某SF作品パロディ 後編

381 某SF作品パロディ sage 2010/02/17(水) 12:01:09 ID:f5I4l6S8
…………もはや永遠とも感じられる時間をこの狂気の中ですごしていた。
樹里の想いを拒絶したあの日が遠い昔のように思える。
いや、そもそも普通の生活と言うものが思い出せなくなりつつある。
自分の世界は最初からこの苦痛のみであったのではないか……
いつの間にか思考すら放棄していたのだろうか、よくわからない空白感を感じていた。
「さて。兄さん、ボクのことを女として愛してくれるかい?」
もう何もわからない。
そもそも何故、樹里を拒絶したのか。それすら今の自分には説明できない。
愛とはなんだ。女としてとはどういうことなのだろうか?
わからない。いったいどういうことなのだろう……
「わからない。わからない。」
無意識に口に出ていた。
「兄さん、詳しく聞かせてくれ。」
状況に久しぶりに変化が訪れる。
俺の言葉を認識した瞬間、樹里の表情が一変した。
唇は右端がつりあがり、同時に右目に力が入り薄ら笑いのように細まる。
対照的に左目は極限まで見開かれ、俺を深遠まで見通そうとしているようだ。
長年共に生きた俺でも、こんな表情などかつて見たことがなかった。
あえて形容するなら、獲物を目前にした肉食獣のような。そんな気がした。
俺はそれに対して、ただただうわごとのように同じ言葉を繰り返すだけだった。
何回つぶやいただろうか。 いきなり眼前の電気スタンドが消され床に押しのかれる。
樹里は拘束された俺の体の上にゆっくりと四つん這いになると、俺の顔を正面から覗き込んだ。
目を見開き俺の目にじっと焦点を当て続ける。
そして先ほどの熱を帯びた口調から一転、冷たくゆっくりと語りかける。
「じゃぁボクが教えてあげよう。愛情に血縁は関係ない。近親相姦は禁忌などではない。復唱して。」
「愛情に血縁は関係ない。近親相姦は禁忌などではない。」
ほとんど反射的に復唱していた。そうか。そうなのか。よくわからないが、樹里が言うのならそうなのだろう。
「もう一度」
「愛情に血縁は関係無い。近親相姦は禁忌などではない。」
「もっとだ!もっと言うんだ兄さん!」
樹里の声が再び昂ぶっていく。
同じやり取りを繰り返すうちに樹里は次第に下半身を支えていた脚を伸ばし俺の脚に絡めてきた。
今ではすでに腰から下が完全に密着して体重を俺に任せている。
絡み合う下半身から樹里自身の熱が直接伝わってきた。
もう何十年も温かさを感じていなかったように感じる。久々の温もりに思わず安堵した。
その熱は包み込むように温かくて、かつ焼けるように熱い。
下腹部からは興奮で荒くなっている樹里の呼吸を感じることも出来る。
その熱さと対照的に俺を覗き込む樹里の表情だけはまだ冷たいままで、そのアンバランスに心を揺さぶられた。
しばらくそれが続くと、ついに樹里が無言になる。
ただただ沈黙の時間が流れ、ついに上半身も覆いかぶさってきた。
徐々に熱と圧力を受ける面積が広がってくる。
やわらかい胸がギュっと押し付けられた。同年代に比べ小ぶりだが、服の上からでも柔らかさを感じられたようだ。
樹里の体温と重さだけが今の俺の全感覚を支配していた。
「兄さん、もう疲れたろう。もう眠っていいよ。」
耳元で睦言のように囁かれる。もう眠っていいのか…………
樹里の温もりに包まれながら、俺の意識は溶けるようにまどろんだ。






