夜の空気に、秋の風が混じり始めたのを肌で感じる。
風呂から上がった後自分の部屋で用事を済ませて千歌音のもとに行くと、千歌音の
部屋は何とも言えない香りが漂っていた。
「いらっしゃい、姫子」
千歌音がふんわりとやわらかく笑う。月の見える窓際に置かれたテーブルには、
ワインとチーズ、他に何種類かのおつまみ。それに紅茶のセットとブランデー。
「わ…今日はどうしたの?千歌音ちゃん」
手招きされてパタパタと千歌音の元に駆け寄る。
なんだったっけ、この匂い。
くん、と姫子が鼻を鳴らすと、千歌音が微笑んで窓枠にアロマポットを置いた。
「良いローズの精油が手に入ったの。クラリセージでも良かったのだけれど…姫子、
嫌いじゃなかったわよね?」
「うん。いろいろあるからちょっと分からないけど…素敵な香り」
薔薇の香りは大好きだった。千歌音に一番似合う花だと思うし、二人の秘密の場所を
思い出して、優しい気分になれるから。
「落ち着くでしょう?ローズは甘い夢を授けてくれるそうよ。きっとよく眠れるわ。さあ、座って」
千歌音に椅子を引かれて腰掛けると、千歌音はクーラーからワインを抜いて姫子の
グラスに注いでくれた。なんだかお姫様にでもなったような気分で、ドキドキした。
本当は姫子がそうしたいくらい、千歌音のほうがお姫様にふさわしいのに。
「あ、ありがとう…」
微笑む千歌音を上目遣いに見上げる。やっぱりものすごく格好良くて素敵だった。
千歌音は自分の分を注ぐと、姫子の向かいに腰掛けてワイングラスを掲げた。
今夜は月夜。照明の落とされた室内に慣れたのか、月の光を浴びる千歌音が妙に眩く
姫子の目に映る。濡れて輝く髪が、瞳が、艶のある唇が、白く滑らかな手が、闇の中に
はっきりと浮かび上がっていて、本当に美しくて、そして少しだけ怖かった。
「乾杯」
煌めく瞳とまっすぐに視線を交わす。
「…かんぱい」
グラスに口をつける。
きっと、こんなに明るかったら顔が赤くなってるの、見られちゃってるんだろうな。
少し恥ずかしいと思ったけれど、千歌音はそれ以上姫子を見詰めるでもなくグラスを
傾けて、姫子にチーズとチョコレート、クッキーなどのお菓子を取り分けてくれた。
「美味しい?」
「…う、うん」
姫子の好きなもの、嫌いなものを千歌音は知り尽くしているから、取ってくれるもの
全て大好物ではずれがない。クッキーやチョコレートなんかはまさに姫子のためだけに
用意されている。その証拠に千歌音が取るのはチーズにハム…とワインに良く合う定番の
おつまみばかりだ。
詳しくない姫子でも高いのだと分かる上等なワインは、やっぱり良く分からない風味だった
けれど、とても飲みやすかった。
ついつい姫子が飲み干してしまうと、すかさず千歌音は姫子のグラスに二杯目を注ぎ足した。
「あ…千歌音ちゃん、わたし、もう…」
頬が火照っているのが自分でも分かる。千歌音と違って姫子はお酒を飲みなれていないのだ。
「良いでしょう?明日は学校も休みなんだから…」
「そうだけど…」
今日はどうしたのかな。
たまに千歌音が香を焚くことはあるし、二人でお酒も飲む事がないわけではないけれど。
千歌音の手が、姫子の頬に触れた。
「あ…」
冷たい手の甲が姫子の頬を優しく慈しむ様に撫でる。酔ってぼんやりした目を瞬かせながら
見詰めた千歌音の瞳は、なんだか悪戯っぽく輝いていた。
「もう酔ってしまった?頬が火照っているわ、姫子」
「うん……ちょっと酔っちゃったかな…」
