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俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/20(木) 22:44:15 ID:vsgv7KBf
「おばさんがいなくなってもう半年だっけ? アンタも最近、主婦が板についてきたわ
ね」
「うちは育ち盛りの妹がいるからな。色々と栄養のバランスを考えて食事を作らないとい
けないんだよ」
「ふーん。アンタって昔からそういう細かいことだけは得意よね。あっ、挽肉あったわ
よ」
「それはいいんだよ。肉類は商店街の方で買うから」
「なんでよ?」
「安いし、いい肉を使ってるんだよ」
「へー、そうなんだ……」
「お前も少しは料理とか覚えたらどうなの? おばさんが雫はバスケばっかりで女の子ら
しいことはなんにもしないって嘆いてたぞ」
「う、うっさいわねー! 私のことはどうだっていいのよ!」
俺と雫は、自宅近くのスーパーで買い物の最中だ。正確に言うと、俺の夕飯の買い物に
雫が付き合ってくれているのだ。べつに頼んだわけじゃないんだけどなぜかこうなった。
ここで一つ説明しておこう。
先ほど雫が、「おばさんがいなくなった」と言っていたが、俺の母親はべつに死んだわ
けでも失踪したわけでもない。今から一年ほど前に単身赴任した父が心配で心配で居ても
立ってもいられなくなった母は、半年ほど前に俺と真帆奈を置いて父の元へと駆けつけた
のだ。うちの善人が取り柄だけの父は、れっきとした生活無能力者なのだ。半年間だけで
も一人で生活できたのは奇跡に近い。
で、母がいなくなった我が家を切り盛りするのが俺というわけだ。ちなみに妹はなにも
しません。つーかできない。父親の遺伝子を引き継いだせいなのか、先天的に料理や掃除
の才能が欠如しているのだ。料理を作らせれば未知の殺人兵器ができあがり、掃除をすれ
ば逆に散らかるだけ。二度手間なので、もうなにもやらせないようにしている。
「つーか、雫と一緒に買い物するのも久しぶりだよな」
「お互い色々と忙しいもんね。そういえば真帆奈ちゃんとも最近会ってないなー。真帆奈
ちゃん、元気にしてる?」
「あいつはいつでも元気だよ。それだけが取り柄みたいな奴だからな」
「まーたそんなこと言って、真帆奈ちゃんに怒られるわよ」
「事実だから仕方ないよ。もう少しぐらいは女の子らしくなって欲しいんだけどな」
見かけだけは母親に似ていいんだけど、中身はいつまでたってもパッパラパーだからな。
「でも真帆奈ちゃん、学校で何人かの男の子から告白されてるらしいわよ」
「えっ、真帆奈が……!? ま、まさか??」
「アンタ知らなかったの? 真帆奈ちゃん、あんなに可愛いんだからモテて当たり前でし
ょ」
いや、そんな噂はちらほら聞いたことがあるのだが、告白までされていたとは正直知ら
なかったぞ。
「だって真帆奈だぞ! めちゃくちゃいい加減だぞ! 家事も料理もなんにもできないし、
朝だって一人で起きたことなんか一度もないんだからね!」
「そんなもん一緒に暮らさないとわからないでしょーが。だいたいアンタ、なんでそんな
に取り乱してんのよ?」
「べ、べつに取り乱してはないだろ……」
「はっはーん。アンタねー、いい加減にシスコン卒業したらどうなのよ。真帆奈ちゃんだ
って、いつまでもアンタにベッタリじゃないわよ」
「俺はシスコンじゃねーよ!」
とんでもない言いがかりだ! 真帆奈はまだまだ子供なんだから、恋人とか彼氏とかそ
んな生々しい話は早すぎるって思ってるだけなんだから!
「アンタは頭の天辺から足の爪先まで正真正銘のシスコンよ。シスコンでインターハイ狙
えるくらいだわ」
281 俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/20(木) 22:45:04 ID:vsgv7KBf
そんなもん狙わねーよ! いったいどんな競技するんだ!
