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ネットでニュースが随時更新される今、新聞なんて滅多にみなくなったが、ふと営業の合間に立ち寄った理髪店で面白いチラシを見つけた。
それは中古車販売店で、中古車の横にマネキンが置いてあり、まるでキャンペーンガールのようにポーズをとっている。
マネキンといっても顔はマネキン、体は全身タイツで覆われており、どうみても中に人が入っている。
よく話題になる新車発表会などのキャンペーンガールは顔も美しくスタイルも美しいが、こちらはマネキンなので特別顔が美しくもなく、
素肌が出ているわけではないので実際どんな人が入っているかもわからない。そして写真を見ると日中撮っているようなので、
行けばもしかしたら撮影に出くわすかもしれない。理髪店で前の人の髪を切り終わるのを待ちながら妄想は広がる一方だ。
髪を切り終わった後、床屋のおばちゃんに断って中古車販売店のチラシをもらい今度の休日行ってみることにした。

休日、チラシに書いてある住所を頼りに行くと、国道にそこそこ派手な看板があり、その道を曲がり少し山道を進むと山を切り開いた広場に中古車が並んでいた。
お客様駐車場に車を停め何気なく車を眺めると営業と思われる若い男性がやってきた。
「どのような車をお探しですか?」

「いえ、国道から車みえなかったんでどんなの置いてるのかな?と思って。ほら、よくマネキンが紹介してるじゃないですか。」

「なるほど、最近チラシで紹介した車ですとこちらのハ〇ラーなんか人気ですよ。」

そんな営業のやり取りが数回続き、軽く流した後マネキンのことを聞いてみることに

「チラシのマネキンの発想、面白いですね。」

「えぇ、うちの社長がキャンペーンガールを広告に載せたいとか言い出しまして、
ただモデル事務所からキャンペーンガールを派遣して載せてしまうと車より彼女たちの方が目立つし、ここは事務所以外ひなたばかりだから日焼けもしやすい。
そこでイベント派遣事務所に頼んで週1でマネキンの格好をした人を派遣してもらっています。その面白さも手伝って少し売り上げも上がりました。
事務所が狭くて着替える場所がないんで彼女はマネキンは着たままワゴンでやってきて、撮影が終わったらワゴンに乗って帰っていきます。
話してもうなずくかダメのしぐさしかしないんでボクも演じてくれてる人はどんな人かわかんないんです。」

「へぇ、そうなんだ。うちの会社でもやってみようかな。今度撮影見学してもいい?」

「あぁ、わかりました。今度の水曜日午前に撮影入ってるはずなんでまた遊びに来てください。そういえばお客様の車のタイヤの減りそろそろ危なくないですか」
(商談。。)
「タイヤの件は考えとくよ。じゃ水曜の午前にまた来ます。」

待ちに待った水曜日、会社にはクライアントに行くと伝え早速"仕事"で中古車販売店へ
前回同様、お客様駐車場に行くとそこには撮影に使うと思われる車が並んでいた。
少しするとこの間の若い営業の男性が来て「いらっしゃいませ、今日は視察でしたね。もう少ししたら来ますんで。」とのこと
さて、どんな感じで来るんだろうと待っていると、一台の軽ワゴンがやってきた。
運転席から降りてきたのはいかにもアクション俳優という感じの金髪の中年男性。事務所から社長と思わしき中年男性も出てきて「今日もよろしく」とか言っている。
営業の男性が駆け寄り、社長とアクション俳優らしき男性に「今日は会社でマネキンを利用したいというお客様があちらにいらしてまして。」と私のことを紹介してくれた。

「おはようございます。邪魔にならないように見学させていただいてよろしいでしょうか?」と私が2人に聞くとアクション俳優らしき男性は

「ありがとう。とりあえず見学してみて、話はそのあとだね。」と親しく接してくれた。

社長と思われる男性も「申し訳ないが時間が限られてるんで早速撮影に移るけど、参考になればいいな。」との回答
カーテンで仕切られた後部座席から撮影クルーらしき男性2人も降りてきて、準備が整えばいよいよマネキン着ぐるみモデルと対面となる。

