もえもえタブンネ広場

街の外れにタブンネたちの住む広場がある。
愛好会がタブンネのために作った場所で、本来タブンネが生息するような森や原っぱを再現したものだ。
ホワイトフォレストのような場所だと言えば想像が付くだろうか、そこにタブンネたちが暮らしているのだ。
虐待を防ぐために広場の周りには高い柵が建っていて、一般人の立ち入りは禁止されている。入り口は東側にゲートが、西側に非常用の扉が一つずつある。
ゲート近くの建物には職員が5、6人いて、広場内やタブンネに異状は無いかを常に監視している。
親と死別した野良タブンネや人間に虐待を受けたID付きタブンネも自由に入っていいことになっており、
空腹や病気や虐待に脅えることなく、楽しく平和に日々を送れるこの広場はタブンネたちにとってまさに理想郷、天国だった。…だった。

ある日、一台の大型トラックが広場にやってきた。
勝手に中に入ろうとしたため建物から出てきた職員たちに止められたが、なぜか職員はみな言葉を失ってしまった。

運転席の男は奇妙な風貌であった。
ボロボロの、垢で汚れた白い衣服を身に付けていた。頭髪はボサボサで手入れをしていないことが一目でわかる。
しかし職員が絶句した理由はそれではない。男の顔に見覚えがあったからだ。
「え、園長……。」
凍える沈黙の中、ようやく一人の職員が発した声はひどく震えていた。

タブンネ広場には、あの忌まわしい事件が起きた日までは職員をまとめる園長がいた。
――あの日、いつものように職員がモニターで広場内の監視をしていると、木の陰に不審な人影が見えた。
数名の職員が向かってみると、そこには頭を割られたタブンネの惨死体と、タブンネの脳を夢中で啜る園長の姿が、園長だった狂人の姿があった。
何らかの精神疾患とのことだった。遠くの病院に収容され、二度と帰ってくることはなかった――

だが今、確かにここにいる。脱走してきたのか。男はただ職員たちを濁った目で見ている。
「ど、どうして…戻ってきたんですか」
先ほど男を園長と呼んだ職員が問うた。次の瞬間、その職員は急発進したトラックに轢き殺された。
他の職員全員は悲鳴を上げて逃げたが、追い付かれて次々と殉職した。

トラックが広場に入ると、その音を聞いてタブンネたちが集まってきた。
乗っている男がおやつをくれるとでも思ったのだろうか、タブンネたちはみな媚びたような笑顔で「ミッミッ」「ミィミィ」と可愛く合唱する。
合唱隊はあっという間に全滅した。柔らかいピンクの体がぐちゃぐちゃのミンチになってタイヤの下で混ざり合う。
それを見た他のタブンネたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。男はバンパーにタブンネの臓器を引っ掛けたままそれを追う。
タブンネの短足でトラックから逃げ切れるはずがない。まず一匹が追い付かれた。
トラックは真っ直ぐに加速し、タブンネに突進した。
衝撃。圧力。タブンネは背中から来たそれに耐えきれず、尻に爆竹を刺されたカエルのように破裂した。
「ミギィッ」という短い悲鳴と共に内臓が撒き散らされ、トラックの顔に鮮やかな化粧をする。
そして二匹目、三匹目。転んだメスタブンネと、妻を助けようとして駆け寄ったオスのタブンネ。男は急ブレーキをかけて立ち上がろうとしたメスタブンネを撥ね飛ばした。
胴体が滅茶滅茶に潰れ、露骨に飛び出した肋骨がオスタブンネの分厚い脂肪を貫通し肉を切り裂く。千切れた頭部が血の涙を噴き出しながらオスタブンネの引き吊った顔面にディープキスを浴びせる。
それを再び発進したトラックが踏み潰し、二匹は本当の意味で一つになった。

「ミィィィ!!ミッミミィ!!!」とパニック状態になりながらもタブンネたちは逃げる。逃げる。逃げる。運転席で何やら奇声を発しながら男は轢く。轢く。轢く。
可愛いタブンネたちはみな、ただの肉塊に変えられた。