「そ、それで……真帆奈はなんて答えたんだよ?」
「さぁー、そこまでは知らないけど。ホントに真帆奈ちゃんからはなにも聞いてないわ
け?」
「……」
真帆奈は、毎日俺に学校であったことなど必要外のことまでペラペラと話すのだが、告
白のことに関しては一度も聞いたことがなかった。仮にもしそんなことがあったのなら、
真っ先に俺に相談してくれると思ってたんだが……。
「妹の方に先に恋人ができちゃったりしたら、兄の威厳丸潰れよねー」
なにがそんなに楽しいのか理解に苦しむが、雫はシシシとにやけ顔で言ってきた。
実に気分が悪い。
「う、うるさい! お前だって恋人いないだろ!」
俺と同じで、恋人いない歴=年齢の癖に!
「なっ! だ、だから私のことはいいのよ、バカ涼介! だいたいアンタはねー、あんな
高嶺の花ばっかり狙ってるから、いつまでたっても彼女の一人もできないのよ!」
「はぁ? なんの話してるのかさっぱりわからんわ」
「またまた惚けちゃってさっ、フンッだ!」
「全然惚けてないっつーの。冗談抜きでなんのこっちゃわからんよ?」
「東郷さんのことよ、東郷さん! あんないやらしい目付きで毎日毎日東郷さん見てたら、
アンタいい加減に訴えられるわよ!」
告訴よ告訴! と顔を真っ赤に茹でらせ興奮する雫。
またその話かよ……。
「だから俺がいつそんないやらしい目付きで東郷さんを見たんだよ!」
東郷さんはアレだけ美人なんだから、少しぐらいは目で追ったりするようなこともある
だろうけど、そんな雫が大袈裟に言うように、上から下へと舐め回すようないやらしい目
付きで見たことなんか一度もないぞ。だいたいそんなことしたら、同じクラスの同級生に
対して失礼じゃないか。
「アンタ、昔っからああいう髪が長くて清楚な感じの女の子が好きだもんねー。はんっ、
バカじゃないの! ちょっとは自分の分をわきまえなさいよ!」
確かに俺は自他共に認める黒髪ロンガーだが、なんで雫にそこまで言われなきゃいけな
いんだ? だいたい場所を考えて欲しい場所を。ここは近所のスーパーの惣菜売り場なん
だぞ。どこに知り合いが潜んでいるのかわかったもんじゃない。
「とりあえずだな……こんなところでこんな言い争いするのはやめにしないか……?」
「あっ!?」
雫も漸くそのことに気付いたらしく、素直に押し黙った。
ほらっ、あっちの方でどこかで見たようなおばさん達がヒソヒソやってるじゃん。変な
噂でも流されたらどうすんだよ。
かなり気まずい思いをしたので、俺と雫はさっさと買い物を済ませてこの場所から立ち
去ることにした。
で、商店街に向かう道すがら、俺は幼馴染の八つ当たり攻撃を受けることになった。
「アンタのせいで恥かいちゃったじゃないの! どうしてくれんのよ、もーっ!!」
本当に無茶苦茶言うな、この人は……。
「あのさー、お前がなにを勘違いしてるのか知らないけど、俺は東郷さんとどうにかなり
たいとか、そんな大それたことなんかこれっぽっちも考えてないぞ」
まぁ、東郷さんの方から告白してきたら即効で付き合うけどな。しかし、そんな非現実
的なことが起こりうる可能性は、0.000000001%。どこぞの人型決戦兵器の起動確立並なの
だ。俺はそんなにロマンチストじゃないですから。
「……嘘ね」
「嘘じゃないっつーの。お前が言うように俺だって自分の分くらいわきまえてるよ。だい
たい俺なんかじゃ東郷さんとは釣り合いが取れないだろ」
282 俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/20(木) 22:45:50 ID:vsgv7KBf
「……クラスの女の子の中で、結構可愛いって人気があるの知らない癖に」
雫が小声でゴニョゴニョと言っているが、よく聞き取れない。
「えっ、なに? なんて言ったの?」
「な、なにも言ってないわよ、バカッ!」
怒られた。なんでなの?