千歌音の手が去っていく感触に、思わずため息が漏れた。
心臓がドキドキする。
どうしてだろう。
「……。だいぶ、酔っちゃってるみたい」
まともに千歌音の顔が見られなくて、でも月を見上げる気にもならなくて。
姫子は俯いてグラスに唇をつけた。
「いらっしゃい、姫子」
「ん……」
ベッドに横になった千歌音は、掛布をめくって姫子を迎えいれた。頷きながらごそごそと
その空いたスペースに潜り込んで、姫子は枕に頭を落とした。
しばらく二人でグラスを傾けて、最後に千歌音が紅茶を淹れる頃には、姫子はすっかり
ふらふらになってしまっていた。
おかしい。姫子はいつもならこのくらいでこんなに酔ったりはしないのに。
薔薇の香りが良くなかったのだろうか。でも、姫子はこの香りを好きと言ってくれた。
どこか体調が悪くて酔ってしまったのかも、と心配に思ったけれど、これで今日は
すんなり寝入ってくれるだろう、と安心もしていた。
千歌音が姫子の身体にシーツを着せ掛けて整えていると、姫子が口を開いた。
「千歌音ちゃん…何かあったの?」
「え?」
「だって…あ、お香もう消した?」
「ええ、火をつけて寝たら危ないから」
それでも室内にはまだ香りがふんわりと漂っている。そんなにきつくない、心地よい香り。
千歌音もそれほど詳しいわけではなかったけれど、鎮静・眠りを促す効果があるという
薔薇の精油の香り。
姫子が千歌音の手を取って頬に当てる。
「良いにおい」
頬に手を当てたまま、姫子は口元を緩めた。千歌音の手はそのまま姫子の頬と枕の
間に挟まれて身動きが取れなくなってしまう。
嬉しくなって空いた手で姫子の髪を梳くと、姫子はくすぐったそうに笑って千歌音の手に
頬を摺り寄せて、唇を押し当てて――思い出したように口を開いた。
「……あっ、そうじゃなくて、どうして今日ご機嫌だったのかな…って。
何か良いことあったのかな」
「良いことがなかった訳ではないけれど。
単に、明日がお休みで…そうね、月が綺麗だったからかしら」
「それだけ?」
姫子は重そうなまぶたを押し上げて千歌音を見た。それまでどおり千歌音は微笑んで
姫子の髪を梳いて、
「ええ」
と頷いた。良いことがあったわけではない。言うなら、姫子と一緒に居られたから今日だって
良い一日だったけれど、良いことがあるとすれば、これから。もう日付が変わっているから、
今日になるのだろうか。
今日は、姫子と久しぶりに外でデートする予定だから。
「そうなんだ。…お月見、かぁ…」
不意に切なげに瞳を揺らして、姫子はぎゅっと千歌音の背に手を回して抱きしめた。
胸の谷間に顔を埋めて額を押し付ける。
「ひ、姫子?」
「あたたかい…千歌音ちゃんはちゃんとここに居るんだよね?」
困惑する千歌音の胸に熱っぽい吐息が掛かった。
「え…」
「居なくなったりしないよね」
急にどうしたのだろう。酔っ払ってしまっている…のは分かっていたけれど。
「どうして?私は居なくなったりなんてしないわ、姫子。…だから、もうお休みなさい」
「あんまりやさしくされると、不安になっちゃう。…怖いんだもん……」
「え?」
「千歌音ちゃんが居なくなっちゃいそうで怖いの…。千歌音ちゃんは綺麗だから。
目の前に居るのが本当だなんて信じられないくらい、綺麗だから…」
抑えた声、震える吐息で姫子は吐き出すように言葉を紡いだ。酔って、情緒不安定に
なっている。
「お月様からお迎えが来ちゃうんじゃないか、って…」
「姫子…かぐや姫じゃないんだから」
