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塾の帰り道、思わずため息が漏れた。
「はあ…暗いなあ…」
マフラー越しに出た息はしばらく漂ってから消える。
今日は昨日よりもずっと寒い。
いつも通りの帰り道なら、街灯がほとんどない寂れたこの夜道でも、
学校で習った事や塾の先生の教え方の愚痴で盛り上がっている間にあっという間に家に着いてしまうのに。
何でも、隣町で何か事件が起きたとかで、今日の塾に来ていたのはいつもの半分くらい。同じ方に帰る友達は皆来なかった。
ひゅう、と北風がブレザーの袖に入る。
「うう…」何か暖かいものが欲しくなるけど、この辺りには自動販売機すらないし、もちろん夜まで開いているお店もない。だから、急いで家に帰るしかないはずだった。

「あれ?」
眼をごしごしとこする。
見間違いじゃない。去年閉店したはずのコンビニに明かりが点いている。
小走りで近寄ると、明るく照らされた看板が見えた。
「ペットあります。臨時開店中。」
ウインドウは曇って中が見えないけど、人が何人もいる気配がある。
中は暖かそうだなあ。可愛い動物もいるかもしれない。
と、まるで引き寄せられるように入り口に近づいていた。

自動ドアが開くと、むわっとした熱気が流れて来た。
寒いのが嫌いな動物が多いのかな、と思いながら進む。
「うわあ…!」
中には、いままで見た事もないくらいたくさんの種類と数の動物がいた。
お菓子やパンがあった棚には、隙間もないくらいに檻が並んでいる。
そこでは大きなイヌやサル、今まで見た中で1番大きいネコに、何とライオンや
トラまでいて、唸り声をあげている。
アイスが入っていたケースにはイルカが二頭泳いでいて、ジュースが並んでいた場所には爬虫類のケースが並び、多分私の身体と同じくらいの太さの蛇がトグロを巻いている…。
蛇にびっくりして、思わず逆側、窓の方に体を向ける。こちらには鳥籠が5つほど置いてあり、人の背丈かそれより少し小さいくらいのオウムや鶏たちが賑やかに歌っている。

こんなお店が出来たなんて、と眼を輝かせながら見回していると、足元からがたがたと音がした。いつの間にか、お店の奥まで進んでしまっていた。
足元の檻の中にいる子ヒョウはこっちを見つめてガウガウと高い声で吠えている。
可愛い、と屈んでヒョウの檻を眺める。
檻には藁が敷き詰めてありふかふかで、舐め尽くされた餌用の器と給水器が見える。
そして檻の端には値札が置いてある。
家でペットに飼えないかなあ…と値札を眺めたけど。
「ヒョウ ♀ 体長70(130)cm ¥2200000 アフターサービス要相談」
流石にヒョウは高いよね、と他の檻を見る。

「クマ ♂ 体長160cm ¥800000」
「ヤマネコ ♀姉妹 姉体長85(160)cm 妹65(120)cm ¥5000000 ※バラ売りは受付ておりません」
一、十、百…500万円!こんな田舎に買える人はいないんじゃないかな。
でも、どの値札も普通の値段じゃない。そもそも、普通のネコがヒョウより高いなんておかしい。…そもそも、ヒョウって普通に売ってるかな。
「コモドオオトカゲ ♂ 体長75(140)cm※尻尾除く、尻尾は付属品です(単4二本) ¥950000」
電池、やっぱり普通の動物じゃないみたい。
でもどの動物も機械には見えない。手を伸ばすと、生き物の暖かさを感じる。
「ダイヤモンドガラガラヘビ 頭♀尻尾♀ 約3m SALE中!」
一匹なのに、二匹。違う、二人で一匹!
…この時、気付いた。
どの子も、私を見つめ、声を荒げている。
これは、威嚇しているんじゃない、私に…。

目の前が真っ暗になる。いつの間にか後ろにいた誰かに布を被せられ、そして何かを吸い込まされる。そのまま、意識がとおくなって…それが、私が人間生活にしばらくお別れを告げることになった瞬間だった

一週間後。
倒産して使われなくなったはずのデパートの地下に、十人ほどの人間が集まっていた。
老若男女、年齢も性別も身なりもバラバラの彼等に共通するのは、これからの取引への欲望を湛えた眼差しだけである。
そして、パカラッパカラッと余りにこの場所に不釣り合いな音が何処かから響かせながら、檻を満載した三頭立ての荷馬車が到着し、男女の人形御者が重そうに檻を降ろす。
そして腕時計に目を向けていたスーツ姿の男が目線を上げ声を張り上げる。
「では、定刻となりましたので、本日の商品のご説明を開始します。
まず本日最初の品は、新入荷のメスのビアテッド・コリー犬で…」

(不思議ペットショップ 完)
最終更新:2017年06月30日 20:11