男の乗ったトラックは草原エリアを越えて川エリアへと向かう。水棲ポケモンは一匹もいないがタブンネが川辺で泳いだり水浴びして遊んでいる、自然とは名ばかりのエリアだ。
男は川辺で遊ぶ数匹のタブンネを見るとすぐに轢き潰した。澄んだ水に紅が混ざる。
「ミッミィッ!?」と他のタブンネたちは何が起きたかわからないような顔でトラックを見たが、ナンバープレートに引っ掛かっている、口が耳まで裂け眼球が飛び出した仲間の生首が目に入ると血の気を無くして逃げ惑った。
川や林が幾つもあるので鬼ごっこはタブンネたちが有利に思われたが、男には馬力あるトラックと理性を無くした殺戮への欲望がある。
川に飛び込んで逃れようとしたタブンネを橋にして川を渡る。川は潰れた肉で埋め立てられた。
木々に紛れて逃げようとしたタブンネを突進で木ごと砕く。倒れた木が逃げるタブンネたちを下敷きにした。
中には草原エリアから外に逃げようとする賢いタブンネもいたが、真っ赤に染まった草木を見て腰を抜かしたところを見つかり赤い塗料の一部にされた。

草原、川と来て次は森エリアだ。タブンネ広場・死のオリエンテーリングはここが最終地点となる。

森エリアはタブンネの巣があちこちにあり、親子の仲睦まじい姿を見ることができる。
森で最初に男の前に姿を表したのは60センチ程の可愛らしい子タブンネだった。車が珍しいのか、ちょこちょこと無警戒に止まったトラックに近付く。
そして運転席の男を目にすると「ミッミッ」と鳴き両手を出した。木の実をくれと言っているらしい。
始めは可愛く催促していたが、男が何もくれないことに次第に腹を立て「ミィッ!ミッ!ミッ!」と悪態をつく。
すると何を思ったか、男はクラクションをけたたましく鳴らした。それを聞いて他のタブンネたちがあちこちから顔を出した。
子タブンネはさらに「ミミィッミッ!」などと怒りの声を上げ、なんとトラックに糞尿をかけた。他のタブンネたちは「よくやった」とでも言うように誇らしげにしている。
しかしそのタブンネたちの表情は一瞬にして凍り付いた。これから子タブンネがトラックの大型タイヤの溝を埋める肉片の仲間入りを遂げることを知ったからだ。
足を踏み潰されて「ギュミィィッ!ミィッ!ミミッ!」と顔を歪ませて罵りの混じった絶叫を上げる子タブンネだが、トラックが少しずつ、少しずつ前進すると子タブンネは許しを乞うような顔で「ミグッ…ミィッ?」と痛みに脂汗を流しながら媚びの鳴き声を発し始めた。
しかし現実は非情である。タイヤは容赦無く子タブンネを引きずり込み、肉のマットに変えた。
黙って見ていた他のタブンネたちが怒り狂いながら一斉に飛び出して来る。男がアクセルを踏むと鋼の野獣は血を求めて再び発進した。
マットの父とおぼしきオスの大きなタブンネが真っ先に攻撃を仕掛ける。カイリキーのような豪腕を振るってトラックに正面から突きの連打を放つ。
しかし放つと同時に拳が砕ける音が響き、父タブンネの両腕が筋肉の流れに沿って裂け大量の鮮血を噴き出した。所詮タブンネ、幾ら鍛えようとも子を守ることすらできないのだ。
父タブンネは舌をダラリと垂らし「グギミィィイイイ!!」と潰れるような声を上げる。
それが父タブンネの最期だった。急加速したトラックがぶつかった瞬間、父タブンネは悪魔に対する憎しみの内に肉片と化した。

他のタブンネたちは逃げ出した――巣に籠り子を守らなければ――と。ここに来て未だタブンネは己の無力さを理解しきれていない。
一匹のタブンネは巣に戻った。良かった、子と生まれたばかりの赤ん坊は無事だ。何も知らない子供たちを抱き締め、背中を丸めて震えていると巣が粉々になりタイヤが突っ込んできた。
振り替えると同時にタブンネ親子は地獄に旅立った。

