ここはヒオウギシティ、手持ちのピカチュウとイーブイを連れて、俺は公園に来ていた
2匹のために木の実やポフィンなども持ってきており、所謂ピクニックというやつだ
「ふぅ…」
ベンチに座り、ピカチュウとイーブイが遊んでいるのを見ながらまったりとした息をつく
優しく吹きつける風や、噴水の水の音、そして愛情を持って育ててきた2匹の姿はまさに癒しといっていい
やがて2匹が遊ぶのをやめて、俺のところにまで戻ってきた
2匹揃って物欲しそうそうな顔で見つめてきている、わかったわかった
「よし、昼飯にするか」
オボンの実をピカチュウとイーブイに一個ずつ渡すと、2匹共シャクシャクと音を立てて食べ始めた
おいしそうに木の実を食べる2匹を眺めながら、自分も自家製の弁当を食べ始める
「ミィィ~…」
すると、昼食の途中でなにやら鳴き声のようなものが聞こえた、なんだ?
手持ちの2匹にも聞こえたようで、ピカチュウはピクピクと耳を動かし、イーブイは座ったままキョトン、としている
声のした方を見てみると、いつの間にか成体のタブンネが一匹、こちらを見ていた
「ミィ…」
タブンネは小さく悲しそうな声を出しながら、こちらを見ている
タブンネの視線の先にはポフィンや木の実の入った袋があった
恐らく野生のタブンネが臭いに引き付けられて、姿を現したのだろう
ピカチュウもイーブイもタブンネを不思議そうな目で見ている
しかしこのタブンネ、よく見ると随分と痩せている
身体もあちこち生傷がついており、毛並みも若干ボサボサだ
「ミィ~…ミミィ~ミィ~…」
俺がジッと見ていることに気付いたのか、タブンネが何かを訴えるような声で鳴いてきた
おそらく俺がエサを持っているのを見て、強請ってきているのだろう
(うーん…)
幸いポフィンも木の実もたくさん持ってきたので、タブンネにくれてやるぐらいの余裕はある
しかし、これはピカチュウとイーブイのために用意したもので…
俺はピカチュウとイーブイにあげてもいいか聞いてみると、2匹共喜んで承知してくれた
「ほれっ!これやるよ」
俺はタブンネにオボンの実を一個投げてよこしてやる
「ミィ!」
タブンネはオボンを受け取ると、嬉しそうに鳴いた
そしてペコリとこちらにお辞儀をすると、近くの茂みの中に姿を消してしまった
「…?」
俺は茂みに入っていくタブンネの後ろ姿を見ながら、若干疑問を感じた
てっきり今ここでオボンを食べ始めるのかと思ったのだが…
あの様子では食べ物に苦労してるのは間違いないだろうし、先程も腹を空かせていたはずだ
俺はあのタブンネが何処へ行くのか興味が出てきた
ピカチュウとイーブイには一旦ボールに入ってもらい、俺はタブンネの後を追って茂みに入っていった
「ミッミッ」
すぐに先程のタブンネは見つかった、手にオボンを持ちながらガサガサと草むらを揺らして歩いている
俺はなるべく音をたてないようにしながら尾行した、なにせ相手は
ヒヤリングポケモン、耳の良さはかなりのものだろう
「ミィ~!ミミィ~!」
しかし、どうやらバレることはなかったようだ
タブンネを追けながら、しばらく歩くとタブンネの巣のようなものを見つけた
タブンネは帰りを知らせるかのように鳴きながら、オボンを手に巣の中へと入っていく
俺はゆっくりと巣の近くまで歩いていき、巣の中の様子を窺った
「ミッピィ!」「ミィ~ミャゥ~」「ミキャッ!」
巣の中から複数のタブンネ鳴き声が聞こえてくる
そっと中を覗き込んでみると、あのタブンネの他にもまだ小さい子供のタブンネを3匹程見つけた
「ミッミィ!」
「ミピィー♪」「ミンミィ♪」「ミッミ♪」
むじゃきにじゃれあってた子タブンネ達だが、あのタブンネが帰ってきたことに気付くと、嬉しそうに鳴いた
なるほど、おそらくあの成体タブンネはこの子タブンネ達の母親だろう、子供のために餌を巣に持ち帰ったのか
「ミィミィ!」「ミッピャア!」「ミィ~ン!」
「ミィミミィ!」
母タブンネ(ママンネ)がオボンの実を子タブンネ(チビンネ)達に与えると
