728 埋めネタ「らくえん」 (1/2) ◆6AvI.Mne7c sage 2010/05/07(金) 17:46:50 ID:4UUnEBDn
新スレ、結構濃いめの長編が連投されだした。嬉しい。
でもまだこっちの前スレが埋まってないのも、虚しい。
というわけで、結構好き勝手に投下してみる。
埋めネタ投下。タイトルは『らくえん』。兄妹もの2レスで、大体4.9KB。
……パクリじゃないよ、リスペクトだよ。(もしくは改悪とも言う)
ある朝目が覚めた時には、父も母もすでにいなかった――
妹と僕が招かれたのは、『楽園』という場所だった――
そこには『僕ら兄妹』と似たような連中が、何組もいた――
やがて『楽園』に疑問を抱いた僕達は、そこから逃亡した――
脚が軋む……腕が動かない……喉も掠れてまともに声が出ない。
そして何より疲労困憊。もう今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
僕はいま、ある場所――いや、ある人物から逃げている最中だ。
他にも何人か一緒に逃げ出したけど、彼らは無事なのだろうか?
僕と妹の居た、あの場所の正しい名前は知らないし、知りたくもない。
ただアイツは――僕の妹はそこを『楽園(スレッド)』と呼んでいた。
楽園――確かに妹にとっては、楽園どころか天国に等しい場所だろう。
けれど僕にとっては、奈落や冥府のような場所でしかなかった――!!
「……っはぁ……っはぁ…………」
僕達に逃亡のチャンスが訪れたのは、今期の『楽園』が近々終焉を迎えるからだ。
どうやら『楽園』は一定期間で寿命を迎え、隔離閉鎖される仕組みであるらしい。
その前に新しい『楽園』を創り出し、そこに移動する――のが通例となっている。
僕は今回、その移動の隙をついて、なんとか妹の目を盗み、逃亡に成功したのだ。
だが甘かった。『楽園』は来る者は拒まないが、去る者は決して許さなかった。
移動するパレードから抜け出した者には、即座にそれぞれ『追手』が放たれた。
その『追手』は『楽園』の管理者ではなく、逃亡者それぞれの『相方』だった。
共に逃げた仲間にもそれぞれの『相方』が追いすがり、そして僕にも当然――
「うふふ♪ おにーさまつーかまーえたっ♪」
突如背後から、僅かに思春期を抜けない、可愛らしい少女の声が聞こえた。
けれど僕にはその声音が、世界を滅ぼす魔獣の舌舐めずりにさえ聞こえた。
ここで僕は自尊心を捨て、力の限りに走れば、逃げられたのかもしれない。
けれど彼女に首を――全身を締め付けられていては、それは不可能だった。
僕の妹――血の繋がった、愛すべき家族――であるはずの、愛らしい少女。
けれど今は、ただ嫉妬と愛欲に狂い壊れた、忌まわしきオンナでしかない。
実の兄を男として愛するために、彼女が払った犠牲に、僕は目を瞑れない。
けれど彼女はそんなことなど関係なく、僕を強引に愛し、弄び、苦しめた。
729 埋めネタ「らくえん」 (2/2) ◆6AvI.Mne7c sage 2010/05/07(金) 17:49:06 ID:4UUnEBDn
「私を1人にして、何処かへ行こうだなんて――許せませんわ」
彼女がここまで狂ったのは、あの忌々しい『楽園』の存在を知ってからだった。
それまでは妹も、僕にべったりくっつく重度のブラコン――程度の存在だった。
僕もそれを甘んじて受け入れていたため、僕の傍らにはいつもいつも妹がいた。
いつか僕か妹に恋人ができて、お互いが離れるまでは、現状をよしとしていた。
けれどあの頃を境に、彼女は兄を異性として愛するように、変質してしまった。
彼女が初潮を迎え、泣いていた時に、その緋色の意味を教えてあげた瞬間から。
男女の性差を覚えた彼女が、僕の夢精の痕跡をその目で見てしまった瞬間から。
それまでの漠然とした愛情が、より鋭く堅く、重いものに研鑽されてしまった。
「あの『楽園』に居れば、私たちは永遠に、誰にも邪魔をされませんから――」
僕がそれに気付いた時は、すでに妹は覚悟を決め、その意思は揺るがなかった。
それでもなんとか、妹の目を覚まさせようと奮闘したが、全て徒労に終わった。
何もできないまま、ついに妹はあの忌まわしき場所のことを、知ってしまった。
イカれた近親相姦(インセスト)の乙女たちが集まる、あの『楽園』のことを。
それからの妹の行動は、悍しいくらいに迅くて、そしてあまりにも狂っていた。
僕と少し手も仲の良かった全ての女性の服を、銃弾で赤く黒く塗りつぶし――
両親含む全ての親類縁者の首を、農耕用の鎌で刈り取るように刎ね飛ばし――
最後に僕達の生まれ育ったその村を、住民まるごと全て炎で焼き尽くした――
「私は絶対に、貴方を裏切りません。貴方を永遠に、愛し続けます。だから――」
僕の正面に移動した妹が、笑顔で僕に語る――と同時に、腹部に鈍痛が走った。
僕が驚いてそちらに目をやると、ナイフ――の形をした鉄の塊が刺さっていた。
確かこのナイフもどきは、あの『楽園』の名産品――非致死性の護身用武器だ。
血が出ない代わりに、鈍い刃先から迸る薬物によって、全身を弛緩させられる。
僕の身体から、全ての抵抗力が失われた。と同時に頭の中が割れるように傷みだす。
そして膝から崩れ、地面に倒れ――そうなところで、妹に抱えられた――気がした。
意識が遠のく。妹の愛らしい表情と笑い声が、僕の知覚範囲(せかい)を支配する。
最後の瞬間に、幼い頃の妹との記憶が駆け巡り、今の妹に重なったような気がした。
「さあ、私たちの『楽園』へ還りましょう、お兄様……?」
― They are kept, and the paradise is repeated again. ―
最終更新:2010年05月09日 22:39