Epilogue:Reverse Kiss―嵐の前夜―

神無月の巫女 エロ総合投下もの

Epilogue:Reverse Kiss―嵐の前夜―

 

【前回までのあらすじ】(Episode 3:Return Kiss  >>755-875あたりをご参照)

ナレーションby間島淳司(+松本保典)


来栖川姫子と姫宮千歌音。惹かれ合う二人の少女の心は、巫女の宿命に翻弄されて、
互いに深く交錯してゆく。満月の晩、キスへの誤解と前世の記憶との関連を巡って、
姫子は千歌音の秘められた想いを知る。彼女たちは様々な紆余曲折を経て、遂に
初めての歓喜に満ちた契りを交わした。だが、二人の乙女の運命は、来るべき本当の
「嵐の夜」に向かって再び廻り始めるのだった…。

ソウマ「来栖川!俺にできることは、せいぜいこんなエロSSで
    アニメを脳内補完することしか、できない――っ!」
ツバサ「ソウマ、ならばせめてこのスレの最後まで、バカな妄想を貫かせてやる!
    来おぉぉい―――っ!!」


【OP】♯「Re-sublimity」by KOTOKO の脳内演奏お願いします♪

【タイトル】Epilogue:Reverse Kiss―嵐の前夜―

 

 

――……チュン…、チュン…、チュン……。

朝の眩しい射光と小鳥のさえずりに起こされて、来栖川姫子はぱちりと目を覚ました。
なんだか随分と長く眠っていたような気がする。

最初に自分の目に映ったのは、見覚えのある顔のシャープな輪郭と、赤く可憐な口元だった。
ベッドの傍らで、大切な友人であり居候先のご令嬢、姫宮千歌音が倒れ伏していた。
姫子の汗ばんで温かな右手を、その白く冷たい右手で固く握り締めたまま。
その右手の人差し指に、昨日にはなかった絆創膏が巻かれてある。

「千歌音ちゃん…!」


姫子は、大急ぎで千歌音の肩を揺さぶってみた。
やがて、千歌音は少し眠そうな目を擦りながら、ゆったりと起き上がる。

「…あら、姫子。おはよう。ご機嫌はいかが?」

  良かった…単に眠り込んでいただけなんだ、千歌音ちゃん。
  そういえば私、川に落ちたんだっけ。
  ここは天国、じゃもちろんないよね……。

 

痛みも消えて軽くなった頭を存分に巡らせながら、姫子は紛れもなく、
ここが姫宮家の寝室であることを確認する。

唇がこころなしか熱く湿っぽい。
表面を何度もなぞって、感触の余韻を確かめてみる。

「私、昨日の夜は、もしかして…その…千歌音ちゃんと……」

―――あんなことや、こんなことをしたよね?!

とは、さすがに恥ずかしくて聞けない。

姫子は頬を紅く染めて、息を詰まらせる。
緊張のあまり言いよどみ、遂には口籠ってしまう。
その顔を心配そうに千歌音が覗き込んでいる。

「え?…姫子、何を言っているの?貴女は川で転倒した後、病院から我が家に運ばれて、
 ずっと今朝まで、三日三晩も高熱にうなされて寝込んでいたのよ」
「えっ……?!でも……」

――…昨日は私たち一緒の夜を…過ごした、はず……?


驚いて見上げた姫子の瞳に、千歌音の怪訝そうな顔つきが映った。

 

「姫子、もしかして頭の打ちどころが悪かったのかしら……
 熱がまだ残っているのかしら?」

そう言って千歌音は、姫子に額を寄せてきた。

目と鼻の先にある千歌音の顔に、姫子は火が噴き出そうに真っ赤になる。
しかし、異常に波打つ胸の鼓動を手で抑えつつ、自ら瞳を閉じていた。
熱を確かめてくれた後の、淡く唇への口づけの期待なんか抱きつつ。

千歌音は姫子の誘惑するような唇をちらりと一瞥しはしたが、くっつけあった後の
額のほうへと軽く口づけを施した。
そして、胸元に姫子の頭を一瞬だけそっと抱き寄せた。

塞がらなかった口元で、肩透かしをくらったという表情を浮かべる姫子。
見つめる千歌音は、穏やかで優しげで笑みを湛えている。

「熱はもうないわね。良かったわ」

 

―――コン、コン!