薮や地面を見てみると、不自然に膨らんでいる場所がある。
それこそが親タブンネが「ひみつのちから」という技で作った「ひみつきち」、タブンネの巣である。
草木や土があれば何処にでも「ひみつきち」を作れる、タブンネがイッシュ全土で生活することができる最大の理由がそれだ。
はるか昔、イッシュが誕生した頃からタブンネはこうして棲みかを作り繁栄してきた。皮肉なことに、しかし今はその技術がタブンネを最も死へと近付けるのだ。
「ひみつきち」らしき物を見付けては片っ端からタイヤが蹂躙し、「ひみつきち」の安全を疑わないタブンネたちに真実と絶望を与える。
程無くして巣は全て崩壊し、中にいたタブンネは全て肉饅頭になった。

こうして狂人の宴、理不尽な大虐殺は終わりを告げたかに見えたがそうではない。
タイヤの餌食となって上半身だけになった一匹のタブンネが死力を振り絞ってタブンネ広場中に響き渡る大きな叫びを上げた。
それはタブンネの声ではあったが確かにこう聞こえた、「逃げろ」と。

まだ各エリアに生き残っていた合計数百匹のタブンネたちは、その覚悟の叫びを、タブンネの魂を受け取り、一斉に二つの出口まで走り出した。
非常用の扉は今まで使われなかったためか錆び付いておりタブンネの力では開けることはできなかった。そこにトラックが容赦無く突っ込み扉を滅茶苦茶に破壊したが外に逃げたタブンネは一匹もいなかった。
草原エリアのゲートは開いたままだったが、タブンネたちは仲間たちの凄惨な死骸に短足を取られ転んでしまう。早く逃げなければという焦りで足が滑りまた転ぶ。
そうこうしている内にトラックが追い付いた。タブンネたちはさらに焦り、不様にも脂肪だらけの腹で這いながらゲートに向かうことしかできない。
トラックが焦らすように前進し、一番逃げるのが遅かったタブンネを挽き肉に変える。
他のタブンネは涙を流しながら「ミギュィィッ!ギィァァァッ!!」という鋭い絶叫とブヅブヅという骨が砕け肉が爆ぜる音を後ろに聞くしかなかった。
――一匹、また一匹と犠牲が増える――
どうして?どうしてわたしたちにこんなひどいことをするの?
疑問の答えは浮かばなかった。タブンネたちはただ、理不尽を受け続けるしかなかった。
――一匹、また一匹と犠牲が増える――
以前、人間に虐待されたことがある数匹のタブンネは、記憶が蘇ったのかキチガイのように暴れ出したが何の意味も無く、ただ苦しみの叫びに喉から黒い血を吐くだけであった。
――一匹、また一匹と犠牲が増える。
一匹、また一匹と犠牲が増える。
一匹、また一匹と犠牲が増える――
「ミッミッ!!ミッミッ!!ミィィーーーッ!!!」

しかしここで何故か鋼の怪物は動きを止めた。その理由はタブンネにもすぐにわかった。排気管から出る煙の色がおかしく、プスン、プスンと途切れるような音がするのだ。
実は先ほどの父タブンネの突きが原因だった。機械の前には極めて非力に思われた衝撃がエンジン周りを故障させ、その後の無理な運転がこの機能停止を招いたのだ。
男は構わずアクセルに足を叩き付けた。トラックは少しずつ発進しタブンネたちを脅えさせたが、曲がろうとしたところで死骸を踏んで滑り横転した。

横転のショックでガソリンが漏れ、何かに引火しトラックは一瞬にして炎上した。
タブンネたちはひたすら這いずって逃げる。トラックの扉を破り、中から火だるまの男が飛び出してきた。
もう少し、もう少しで広場から逃げられる!
広場に数万匹いたタブンネの数は既に残り十五匹程まで減っていた。
もう少し、もう少しで広場から!
男は炎に体を包まれながらも追ってくる。ゆっくりとした足取りではあったが一匹のタブンネに追い付くと後ろから掴み、抱き付いた。
「ブギャアァァーーーッ!!!」
炎が燃え移り、体を焼かれる仲間。だが振り向いてはならない。逃げることだけを考えなければならない。
もう少し、もう少しで!
男は燃え盛るタブンネの腕を掴み、がぶりと噛み付く。歯を食い縛り小便を漏らすタブンネ。
男は次に、臍に指を突っ込んで腹を引き裂いた。痛みに泣き叫ぶタブンネ。
もう少しで!
男は開いた腹に腕を突っ込み、内臓を引きずり出し、かじり付いた。破れるほどの叫びを上げながら脱糞するタブンネ。再生力でももう助からない



