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檻に入れられたさつきは警察の駐車場で一晩を過ごした。
何度助けを求め、叫び続けたが見張りについた警官に警棒で檻を叩かれた。
その度に萎縮して叫ぶのをやめたが、それでもしばらくすると叫んだのだが、ついには疲れて眠ってしまった。

翌朝、昼前に檻ごとトラックへと載せられる。
檻には布がかけられ、外が見えない状態で。
どこに連れて行かれるのだろうか?
そんなことを考えていたが、どこへ連れて行かれても、この着ぐるみからは解放されないと思い、さつきは考えるのをやめてしまった。

巨大アルマジロとなったさつきが運ばれてきたのは大学の研究施設。
その大学は皮肉にも、さつきが非常勤講師をしている大学。

檻には布がかけられたまま、研究室へと運びこまれた。
檻の外では警察関係者が「よろしくお願いします」と挨拶をしている。
そして、間もなくかけられた布が取られる。

眩しさで外の様子が分からないさつきであったが、目が馴れて徐々に見えてくる。
周りを見渡し焦るさつき。

目に入ったのは檻に背を向け、資料をめくる白衣の男性の姿。
さつきはその男性に背を向け、ジッと動かなくなる。
さつきは今置かれている状況を把握し、そして泣き出してしまう。
しかし、声は相変わらず動物の鳴き声。

調査にあたったのは大学の准教授 松田稔、専攻は動物学でその権威であり、またさつきの恋人でもあった。

恋人の稔にはUMAカフェで働いていることは秘密にしていた。
変に興味を持たれたくもなかったし、地底人の自分を見られたくなかった。
しかし、今の状況は最悪である。
稔にこれから色々と調査をされる。
いずれ、自分が着ぐるみに閉じ込められていることを知られてしまう。

稔は見たこともない生物を色々な角度から観察する。
しかし、さつきは必死に目を合わせないよう、逃げるように動く。

背中を見せる巨大アルマジロの背後から、稔は体を触ってきた。
ビックリして動くと、稔もビックリしていた。

骨の形状から地球上のどの生物に近いかレントゲンにかけられることになったが、大型の動物なので檻から出さず、そのままレントゲンにかけられることになった。

こうなれば、さつきは諦めるしかなかった。
全く抵抗せず、目を閉じレントゲンにかけられる。

結果に驚いたのは稔。
精巧にできた着ぐるみということを知る。
のちにもっと驚くことになるのだが。

レントゲン写真から中には女性がいることも分かり、慌てて救出しようとするがどうしたらいいが分からない。
下手に着ぐるみを破損させると、中の女性まで傷つけてしまうことになる。

少し考えた稔は、巨大アルマジロに話しかける。
「どうやって、この着ぐるみを脱ぐんですか?」

巨大アルマジロは下を向いて動かない。
「脱ぎたくないの?」優しく話しかけると、巨大アルマジロは大きく首を振る。

「じゃあ、手伝うから教えて」という言葉に、巨大アルマジロは頭を回すような手振りを見せる。
稔は硬い頭を両手で挟み込みようにして回す。
しかし、頭は外れることなく巨大アルマジロの体が捻じれる。
思わず、呻き声を挙げるアルマジロ。
稔は頭を回すのをやめて、謝る。
「ゴメン、痛かった」
「どうなっているのか、分からないので慎重にするね」と優しく話しかける。

そして、今度は少し右に回すとすぐに左へといった具合に微動を繰り返し始めた。
これならばアルマジロの体が捻じれることもない。

徐々に回る幅が広がる。
そしてついに頭が外れた。
ゆっくりと頭を持ち上げようとする稔、しかしアルマジロは横を向いた頭を天辺から押さえて頭を取らないでといった仕草を見せる。

「顔を見られたくないんだね」といって稔はアルマジロに背中を向ける。
しかし、アルマジロは固まったように動かない。

アルマジロの中で、さつきは稔に顔見られたくない一心で頭を押さえた。
仮に自分で頭を外しても、いつもと様子の違う着ぐるみに動きを封じられた状態では、おそらく自分一人で脱ぐことはできないと考えたさつきは意を決して、稔に協力してもらうことにした。

頭を戻し、稔に近づき肩を長い爪で叩く。
稔が振り返ると、頭を取ってくださいとお願いするように、頭を下げる。

稔は「分かったよ」と返事をする。
そしてアルマジロの頭を外した。

中から現れたのは、土色をした頭。
さつきは覚悟を決め、顔を上げる。
稔が視界に入ると安心して涙が溢れてくる。
しかし、稔は特に驚いた様子を見せない。
それはインナースーツのフードがさつきの髪や顔の輪郭を、動物の声に変換するマスクが、鼻と口を大きく覆い隠して目だけしか出ていない状態だった。
加えて気の強いさつきは、稔の前で涙を見せたことがなかった。
そのため、稔はアルマジロの中身がさつきであることに始め気づくことはなかった。