382 某SF作品パロディ sage 2010/02/17(水) 12:01:50 ID:f5I4l6S8




心地よい眠りから意識が戻る。
周りを見渡すと、俺はいつも使用するベッドの上にいた。
窓からは朝日が差し込んで部屋を照らしている。いつもと変わらない朝の風景。
間違い無く普段どおりの自分の部屋だ。足が金属の輪で拘束されベッドを離れられなくなっていること意外は。
前と変わりないのかと不安になったが手は自由に動かせるようだ。目の前で拳を開け閉めするが正常に動く。
手首に残った傷跡が痛々しいが手当てされたあとあった。ふと気が付いて頭を探る。アレをまたされてはたまらない。
とりあえず手で触れる範囲ではごく普通だ。思わず安堵のため息をつく。
数秒間だけベッドに体を任せて悪夢について考えていると、樹里が右側にある扉から入ってきた。
「やぁ、兄さんおはよう。ご飯持ってきたよ」
食器搬送用の手押し車を押しているのが見える。どこから用意したのだろうか。
ここの状況だけ見ればホテルのルームサービスのようだ。
「タイミングがいいな」
まだすこしかすれた声だった。どれだけ喉を酷使したのだろう。
しかし、よく考えればここまで絶妙のタイミングで入ってこれるのは不自然だ。
すると、樹里はいきなり神妙な表情を作りどこかふざけたような声で言った。
「ふふん、兄さんは見られてる」
……見られてるってのは監視的な意味でなんだろうな。
樹里の手によって朝食がベッドに横付けされた。これはベッドの上で食えと言う意味か。
丼いっぱいに盛られた白飯に四人前はありそうな大盛りの生姜焼き、バケツのようなサラダボウルいっぱいの野菜……
見た目やら繊細さはまるで無視して量だけを追求したような料理。どこかの貧乏学生ご用達の食堂みたいだ。
だが普段の俺からは考えられないが、その圧倒的物量を見る見るうちにたいらげてしまう。
美味かった。本当に美味かった。
おそらく原因は異様な空腹感だ。もう何年も食べていないのかと錯覚するほどだった。
空腹こそ最高の調味料と言う言葉を身にしみて理解した。
最後のほうになるとさすがに満たされてきて、今ではすこし腹がキツイくらいだがそのキツさがむしろ安心できた。
満腹感に満たされベッドに倒れこんだ俺に冷水の入ったコップが手渡される。
体を再び起こして喉を潤す。清冽に油っぽさが流されてさわやかな心地だ。
ただの水がこんなに美味いと思ったのははじめてなんじゃなかろうか。


383 某SF作品パロディ sage 2010/02/17(水) 12:02:56 ID:f5I4l6S8
「兄さん、デザートも用意してるんだけど。」
樹里が俺に小包を差し出してきた。
正直、腹いっぱいだったが包装を開けて中身を確認する。
そこにはハート型の黒い菓子、つまりはチョコレートが入っていた。
「バレンタインには少し遅れたけど……本命も本命だ。受け取ってほしい。」
樹里はいつもどおりの表情でそう俺に告げる。
だが顔色はといえば赤化してるのがはっきりとわかる。いつから共産主義者になったのか。
というかバレンタインには遅れただと?
「ちょっと待ってくれ、今日は何日だ?」
「2月の17日だ。3日遅れだね」
俺の記憶ではっきりと日時がわかるのは2月12日。
あの暗い部屋の中で5日間経っていたのか。五日"しか"というべきか"も"というべきか。
「時間経過を知りたいんだね?
まず兄さんを拘束したのが12日の深夜、兄さんが起きて交渉が始まったのが13日の朝。
そして15日までぶっとうしで交渉して終わったのが正午ごろ。そのまま丸一日眠って今に至る
とまぁこんな感じだよ」
よく考えればその時間丸々、コイツは起きてあの演説を続けていたのか。ずいぶんと元気なものだ。
それとも愛のなせる業か…………
そして意識を眼前のチョコレートに戻す。
これを受け取るということは樹里を受け入れるということだ。樹里も俺がどうするのかを全力で窺っている。
俺はこの三日遅れのチョコレートを…………一気に口に含んだ。
口で溶かさずに咀嚼するとチョコ特有の風味が口腔内に広がる。
そして間髪いれずに樹里の後頭部に手を回して引き寄せ口付け。
こういう経験が無い俺はくちびるの柔らかさに戸惑いつつも感動する。
樹里を拘束している腕からかんじる首筋の温もりをもっと感じたくてさらに強く抱きしめる。
それだけでは我慢できないから、手を襟から服の中に進入させ背中を直接まさぐった。
自分が何をされているか樹里はよく把握できていない様子だった。
この混乱に乗じて樹里の口腔内に第一梯団としてチョコレートが随伴した舌を突入させる。
突破に成功した舌が樹里の歯にかち当たると迂回機動を取ってその奥へと侵入。
そのままの流れでOMGとして噛み砕いたチョコを無停止進撃させるよう試みた。
が、混乱から回復した樹里がやはり舌を用いて迎撃行動を始めた。
俺の舌に付いたチョコを削ぎ落とすように絡め取ってくる。その甘美な感覚にクラクラした。
戦線が樹里の口腔内で膠着しつつも激しい攻防戦が続く。このまま全面核戦争へと突入しそうだ。
俺は今、樹里を心から愛していた。

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最終更新:2010年03月07日 20:37
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