チビンネ達は歓喜の声をあげながらオボンにかじりつき、ママンネはその様子を嬉しそうに眺めている
「ミィ~…ミィ…」「ミィィ…」「ミャゥ…」
しかし育ち盛り食べ盛りのチビンネ3匹に対してオボン一個では明らかに足りない
事実、チビンネ達はあっという間にオボンを食い尽くし、ママンネに向かって物足りなさそうに鳴いている
「ミィウゥ…」
ママンネは困ったような、悲しそうな声で鳴くと、再び餌を探しに巣を出ようとした
「あっ…」
「ミィィ!?」
巣の入り口でばったりとママンネに出会ってしまい、俺は思わず「しまった!」と声をあげた
ママンネも俺に気付き、目を丸くしながら驚きの声をあげている
「「……」」
お互いに沈黙したまま数秒が過ぎる
「ミィ~?」「ミピィ!」「ミィミィ」
すると巣の中から3匹のチビンネ達が顔を出した
「ミィィ?」「ミッミィ!」「ミィィ…」
「ミッ…ミィ…」
チビンネ達は俺の姿を見ると不思議なものを見るような目でこちらを見てきた、人間を見るのが初めてなのだろう
ママンネは少し戸惑ったような声で鳴いた、まぁ餌を貰ったとはいえ巣まで追けられてこられたんだしな
しかしよく見てみるとチビンネ達も少し痩せているな
先程の食事の様子を見る限り、チビンネも満足に食べられていないのだろう
さらにママンネに至ってはまったく食べていなかったのだ、あの痩せようも納得だ
グゥゥ~
「ミッ…!」
すると、突然ママンネの腹の虫が鳴り出した
ママンネは素早く腹を押さえたが、腹の虫は鳴り止まない
「ミィ…ミゥ…」
そして、ママンネが遠慮がちにこちらを見上げてきた
言いたいことはわかってる、餌が欲しいのだろう
「ほらっ」
俺はオレンの実をママンネと、そしてチビンネ達にも一個ずつくれてやった
「……!ミィ!」
「ミッピィ~♪」「ミンミミィ!」「ミワァ~!」
ママンネはまるで感動したかのように声が出ない状態だったが、やがて礼を言うようかのように強く鳴いた
一方チビンネは嬉しさのあまりはしゃぎながら、オレンをあっという間に食べ尽くしてしまった
「じゃあな」
俺は別れの言葉を告げ、その場を離れようと歩き出した
そろそろこいつらとのピクニックに戻らなきゃな
「ミィ~!」「ミッミィ!」「ミィン♪」
するとチビンネ達が俺の足に群がり、もっとちょうだい♪とでも言いたげに俺を見上げてきた
チビンネ達は目をキラキラさせての期待顔だが、正直これ以上は流石にやれない
「ミィーッ!ミッミィーッ!!」
するとママンネが強く鳴きながら、チビンネを俺の足から剥がそうとし出した
「ミギュ~…!」「ミグゥ~!」
だがチビンネ達は俺の足にしがみついて離れようとしない、完全に懐かれてしまったみたいだ
だが俺はこいつらを飼ってやるつもりはなかった、別に生活に余裕がないとかそういう問題ではない
俺は腰のモンスターボールに入っているピカチュウとイーブイを見やる
この2匹は俺がタマゴから孵してからずっと育ててきたポケモンだ
たっぷりと可愛がり、そして時には厳しく育ててきた、もはや家族と言っても過言ではない
だがこのタブンネ達を飼えば確実に2匹に構ってやれる時間は少なくなるだろう、そんなのはダメだ
しかし…
「ミィミィ♪」「ミッミィ~!」「ミッミッ!」
チビンネ達はギュッとしがみついたまま離れようとしない
甘えた声で鳴きながら期待顔で俺を見上げている
「ミ…ミィ…ミ…」
気が付くと、ママンネが困ったような申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた、はぁ…仕方ない
見る限りこのママンネはかなりしっかり者のようだし、チビンネの面倒はママンネに見させればいいだろう
「いいよ、ついてきな」
俺はとうとう折れて、タブンネ達を家に連れていってやることにした
「ミィ!」「ミィ~♪」「ミィ~ン」
「ミィミ…ミッミィ!」
チビンネ達は喜びの声ではしゃぎ、ママンネは相変わらず申し訳なさそうな声で鳴いた
こうしてタブンネ達が家にやってくることになったのであった
最終更新:2012年10月06日 00:24