「わたしあのこがいいー」
ひとりの女の子が階下できのみを貪っているタブンネを指さした。周りにはそれ以外にも多数のタブンネが
広い部屋で同じようにきのみを食べたり、寝たり、互いに遊んだりしている。
「少々お待ちを」
少女のとなりに立っていた従業員らしき男がそう言って下へ降りていった。部屋にいるタブンネたちは生まれて以来悠々自適の生活をしており、
非常に甘やかされている。ただし一度も外に出たことがないばかりか、タブンネ以外のポケモンのことも知らない。
そんなタブンネたちが部屋の大きな扉が開き、男が一人入ってくるのに気がついた。
「ミッミィ~♪」「ミッミッ♪」
次々と男の周りに集まってくるタブンネたち、どうやら餌の時間と勘違いしているようだ。
「え~と、こいつか」
「ミィ~♪」
男はピンクの群れのから先程指名されたタブンネを見つけると、他をかき分けてそのタブンネの手を掴み、扉の方へと向き直り歩いて行く
「ミィーミィー」
他のタブンネたちが「私も私も」といった感じですがりついてくるが、男は無視して外へと出た。
外に出るときのタブンネの顔は「自分は選ばれたんだミィ」とでも言いたそうな自慢気な顔だった。
男とタブンネは長い廊下を歩いていき、やがて何かの部屋の前まで来た。
男が扉を開けると部屋の中では白い服を着た男達が忙しそうに動いていた。
「これ1番さんです。お願いしまーす」
「あいよー」
そう言って男はタブンネを白い服を着た別の男に引き渡すとさっさと出ていってしまった。
「ミィ~?」
タブンネが初めて見る光景にキョロキョロあたりを見回していると白服の男が優しく語りかけた
「タブンネちゃんこっちにきのみがあるよ、欲しいかい?」
「ミッ!」
タブンネはもちろん!と元気に返事をした。
「よし、じゃあこっちへおいで」
「ミィ~♪」
タブンネが部屋の奥にある個室の前に連れていかれると、個室の中には大きなきのみが置いてあったのが見えた。
「ミッミッ♪」
タブンネはきのみを見つけると、その体型にそぐわない俊敏さで個室の中へと飛んでいった。
ガシャン!
「ミッ!?」
その途端後ろで何かが落ちる音がしてタブンネが振り返ると、個室の入り口が閉ざされていた。
「ミィーー!!ミィッミィ!!」ドンドンドン!
タブンネが必死に入り口を叩くがびくともしない、タブンネが諦めて上を見上げると、顔に水滴が落ちてきた。
「ミィ?」
タブンネが不思議がる間に水滴はだんだん多くなり、ついには土砂降りの雨のようになった
ジャァァァァァ!!
「ミッミー!?」ザバザバ
部屋中に降るシャワー、タブンネは大事な耳をおさえてその水圧から守っている。すると壁の両側が開き、
洗車に使うようなブラシが出てきて回転を始めた。
グゥオオーン
「ミヒャアアアァァァ!!」
ブラシはタブンネを挟むとゴシゴシと体を洗っていく、タブンネはブラシとシャワーのせいで息もできない、
1分ぐらいしてタブンネが窒息しそうになったその時、突然シャワーが止み、ブラシも壁の向こうへと引っ込んでいった。
ガコン
それに合わせるように今度は入り口とは反対の壁が開いた。タブンネはやっとここから出られると思い、何ら疑問も持たずトテトテと部屋の外へと出た。
「あ~きた~!」
タブンネが外に出てまず見たのは、先程自分を部屋へ入れた白服の男と、同じ服を着た若者が1人、
さらにそれらと大きな机を隔てて座っている4人の大人と1人の少女からなる家族連れだった。
「ミッ!ミィ~ミィ~♪」
タブンネはこれ幸いとばかり少女に助けを求める。少女に媚びたのはタブンネの本能が一番助けてもらえる確率が高いと判断したからだろう。
しかし少女は笑っているだけだ。
「よっこいしょ」
「ミヒャッ!ミィミィミィ!!」
白服の男と若者は二人がかりでタブンネを持ち上げ、手際よく木の板の上に固定していく
ガチャッ!ガチャッ!ジョイ~ン
5分も経たないうちにタブンネは四肢を固定され、次にバリカンで以て体中の毛を刈られてしまった。
毛がなくなったので部屋の中でも非常に寒く感じる。
「ミシュンッ!ミィ~ミィ~」
まな板の上の鯉状態のタブンネは白服の男に向かって精一杯媚びて解放するよう求める。しかし男は聞く耳持たず、
大きな包丁を取り出し、それをタブンネの体と木の板の間に滑り込ませた。
「ミギャアァァァァァアアア!!」
途端に走る激痛、タブンネが男のほうを見ると何か白くてポワポワしたものを手にしている。見間違えるはずがない、自分の尻尾である。
タブンネにとって耳の次に大事なもの、いつも丁寧に手入れをしていた尻尾が体から離れていってしまった。
「ミィピャアアァァァアア!!」
タブンネが現実を受け入れる間もなく、今度は腹部から痛みが来た。驚いて腹を見ると、白くてまるまる太った腹に男が刃物を突き立て、サクサクと肉を切り取って行く。
「ミィー!!ミビァーーー!!」バタバタ
タブンネが暴れるが、四肢が固定されているため全く動かない、そんな内に白服の男が肉を一塊切り出し、机の上へと置いた。
ジュウウウゥゥゥ
よく見るとそれは机ではなく熱された鉄板、そこに置かれた肉は瞬く間に焼き上がり、香ばしさが食欲をそそる。
「ミィ・・・・ミィ・・・」
目の前で焼きあがっていく自分の体の一部、タブンネは身体的ショックと共に精神的ショックも相当受けていた。
「うまい!」「おいし~」
焼かれたタブンネの肉を次々と頬張る家族連れ、あの少女も満足そうだ。
「ミヒッ・・・ミィイイィィィ!!!」
とうとうタブンネは泣き出した。なんで私がこうなるの?なんであんなに美味しそうに食べるの?