ミィ~♪(生存エンドだよ♪)
男はすっかりタブンネの内臓を食い付くし、空になった体を逃げるタブンネたちに投げ付けようとした。
しかし膝が崩れ、男は倒れ込んだ。
男は立ち上がろうとしたが次の瞬間には後方に吹き飛んでいた。
タブンネの捨て身タックル。耳に5桁の数字と「ネンブタ」と書かれているプレートを付けた一匹のタブンネだった。まだ全身に昔の傷痕と人間への憎しみが残るその体で男に掴みかかり仲間を逃がそうと戦う。
男は逃げる残りのタブンネたちを見て、ネンブタの顔に拳を浴びせた。鼻血を噴き出し倒れるネンブタにのし掛かり首を絞める。
ネンブタは口をパクパクさせながら男を睨み付けるが、男がそれ以上首を絞めることは無かった。男の体は崩れ落ち、焼かれるままになった。

こうしてタブンネたちは地獄から逃げ延びることができた。
タブンネたちは広場を振り返るが、ネンブタが出てくることはなかった。

警察と消防が駆けつけ、辺りは騒然となった。タブンネたちはポケモンセンターに運ばれ治療を受けたが重傷は一匹だけで、それも一ヶ月もすれば元気になるとのことだった。

一ヶ月後、すっかり元気になったタブンネたちは重傷のタブンネのお見舞いにセンターを訪れた。
もう治っているはずだが、もし深い傷が残っていたらどうしよう……。タブンネたちは不安になったが病室のドアを開けると喜びで一斉に泣き出した。
ベッドの上では帰ってこなかったはずのネンブタが可愛らしい笑顔でオボンの実をシャクシャクと音を立ててかじっていた。

おしまい



ブヒィーーーッ!(タブンネ的バッドエンドだよ!)

男はすっかりタブンネの内臓を食い付くし、空になった体を逃げるタブンネたちに投げ付けようとした。
しかし膝が崩れ、男は倒れ込んだ。
男は立ち上がろうとしたが次の瞬間には後方に吹き飛んでいた。
タブンネの捨て身タックル。耳に5桁の数字と「ネンブタ」と書かれているプレートを付けた一匹のタブンネだった。まだ全身に昔の傷痕と人間への憎しみが残るその体で男に掴みかかり仲間を逃がそうと戦う。
男は逃げる残りのタブンネたちを見て、ネンブタの顔に拳を浴びせた。鼻血を噴き出し倒れるネンブタにのし掛かり首を絞める。
ネンブタは口をパクパクさせながら男を睨み付けるが、男が手を緩めることは無かった。ネンブタの体はガクリと力を無くし、動かなくなった。

タブンネたちはゲートまであと数メートルの距離まで逃げていた。男が追ってくる様子はない。
ネンブタの努力を無駄にするわけにはいかない。タブンネたちはゲートへと真っ直ぐに向かう。
すると突然、ゲートの前に何かが叩き付けられた。炎に包まれ悪臭を発するそれは引きちぎられたネンブタの胴体だった。
「ミィィィィィィィ!!!!」絶叫するタブンネたち。すると胴体から周りの木々へと見る見る内に炎が燃え移り、辺りは火の海と化した。
唯一の逃げ道が奪われ、タブンネたちは限界に達していた。目からは生気が消え、叫ぶこともせずにただ業火に焼かれるままになった。
すぐに消防車が何台も駆け付け消火にあたったがあまりにも遅すぎた。数キロもの面積を持つ広場の鎮火などすぐにできることではない。火はすぐに街中に燃え移り、記録的な大惨事となるだろう。

火の海の中、炎に包まれた一人の狂人がネンブタの頭を涎を垂らしながらゴリゴリと音を立ててかじっていた。
ただひたすらにかじっていた。

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最終更新:2011年05月09日 23:59
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