香織は自分の性格をよく把握しており、
嘘などをついてもすぐに見抜かれてしまう。
だから、番組について質問されて下手な嘘もつけず、
着ぐるみの女の子が気になり、
顔を見てみたかったと正直に打ち明けた。
香織は「あなた好きそうだものね、こういうのと」と言って、
そのまま一緒に
テレビを見ていた。
突然なにか聞かれるかもしれないとドキドキしながら、
妻の様子を伺いつつテレビを見ていた。
見ていてつい、「この着ぐるみに女の子が入るのってきつくないのかなぁ」
とあまり黙って見ているのもどうかと思い聞いてみた。
すると、「暑くて大変なんじゃない」とそっけない返事。
しばらく、二人で見ていたが、
急に立ち上がり妻は部屋を出て行ってしまった。
テレビ画面では、幼虫のイモムシが躰をくねらせながら、
子供達の後ろをついて行っていた。
次の日、妻は「どの着ぐるみが好きだったの?」と聞いてきた。
どれも印象に残っていたが、動きに女性らしさがある成虫の
2つ目と答えて、ハッとした。
妻の香織も番組をよく知っていたのだ。
答えを聞いて、ふぅうんといった感じで笑みを浮かべている。
そのあと、2人で
巨大昆虫観察を見ていた。
幼虫が糸を出して繭を作り、サナギになる。
子供達は中を見たくてたまらず、ある日繭を破って中を覗く。
サナギは全体的に光沢がありくすんだオレンジ色をしている。
人工物のようにも見えるサナギを子供達は
好奇心から繭をやぶって、サナギを外に出す。
外に出されたサナギを子供達が触る、
その度にサナギはヒクヒクと動いている。
サナギはしばらくすると、
サナギの皮を剥いで成虫が出てくる。
実際の昆虫ではよくある光景だが、
これは成虫の着ぐるみを着せられた女の子が、
さらにサナギの着ぐるみも着せられて、
出てこなければならない。
これはとんでもなくキツイだろうと思った。
そんな状況でもがんばっている彼女のこと
を考えていると、変に興奮してきてしまう。
放送されたシーンはほんの1分程度だが、
実際の撮影では、子供達もいて、
すんなり一発でOKはでなかったと思うと彼女はすごいと思った。
「あのシーンって、相当苦しいんじゃないかなぁ」と
妻にいったところ、耳を疑うような返事が返ってきた。
「暑いし、苦しかったよ」と。
テレビを見ていてそれほど真剣には聞いていなかったが、確かにそう答えた。
妻 香織の顔を見ると、なんともいえない微妙な表情でテレビを見ている。
テレビを見ずに驚いて、妻を見ている自分に向かって、
香織は巨大昆虫観察のすべての着ぐるみに入っていたのは
自分であることを告白してくれた。
そして、自分の旦那がこの番組のファンであると知り、すごく嬉しかったことも。
妻以上に自分の方が嬉しかった。
散々探し求めていた彼女が、まさか自分の妻だったとは思いもよらなかったので。
「番組ファンの質問に何でも答えてあげるわよ」
と香織は笑顔でいってくれた。
楽しみは少しずつと思い、毎日DVDを一緒に見ながら、
いろいろ質問することになった。
そもそも、どうして着ぐるみに入ることになったかというと、
役者などを派遣する会社の事務員として就職したが、
すでに巨大昆虫観察に着ぐるみに入り出演が決まっていた
女の子が事故で入院してしまい、その子に合わせて、
すでに着ぐるみが造っていたので、
だれも代わりの人がいなかったため、
唯一会社内で同じ背格好の香織に声がかかった。
入社したばかりで、断ることもできなかったので、
今回だけということで出演をOKした。
ただ、本名は出したくなかったので、
田代香織を並び代えて、織田香代子で出演することになった。
本題に戻るが、1話の卵から幼虫が産まれてくるシーン。
黒い全身タイツに着替えて、上からベンチコート
を羽織りスタジオに入る、季節は冬。
そのまま着ぐるみには入らずに簡単な動きの確認をする。
そして、いよいよ緑色をしたイモムシの着ぐるみへ。
表面は光沢があり、胴体の下の部分には拳大ほどの脚が複数付いている。
頭部分は躰とは違い硬い材質でできている。
頭部と躰部分の隙間から手を入れるとチャックがあり、
胴体部に沿ってチャックを開けると
イモムシの頭がもげたようにうな垂れる。
その頭のもげた躰に足から着ぐるみに入っていく。
中はクッションが詰まったようになっていて、
柔らかく温かかった。複数あった脚のうち4つに手足を入れる。
入るときなかなか苦労する、スタッフに手伝ってもらって着るので、
一度着ぐるみに入ると一人で脱ぐことはできない。
そしてイモムシなので立ち上がることもできない。
できることといえば、胴体下に付いている短すぎる脚を動かして
少しずつ前に進むくらいしかできない。
初めの卵から産まれるシーンでは、幼虫が粘液とともに出てくる。
そのため、イモムシの頭を被る前に卵に入れられて、
卵内を緑色のローションで満たされるため、
呼吸用のチューブ(緑色に着色したもの)を
イモムシの頭を通して自分の口へ。
しっかり呼吸できることを確認してから、イモムシの頭を装着。
そして、卵にフタをして大きな卵にしか
見えないようにする、2つの穴を残して。
2つの穴は呼吸用のチューブを出す穴と、
もう1つは緑色のローションを卵内に注入し、
産まれる際に卵を内から割るための棒を入れるための穴。
着ぐるみに入り、さらに卵に閉じ込められた香織には、
ローションが注入されているかどうかはわからなかった。
卵はイモムシが入ると、ほとんど動くことができない大きさだったので、
卵が割れると大量の粘液とともに外へ飛び出した。
卵の中は少し窮屈ではあったが、苦しくてたまらないということはなかった。
ただ、このシーン実はかなり時間がかかっていた、
というのも卵がなかなか割れずにスタッフが監督から
怒られている声が聞こえていた。
だから、卵から産まれて粘液の上でうねうねと動いて、
カットがかかったとき怒られていたスタッフが心配して
すぐにイモムシの頭を外してくれた。
幼虫イモムシの撮影は1週間ほど続いた。
イモムシは這って動くので、腹の部分が破れてこないか心配したが、
着ぐるみは念のため2着ずつ用意されていた。
子供達との撮影が多く、着ぐるみを着たまま待機していたが、
寝てしまっていることもあった、
頭を被っているので誰にも気付かれなかった。
寝たまま撮影に入り、子供達がイモムシの上に
乗ってきたのにビックリして目が覚め、
振り落としてしまい泣かせてしまったこともあった。
イモムシは自由に動けなく不便ではあったが中はふかふかで、
他の着ぐるみと比べると快適だったように思う。
旦那には内緒だが、予備の着ぐるみはほとんど使っておらず、
急遽代役でがんばってくれた記念に頂いて屋根裏の収納にしまってある。
パーティなどがあれば精巧にできているので
おもしろいかもしれないと思いもらったが、
かさばるので捨てようか迷っていたが、
旦那が着ぐるみを着たら喜んでくれそうなので、
このまま保管しておくことに決めた。
そして、もうすぐ来る旦那の誕生日にはサプライズで
着ぐるみを着て祝ってあげようと考えた。
最終更新:2014年11月05日 21:26