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feat.Advent(sin)


一人目は二時間。二人目は三時間。三人目は五時間。四人目からはもう覚えていない。仕舞いには集落を一つ潰した。
それだけ「質問」をしたのに、返ってきたのは「知らない」の一言だけ。ここまで抵抗されると、さすがのアオイもうんざりしてきた。拷問は、する方もされる方も体力を使うのだ。たとえ生かしておく必要がないとしても。老若男女、さまざまな種類の獣人たちの目に輝いていたのは強い意志だった。バカどもが、とアオイは毒づく。バカどもが。そんなに自分の命よりリーダーさまが大事か。一族揃って英雄根性持っててどうする。絶滅しろ。
「タマ切り取ってグズの家系を絶ってやる!」
何人もの獣人を切り刻んできたナイフを構えると、小屋の隅で震えていた獣人たちが一層怯えた泣き声をあげる。フェンリルが捕まえてきた獣人は今では半分にまでその数を減らしていた。
「次は……そうだな、お前らだ。そう、そこの二人! 男同士でイチャついてないでさっさと来な!」
アオイが指定したのはまだ若い男の二人組だった。恐怖に慄く体を引きずり引きずり、どうにか近くまでやってくる。そいつらを見たときから内心アオイは小躍りしていた。片方はメソメソ泣いているだけだが、もう片方。その瞳の中に迷いを見たからだ。
「さて、知ってることを話して貰おうか」
「……」
「言わなきゃ何をされるかたっぷり実演してやっただろ? それともあれか、自分もやって欲しいんですってか!?」
「……頼みたい、ことがある」
「千秋ッ!」
大声で叫んだ奴には蹴りを入れて黙らせる。せっかく糸口が開けたのだ、その邪魔をして欲しくない。
拷問において、一度口を開くこと。それは既に陥落していることに等しい。話し出してしまえば止まらないのが人間というものだし、それは獣人にも当てはまるだろう。
「そうだね、そろそろ便所にこびりついたクソどもを擦り取るのにも飽きてきた頃だ。気分次第では聞いてやるよ」
表情の読めないけむくじゃらの顔を見つめてアオイは微笑んで見せた。果たして何を言うつもりなのか。どうしてこんなひどいことができるのか、とかか。そのお粗末なおつむで何を考えているのやら。どうせ獣人らしい、低脳らしい疑問に違いない。
そんなことを考えていたから、次の言葉にアオイは心底驚いた。
「さっきの狼……機械の。あいつに会わせて欲しい」
「はぁ?」
フェンリルに会ってどうしようというのか。まさかとは思うが、説得でも試みるつもりか。同じ工業製品でも、あっちは元々心なんかないのに? 噴き出しそうになるのを堪えながら、アオイはその願いを叶えてやることにした。
『クソ犬、ケモノさまが面会要求だ。マスかくのは止めてさっさと来い』
『Aye-aye,ma'am』
待つこと数分。付近を哨戒していたフェンリルが小屋の戸を開けて入ってくる。黒き死神を見て獣人たちのあげる泣き声は小さくなり、やがて押し殺されて消えていく。
そんな中、千秋と呼ばれた獣人だけはフェンリルをじっと見つめている。やがて息を大きく吐くと、それに向かって微笑んでみせた。まるで――そう、まるで懐かしい友達に会ったかのように。
「やっぱり……やっぱりだ」
「……千秋?」
くすくすと笑い出した彼をアオイは早くも見限っていた。何がしたかったのかは分からないが、フェンリルを見た途端狂いやがった、バカな獣人。発狂なんて高等な精神活動を行える分、少しは賢かったのかもしれないが。
「さんたろー……だろ?」
「あぁ?」
「……さんたろー。なんだろ?」
もはや、アオイが構えた銃は彼には見えていなかった。ただ、フェンリルに向かってひたすら「さんたろー」と呼びかける。隣りにいた獣人はそんな彼の肩を掴み、必死に正気を取り戻させようとする。
「何言ってんだよ千秋! こいつが三太郎のはずないだろ! 確かにあいつは裏切ったけど、人間の味方になったけど! でも、こんなヘイキになるわけないだろ! 似てない! 違う! 三太郎は優しい奴で、こんなことする奴じゃない!」
「何言ってるんだよ。こいつ三太郎。俺らの幼馴染。ほら、じっくり見ればお前も分かるってば」
フェンリルを指差し、なおも千秋はへらへらと笑う。目の前の喜劇にうんざりしてアオイが引き金に指を掛けた瞬間、銀の棍棒が閃いて壁に紅い花が咲いた。
「……あ……?」
アオイが振り返ると、そこには金属の腕から血を滴らせて立っているフェンリルがいた。その顔は普段と変わりなく、生身なのに無機質だ。
「おい、何してるこのクソ犬」
「クソッタレな獣人を撲殺しました」
「そんな命令は出していない。勝手な行動を取るな」
「Aye-aye,ma'am」
舌打ちをしてアオイは床に転がった二つの肉塊を見下ろした。どうせ殺すつもりだったとは言え、こうなるとは。どうせなら自分でやりたかった、と思う穢れた自分をアオイは愉しんでいた。機械仕掛けの腕で頭を叩き潰されるとどうなるのか、彼らは身をもって実演してくれている。血の河が床の木目に沿って一筋の流れを作っていた。
「おい、貴様ら」
アオイが一睨みすると獣人たちはたちまち命乞いを始めた。祈りにも似たそれが、小屋の中で幾重にも重なってアオイの耳朶を打つ。
お願いします助けてくださいお願いします殺さないで下さい。
「お前らのリーダーはどこにいる」
お願いします助けてくださいお願いします殺さないで下さい。
「答えろ! 貴様等のリーダーはどこだ!」
お願いします助けてくださいお願いします殺さないで下さい。
「答えろと言っているだろう! 答えれば助けてやる、聞こえないのか!」
お願いします助けてくださいお願いします殺さないで下さい。
「答えろォォォ! リーダーはどこだァァァ!」
お願いします助けてくださいお願いします殺さないで下さい。
お願いします助けてくださいお願いします殺さないで下さい。
お願いします助けてくださいお願いします殺さないで下さい。
「……ッ!」


アオイがその地図を見つけたのは小屋を燃やすための燃料を探しに入った家の中だった。床下に丁寧に畳まれて隠されていたそれは薄汚れてボロボロになっていたが、ある一点に打ってある黒い印は隠しようもなかった。
「……見つ、けた」
笑う。一度笑ってしまうと、もう止められなかった。アオイは笑いながらその地図をバイザーでスキャンした。
「あっははは……くっふふふふ……うふふふふ……」
地図はあっという間にどす黒い血で染まっていく。読み手からひっきりなしに血が垂れてくるのだから。もはやアオイの全身で血に濡れていないところはない。全部、ナイフでやったから。途中で刃こぼれしてあまり切れなくなってしまったけど、それでもナイフでやったから。
「行くぞ、クソ犬」
目的地の方向から推測すると、どうやら補給することは出来なさそうだ。いつまでも小屋の前に待機していたフェンリルに命じてアオイは近くに留めておいた雪上車に向かう。

雪原を走るフェンリルの腕の中、アオイはちょっとした悪戯心を起こした。
「オイ、フェンリル」
「アオイ様」
10キロ先まで聞こえるという犬耳を掴み、アオイは小さく囁いてやる。
「お前、サンタローって呼んでほしいか?」
「……」
その問いにフェンリルは答えなかったが、少し速度が上がったようにアオイは思った。




最終更新:2009年07月05日 00:51
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