「お早うございます、千歌音お嬢様。失礼致します」

その時、ドアをノックする音がして、姫宮家メイド長の如月乙羽が扉から顔を覗かせた。
朝食の支度が整ったので、呼びに来たらしい。

「姫子は着替えを済ませて、後からいらっしゃい。食堂で待っているから」

そう言い残した後、千歌音が扉に手をかけたまま立ち止まった。

「…………………」

こちらを振り返り、なぜか意味深な目配せをした。
少し淋しさを滲ませるように、唇をぎゅっと噛み締めるように結びつつ……。

―――……千歌音ちゃ…ん……?


そのときの千歌音の姿に、理由もなく姫子は違和感を覚えた。
千歌音の遠ざかる背中を名残惜しそうに見つめながら、一人で物思いに耽る姫子。
姫子は唇にもう一度触れてみる。

  やっぱり、「あれ」は夢だったのかな…?
  千歌音ちゃんとの熱く、甘い夜……
  それに、もうひとつ別の世界で「誰か」と「何か」をしていたような……?

 

千歌音との破廉恥で濃密な肉体の絡み合いを想像して、姫子はまたしても赤面する。
そして夢と現実との辻褄を、考えれば考えるほど、姫子の単純な頭が混乱する。

突然、腹の虫がぐーっ、と鳴ったので、姫子は思考回路のスイッチを
現実路線へと入れ換えた。

「朝ご飯食べてから、思い出せばいいかな…。うん、咽も渇いたし…」

両手を思い切り、天井へ向かって伸ばして、うーんと背伸びする。

「さて、と。千歌音ちゃんを待たせると悪いから、早いとこ着替えて………」

そしてボタンを外そうとして着衣にかけた手を、はたと気づいてとめた。

――姫子は、白地の着流しのような寝間着を身につけていた。

「あれ、私、こんなの着てたっけ…?
 それに、千歌音ちゃんのさっきのあの格好って……」

 

 

その頃…姫宮家の別室で―――。


黒髪の少女は、薄紫色のパジャマと下着一式を手にしていた。
物憂げな瞳に光る一筋の涙。

その衣類を両腕でしかと抱き締めて、愛撫するように口づけをしている。
それに 確 か に 昨 日 ま で 、袖を通していた人物の姿を思い描き、
その身体の感触を思い起こし、その名を幾度も囁きながら……。


千歌音は敢えて、身も心も結ばれた前夜の記憶を、姫子から一時的に抹消していた。

最愛の人を巫女の宿命から守りたいが故に、逆に傷つけてしまう
あの「衝撃の夜」を 今 晩、迎えるために。
姫子の運命と世界の行く末をただ一身に背負うため、
自分を慕う姫子の心をひたすら欺き続けるために。


一体、千歌音はどうやって姫子から蜜月の夜の記憶を消去したのか?
その謎の解明は、二人が初めて結ばれた数時間後に遡る―――。

 

――――。

夜明け前になって、千歌音は目を覚ました。
そのすぐ傍らで、すーすーと音を立てる姫子のかわいらいしい寝息が聞こえる。
姫子は身じろぎひとつせず、ぐっすりと寝込んでいる。


睦みあいの行為の後―――。
姫子は千歌音に腕枕をしてもらいつつ、二人は睦言に興じて、心は癒されつつも
その身はすっかり疲れきって、一糸纏わずにお互いの素肌で暖めあいながら、
眠りに落ちたのだった。
それは、千歌音にとって束の間の至福のひと時であったことだろう。


千歌音は姫子の寝顔を眺めたのち、こめかみのあたりに軽くキスをする。
姫子は依然として、瞼を閉じたままだ。

千歌音は、口元を妖しく綻ばせる。

「薬がよく効いてるわね……」

どうやら数時間前に与えた睡眠薬の効果がてきめんのようだ。
昨晩、解熱剤に紛れ込ませた睡眠薬を、千歌音は姫子に気づかれないように、
わざと口移しで与えたのだった。
その催眠効果は服薬して数時間後に表われるものであった。