カメラや光線などを調整していよいよマネキンの撮影、撮影クルー2人が後部座席に戻り、持ってきたのは大きな黒いボストンバック。
やはり着ぐるみと言えどマネキン扱いなのだ。この中にいるだろうマネキンの中の人は窮屈なバックに詰められ肌のすべてを覆われ物扱いされる自分をどう思っているのだろうと勝手な妄想がまた爆発する。
バックが置かれチャックが開くと中には中古車販売店の店名が大きく書かれたチアガール衣装のいかにもモデルという体型をしたマネキンが入っている。
その肌は全身タイツで覆われ、顔はフィメールマスクマスクだろうか表情を変えないセミロングの美女が横たわっている。
そのマネキンを男性2人で手分けしてバックから取り出し、立たせるとスイッチが入ったようにマネキンが操り人形のようにゆっくり動き出す。

中古車販売店の社長の指示で撮影したいシチュエーションを決め、男性2人がマネキンに無線でポーズの指示を出しマネキンがそれに応えるように無言で車の前や横でポーズを素早くとっていく。
1台につき3分程度だろうか、ポーズを5パターンくらい連続で撮影して次の車へ。本当にモデル慣れしたマネキンだ。たぶん中の人も経験者なんだろう。
そしてモデルをやるくらいなんだから美しい人なんだろう。なぜこんな過酷な仕事に。。
そんなことを考えながら見学しているとあっという間に今日撮影する分はすべて終わってしまった。
社長がアクション俳優の男性に「今日はこれで終わり、また頼むよ。」というとアクション俳優は男性2人に「撤収!」を声かけ。機材を片付け始める。立っていたマネキンも無線の指示でゆっくり歩きだしバックの中に横たわってチャックが閉められるのを待っている。しばらくするとチャックが閉められ車の中に運ばれていった。本当に最後までマネキンだった。一応撮影の様子は会社のデジカメで撮影したのであとでじっくり見てみよう。
帰り際にアクション俳優の男性が「暑くて大変だったでしょ。気に入ってもらえたらまた連絡くださいな。これ名刺だし。」と名刺をくれた。こちらも名刺を渡し「また検討して連絡します。」と伝えた。
中古車販売店の2人にもお礼をいい、営業の男性に「タイヤの方考えていただけました?」と相変わらずセールトーク全開に攻められながら会社への帰路に就いた。

会社に戻り課長に「今日の取引先うまくいきそうなのか?」と睨まれた。そういえばどんな会社なのか話していなかった。というか興味本位で見学お願いしていたのでクライアントという意味合いではないのだが(汗
「もう少し煮詰めてみたらイケそうです。ところで課長、帰り際にこんなものを見つけたんですが。」とさっき撮った画像をいかにも仕事ついでに見つけましたと言わんばかりに見せつける。

「ほぉ、これはなんだね?マネキン??」

「えぇ、動くマネキンです。この近くにある会社で導入しているそうで、これを広告に使ったことで収益も上がっているそうです。」

「なるほど、面白いな。うちの商品で使えるものはあるだろうか?」

言うのが遅くなったが、うちの会社は業務用のイスを扱っている。病院用の長椅子やバーカウンターのイスなど多岐にわたる。

「カタログのカテゴリーの表紙に使用時のシチュエーションとしてこの動くマネキンに座ってもらってイメージを顧客にもってもらうというのはいかがでしょうか?
モデルがマネキンということでどの顧客にも平均的な印象をもってもらえると思います。」