「そ、それじゃぁ……本当に東郷さんのことは……す、好きじゃないのね?」
「まぁ、好きか嫌いかで言えば好きだけど、恋愛対象かどうかと言われるとちょっと違う
と思うな」
簡単に言ってしまうと、テレビの向こうのアイドルかなんかへの憧れの気持ちに近いの
かもしれない。あまりにも住んでる世界が違いすぎて実感が湧かないのだ。
「ふーん、そうなんだ……わ、わかったわよ。アンタがそこまで言うんだったら信じてあ
げるわよ。もう、ホントにバカなんだから」
「そうか、わかってくれたか。いやー、よかったよかった……」
あれっ、なんで俺は雫に説教されてたんだ? もの凄い理不尽さを感じるんだが……。
まぁ、折角雫の機嫌も直ったことだし、蒸し返すとまためんどくさいことになるだろうか
らこれでよしとしとくか。世の中上手に生きていくには、諦念と妥協が肝心なのだ。
「ところで涼介……」
「ん? なに?」
「そ、その……も、もし涼介が恋人が欲しいって思うんだったら……もっと、み、み、身
近なところから探してみたらいいんじゃないかしら……?」
モジモジと頬を朱色に染めて雫が言った。
なんだ……熱でもあるのか? そういえば朝からちょっと変だったからな。
「はて、身近にそんな女の子いたかな……?」
自慢じゃないが俺の女の子との交友関係は、猫の額よりも狭くて浅いんだぞ。
「うーん、もしかして麗ちゃんのことか……?」
「なんで麗ちゃんなのよ! アンタ変態じゃないの!!」
また怒られた……。
ちなみに麗ちゃんとは、真帆奈の親友の秋山麗ちゃんのことだ。近所に住んでいるので、
俺や雫とも昔からの顔馴染みだったりする。
「……駄目だ。まったく想像すらできないよ? 俺の身近にそんな恋人になれるような女
の子が本当にいるのか?」
「ガルルル……」
うわっ、な、なんだ!? なんで雫の顔が、そんな実写阪デビルマンのようなデーモン
みたいになってるんだ?
「と、とりあえず恋人はまだいいよ。俺は真帆奈の世話もしないといけないし、今はそん
な余裕はどこにもないからさ……」
「きぃぃぃぃーっ! もういいわよ! バカ涼介!!」
ドスンドスンとアスファルトの地面に悲鳴を上げさせながら、雫は先に行ってしまった。
うーん、なんでまた怒らせてしまったのだろうか? 女心はさっぱり理解できないな。
「おやっ、涼ちゃんと雫ちゃんじゃないか。あいかわらず仲がいいなー」
そんなタイミングで商店街の肉屋のおじさんが、やたらと大きな地声で話しかけてきた。
モブキャラなので名前はない。
「べ、べつにバカ涼介なんかと仲なんかよくありません!」
怒りが収まらないのか、雫は熊のような肉屋のおじさんに食って掛かる。
「すいません、おじさん……」
「なんだなんだ? もしかして喧嘩してるのか?」
「さぁ……? それがよくわからないんですよ……」
「そうか、まぁ男と女なんかそんなもんさ! 俺も女房とは毎日のように喧嘩してるが、
一発やっちまえば仲なんか元通りだぜ! 心配すんな、ガハハハ!」
戦国武将のように豪快に笑う名なしのおじさん。
283 俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/20(木) 22:46:33 ID:vsgv7KBf
「ななな、なに言ってんですか! 私がこんな、バ、バカと、そそそ、そんなことするわ
けないじゃないですかーっ!!」
肩まで伸びた茶髪を振り回して、猛然と抗議するジャージの幼馴染。
冗談で言ってるんだから真に受けるなよ。完璧に現行犯のセクハラだけどな。
