ドラゴンの着ぐるみから、しばらく経ってまた着ぐるみのバイトの連絡が女性スタッフからあった。
どんなものかというと小柄な人しか入れない着ぐるみに入っての映画のPRイベントとしか教えてもらえなかった。
彼の会社なので、休みの日1人で過ごすより、彼の側にいたい気持ちと内緒にして彼を驚かせたい気持ちもあり、仕事を受けたのだがドラゴンの時より大変なことにこの時は思いもしなかった。

彼の上司でもある女性スタッフ、上原夏子に再会。
「この間は着ぐるみキツかった?」そういえば彼女に着ぐるみを着せてもらった後、彼女とは一言も交わしていなかったことを思い出した。
「ええ、まぁ」その後の言葉は彼に会えたのでと続くのだが、余計なことは差し控えた。
「また、受けてくれると思わなかったわ」不敵な笑みを浮かべる彼女を私は見逃さなかった。
彼女の笑みから、今回もキツいことは察しがついた。
「それじゃあ早速だけど、着替えてくれるかなぁ?」そう彼女に促され控え室へと向かう。
控え室へ向かう途中、舞台裏で彼が忙しそうに働く背中が見えた。

控え室に入ると、白く大きなマシュマロのようなモノが目についた。
彼女はその白く大きなモノをポンと叩くと「今日はこれに入ってもらうから」と。
「なんですかコレ?」私が質問すると、彼女は着ぐるみの説明を始めた。
森から街へと出てきたゴリラが、街中を逃げ回りとある工場へと逃げ込む。
そして誤って水槽へと落ちてしまう。
命は助かるのだが、体が特殊な素材で覆われてしまう。
それを人間たちが試行錯誤しながら、ゴリラを元の姿に戻してやるというお話らしい。
で、この白く大きな着ぐるみに入ったらいいことは理解した。
背中から入れるようになっているので、彼女は背中部分を大きく開き中を見せてくれるが、外側と同じような素材が中にもしっかりと詰まっている。
中に入ると隙間がなく押し潰されそう、そんな印象を受けた。
「じゃあ、まずは裸になってこれに着替えて」そういって渡されたのは茶色の全身タイツそれも体全体、肌の露出が全くないもの。
ゴムのインナースーツを着ることを思えば、大したことはなかった。
あの着ぐるみの中はキツそうだなぁと思いながら着替える。
頭は被らず顔を出すと、「これも着て」そういってまたもや茶色の全身タイツを2枚渡された。
「これを着てから、次にこれね」
よく分からないまま彼女に従う。
渡されたのは茶色で同じ全身タイツに見えたが1枚は胸や背中部分が肉厚にできていて、もう1枚は足や腕が肉厚になっていた。
合計3枚の全身タイツを着て更衣室から出ると、先ほどまでいなかったゴリラが目の前に。
あまりの驚きに声も出せないまま、更衣室へ後退りしながら戻ると、ゴリラの手だけが更衣室の中に入ってきて私の腕を掴む。
「やめて!」私はゴリラの手を払いのけた。
その時「ゴメン、ゴメン!」と女性スタッフ夏子の声。

よく見るとリアルなゴリラの着ぐるみに手を突っ込み、着ぐるみ越しに私の腕を掴んでいたのだった。
「驚かせないで下さい!」少し怒り気味に私がいうと夏子の顔は明らかにムッとした表情に変わった。
その後、手早く顔まで全身タイツの中に3度押し込められ、すべてのジッパーが閉じられた。
1枚だけならまだ見えていた視界が、3枚重ねられるとほとんど見えなくなった。
そして呼吸も息苦しくなっていった。
夏子の表情は見えなくなったが、「さぁ、次はコレ」そう声は聞こえるが全く見えない。
私は視界を奪われ、声のする方へと手探り状態でゆっくりと歩みを進める。
不意に腕を掴まれ引き寄せられる。
そして「足を上げて」と言われ右足を2回手の平で叩く感触。
私が言われるまま、右足を上げると何かに入っていく。
もう大体、想像がついた。
控え室の入口付近の白く大きな着ぐるみではなく、先ほど夏子に驚かされたリアルなゴリラに自分がこれからなることを。
自分が歩みを進めた距離からも、そして今3枚重ね着している茶色の全身タイツからも。
左足も叩く感触があり足を上げて下ろすと、右足と同じ感触。
次に背中を叩かれる、前に屈めということだろう、素直に従う。
右腕を持たれ今度はゴリラの腕へ、そして左腕も。
四つん這いの状態になり、次は想像がついた。
頭が後ろから強い力で押される。
急に息苦しくなり手をバタバタさせようとしたが、四つん這いの状態では手を上げることもできない。
グイグイ押されゴリラの首で細くなったところは通り抜けたようで息苦しさは少しマシになったが、次に襲ってきたのは顔面の圧迫と暑さ。
「キツいよ!暑いよ!」夏子には聞こえない声を私が漏らした時、背筋がピンと張る感覚とともに、ジッジッとジッパーが閉じる音がした。
これでゴリラは完成したようだが、1つ不思議なことが。

控え室に入ってきた時、夏子は確かに白く大きな着ぐるみを叩きながら、今日はコレに入ってもらうからと言っていた。
その意味を理解するのに、そう時間はかからなかった。
ヤバイ重ね着させられる。
今より暑くキツくなる。
そう思うと目が見えていないにも関わらず、走って逃げようとする自分がいた、しかし足が真っ直ぐ伸びない。
そのまま前に倒れ込む、腕も思うように動かせず手を着くことなく倒れた。
しかし、痛くない!?
何か柔らかいモノの上に倒れたようだった。
「逃げようとしちゃダメよ、まあ上手くいったからいいけど」という夏子の声。
そのまま倒れた柔らかいモノへとグイグイ押し込まれていく、腕も足も折り曲げた状態で。
そして必然次は頭が押し込められ、さらなる圧迫と暑さ、そして息苦しさに加え、音も聞こえなくなった。
着ぐるみを重ね着させられた。
暑さと焦り顔からは汗が尋常でないほど吹きでてきた。
その汗は全身タイツを濡らし、一層呼吸を苦しくさせる。
そこからは記憶が曖昧で、どうにか体を動かしていたように思います。
何かに乗せられて運ばれて、四肢を折り曲げられた状態でもなんとか体を動かしていた、いや動くようにさせられていたような気がします。
後日、イベントの動画を見て自分がどうなっていたかを確認しました。
白く大きな着ぐるみがモソモソと動いた後、その中からスタッフに助けられるようにして出てきたゴリラはキャスター付きの檻へと入れられPRイベントの最後まで舞台の端に置かれていた。
時折足や腕を動かしていたので、着ぐるみかロボットかは見た感じだけでは微妙だと我ながら思いました。

で、そのまま男性スタッフとともに檻ごと退場。
その男性スタッフにゴリラの着ぐるみから解放してもらったんですが、全身タイツを重ね着してゴリラの着ぐるみから出てきた自分の彼女である私を見て彼は少し怒ったあと、心配して私を力強く抱きしめてくれたというお話。

ただ、その場を彼の上司に夏子に見られたので2人が付き合っていることはバレちゃった。
最終更新:2017年03月04日 17:54