「そうか。で、どれくらいの予算でできるんだ?」

「まだ撮影だけさせてもらった段階なのでこれから派遣先にアポを取りたいと思います。この話を進めてもよろしいですか?」

「あぁ、ちょっと試してみようか」

やった!話が進められる。

数日後、アクション俳優の男性に連絡をとり撮影の打ち合わせをする。
「暑いのによく来たねぇ、まぁまぁお茶でも」と俳優は庶務のお姉さんが持ってきた麦茶を差し出す。
「で、どんな撮影?おぉ、カタログのモデルってやつね。これは適任かもな。」

「はい、女性目線でモデルの方とも話しあって進めていきたいのでよかったらモデルの方も呼んでいただければと思いますが、いかがでしょうか?」

すると俳優は「う~ん、そのモデルなんだけどね、、今ココにはいないのよ。」という
なるほど、委託かパートとかなのかな。と想像しながら
「そうでしたか、じゃ~そのあたりは後日にして時間とか価格設定の打合せの方を進めていきましょうか?」と切り返す。
時間は着ぐるみ1人とスタッフなど含めて約1時間で15000円ほど、高いような安いような設定だ。
着ぐるみという特殊な環境上マネキンはこれ以上時間が延ばせないのだという。
1時間あれば数パターンは撮れるだろうし、失敗しても会社の損益としては大した額ではない、試しにやってみるとかということで契約した。
撮影の希望を聞かれたので来週の火曜日にうちの会社に来てもらうことにした。中の人の更衣室なども準備すると話したが「時間も限られてるし早く撮影かけたいでしょ?」ってことであちらから断ってきた。
どこまで大きなお友達への管理も徹底してるんだか。とはいいながらも、一応準備だけしておきますということで部屋は準備することとした。(相手にはナイショだが隠しカメラ付きの)

予定通り火曜日になり、例の軽ワゴンが会社にやってきた。
相変わらずアクション俳優とスタッフ二人が黒いボストンバックを持ってやってくる。
「こちらも準備があるんで少々部屋でお待ちください。」と隠しカメラがある部屋で待ってもらうことに
10分くらい待たせて撮影開始、相変わらずモデルのポーズは早く、リクエストにも的確に応じる。
いつもカタログを撮影するために来てくれる外注のカメラマンも「すごいモデルさん見つけたね。外見も中身も」
と驚いていた。予定通り1時間ほどで終了。相変わらずマネキンはボストンバックの中に入って帰っていく。
帰った後、部屋の隠しカメラを取り外し再生してみる。すると、、

部屋には男性3人とボストンバックが運ばれてきた。鍵を閉め早速3人はタバコを吸いだし、世間話を始める。そして中国語?らしき言葉を話すと、ボストンバックの中にいるだろうマネキンの女性が中国語?で返してくる。なるほどマネキンの中の人は中国人なのか?するとスタッフの男性がバックを開けマネキンの顔だけを出してマスクを外してあげる。思わずこのマネキンの中の人はどんな顔をしているんだろうと思って固唾を飲んだが、マスクの中は顔の部分がくり抜かれていないのっぺらぼうだった。ただ口の部分はチャックがあり中の人はゼンタイを着ながらでも食事などはできるようだ。どれだけ長い時間ゼンタイに入っているんだろうか。そんな感じで10分近くが経過し、俺が呼びに行くとマネキンは自分でマスクを着けバックの中にまた入っていった。

このマネキンカタログは営業先でも若干ではあるがウケて続編を作ることになった。
また俳優にアポを取り、今回は着ぐるみのままでいいのでモデルとして彼女使って打合せしたいと伝えた。
俳優に「わかりました。あと、大きなお友達やるの疲れたっしょ?実は隠しカメラあることは出る前に気付いたんだけど、
まぁあの10分間は雑談くらいのもんだったしね。興味あるなら撮影後にこのマネキンのこと話しますよ。ただし盗撮の罰金+特別授業料5000円な!(笑」
気付かれてたか!と思いながらも5000円でマネキンのこといろいろ知れるならいいかというかんじで、「わかりました。」と伝えた。