「あんた! 馬鹿なことばっかり言ってんじゃないわよ!!」
で、こっぴどく奥さんに叱られる肉屋のセクハラ亭主。
他の趣味探せよ。
「なんだよ……ちょっとしたジョークじゃねーか……」
「いいから! あんたはもう奥に行ってな!!」
レッドカードで一発退場になった。
「ごめんね、涼ちゃんに雫ちゃん。うちの人、馬鹿だから……」
「いえいえ、いいんですよ。全然気にしてませんから」
男の俺にはあんまり被害はないしな。ターゲットになるのは、いつも若い女の子だけだ。
真帆奈にセクハラするのだけは、やめて欲しいんだがな……。
「いいい、いっぱ……って、そ、そんな……涼介と私が……はうぅぅ……」
雫は、まだメダパニ状態から回復していない。
「お詫びにサービスしとくからね」
今日の夕飯は、真帆奈の好きなふわふわハンバーグにするつもりなので、牛と豚の挽肉
を買った。真帆奈ちゃんにいっぱい食べさせてあげてね、とちょっと申しわけないくらい
サービスして貰った。
で、帰り道。
「ところで雫さー」
「い、いっぱ……いっぱ……つ……ううぅぅ……」
まだ回復してなかったのかよ!
「おーい、雫さーん?」
「はうっ! ななな、なによ! あ、あんなこと言われたからって、かか、勘違いしない
でよね! 私と涼介は、た、ただの幼馴染なんだから!」
「しねーよ! ところでなんだけど、今日俺になんか用事あったんじゃないの? いつも
は部活あるのに珍しいじゃん」
「えっ! あ、あの……その……よ、用事は、もう済んだからいいのよ」
済んだのか? いったいなんの用事だったんだ?
「あっ、そ、そうだっ! 今年の五月会はどうすんのよ?」
「ああ、それか……つーか今年もどっかに行くの?」
五月会とは、ようするにゴールデンウィークにみんなで集まって遊びにいく会のことだ。
偶然にもこの近所には五月が誕生日の子供が多かったので、自然にそんなことをやり始め
るようになった。
「ちょっと、アンタ行かない気だったの!」
「いやいや、雫も光も忙しいかなー、と思ってさ」
「一日くらいどうにでもなるわよ。それにこれがないと、光の奴、真帆奈ちゃんとまとも
に会話もできないんだから」
光とは雫の弟のことで、現在十三歳だ。
真帆奈とはクラスが違うが同級生の幼馴染で、姉と同じくスポーツ万能。現在はサッ
カー部に所属しており、すでに将来を嘱望されているらしい。体育会系らしく、なかなか
の好少年だったりする。
「光ったら、いったいいつまでウジウジ悩んでるつもりなのかしらねー」
「なるほど、真帆奈の周りに他の男が寄ってくるから気が気じゃないわけだ」
どこの馬の骨ともわからん馬鹿ガキが真帆奈にちょっかいを出しているのかと思うと、
俺だって多少は気に入らない。
「そうよ。好きだったらさっさと告白すればいいのに、ずーっと片思いしてるんだから」
284 俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/20(木) 22:47:14 ID:vsgv7KBf
純情少年光君は、物心がついた頃からずっと真帆奈に片想いをしているのだ。本人はま
ったくばれてないと思っているようだが、関係者は一人を除いて全員その事実を知ってい
る。その一人とは、実に残念なことに当の真帆奈だったりするから気の毒な話だ。
「あいつも色々考えることがあるんだろ。もし告白して断られたりしたら、幼馴染の関係
まで終わってしまうとかさ」
「あっ……!!」
なにかに気付いたような顔で立ち止まる雫。
「なに?」
「な、なんでもないわよ、バカッ!」
なんで怒られるんだ?