千歌音は、姫子の頭の下から腕をそっと抜き取った。
衣擦れの音もなく下着を身に着け、緋色のガウンを羽織る。
こっそりベッドから身を滑らすと、足を忍ばせて隣室に向かう。

 

隣室から戻ってきたときの千歌音は、手に衣類を携えていた。
白い上衣に朱袴といった巫女装束の出で立ちで。
千歌音は、手早く横たわる姫子の裸体に、手にしたその衣装――
自分のものと色違いの紫苑の巫女服――を纏わせたのだった。

千歌音の足は、さらに室内のサイドテーブルに向かう。
その引き出しの中を探って、何かを取り出した。

再び、姫子の前に戻ってきた千歌音の手には、一口(ひとふり)の小太刀が握られている。
それは、姫宮家当主が先祖代々継承してきた「伝家の宝刀」であった。

その柄は黒塗りの地に金箔で螺鈿の紋様をあしらってある。
その造りから相当高価なものと分かる。

 

千歌音の右手が神妙な手つきで、スラリ、とその鞘を抜く。

刀身が美しく弓形に反り返っていて、刃毀れひとつない。
よく手入れされた刃先は、持ち主の冷静で几帳面な性格を物語っている。
鋭利な剣先が妖しい光沢を放っている。

その鏡のように磨き上げられた刃の平面に、持ち主の少女の
暗く思いつめたような表情が映し出されている。

さらにその刀の抜き身を、寝ている少女の首筋近くに寄せた。
今度は刀身に姫子の斜め横顔が映っている。

姫子は、あいかわらず無邪気に寝そべっている。

千歌音は語りかける。

「貴女が悪いのよ…姫子。
 貴女が大神君とのファーストキスの話をしたから。
 貴女が私の月の巫女としての記憶を知りたがったから。
 そして……貴女が私の『本当』に気づいてしまったから………」

 

千歌音は、その小太刀を勢いよく振りかざした。

―――ヒュンッ!  
        ―――スパッ……パサッ………。


千歌音の華麗な剣捌きによって、懐剣の刃先が弧を描くようにして宙を舞い、
振り落とされる。
空気と同時に何かを颯爽と切る音。
数秒遅れて何か軽いものが、はらはらと空を漂いながら床に落ちる音が、聞こえた。

千歌音はもう一度、今度はゆったりと抜身に纏まりつくものを振り捨てるように、
空をヒュッとなぎ払った。
まるで、自分の心を一刀両断して、吹き溜まりになった
迷いだけを薙ぎ払うかのごとく…。

「相変わらず、いい切れ味ね……」

その呟きを発した口元がにやりと微笑んだ。
少女の凍てつくような、けれど崇高ささえ感じさせる闇の瞳が、妖しい輝きを放つ。
真冬の夜、地面に張った氷に映し出された曇り空から時々覗く月光のように。

刀剣を眼前で垂直に構えた千歌音。
正面からみれば、刀身で切り分けられた左右の顔が月光の射光によって、
陰と陽ほどに異なる印象を醸し出している。


姫子は、糸の切れた操り人形のごとくに横たわっている。

……その寝息は聞こえない。


千歌音は左手に持ち替えた懐剣で、微塵の躊躇いもなく、
右の人差し指の先を軽く切りつけた。
白く長い指の腹にスパッと一筋の線が入って、肉の切れ目から瞬く間に
じわじわと血が滲んでくる。

千歌音は、指先の痛みなどものともせず、眉ひとつ動かさない。
彼女の瞳は、自分のものであるその深紅の液体が指を伝って手首の付け根まで
流れ落ちる様と、もの言わぬ姫子の安らかな顔とを、交互に捉えている。

今にも床に零れそうなほど血を滴らせる指を、千歌音は口に含む。
流れる血を唇で吸い寄せる。

そしてその血に塗れた唇で、姫子の甘い唇に濃密な接吻をする。
あの深く咽喉の奥に至るまで、姫子の口内を蹂躙していくような情熱的なキスを。

そして、真っ赤に染まった姫子の唇を渇かぬうちに、
無傷の小指と薬指の先で優しく拭った。

 

千歌音は、たった今、眠り姫の唇を奪ったその口で、
鞘を納めた刀剣の柄にいとおしそうに、しかし妖しい口づけを施してゆく。
その後、小太刀は大事そうに千歌音の着衣の懐へ隠された。