次の打合せ、そこにはロングドレスを着たマネキンがいた。ほぼ動くこともなく打合せが終わるのを待っている。
打合せが終わるとついに待ちに待った時間だ。

しかし、打合せが終わったと同時にマネキンはまたバックにしまわれてしまう。
あれ?予定が違ったか??と思ったが、俳優から「ここじゃなくて別の場所で次の打合せするか。」と言い出してきたので
場所を変えるだけか。と少し安心する。

マネキンが向かった先はアクション事務所の地下にある部屋。部屋に入るとそこは一面白く、そして窓や家具などもないあるのは部屋を照らす蛍光灯と温度調節のため取り付けられたエアコンだけ。
何なんだこの部屋は。。驚きを隠せない顔を見た俳優は
「ここがマネキンの格納場所。まぁ言い直せば住居かな」
スタッフがボストンバックからマネキンを出して声をかけると、マネキンはいつものゆっくりとした動きではなく人間らしい動きで起き上がり、バックの中から出てきて横に体育座り(三角座り)した。
「さて、ここからは特別授業だ。とりあえずマスク外すか?」と俳優

生唾を飲みながら「いいんですか?」というと「大きなお友達にはサービスせな!」というのでお願いすることに。

マネキンはスタッフの指示でうなずき、自分でマスクを外した。
すると案の定マスクの下は口だけがチャックで切り取られたのっぺらぼうだった。後ろにお団子頭があるので女性だというのは想像つく
「ヒーローショーのようにすぐに顔が出てくるわけではないんですね。」と俺が言うと
「おう、彼女の場合はな。普通は顔がくり抜かれているんだがこの子は特別だ。」
次にマネキンは立って着ていたロングドレスを脱ぎだす、ドレスの下はもちろん素肌の露出が一切ない全身タイツで覆われている。
そしてその中はどうやら全裸のようで胸が膨らみ2つのお豆さんや、女性器の形も出ている。
全身タイツだけになったマネキンはまた座りだし次の指示を待っている。
彼女の全身タイツは股の部分と口はチャックがついているがそれ以外は完全にくるまれている。え?どうやって入ったの??という疑問が湧いてくる。
「これってどうやって入るんですか?」と聞くと「縫うんだよ。」ともっともらしい回答
つまり彼女は自分では脱ぐことのできない縫われた全身タイツを着た女性。なのでほどいてもらえない間は食事は口のチャックを開けて食べ、排便は股間のチャックを開けて行う。
縫われるって、この女性はどんなに全身タイツが好きで変態なんだろう。そしてただでさえ全身タイツで呼吸が制御されているのにマスクも被ってと思うと股間も熱くなってくる。
結構長く着てるんですか?ときくと、「彼女の場合は1週間ローテだな。明日車屋行かないといけないし今日交換するわ。」との回答
1週間全身タイツのまま過ごすとはフェチの域を超えている。そしてこの後全身タイツから彼女を出すとはこの子の素顔が見てみたい。心からそう思った。
その願いもむなしく、俳優からは「ごめん、今日はこれでおしまい!5000円はツケにしとくわ」と終了宣言が出されてしまった。結局今日は彼女の素顔は見れなかった。

しかし、諦めきれない。帰りの車の中でふと思った。彼女はゼンタイから出てもずっと部屋の中にいるんだろうか?中の人の性格や年齢はわからないがなにしろモデル体型を維持している女性だ。買物や美容、体型維持に興味がないわけはない、もしかしたら外に出て買物くらいはするのかもしれない。そう思ったと同時に車を引き返し事務所の前のコンビニで雑誌を読みながら張り込みすることにした。

1時間ほどたっただろうか。事務所の電気が消えて俳優など事務所の従業員は帰って行った。特に怪しい人はいない。
彼女はさっきの話だとこの事務所に住んでいるようなので、もう脱いで今頃部屋でくつろいでいるころなんだろうか
それとももう縫われているんだろうか?そんな事を考えながらみているとパーカーをかぶりレギンスを履いた長身の女性が出てきた。ん?この人か?よくよくみると手は素肌が出ている。この人だったらゼンタイは今は脱いでいることになる。頼むこの人であってくれ!そう思った。