「と、とにかくどこに行くかアンタも考えといてよ! もうそんなに日にちないんだから
ね!」
しかもなぜそんなにキレた口調なのだろうか? どうもこいつは情緒不安定だよな。意
味なく不機嫌になる時がよくあるのだ。
「うん、わかったけど……」
「……りょ、涼介!」
「えっ、な、なに?」
なにかを思い詰めたような雫の真剣な顔を見て、思わずドキッとしてしまった。
「……な、なんでもないわよ!」
なんだそりゃ!?
刹那、馥郁たる桜の匂いを含んだ風が、横薙ぎに俺と雫の間を通過した。
彼女の茶色の髪がそれに乗ってふわりとなびき、紅い太陽に照らされながらキラキラと
輝いて虚空を舞った。
綺麗だ。
俺は純粋にそう思った。
雫はクラスの人気者だ。竹を割ったようなすっぱっとした性格をしているのと、友達思
いで面倒見もいいので、周囲からはリーダー的な存在として頼られ人望も厚い。また、時
折見せる笑顔が可愛いと、男子の間でも結構評判だったりするのだ。
「ちょっ、な、なにジロジロ見てんのよ!?」
なぜか頬を夕日よりも火照らせた雫が言った。
「い、いや、な、なんでもない!」
不必要に鼓動が加速していく。
えっ?? な、なんなのこのこそばゆい空気は? ちょっと待ってよ。相手は雫だぞ。
なんでこんなに緊張してんのよ!?
そんな幼馴染とのこっぱずかしい瞬間を見計らったかのように、俺の携帯電話がブルル
と振動した。
メール着信。
真帆菜からだった。
『おっそーい! なにやってるのお兄ちゃん!! もういつもの時間とっくに過ぎてる
よ! 早く帰ってきて!』
やれやれ……。
「だ、誰からよ?」
「真帆奈だよ。早く帰ってこいって」
「ふーん……」
なんでそんなジト目で見られるの?
「はいはい。じゃぁ真帆奈ちゃんも待ってることだし帰りましょ」
「うん……そ、そうだ。よかったらうちに寄ってくか?」
「ああ、今日は無理なのよ。これからちょっとお母さんと出かけなきゃいけないのよね」
「そっか……、じゃぁまた今度遊びに来いよ。真帆奈も歓ぶしな」
「真帆奈ちゃんがねー……それはどうかしらね」
「えっ、なんで?」
285 俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/20(木) 22:48:00 ID:vsgv7KBf
「……なんでもないわよ、鈍感。ほらっ、帰るわよ」
鈍感? こう見えても俺は結構鋭い方だと思うんだけどな。いったいなにが鈍感なのだ
ろうか?
「おーい、待ってよ」
先にすたすたと歩いていく雫を、俺は早足で追いかけた。
ドアを開けると、充満した少女特有の甘ったるい芳香に襲われた。
そりゃそうだろう。なぜなら俺の部屋には、二人のお年頃の少女達がたむろっていたの
だから。
「おっそーいっっ!! なんでこんなに帰ってくるのが遅くなったの、お兄ちゃん!」
「おにーさん、おじゃましてます」
「……いらっしゃい、麗ちゃん」
片方はもちろん俺の不肖の妹だが、もう片方は真帆奈の親友の秋山麗ちゃんだった。彼
女は、真帆奈と同じ三笠市第三中学校に通う中学二年生。しかし、その容姿は、とても妹
と同じ年齢とは思えないほど大人びていた。
毛先がナチュラルにくるんとカールしたブラウンが混じったセミロングの黒髪と、可愛
いと言うよりも綺麗と表現したい顔立ちをしており、チャームポイントの泣きぼくろがと
てもよく似合う。時折妙に色っぽい仕草をするので、最近俺の心臓に変な圧力が掛かるこ
とがあったりするのは内緒だ。
ちょっと前までは二人ともちんちくりんだったのに、最近の子供の成長は早いものだ。
特に麗ちゃんの胸は、真帆奈とは比べ物にならない発育ぶりだった。毎日牛乳でも飲んで
るのかな?
