ジャイアントホールの内部の草むらを一匹のポケモンが子を抱え逃げ回る
そのポケモンを二匹のポケモン達が追いかけていた
一匹は黒をベースとしたポケモン、ブラッキー、もう一匹は黄色をベースとしたポケモン、ピカチュウだ
それぞれトレーナーから指示を受け、共に狩りをしている最中だ
逃げ惑っているポケモンは熱を出し辛そうにしている我が子の額を撫でながら息を切らし逃げ惑う
しかしピカチュウに回り込まれ、逃げ道をふさがれてしまった
逃げ回っていたポケモン、タブンネは一瞬たじろぐが、すぐさま方向を変え逃げようとした
しかしそれは遮られてしまった、背後でブラッキーがくろいまなざしを使った
普段の目の色とは違う、どこまでも深い暗黒のような眼でブラッキーはタブンネをじっと見つめている
これによりタブンネはピカチュウとブラッキーから逃げられなくなってしまった
タブンネが後ろを向くと、ピカチュウとブラッキーは少しずつにじりよって来ていた
──逃げられない‥‥どうして‥‥っ!?──
タブンネはその場にへたり込み、恐怖した
するとピカチュウとブラッキーの後ろから一人の人間が現れた
ピカチュウとブラッキーのトレーナーだ、トレーナーはピカチュウとブラッキーの間を遮りタブンネへと近づく
その顔には微笑みが浮かんでいて、タブンネは一瞬安堵した
しかしそれもつかの間だった、タブンネはトレーナーに顔面を蹴られその場に倒れてしまった
トレーナーはその際に熱を出し苦しむタブンネの子供を汚物のように掴みとる
まだ片手で持てそうなほどの大きさの子タブンネは顔を紅潮させて、息を切らしていた
タブンネはすぐさま立ち上がりトレーナーの足に縋りつく
──お願いします、この子だけは助けてください──
鼻血を垂れ流しながらタブンネは懇願するが、ポケモンの言葉など人間に分かるはずがない
トレーナーはタブンネを振りほどき、再びブラッキーとピカチュウの間を通り、二匹の後に立った
「子供を返してほしかったらその二匹を倒して見ろ」
その言葉が通じたのかどうかは知らないが、タブンネは立ち上がりピカチュウへ捨て身タックルを繰り出した
それをピカチュウはひょいと避ける、反動で無様に転んだタブンネだがすぐさま立ち上がり再び捨て身タックルを繰り出した
しかし何度やっても捨て身タックルは当たらない、愚鈍なタブンネがどれだけそれを繰り出したところでピカチュウにそれが当たることはなかった
ピカチュウは必死なタブンネをまるで闘牛のようにもてあそぶ、ひらりひらりと華麗に避けるその様はまるで本物の闘牛士のようだった
必死なタブンネをもてあそんで数分たった、肩で息をしながらそれでものろのろとすてみタックルを繰り出すタブンネにピカチュウはいささか飽きたようだ
ため息を一回つくと、ピカチュウは尻尾を鋼鉄のように硬くし、そしてそれをタブンネの腹部に叩きこんだ
見事にアイアンテールが決まり、鈍い音が鳴ってタブンネは上の方へ飛ばされた
鋭い弧を画きタブンネは地面に叩きつけられる、倒れこむと腹を抑えその場でのたうち回り始めた
トレーナーとピカチュウはそれをみてケラケラと指をさし笑った
タブンネは悔しさと不甲斐なさと恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったが、それでも子のため、再び立ち上がった
トレーナーの手の中で苦しそうにあえぐ子供の姿を見て、タブンネは奮起する
その前に、最大まで鈍いを積んだブラッキーが立ちはだかった
素早さを犠牲にし、肉体を鍛え上げたブラッキーは、その威圧感だけでタブンネの心をへし折る
先ほどの奮起はどこへやら、タブンネはその場にへたり込み、そして助けを求めた
──お願いです、子供を返してください、助けてください──
ミィミィと涙を流しながら懇願するタブンネ、その姿を見てトレーナーは厭らしい笑みを浮かべた
トレーナーはブラッキーにくろいまなざしを解除するように指示する
ブラッキーはくろいまなざしをやめ、タブンネははれて自由の身になった
身にまといつく何かが消え去り、タブンネは希望に満ちた表情でトレーナーの方を見る
しかしその顔はトレーナーを見て一変した
タブンネの視線の先のトレーナーは大きく振りかぶり、そして勢いよく子タブンネを遠くへ投げたのだ
緩やかな弧を画き遠くへと飛んでいく子タブンネ
タブンネがそれを追いかけようとした瞬間強烈な衝撃がタブンネの背中を襲った
背骨はメキメキと音を立て粉砕し、内臓が風船のように破裂していく
タブンネは肉片混じりの血を吐きだしながらその場に前のめりに倒れた、腹部がまるでミンチのようになっており、もはや助かるすべはなかった
息切れしたタブンネよりもゆっくりとした動きで、ブラッキーはタブンネに近づく
ブラッキーが追い打ちを行ったのだ
ブラッキーはゆっくりとタブンネの上に乗り、そして腰を据えた
タブンネはもはや苦しむこともできなかった、薄れていく意識の中で、ただ最後まで我が子を心配していた
そんなタブンネは微弱な電気ショックが流れる
絶命しかけたタブンネはショックで目を覚まし、倒れた状態で見上げる
そこには子タブンネを口に咥えたピカチュウが居た
タブンネは目を見開き、我が子へと手を伸ばす
それを見たピカチュウは子タブンネを空中へと放り投げた
緩やかな動きで宙に浮くタブンネにピカチュウは雷を放った
小さな雷雲から雷が落ちる、それは雷雲の真下に居た子タブンネへと直撃した
空中で雷を喰らった子タブンネは叫び声をあげることもなく、落ちてきた
黒ずんだ炭になった我が子を見てタブンネは目を見開き、絶望の中その命を落とした
ブラッキーとピカチュウはそれぞれトレーナーの元に駆け寄る
トレーナーは二匹にミックス・オレを与えて、ジャイアントホールを後にした
最終更新:2011年10月31日 20:05