そんなにタブンネのお肉は美味しいの?そう言えばあの部屋から出て行ったタブンネが戻ってくることは一度もなかった。
みんな外で幸せに暮らしているのだとばかり思っていた・・・・そうかみんな食べられたんだ。
タブンネは自問自答し、答えを導き出した。そうここはタブンネを使った飲食店、タブンネを連れ出した男はウェイターで、
タブンネを切り刻んでいるのは料理人、そしてそのタブンネを指名した客はさっき助けを求めた少女・・・
「耳をくれ」
客のひとりがそう注文すると、料理人はすぐさま耳の切除にとりかかった。
ザクッ!ズババババ!
「ミッ!ミババババババババァァァァァくぁwせdrftgyふじこlp!!」
急所を傷つけられたことに対する言葉にならない叫び、しかし虚しくもタブンネの耳は両方とも鉄板へと運ばれてしまった。
ジュワアアァァァ
またしても美味しく焼き上がる肉、それを食べた客は満面の笑みになる。耳はタブンネの中で一番激しく動くところのためよく締まっている。
「ミィミィ・・・・」
タブンネが虚ろな目で呟いている。どうやら幻覚を見ているようだ。
「そろそろですね」
それを見た料理人はそう言ってタブンネの拘束具を外し、肉が削られいくらか軽くなったタブンネを持ち上げるとそのまま鉄板へと仰向けに押し付けた。
「ミピャアアアァァァミギャアアァァァ!!!!」
我に帰ったタブンネが天井に向かって叫び、急いで鉄板から逃れようとするも、既に体は肉を削り取られすぎて動かない、必死なのは顔だけである。
その姿を見た家族連れは大爆笑、そんな顔もだんだん目が白く濁っていき、表情も固まってきた。
「よっこいせ」ゴロン
料理人がタブンネの向きを変えてもう片面の焼きに入る。タブンネはピクリとも動かない、
5分後料理人が完全に出来上がったタブンネの丸焼きの頭を落とし、頬の肉を切り分けた。
「タブトロです。美味しいですよ」
「本当だ!一番うまい!」
料理人がそう言ってタブトロを渡すと、客は感嘆の声を上げた。それもそのはずタブ肉の中で一番美味しい部位であるタブトロを、
肉の美味しくなるミィアドレナリンが分泌されるピークである絶望の瞬間を狙って丸焼きにしたのだから美味しくないはずがない。
どんどん肉は客の胃袋へと消えていく、最後に客はタブ肉のハツを食べて終わろうとしたが、この時驚いたことにハツはまだ微弱ながら動いていた。
タブンネは生きていたのだ。
「よくあることです。まあ新鮮だからいいでしょう」
料理人は落ち着いた口調でそう言うと、ハツに包丁を突き立てて完全に息の根を止めた。
10分後客たちはタブンネの肉を綺麗に平らげると、記念に尻尾を貰って帰っていった。
ここ「鉄板焼きミィミィ」は、肉の美味さもさることながら、生きたタブンネ一匹を客自身が選んで、
それを眼の前で捌いてくれるという点が好評である。皆もタブンネが肉を食っているイラストの看板を見つけたら足を運んでみてはどうか。
終
- 乙、このSS読んでるとなんだか知らんが腹が減るぜ -- (名無しさん) 2011-10-04 17:59:37
- 少女が一番心を動かしやすいって、少女じゃその状況を変えるのは難しいってことも分からんとか、マジ脳内お花畑 -- (名無しさん) 2012-08-21 00:28:33
最終更新:2011年05月08日 09:37