「あー、しかもお兄ちゃん! 全然反省しないで、またいやらしい目つきで麗ちゃんのお
っぱい見てるー!」
「み、見てないだろ! ななな、なに言ってんだよ!」
またってなんだよ、またって! 自分の兄をおっぱい星人扱いするんじゃない!
「そうだったんですか、おにーさん? それならそうともっと早くに言ってくれればよか
ったのに。おにーさんにだったらべつに構いませんよ。はい、どうぞ……」
とんでもないことに、麗ちゃんはずいっと俺の目の前にその豊満な双子の果実を差し出
してきた。
実はこの真帆奈の親友は、もの凄くノリがいいのだ。そしてこの場合は、俺をからかう
というよりも真帆奈をからかって楽しんだりする。
「わー、だめだよ麗ちゃん! お兄ちゃんにそんなエッチことさせたらだめなんだか
らー!」
「あらっ、どうしてなの真帆奈? おにーさんにはいつもお世話になってるんだから、こ
れくらい私はどうってことないわよ?」
むしろ当然の権利と付け加えた麗ちゃんは、俺にチラチラとアイコンタクトを送りなが
ら笑いを堪えている。
「だめなのー! それだったら真帆奈の方がお兄ちゃんにいーっぱいお世話して貰ってる
んだから、真帆奈のおっぱいを触って貰うんだもん!」
「お前、触るような胸ないじゃないか」
間髪入れずに俺がツッコむ。
「な、な、なんて失礼なこと言うのお兄ちゃん! これでも真帆奈のおっぱいは、去年よ
りも六ミリもおっきくなってるんだから!」
誤差の範囲じゃねーか。
「嘘付け、小学校の頃から全然変わってないじゃないか」
「うー! な、なんてひどいことを!? だったら触って確かめればいいよ! ほんとに
おっきくなってるんんだもん! 真帆奈だってちゃんと立派に成長してるんだから!」
「真帆奈、もう諦めなさい。おにーさんは、私の胸の方がいいって言ってるんだから。
ふふっ、これでおにーさんは私の物ね。これからは涼介さんって呼ぼうかしら」
286 俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/20(木) 22:48:28 ID:vsgv7KBf
頬に手を当て身体を艶めかしくくねらせる麗ちゃん。
本当にエロイ身体してるな、この娘は……。
「俺も麗ちゃんのことを、これからは麗って呼ぶよ」
できるだけ平静を装ってはいるが、内心はドキドキの俺。
「涼介さん……」
「麗……」
俺と麗ちゃんがふざけて見詰め合っていると、真帆奈は、
「だめだめだめーっ!!」
と、叫びながら俺と麗ちゃんの間に割って入り、麗ちゃんに向かって言い放った。
「いくら麗ちゃんでもお兄ちゃんだけはだめなんだよ! お兄ちゃんは真帆奈だけのお兄
ちゃんなんだからー!」
「真帆奈……それは涼介さんが決めることよ」
「う、麗ちゃんの裏切り者ー! お兄ちゃん! 真帆奈と麗ちゃん、どっちを選ぶのか今
すぐ決めて! 真帆奈はお兄ちゃんのことを信じてるんだよ!」
なんか調子に乗って麗ちゃんと話を合わせてたら、とんでもない方向に話が進んでしま
ったな。このあたりでお開きにしとくか。
「はいはい、冗談はもう終わりな」
「……えっ!? ええっ??」
狐に抓まれたような顔をしている単純なマイシスター。
「じょ、冗談だったの!?」
「ふふっ、ごめんね真帆奈」
クスクスと楽しそうに麗ちゃんが謝罪する。
「うー、二人ともいじわるだよ! なんでそんなことばっかりするのー!」
「そもそもお前が馬鹿なことを言うのが悪いんだろ」
俺が麗ちゃんの胸をチラ見していたのは紛れもない事実なのだが、真実はいつも闇の中
に隠されるものなのだ。
「だいたいなんでお前は、帰ったらいつも俺の部屋にいるんだよ」
「ごめんなさい、おにーさん。勝手におじゃましちゃって……」
「いや、麗ちゃんはべつにいいんだけどね」
「なんで真帆奈はだめで麗ちゃんはいいの!」
「自分の胸に聞いてみなさい」
真帆奈は以前に大掃除と称して(自分の部屋はめったに掃除しない癖に!)、俺がいな
い間にマル秘コレクションを全部粗大ゴミに出したことがあるのだ。以来、お宝は全てパ
ソコンの中に保存することにしている。
「うー、そ、そんなことよりも、なんでこんなに帰ってくるのが遅くなったのか説明し
て!」
なんでいちいち妹のお前にそんな説明をしなくてはいけないのだ?