姫子の声があまりに真剣だから安心させようと軽く冗談っぽく言ったのに、姫子は首を
振って千歌音の背中に回した手に力を込めた。
「千歌音ちゃんはかぐや姫よりずっと綺麗だもん」
「お迎えが来ても、私は姫子をおいては行かないわ」
「千歌音ちゃんのうそつき」
それを言われると、辛い。確かに千歌音は姫子に嘘をついて、月に――月の社に帰った
事があったから。
「…行っても、戻ってきたでしょう?帰ってきたでしょう?姫子のところに」
「うん…。でも、もう離れたくないよ……」
「私もよ、姫子」
「千歌音ちゃんには月が似合って、月の光に照らされると、本当にここに居るのが信じ
られないくらい綺麗で……いやなの」
「ここに居るわ。ね、姫子…感じるでしょう?」
胸に耳を当てさせて抱きしめる。
「……うん。…あたたかいね、千歌音ちゃん…。心臓の音、聞こえる……」
やっと落ち着いたようで、姫子は千歌音の背中に回した腕の力を緩めた。相変わらず
胸に顔を埋めたままではあったけれど。
「でも…そうね、月光が嫌なら、カーテンを閉めましょうか」
「あっ、やだっ!千歌音ちゃんいっちゃやだ…っ」
酔っていることもあるだろうけれど、姫子をこんなに不安にさせるのはこの明るい満月だろう。
千歌音が上半身を起こしてベッドから出ようとすると、姫子が千歌音の腕に抱きついて引き止めた。
「姫子?」
「そっち、行かないで…。明るくても大丈夫だから。眠れるから…そっち行っちゃやだ」
ちら、と窓に目をやる。大きく取られた窓からは、白々と光を放つ満月。
心なしかそれが大きく見えて、いつもこんなにはっきり見えただろうか、と少し奇妙に思った。
秋、月見には絶好の時節だからだろうけれど、確かに怖いくらいに美しい月だった。
「姫子…分かったわ。じゃあ、このままにしておきましょう」
「ほんとう?いかないでくれる?」
舌が回らない姫子は、少し言葉遣いが幼い印象を受ける。首をかしげる仕草なんかも、
いつもよりずっとあどけなくて、可愛らしかった。
「…行かないわ、姫子…ええ、きっとよ」
千歌音は浮かしかけた腰を戻して、姫子を抱きしめた。柔らかくて暖かくて、愛しい感触。
姫子も千歌音の胸に頬を摺り寄せて嬉しそうに笑う。
「うん…良かった。今度こそ、何があってもいっしょだからね…千歌音ちゃん」
「姫子…」
可愛い。愛しい。
見上げてくる潤んだ瞳に根負けして、そっと唇を重ねた。
「ん……」
「…っ、千歌音ちゃん…」
「さ、もう眠りましょうか。明日はデートだから、しっかり寝ておかないと」
そのためのお香、そのためのアルコールだ。姫子は翌日が休みだと、少し頑張りすぎて
しまうから。姫子は元気でも、千歌音は翌日体力がもたない。
「えっ?…あ、う、うん…」
姫子の肩を押して、一緒にベッドに横になる。
それにしても……
「なぁに?千歌音ちゃん?どうかしたの?」
千歌音の口元が綻んだのを目ざとく見つけて、姫子が首を傾げた。先程から千歌音の
手を頬に当てて、甘えるようにキスと頬擦りを繰り返している。
「なんでもないわ。お休みなさい、姫子」
とろんとした目で千歌音を見上げる姫子の額にそっと口付ける。
こんなに甘えん坊で可愛い姫子を見られるのだったら、たまには酔い潰すのも悪くない。
姫子の背中に手を回して抱き寄せて、千歌音は目を閉じた。
――ドキドキして眠れないよ……。
両頬に触れる柔らかなふくらみ。ぎゅっと顔を埋めると、窒息してしまいそうな深い谷間。
背中に回されている暖かな手。
