お日様の香りのするダブルベッドでじゃれあっていると姫子が突拍子もないことを言い出した。
「将来お嫁さんになる時は、やっぱりウェディングドレスが着たいなぁ」
「およめ…さん?」
「うん。千歌音ちゃんも将来、お嫁さんになるでしょ?千歌音ちゃんはドレス似合うから、羨ましいなぁ」
「あ…そ、そうかもしれないわね……」
曖昧に頷きながらも千歌音は姫子の言葉に大きなショックを受けていた。
千歌音にとって姫子は唯一無二の存在であり、姫子もそう思ってくれていると自惚れていたからだ。
つい先程だって、お互いに対する愛を確かめ合ったばかりなのに…。
姫子にとって私は、一時の安らぎを求める対象に過ぎない存在なのだろうか。
「大神君もタキシードがバッチリ似合いそうだよね」
「…ええ、そうね。…きっと似合うと思うわ」
大神ソウマの名が出てきて、心の臓が高鳴るのを感じた。
姫子は私よりも、彼のことが…
タキシード姿の彼と、ウェディングドレスを着た姫子が手を取り合って赤い絨毯を歩く姿が脳裏をよぎった。
ひどく寂しくなった私は姫子の背に腕を回し、ゆっくりと、確かめるように抱きしめた。
「どうしたの?甘えん坊の千歌音ちゃん」
「いつか…っ」
声が震えた。姫子の肩口に寄せた瞼も。
『姫子は私の前から消えてしまうのね』なんて、とても言葉にできなかった。
「えっ?」
それを感じ取ったらしく、姫子は驚いて顔を覗き込んでくる。
「千歌音ちゃん、…どうして泣いてるの?私何か、ひどいこと言ったかな?」
「いいえ、なんでも、なんでもないの」
「あ、もしかして」
額に姫子の唇が当てられた。まるで子供にするようなキスだ。
「千歌音ちゃん、大神君の名前出したから不安にさせちゃったかな?」
ごめんね、と今度は頭を撫でてくる。
顔を上げて姫子を見つめると、なんだか嬉しそうに微笑んでくれた。
「私がお嫁さんになりたいのは、千歌音ちゃんだけだからね」
だから、心配しないで。泣かないで。
感極まった私は姫子の腕の中で泣いてしまった。今日の私はまるで子供のよう。
「もちろん千歌音ちゃんも私以外のお嫁さんになんてなっちゃだめだからね」
「うん…うんっ…」
「二人でお揃いのウェディングドレス着ようね」