うちではタブンネを飼っている。 
離乳を済ませたばかりで、大きさは大人のタブンネの3分の1ほど。 
まだまだ遊びたい盛りで、よく部屋の中をトテトテと走り回っている。 
やんちゃで世話はかかるが、自慢の家族だ。 
……ある問題点さえなければ。 
俺の目の前では、タブンネが幸せそうな顔をしている。 
とてもリラックスした状態で「みぃ~」という鳴き声をあげている。 
誰が見てもほほえましさを感じる光景だろう。 
タブンネの首から下がゴミ箱の中に入っている点をのぞけば。 
これがうちのタブンネの問題点。 
それは、ゴミ箱に入るのがお気に入りということだ。 
別にゴミを漁るのが目的ではなく、本当にただ入るだけ。 
ゴミ箱に顔や体をつっこんで「みぃみぃ♪」と大喜びするのだ。 
タブンネにとっては幸せなのかもしれないが、飼い主としてはなんとしてもやめさせたい。 
お客さんの前でゴミ箱に入ったらみっともないし、誰かの家に遊びに行ったときに 
ゴミ箱に入ったりしたら、こっちが恥ずかしい思いをすることになってしまう。 
そもそも、ゴミ箱に入ること自体が不衛生だ。 
どうすれば、やめさせることができるのだろうか。 
こら! タブンネ!」 
タブンネを叱りつける。いつものことだ。 
ゴミ箱に入ってご満悦のタブンネを、ゴミ箱から引きずり出す。 
まったく、どれだけ叱ってもゴミ箱に入るのをやめようとしない。 
この褒められない趣味がおさまる日はくるのだろうか。 
それからタブンネは成長し、大人のタブンネの半分ほどの大きさになった。 
毎日のように叱っていた成果が出てきたのか、タブンネはゴミ箱に入ろうとはしなくなった。 
俺とタブンネがいっしょの部屋にいるときだけは。 
トイレや風呂のあとに部屋に戻ると、どうもゴミ箱に入ろうとした形跡があるのだ。 
ゴミ箱が倒れていたり、ゴミ箱からゴミがこぼれていたりだ。 
しかし、確証はないし、何よりその現場を見ていない。 
本当にどうしたものか。 
そんなある日のことだった。 
俺がトイレから戻ってくると、何やら部屋が騒がしい。 
どうしたと見てみれば、タブンネの足が生えたゴミ箱が転がっていた。 
ゴミ箱からは「みぐー! みぎー!」というタブンネの声が聞こえてくる。 
体がゴミ箱から抜けなくなって、もがくタブンネの姿がそこにはあった。 
俺がいない隙にゴミ箱に入って遊んでいたが、はまってしまって抜けなくなったというところか。 
体が大きくなってるんだから、昔と同じように突っ込んだら抜けなくなるのは当然だろうに。 
俺がトイレや風呂に行くたびこんなことしてたのか、こいつ。よく、今までばれなかったな。 
せっかく現場を見つけたことだし、ここはいい機会だ。 
「しばらくそのまま転がってろ。出てくるまでご飯はなしだ」「みぃ゛ー!?」
それから数分、タブンネの入ったゴミ箱は転がり続けていた。 
なんとか抜け出そうと奮闘していたが、両手がふさがっている状態では難しい。 
タブンネを飲み込んでいるゴミ箱が何度も床の上を転がっている。 
やがて、ゴミ箱の動きが止まり「み゛ぇぇぇ゛ぇぇ……」という声が聞こえてくる。 
何度もゴロゴロ転がっていたのだ。気持ち悪くなって吐いたのだろう。 
放っておくのもまずいので、タブンネをゴミ箱から引きずり出す。 
体を小刻みに震わせ、涙を流しながら「うえっ……ええ゛っ……」とえずいている。 
さすがにやり過ぎたか。 
「ほら大丈夫か?」 
いまだに吐き気がおさまらない様子のタブンネの顔をゴミ箱の中に向けさせ、楽になるようにと、 
ブルブルと震える背中をさすってやる。 
タブンネの顔は生気を失い、ときおり「うえっ……」と吐き気をこらえている。 
「ほら、こういうことになるんだぞ。もうゴミ箱に入るのはやめような」 
今回ので懲りてくれるといいんだけどな。 
翌日。 
開いた口がふさがらないという言葉を、俺は身を以て体験した。 
俺がトイレから帰ってくると、またもやタブンネがゴミ箱に入っていた。 
ただし、今日はゴミ箱が直立した状態でタブンネの体がはまっている。 
ゴミ箱からタブンネの足が天井に向かって伸びているのはすごくシュールな光景だ。 
ちょこちょこと足を動かして、どうにか脱出を試みるタブンネ。 
こいつ、昨日の今日でまったく反省してないのか。 
「もう知らん。そんなにゴミ箱が好きならずっと入ってろ」 
その声が聞こえたのか「み゛ぃ……」と悲しそうなタブンネの声が聞こえてくる。 
こうすればさすがに反省するだろう。たまにはきつい罰も必要だ。 
洗濯物をたたみ、台所で洗い物をし、ついでに風呂も沸かす。 
家事がひととおり終わると、タブンネのことが気になった。 
さすがに反省しただろうか。 
タブンネの様子を見に行くと、タブンネの足がピクリとも動いていないのがわかった。 
両足がだらりと力なく垂れ下がり、うめき声のひとつも聞こえてこない。 
「ちょ……タブンネ、大丈夫か!?」 
あわてて、力の抜けたタブンネの体をゴミ箱から引っ張り出す。
長時間、頭を下にしていたせいで、タブンネの顔に血液が集まり、顔がパンパンになっている。 
血液が集まったことで毛細血管が切れたのか、鼻血も流している。 
「タブンネ!」と呼びかけても「み…」と鳴くだけで、ほとんど反応しない。 
これはさすがにやり過ぎた。 
そのままタブンネを車に乗せて、急いでポケモンセンターに向かった。 
「みぃっ♪みぃっ♪」 
タブンネの顔に笑顔がはじける。 
あれから1年。 
あの日以来、タブンネはゴミ箱に入らなくなった。 
2日続けて痛い目にあったのがよほど効いたのだろう。 
俺が「ゴミ箱に入らないのかい」と聞くと、首をぶんぶんと横に振る。 
もうこりごりなんだろう。 
タブンネが入らなくなったゴミ箱。 
そこには今、タブンネの子どもたちが入っている。 
子どもたちが入ったゴミ箱をタブンネが持ち上げたり、ゆすったりすると、ゴミ箱の中から 
子タブンネたちの「ちっちっ♪」「ちぃ~♪」という楽しげな声が聞こえてくる。 
子どもたちの嬉しそうな声を聞いて、タブンネも楽しそうだ。 
その光景を見ながら俺は思う。 
もしかして子タブンネたちの趣味もゴミ箱に入ることになるんじゃなかろうか、と。 
(おしまい) 
-  ニックネームは、はいきぶつだな。   --  (名無し)  2022-09-13 04:42:19 
最終更新:2013年10月19日 15:19