はぁ…と息をつくと、千歌音の身体がぴくりと跳ねて、艶っぽい呻きがもれる。
息を吸い込めば甘い香り。お香と、石鹸と、シャンプーと…そして千歌音自身の
香りが混じった、なんともいえない香りが姫子の官能を刺激する。
どうしたって、寝られるはずがなかった。
先ほどまでは酔いで眠かったのに、千歌音となんだったか良く覚えていない
けれど色々と話しているうちに、なんだか目が覚めてしまったのだ。
でも、薄い一枚の夜着を通して伝わってくる千歌音の鼓動は落ち着いていて、
平静そのもの。呼吸も穏やかで身体からは力が抜けているから、寝る準備に
入ろうとしているのが分かる。
軽く腕をつついてみるけれど、ほとんど無意識に姫子の背中を軽く撫でて、
また動きが止まる。
同じ学生の身分でも、千歌音は姫子と違って毎日とても忙しいから、きっと疲れが
溜まっているのだろうと思う。
だから、お酒を飲んで早く寝てしまいたいのは分かるけれど。
こんなのってないよ……
抗議の意も含めて、姫子は千歌音の肌を吸った。
「ん…」
「起きて…でないと、いたずらしちゃうよ、千歌音ちゃん…」
囁いて指先で鎖骨をつぅっとなぞる。千歌音はくすぐったそうに笑った。
ぎゅ、と胸の谷間に顔を埋める。胸の真ん中、深い谷間を舌で舐め上げて、
心臓の真上を強く吸った。
「んん……」
千歌音が軽く身じろぎする。
服の上から豊かな胸に手を置いて、そっと撫でる。胸の先あたりを指先で
くすぐっていると、熱い吐息が漏れて、千歌音がぼんやりと目を開けた。
薄く開かれた瞳は潤んでいて、どこを見ているのか、姫子が見えているのかさえ
定かではない。けれど――
そのまま千歌音は姫子の頭を抱え込んで胸に押し付けた。
…していいって事だよね……?
姫子は千歌音の夜着を引っ張ってずらすと、それだけでこぼれ出た胸を両手で
揉み上げた。
「ぅん…っ、あ」
揉み甲斐のある豊かな胸。姫子のそれとはまったく違って少し嫉妬してしまうくらい。
「は、ん……っ、んん…っ」
口に含んで唾液に濡れた桜色の蕾を優しく指先で摘んで刺激すると、千歌音の
口から甘い声が漏れて、千歌音の腕は一層姫子の頭を抱き寄せた。
「うん…ちゃんと、してあげるよ、千歌音ちゃん…」
心臓の鼓動が痛いほどに胸に響いて、うるさかった。千歌音の鼓動も先程まで
とは打って変わって早鐘を打っていた。
ちらりと千歌音の顔を見上げる。大丈夫、嫌がっていない。
まるで初めてそうした時のように緊張しながら、姫子は千歌音の胸の先を、口に含んだ。
「あ…あっ、ん!やぁ…姫子…っ、姫子、姫…子…っ」
千歌音の唇から、押し殺した声が漏れる。
――これ以上ドキドキさせないで欲しい。
姫子口の中で次第に硬く立ってきたそれに歯を当てて、かり、と噛んだ。
「あっ…!姫、子っ……って、えっ?!姫子!?」
目を開いた千歌音が、驚いたように姫子の肩を掴んで胸から引き剥がした。
「あっ、やだ…」
「な、な、何を…」
「なにって…千歌音ちゃん、起きてなかったの?」
「えっ?」
「だってずっと感じてたでしょ?私の名前も呼んだし、抱き寄せてくれたし、受け入れてくれた
じゃない」
「感じ…あっ」
姫子はむき出しの乳房を手で押し上げて、先端を摘んで見せた。
「ほら…こんなに。…千歌音ちゃん」
姫子が笑うと、千歌音は顔を真っ赤にして両手で覆った。
「夢だと…思って」
「可愛い……千歌音ちゃん。夢に見ちゃうくらい、私にされたかった?」
「……っ」