すると彼女は道路を渡り俺のいるコンビニにやってきた。どんな顔をしているんだろうか?ますます見たくなってくる。
しかし彼女は口にマスクをしサングラスをかけている。しかもよくよくみると顔は人の肌じゃない。ペールオレンジ(肌色)のゴム?とてつもなく怪しい人に見えるが店員は大丈夫なのだろうか。
彼女はそのまま一通り買物をし、レジで精算を済ませ帰っていく。少し経って俺も周りに客がいないことを見計らってレジに行き、どことなく店員さんに聞いてみる。
「さっきの女性、すごく怪しくなかったですか?」
すると店員はこういう
「ハイ、ココだけの話。彼女は元有名モデルなんですが、いろいろあって隣の事務所に来ましてね。事務所にはお世話になってるんで彼女の顔隠しは容認してるんです。
ちなみにサングラスとマスクの下はゴムで覆われていて顔がないんです。あれつけてなかったらもっと恐怖ですよ。」と笑いながら答えてくれた。
某有名モデル?長身で、最近見ない人か。いろいろ想像はしてみたものの手掛かりはつかめたので商品の会計を済ませ家に戻った。

コンビニで買った弁当を食べ、早速この内容で調べてみる。「長身 モデル 干される 引退」と検索を行い、某サイトの質問カテゴリーでも募ってみた。
すると彼女のことが少しづつわかってきた。
彼女と思われるモデルは鈴木ひかり、地方で発掘されたモデルでその美貌とスタイルの良さからグラビアやファッション雑誌を飾ったが、裏ではマネージャー・スタッフへの暴言が目立つ不良娘だった。
そして某サイトの質問カテゴリーの回答によるとどうやら違法薬物に手を染めていたらしく、事務所は発覚を恐れ早々に解雇し存在を消したのだという。過去のグラビアなどを見るとスタイルはたしかに彼女に通じるものがあった。
この子で間違いなさそうだ。

数日して第二回目の撮影を行う。相変わらず撮影は早々に終わり事務所の人たちは帰って行こうとする。
そこでこの間のコンビニでの話を偶然を装って俳優に言ってみる。

「マネキンの中の人、元モデルの鈴木ひかりなんですってね。」

すると俳優は「なぜわかった?」と驚きの顔をみせながらこう言った。

「あぁそうだ。彼女は公にはならなかったが覚せい剤にのめり込んでいた。それでモデル事務所を解雇され伝でココに来たんだ。そして周囲の目に触れないように存在を消した。それだけだ。」
「そしていま彼女は時折幻覚症状に陥り自分を見失っている。華やかなモデルに嫌気がさし、そしてこれからの自分の姿をも想像できないんだろうな。だから住居が真っ白なんだ。変な幻覚をもって取り乱されても困るしな。今は常に禅の道を模索してるよ。」

そうだったのか。。と納得していると最後に俳優は
「オマエから彼女にアドバイスしてやったらどーだ?うちの事務所汗臭いヤツ多いし外部の清楚な男性は新鮮だったみたいだぞ。」

といいだす。
彼女に話しかけていいのか?そんな驚きを隠せぬまま二人で日程を調整し鈴木ひかりという名のマネキンに後日会うことになった。

約束の日の前夜、俺は何を言うべきなのか考えた。過去のモデルのことなのだろうか、今の仕事のこと?スタイルのこと??性格。モデルと話すなんて高嶺の花だと思ってたから切り口がわからない。とりあえず感触を見よう。そんなことを考えていたら夜が明けそうになっていた。完璧に寝れなかった。日中は仕事なのに。
当然仕事にも身が入らない。事務作業をダラダラ続け、課長に「今日はおかしくないか?いやいつもおかしいか!」といじられた。
夕方になり事務所に向かう。俳優が相変わらず迎えてくれて、地下の例の部屋に案内してくれる。そしてドアを開けると前回と変わらず彼女がゼンタイ一枚に包まれたままそこに体育座り(三角座り)している。俳優は「二人っきりで話しな。俺は上で待ってるからなんかあったら電話しろ」といい俺と彼女を残しドアを閉める。白一面の部屋には俺と彼女しかいなくなった。

