えそれが計画的行動であったにせよ、千歌音にはそれを受容する陰の要素があった。

なにより彼女は、前世で最愛の人を最悪の手段で失ったという絶望と
その後生きながらえてしまった孤独とを味わった人間なのだから。
 
「強くあれ」という願いは、自分の弱さを認識した時点からはじまるのだ。
姫子の良心的な解釈とは裏腹に、千歌音は心の奥底では、自分の中の脆さと、
前世における無力さを、ひしひしと感じていたのだった……。


照明を消した部屋には、いつのまにか、窓辺の大きく開くカーテンの隙間から、
月明かりが蒼白く差し込んでいる。


「あっ、千歌音ちゃん、ほら見て、窓のほう…お月様が出てるよ」
「ええ、今夜はとっても綺麗な満月ね、姫子。まるで…お日様みたい。
 あんなに強く明るく輝く月なら、他のどんなに煌めく星々でさえも
 霞んでしまうくらいね……」

 

目を輝かせながら、月をじっと見つめている姫子の横顔を眺めながら、
千歌音の心は、声にならない言葉を繰り広げる――。


  太陽みたいに影ひとつなく、欠けることなく、強く美しく輝く月。
  私は姫子の前で、そんなふうになれるかしら。
  
  姫子は私を優しく照らしてくれるお日様。
  月は太陽があるから輝くことができる。
  誰よりも美しく、輝きたいとそう思えるの。
  
  姫子の向こう側の顔も、私はよく知りつくしているの。
  誰よりもいつも、飽き足りないくらいに貴女を見ていたから。
  
  でも…私には姫子が知らない横顔があるの。
  
  あの月にある朽ち果てた社に閉じ込めてきた、
  「私」の気持ちと「貴女」の記憶。
  本当は貴女に見て欲しい。知って欲しい。分かって欲しい。
  
  けれど……。

 

姫子と千歌音の二人っきりの長い、長い秋の夜は、まだまだ続いてゆく――。

 

仲睦まじく寄り添う乙女たちを覗いているのは、雲ひとつない夜空に浮かぶ月輪のみ。
今宵のような蒼白い月夜の晩にこそ、古来より、一目を憚る恋の逢瀬が重ねられてきたのだ。
例えば、かの光源氏は8月15日の満月の夜、月明かりを頼みに秘密の恋への通い路を忍び歩き、
夕顔と許されぬ一夜を共にする。
陽光の下で光り輝く姦通相手との情にほだされ、翌晩まで一緒に過ごした夕顔には、
月光の下でのおぞましい悲劇が待ち受けていた……。


おそらく月の魔力が、月の少女と太陽の少女、この二人の淡い友情の灯火を、
激しい恋慕の炎に変えるのには、さほど時間がかからない。

千歌音の中の情念のバイオリズムが、無意識のうちに、刻一刻と狂い始める、
その時が近づいてゆく………。


【またしても続く】

【ED】♯「agony」by KOTOKOの脳内演奏をお願いします♪


     元始、女性は実に太陽であつた。真正の人であつた。
     今、女性は月である。
     他に依つて生き、他の光によつて輝く病人のやうな蒼白い顔の月である。
     私共は隠されたる我が太陽を今や取戻さねばならぬ。(中略)
     調和よ、統一よ、無限よ、完全よ、永遠よ。
     私はここに人間の真の自由、真の解放を見出さう。(中略)
     最早女性は月ではない。其日、女性は矢張り原始の太陽である。
                        by平塚雷鳥「青踏」(創刊号序文)

最終更新:2007年04月21日 16:58
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