そして、床に散らばった数十本の短い髪の毛を静かに掻き集めて、
束にして掌で押し潰さんばかりに握り締めた。


その毛髪の元の持ち主――。
紅茶色の髪の少女は、身じろぎひとつせず………未だ深い眠りに落ちていた。

千歌音は、独り言を呟く。


  昨晩は姫子に押し切られて、思わず積年の想いを告げてみたけれど…。
  姫子…私は貴女を愛しているから。
  「貴女」を今度は絶対に失いたくないから…。
  巫女の悪しき宿命から救うために、
  私は 今 日 の 晩 こそ、この刀剣で、
  すでに至るところ、愛して慈しんで慰めて、知り尽くしてしまった
  貴女の大事な「カラダ」を貫くの………―――。

 

神無き月に邂逅した二人の巫女のキスには、深い秘密がある。
それが、記憶の解放と封印、人格の生成と消滅の手段であることを、
今の姫子は知らない。
記憶を再生したはずの姫子の頭の片隅からその事実が、千歌音の仕業で、
すっぽり抜け落ちていた。

千歌音とのファーストキスは、
姫子の生誕と陽の巫女としての降臨を祝い、
千歌音の河原でのキスは、姫子の復活と前世の記憶へのニアミスを生じ、
千歌音との契りを交わした前夜のキスは、運命の二人の絆を深め、
今また、千歌音の血塗られたキスが宿命のために、その絆を引き裂こうとする。


そして前世の月の巫女のキスは、陽の巫女の転生と再会を願って。

想い人を自らの手で殺めたことへの悔恨のために、
太古の月の少女は太陽の少女の記憶を吸い取ったのだ。
逝く者の最後の「一息」と「純潔の血」とともに…。

 

オロチの復活とその封印、すなわち世界の崩壊と再生のためには、
二人の巫女のどちらかが命を捧げなければならない。

世界のはじまりとおわりに、乙女の穢れなき身体と「純潔の血」の奉納が必要なように、
二人の巫女自身の輪廻にも二人の生気と血と接吻とが関わっている

…のかもしれない。

千歌音の姫子への陵辱は、陽の巫女の純潔を奪うことで、
姫子を犠牲から救う最後の「奥の手」であった。
そして、その「奥の手」の小道具は今……。
 
来るべき世界の危機に、自己破滅的なシナリオを実行するために、
千歌音は姫子に悲しい嘘をつく。
 
「この物語」は、悲壮な決意に身を固めた月の巫女、姫宮千歌音が望んだ可能性
もしくは一炊の夢に過ぎない……。 

 


―――唇だけが知っている二人の乙女の愛の絆と運命と歴史。


少女たちの命運と、世界の行く末を握る鍵は、この時点では、
もう一人のヒロイン、姫宮千歌音に委ねられていた。

けれど、千歌音も今は気づいていない。

姫子の昨晩の記憶の封印が実は不完全であったこと。
姫子のカラダに刻んだ二人だけの感覚の絆が残っていたこと。
それゆえ、近い将来の狂気じみた情事でさえ、一夜明ければ、姫子にとっての
忘れがたい思い出に変わること。
姫子が、千歌音の心にしまっていた『本当』に、気づきはじめてしまうこと。

それゆえ、最終局面で、自分の夢見た決着―姫子の腕の中での末期―に加え、
転生による魂の救済と輪廻からの解放が、全てを悟った姫子の側からの
口づけによって成就されることに………―――。

 

 

銀月の嵐の夜の当日の、静かな朝に、

紅の巫女服を身に纏った月の少女の真っ赤に濡れた唇が、太陽の少女との
二人だけの真実をそっと呟く―――。


―――私たちは

  キスで現世に生き返って、     rebirth in this world by kiss,
  キスで記憶を思い返して、    remember what we were by kiss,
  キスで前世に舞い戻って、    return to another world by kiss,

  そしてキスで物語をひっくり返す  reverse our story by kiss,


       何度でも、生まれ変わって、出会って信じて、ときには傷ついて、
       恋に落ちては、二人だけの想い出を重ねるために―――。

 

【完】

 

 

最終更新:2007年04月21日 18:00
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