とりあえず話しかけてみる。
「寒くないか?服着ろよ。見ていて恥ずかしいじゃないか。」とカバンからトレパンを出し彼女の前に置く。
彼女は少し顔をあげて考えた後、トレパンを着始めた。そしてささやくように「アリガトウ、、」と言った。
次はどうしたらいいのだろうか?言葉に迷いながらしどろもどろしていると彼女から切り出してきた。

「ワカラナイ、、」

??こちらも意味が分からない

「ん?何がわからないの??」と聞くと彼女は何も話さなくなった。失敗か??
「ボクも君のことがわからない。ボクから見た君は人間の女性の形をした人形にしかみえないんだ。顔も性格も。だからもっと教えて」
言葉に詰まってしまうが言うことは言った。すると彼女は答えた。

「私、モデルだったの、田舎にいたときスカウトされてね。東京に行ったの、厳しい世界だったけどみんなやさしかった。そしてみんなが私のことみてくれた。田舎にいたときは目立たない存在だったけど、みんなが私のことステキ、美人っていってた。そしてみんな私のワガママを聞いてくれた、お金、服、お酒や車まで何不自由なく与えてもらった。ただその間に失っていたものがあった。。ワカラナイ」
すると彼女は発作なのか頭を抱え唸りだす、少ししたら俳優が来て「大丈夫だ。あんまりパニくらせるな。」と言う。

少ししたら収まったのか彼女は気が抜けたように無造作に大の字で倒れている。そして気が付いたのか起き上がり話し始める。
「ワタシハドコ?」

意味が分からないが答えてみる。
「キミはココにはいないよ。ココにいるのは僕と人形だけ。」
すると彼女は
「ワタシカエルバショナイカナ」

帰る場所か、彼女の帰る場所・・どこだろうか。。
彼女はづつけて
「カエリタイ」という

どこに帰そうか・・
悩みながら咄嗟に出た言葉はこれしかない
「ボクはキミのこと知らないけど帰ってきていいよ。おかえり、ひかりちゃん」

すると彼女のゼンタイの目の位置から水がにじみ始めた。泣き出したようだ。
「おかしいな。人形が泣きだしたぞ」
冗談交じりで彼女に言うと彼女は
「私人形じゃないもん、鈴木ひかりだもん。」
そしてその声は大きくなり
「コワかった。もう先に進むしかなかった。でも進むにつれて答えがわからなかった。でも知り合いがいい薬あるよ。楽になるよと言われて飲んだら楽になったけど、薬が危ないものだってわかった頃には遅かった。事務所には解雇されるし、こんな何もない部屋で怯えながら姿を隠して生活するのは嫌だった。でも自動車屋さんやイス屋さんはこんな私でもやさしくて、モデルとして雇ってくれて喜んでくれた。コンビニの店員さんも危ない人扱いしなくて笑顔でいてくれた。それでねそれでね!!!もう、私マネキンになりたくないの、あなたのこと会ううちに気になってしかたないんだもん。鈴木ひかりにも戻りたくない。私の本当の名前は藤島加奈、田舎臭いって言われるかもしれないけど私の本当のこと知ってほしいの。」

まさかの告白だった。しかも相手は元有名モデルだ。月日はたったかもしれないが絶対ファンもいるだろう。
涙でグシャグシャににんだゼンタイ。顔の表情はうっすらとみてとれたがまだ鮮明にはわからない。
やさしく言ってみた。