「まぁまぁ、おにーさん。真帆奈はおにーさんの帰りが遅くて、ずーっと寂しかったんで
すよ」
いつまでもたっても子供だな、うちの妹は。
「帰りは雫と一緒だったんだよ。買い物しながら色々と話してたから、ちょっと遅くなっ
たんだよ」
「えええっ、し、雫ちゃんと!? な、なんの話したの……?」
「いや、べつにたいした話はしてないよ。学校のこととかだけど……」
「うー、あれほど女の人についていったらだめだって真帆奈は言ったのに……」
雫は知らない女の人じゃないだろ。だいたいなんで妹にそんな恨みがましい目で見られ
なきゃいけないんだよ。
「おにーさんおにーさん」
チョイチョイと手招きしてくる麗ちゃん。
287 俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/20(木) 22:48:59 ID:vsgv7KBf
「真帆奈は、大好きなおにーさんが雫さんに取られないか心配してるんですよ」
耳元でゴニョゴニョと説明してくれた。
まったく馬鹿らしい話だ。雫はたんなる幼馴染なんだから、取るとか取らないとかの関
係ではまったくないのに……。
「あー、お兄ちゃんの顔が赤くなった! なになになに!? 雫ちゃんとなにかあった
の!? お兄ちゃんには真帆奈という将来を誓い合った妹がいるというのにーっ!」
初耳だぞ! いったいどんな将来を誓い合ったんだ??
「あ、赤くなんかなってない! だいたいお前はもうすぐ十四歳になるんだから、そろそ
ろ少しは兄離れしたらどうなんだ」
雫が言うように、いつまでも俺にべったりでは少々困るのだ。
……べ、べつに真帆奈が兄離れしても寂しくなんかないんだからね!
「なんて罰当たりなことをいうのお兄ちゃん! 真帆奈がお兄ちゃんから離れるなんて、
核戦争が起きて機械との戦争が始まっても、ぜーったいにありえないんだからね! 真帆
奈とお兄ちゃんは、ずーっとずーっと未来永劫死ぬまで一緒なんだから!」
そんなにずっとお前の面倒を見させられるのは御免だよ。
「ふふっ、それなら私もおにーさんとずっと一緒ですよ」
そんなに面白がらないでよ麗ちゃん。真帆奈が調子に乗っちゃうからさー。
「兄妹なんだからいつまでも一緒にいられるわけないだろ」
「そんなの愛の力があればだいじょーぶだよ!」
ビシッと人差し指を俺に突きつけてくる真帆奈。
「心配しなくても、お兄ちゃんの老後のお世話は真帆奈がちゃーんとするんだから安心だ
ね」
「老人になるまで俺は独身貴族を貫くのかよ! いやだよ。平凡でいいから温かい家庭を
築きたいよ」
「真帆奈と結婚して温かい家庭を築けばいいよ。その頃には、兄妹でも結婚できる法律が
できてるに決まってるんだから」
そんなぶっとんだ法律は、お隣の独裁国家でもできるわけねーよ。
「あらっ、それなら真帆奈は、おにーさんの赤ちゃんを産んじゃうの?」
ああ……また麗ちゃんが余計なことを……。
「ええっ!? ……う、うん。お兄ちゃんが望むんだったら、真帆奈、お兄ちゃんの元気
な赤ちゃんをいっぱい産んであげるよ……」
ポッと頬を桜色に染めて、瞳をうるうるさせながらこちらを見詰めてくる真帆奈。なに
やらよからぬ妄想をしているのか、鼻息が牛のように荒い。
そんな女の目で実の兄を見るんじゃありません!
