ザビvol 1の「第一回ビーンズ小説賞選考会」から 各審査員の感想。
若木:全体の完成度、ひとつの作品としての面白さは優れていました。舞台設定などもよくできているし、本人もこの作品世界を構築しようと頑張ったな、と感じられました。
読み終わったときに、なるほどこういう面白さを書きたいのか、というカタルシスがあって、そこは認めたいんですけど、主人公の完璧さ、十六歳の少女がなんでも出来て、彼女の言葉を周囲が素直に聞いて褒め称えるというのが、読み手にはどうも鼻持ちならない状況になってしまうように思います。
それを読み手が、この主人公に同化して、私もこんな風だったらと思える話にするには、よほど注意して書かなければいけないですね。この少女の未熟さであるとか、「私、こんな大きなことを言っちゃってできるのかしら」と思っている描写はありますが、大失敗はせずに話がとんとんと上手くいっちゃうから、結局この子はスーパーな女の子だということで話が終わってしまう。そこが気になり、私の中ではマイナス点でした。
あと、よくできた作品世界ではあるんですけど、ところどころデジャブがあるというか、こういう世界を知ってるぞ、という印象があるので、この作家ならではの、もっとはみ出した部分があれば良かった。
荻原:私は、主人公の正統的なことが見えすぎる、そのストーリー運びがイマイチでした。道徳的なまっとうさを語る上では、作品としてこなれてないままに、女の子がそれを体現してしまっているところがマイナス点です。
中国ものによく合う「人とは何か、統治とは何か」みたいなことに焦点を持っていく作品というのは良いんですが、これはやってはいけないんだ、という道徳の教科書のような書き方を、この人はしてしまっていますね。それをどうエンターテイメントに溶けこませるかがポイントではないでしょうか。
津守:私はかなり高いレベルの作品だと思いました。中華ファンタジーというジャンルはすでにメジャーなので、独自の世界観とは言いがたいのですが・・・・・・。でも中華ファンタジーを好きな人は多いですから。
キャラクターもそれぞれキャラが立っていて、ストーリー的にも、あるキャラクターの隠れた顔とか意外性があって良かったです。確かにヒロインは完璧すぎなんですけど、読者がそれになりきれればよいのでは。できれば、恋愛というかセクシャルな部分がもう少し入れば、華があるかな、とも思いました(笑)。
(太字部分は 原文も同じく太字になっています)
(cf)
・選考委員 荻原規子 津守時生 若木未生
(第一回から現在まで同じ)
・最終選考通過作
「呪われた七つの町のある祝福されたひとつの国の物語」喜多みどり ※デビュー作は別の書き下ろし
「混ざりものの月」瑞山いつき
「彩雲国綺譚」雪乃紗衣