「そっか、人形でも鈴木ひかりでもなかったんだね。おいで加奈、脱げる?」

加奈はうなずきながらも頭の縫製をなんとか取ろうとするが取れない。しかたなくカバンからカッターを出し彼女の頭の裁縫をほどいていく
やっとマネキンの中の人の顔が出てきた。それはスッピンのはずなのに本当に美しさが際立つ田舎出身の女性「藤島加奈」だった。
「やっと帰ってきたって感じだね。おかえり加奈♪」

「ただいま♪」
ずっと泣いていた彼女に笑顔がこぼれた。

その後俳優に事情を話した。俳優は「困ったな。」と言いながらもこういった。
「マネキンの仕事はもう車屋だけだし事情を話して辞めることはできる。ただ当分はマスコミは避けないといけないだろうしクスリの禁断症状もあるしな。」というと俺は俳優に伝える。

「彼女の田舎に引っ越そうと思います。そして彼女と人間どうしとして付き合いたいと思います。それが彼女の禁断症状防止にもなると思うんです。熱中するものができたんですから。」

俳優は、俺の肩を叩き「そうだな。」と笑う。そして「マネキン事業の廃止と所属モデル鈴木ひかりを当事務所の任務から解任する」と宣言する。俺と俳優と顔だけ出したマネキン、もとい加奈は面白おかしくて笑う。そしていったん部屋を出て彼女はゼンタイから着替え普通の女性に戻った。

 後日俺は会社に移動届を出した。残念ながらうちの会社は彼女の田舎に営業所はなかったが、子会社に採用された。
キューピット役になった俳優から聞いた話では、あの中古自動車販売店はその後俳優の紹介で生身のモデルを採用したらしい。すると売り上げは今まで以上に伸びて営業の若い男性は後悔したんだとか。鈴木ひかりの話はすっかり過去の話になっておりその後何もなかった。

加奈とはその後も順調に愛を育み結婚することとなった。でも彼女には事務所を出てからもひとつ抜けない癖があった。それはゼンタイを着て俺の撮影する写真に写ること。彼女はゼンタイを着ている間イキイキしていた。それはゼンタイの外は歳を取らない。愛する人が撮る写真にモデルとして写れる。そして布一枚越しでヌードの自分が写ることで自分のプロポーションを保ち女性として美しく生きたい。そんな強い想いが彼女にあったからだ。 

今日も彼女はゼンタイを着てカメラの前に立つ。

「加奈、イイネ。そのまんまそのまんま。」

彼女がゼンタイ越しに笑う、ずっとゼンタイの表情は見えないものだと思っていたが見えるものなんだと最近感じた。
撮影が終わったら彼女は物になるところも相変わらずかわらない、ただバックに入れるのではない。彼女をお姫様抱っこして車に運ぶ
人間だとわかっているとは思うが周りの人もマネキンとして扱ってくれる。
車に積んだマネキンはその後ホテルに運ばれマネキンから人間に戻る儀式を行う。
上から人間に戻していき、最後はお互い生まれたままの姿になることで彼女は人間の女性となり、新たな生命を宿す準備をすることで儀式は終わる。

結婚式が近づいたある日、人間に戻った彼女は言った、「今度はいつマネキンに戻してくれるの。」

戻せるものか「ごめーん、さっきマネキンに戻れない魔法かけちゃったもんね。」

彼女はクスっと笑い「そっか、もうマネキンに戻れないのか、そっちの方がイイや。」と言った。

加奈は俺の魔法により完全に人間に戻ってきた。それ以来彼女はマネキンにはならなくなった。

自分の意思でゼンタイは相変わらず着ている。でもそれは彼女にとっては普段着としてである。

今日も顔が見えない妻が料理を作り、仕事を終え帰ってきた俺の夕飯を食べる姿を興味深そうに見ている。

「おわり」

最終更新:2017年06月09日 22:47