「夢でも、良いよ…。ね、させて。千歌音ちゃんはリラックスして、何もしなくて良いから。
うんと気持ちよくしてあげるから」
ちゅ、と薄紅く染まった胸先にキスを一つ。硬くなった乳首を舌でつんつんと突付いて、
先端の一番敏感な部分をくすぐるように刺激する。
「いぁ…っ!やだ…やめて、姫子…駄目っ」
「ん……、ふ、んむ…」
「あ…もう、姫子…駄目、明日は…明日は一緒に街に出るんでしょう?」
再度、千歌音の胸から引き離されてしまった。
「ん…。そうだけど、でも…」
「駄目よ、姫子。お願いだから今日は我慢して?先週のデートだって、お流れになって
しまったのだし…ずっと楽しみにしていたのだもの」
「私だって楽しみだよ?…でも」
「ね、姫子。今日はおとなしく寝ましょう?」
千歌音がなだめるように姫子に微笑みかける。優しくて、綺麗で、姫子の大好きな
笑顔だけれど…。
じゃあ、この身体の疼きはどうしたら良いんだろう。
他の誰でもなく、千歌音が姫子を駆り立てているのに。
「うー……」
なんだか、泣きそう。
「千歌音ちゃんっ!」
「姫…きゃっ」
肩を押して、上に覆いかぶさった。
「ずるいよ、千歌音ちゃん…わたし、わたしどうしたらいいの?眠れないよ…千歌音ちゃんが
欲しくて堪らないのに…っ」
「どうしたら、って…言われても……」
姫子に肩を抑えこまれて、瞳を覗き込まれて、千歌音は顔を真っ赤にしてうろたえた。
目をそむけて、必死に姫子の熱い眼差しから逃れようとする。
「でも…駄目…我慢して頂戴、姫子……」
「――じゃあ、どうしてお酒飲ませたりするの?」
「えっ?」
千歌音が目を瞬かせる。
「ずるいよ。千歌音ちゃんの意地悪…っ!わたし、お酒飲むとしたくなっちゃうのに……」
「……!!」
「そうだよ、この間だって千歌音ちゃんがお酒飲ませたりなんかするから抑えきれなくて…
……デートできなくなっちゃったんじゃない」
「そ、そんな……。…そうだったの?」
千歌音は愕然と姫子を見上げた。深い色の瞳が潤んで、月光に煌めいている。
姫子が頷くと、途方に暮れたような表情になって、眉を寄せた。
それが、どうしようもなく可愛くて。困った顔が色っぽかった。
「千歌音ちゃん……ッ」
「ひめ…あ、く…ん、んん…っ」
赤い唇に姫子のそれを押し付けて、啄ばむ。柔らかくて、温かくて、濡れた感触に背筋が
粟立った。
もうとっくに限界は超えている。堪えられない。
衝動に従って、千歌音の舌を絡めとった。口内を嬲るように舌を差し込んで、満遍なく
愛撫する。唇の間からはいやらしい水音。目を開けば、眉を寄せてまぶたを震わせている
千歌音の紅潮した顔。
「ん…は」
「はあっ…」
千歌音の唇から流れる雫を舌先で掬い取って顔を離すと、千歌音が目を開けた。
駄目、と呟いて姫子の肩を手で抑えて上半身を起こすけれど、その瞳に見紛いようもない
快楽と欲情が滲んでいるのを、姫子が見逃すはずがなかった。
それで、最後に残っていたわずかな理性も崩壊する。
「ローズだったっけ…素敵な香りだけど、効果なかったみたい」
「え…?」
「全然眠る気になんてなれないよ」
耳たぶを噛む。喋りながら息を吹きかけると、千歌音の身体がその都度震えた。
「我慢できないよ…ごめんね、千歌音ちゃん…っ」
「姫――ん…っ」
千歌音の肩に手をかけて、唇と言葉を奪う。
そうして、理性と一緒に千歌音の身体をベッドに沈めた。
千歌音がローズに鎮静・抗抑鬱などの他にも『催淫』の効用があることを知ったのは、
それから数日後の事だった。