IP内線網を外部委託、通信事業者とベンダーでサービスに差[2004/03/22]
IPセントレックスは、企業の中のIP内線電話網を通信事業者やPBXベンダーなどにアウトソーシングするサービス。企業向けIP電話サービスと異なり、ユーザーが自由に電話番号を決められる。最近は、携帯電話にもかけられるようになった。通信事業者とベンダーでは、サービスメニューが大きく異なる。

 企業向けのIP電話サービスには、前回取り上げた「企業向けIP電話サービス」のほかに「IPセントレックス」と呼ぶサービスがある。「セントレックス」(Centrex)とは、「中心」を表す「Center」と「交換」を表す「exchange」を組み合わせた造語。つまり、電話交換機を1カ所のセンター(中心、Center)で集中管理し、内外線の電話回線をあて先ごとに振り分ける(交換、exchange)ことである。その仕組みを、IP プロトコルで実現する。それがIPセントレックスである。 IPセントレックス・サービスは、通信事業者が、このIP方式による電話交換機能を、企業ユーザーにIPネットワーク経由で提供するもの。企業の中のIP内線電話網を通信事業者などにアウトソーシングするサービスと考えて差し支えない。

 通常、通信事業者はIP-PBX(前々回の製品・サービスで解説済み)を運用し、この機能をIP網を介してユーザーに使わせる。例えば、発着信といった通話機能や保留、転送などの機能である。ユーザーは、PBXを自社で運用せずに済む。

異なる企業で番号が重複する可能性も
IPセントレックスは、ターゲット・ユーザーが企業で、しかもIP電話を使えるので、「企業向けIP電話サービス」と混乱しやすい。だが、これら二つは違う。


図1 IP電話サービスとIPセントレックスサービスはここが違う
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 違いは、着信に必要な番号体系の相違に着目すると分かりやすい。企業向けIP電話サービスの場合、電話番号はIP電話事業者が割り当てた専用の050番号を利用する(図1)。NTT東西地域会社の「法人向けIP電話サービス」のように既存の電話番号を利用できるサービスもあるが、主流は050を利用するサービスである。

 この050番号は、事業者が管理するため、個々のユーザーで重複することはない。050番号を知るユーザーであれば、IP電話、固定電話、携帯電話と、いずれの電話サービスからでも発信できる。
 一方、IPセントレックスはユーザーが任意に設定した電話番号をそのまま利用できる。 ユーザーの任意であるため、異なる企業間で番号が重複する可能性が高い。このためIPセントレックスでは、あらかじめ登録したグループ内のユーザー間でしか通話できない仕組みになっている。内線通話料は無料である。
 ただし、IPセントレックスでも050番号で発着信できるように、事業者各社は有料の付加機能を提供している。

既存のPBXには機能の豊富さで及ばず
 IPセントレックスは登場して間もなく、使い勝手はまだまだ既存のPBX並みとはいかない。例えば、組み合わせる回線サービスやPBX機能に制限があったり、既存の電話番号のまま移行できないケースもある。こうした事情を理解した上で導入すれば、コストを削減できるのも事実。提供事業者も、本格的な普及を目指して、既存の加入電話並みにレベルアップすべく努力を続けている。

図2 IPセントレックス・サービスの提供形態
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 現在、通信事業者やPBXベンダー、システム・インテグレータ(SIer)など16社が、IPセントレックス・サービスを正式に発表している。提供事業者は、大きく分けて(1)通信事業者、(2)PBXベンダーやSIerに分かれる(図2)。

足回りサービスにはIP-VPNなどを使う
 通信事業者のIPセントレックスは、その通信事業者が提供するサービスの利用が前提になる。足回りに使える通信サービスは一般に三つ。インターネット接続、IP-VPN、広域イーサネット--である。

 例えばNTTコムの「.Phone IP Centrex」は、インターネット接続「OCN」か、IP-VPN「Arcstar IP-VPN」、広域イーサネット「e-VLAN」を使う。Arcstar IP-VPNを使うメニューは、e-VLANやOCNを使うメニューとは初期費用が異なる。

 ユーザーによっては、拠点規模に応じて広域イーサネットとIP-VPNを使い分けていたり、異なる事業者の回線サービスを使い分けていることもある。この場合、データ網とは別に新たに音声専用のIP網を構築する方法も選択肢として考える必要がある。

 一方、PBXベンダーやSIerのIPセントレクッスは、他社の通信サービスを自由に選べる。基本的に、回線サービスを含めて設計から導入、構築、運用までを一括してアウトソーシングする形態になる。

 中には沖電気工業の「沖トータル・ネットワーク・サービス」のように、古いPBXを下取りするサービスもある。ユーザーは既存のPBXを簿価で沖電気に売却。得られた原資で新しいIP-PBXを購入し、沖電気のデータ・センターに設置する。設置したIP-PBXを使って、沖電気からIPセントレックス・サービスを受ける。

既存の電話番号を使えないケースが多い
 IPセントレックス・サービス利用料金は、番号1個当たりの月額利用料制が主流である。

 内線の月額基本料は各社とも、1000円前後で横並び。ただし、KDDIの「KDDI IPフォン・セントレックスサービスタイプ1」(PBXを継続利用するタイプ)などは月額400円と安くなっている。KDDIのタイプ1は、既存のPBXを残すためにPBX機能は不要だが、拠点間の内線通話だけは使いたいというユーザー向けだ。

 一方外線通話は、内線通話とは別料金になる。月額基本料は300~1500円と幅広い。外線番号には、050番号が割り当てられる。このため、既存の電話回線すべてをIPセントレックスで置き換えると、今使っている代表番号も新しい050番号に置き換わる。

 ただし既存の番号をそのまま使いたいとする企業ユーザーは多い。これがIPセントレックスが普及する上で、最大のネックになっている。

 現状IPセントレックスと同時に“03”などの市外局番から始まる10けたの加入電話番号「0AB~J番号」をそのまま利用できるサービスは、フュージョンの「直収IP固定電話サービス」、東西NTTの「法人向けIP電話サービス」だけ。

 各社とも、PHSや携帯電話への発信は、既にほとんどのサービスが対応済み。料金は、1分20円程度に落ち着いている。
最終更新:2006年08月02日 16:49
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