涙を浮かべる女性のマスクを外す稔。
さつきは咄嗟に顔を隠すように、稔に抱きつく。
稔はさつきとは気づかず、怖い思いをし安心感から抱きついたものと思っていた。

しかし、耳元で「ゴメンなさい、ゴメンなさい」を繰り返す女性。
稔にはその意味が分からなかったが、女性の声に聞き覚えが。

抱きついているアルマジロの着ぐるみの女性を優しく離し、顔を確認する。
「さつき?」

フードを被り髪型は分からない。
顔には動物の声に変換する装置の跡がしっかりと残っていたが、間違いなくさつきだった。

稔にUMAカフェのことも、その客に注意をしたことで、このような嫌がらせをされたこともすべて話した。

稔はとりあえず着ぐるみを脱がせようとするが、発泡ウレタンで着ぐるみに埋もれてしまったさつきの体は簡単には引き出せない。

それでも、さつきの体を気にかけながら作業する。
発泡ウレタンを崩しながら掘り進める。
細かくなったウレタンが部屋の中を舞う。
2人ともマスクを付けて稔は作業進める。
苦労の甲斐あって、さつきは無事に着ぐるみから出られることができた。
そして、地底人の着ぐるみもほとんど破損することはなかった。

さて、着ぐるみを脱ぐことはできたが、さつきの着替えがない。
さつきの家の合鍵は稔が持っているので、家には入れる。
稔が取りに行くことも考えたが、2人で相談した結果、さつきをスーツケースに入って運ぶことに。

研究で大学に泊まることもある稔は、着替えをスーツケースに入って持ってきたところであった。
着替えをすべて抜き、さつきを入れる。

とりあえず、研究室から車までと車からさつきの家まではスーツケースを閉めることにした。
小柄なさつきはスーツケースの中に緩衝材を入れても十分ケースの中に収まった。
研究室を簡単に整理し、スーツケースを転がし、車へ向かう稔。

緩衝材を入れたものの、予想以上の揺れに戸惑うさつきであったが、稔にこれ以上心配をかけたくない一心で我慢する。

車についた稔は、スーツケースに声をかける。
「大丈夫?苦しくないかい?」
その問いに対して、さつきは「大丈夫、このまま運んで」と。

スーツケースを後部座席に積み込むと、稔は慎重に車を走らせる。
しばらく走り、さつきの家に到着。

車を止め、稔はまたスーツケースに声をかける。
「着いたよ、もう少し我慢してね」

さつきからの返答は「ちょっと苦しくなってきたから、早く運んで」と。
それを聞いた稔は急いで、スーツケースを慎重に扱いながらも、さつきの部屋へと向かう。

合鍵で部屋に入ると、スーツケースの鍵を探す。
運んでいる最中に、開いてはいけないと思い、ご丁寧に鍵をかけたのだった。
しかし、スーツケースの鍵が見当たらない。
稔の額に変な汗が噴き出してくる。

「早く、開けて」
スーツケースからは苦しそうなさつきの声。
ますます、焦る稔。
自分に「落ち着け落ち着け」と念じるようにつぶやき、鍵をどこで落としたか思いかえす。

「あ!」思いあたるのは大学から車に乗るとき、ポケットにスーツケースの鍵と車の鍵を一緒に入れていたから、車の鍵を出すとき駐車場に落としたのだと。

スーツケースを横にして「すぐ戻るから」と言い残すと部屋を飛び出す稔。
慌てて車まで大学までの道を引き返す。

大学までの道を半分程戻った辺り、信号待ちでポケットの上から鍵がないかを確かめる。
「ん*」

ポケットの中で隠れるように、スーツケースの鍵が入っていた。
早く引き返したいが、なかなか信号が変わらない。
急いでいる時の信号は異常に長く感じるものである。

信号が変わり、大慌てでさつきの部屋と戻る。
そして、スーツケースを開ける。

長時間スーツケースに閉じ込められていたさつきは、顔色が悪くグッタリとしていた。
一瞬、死んでしまったのではないかと思ったが、弱くではあるが確かに呼吸をしていた。

インナースーツを脱がせ、楽な状態にし寝かせる。
1時間程した時、さつきは気がついた。

目覚めたさつきは、稔を見てビックリする。
「どうしていてるの?」
稔もその質問に驚く。

さつきはある期間の記憶を失ってしまっていた。
スーツケースのことはもちろん、悟史のこと、着ぐるみに閉じ込められたことさえもすっかり忘れてしまっていた。

稔は今までの経緯を話そうとしたが、さつきが記憶を失ってしまう程の嫌な体験だったのであれば、このままそっとおく方が良いと考え、さつきには何も告げなかった。


おしまい
最終更新:2017年04月21日 06:45