「はいはい、もう馬鹿な話は終了ね。麗ちゃんも、あんまり真帆奈をけしかけたら駄目だ
よ」
「ふふっ、ごめんなさい、おにーさん」
麗ちゃんは、口元に小悪魔の微笑を湛えていた。
火のない所で火を起こし、せっせ、せっせと薪をくべて燃料を補充する。それが真帆奈
の悪巧みの参謀長、秋山麗の華麗なる仕事だ。
「全然馬鹿なことじゃないよー! お兄ちゃんと真帆奈の幸せな未来設計の話なんだから
ねー! 赤ちゃんはちゃんと計画的に作らないと後で困るんだよ!」
そんな穴だらけの未来設計なんて必要ないですから。
「じゃぁ俺はそろそろ夕飯の支度するから。あっ、そうだ。よかったら麗ちゃんも、うち
でご飯食べていかない?」
「あらっ、およばれしてもいいんですか?」
「なんで真帆奈のこと無視するのー!」
ギャーギャーと妄想妹がうるさいが、もうきりがないので放っておく。
「もちろん大歓迎だよ。二人分作るのも三人分作るのも手間は同じだし、みんなで食べた
方が美味しいしね」
288 俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/20(木) 22:49:33 ID:vsgv7KBf
「そうですか……。ではお言葉に甘えることにします。ふふっ、おにーさんの手料理ゲッ
トです。あっ、それなら私もなにかお手伝いしますね」
麗ちゃんは、手先が器用なので即戦力なのだ。
「ありがとう。じゃぁキッチンに行こうか」
「真帆奈も一緒にお手伝いするー」
「えー、お前はいいよ」
邪魔されるだけがオチなのだ。
「なんで真帆奈だけ仲間はずれにするのー! はっ、ま、まさか! 麗ちゃんと二人でエ
ッチなことしながら晩御飯を作るつもりなんだね! な、なんてことを!! いったいキ
ッチンでどんなエッチなことするつもりなの、お兄ちゃん!」
なんでお前は兄をいつも変態扱いするんだ?
「するかアホ! だいたいお前はなんにもできないじゃないか」
「真帆奈だってやろうと思えばできるもん! 野菜の皮剥きとか、炊飯ジャーにお水を入
れたりとか、お皿並べたりとか、いーっぱいできるもん!」
お前は、野菜の皮剥きだって皮剥き器使わないとできないし、炊飯ジャーの水の量は間
違えるし、皿は割るだろ。でも、このままだとうるさいしな。諦めるしかないか……。
「わかったわかった。じゃあ三人で作ることにしよう」
「うー、いじわるしないで最初からそう言えばいいんだよ。でも、それがお兄ちゃんの真
帆奈に対する愛情表現なんだよね。そんな素直になれない初心なお兄ちゃん心を、真帆奈
はちゃーんと理解してるんだからね」
えっへん、と慎ましい胸を張る真帆奈さん。
もうめんどくさいから好きに妄想してくれていいよ。
「ふふふっ、本当におにーさんと真帆奈は面白いですね」
麗ちゃんは、本当に楽しそうに笑うのであった。
最終更新:2010年06月06日 20:09