俺の妹がこんなとびっきりに変態なわけがない 第3話

295 俺の妹がこんなとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/21(金) 21:19:44 ID:38TWQsbR
 三人で作った特製ふわふわハンバーグ(真帆奈はお皿を並べただけ)を歓談しながら完
食し、俺達は食後にアールグレイを楽しんでいた。
「おにーさんって、本当にお料理上手ですよね。毎日こんなに美味しいご飯が食べられる
真帆奈が羨ましいです」
「エヘヘ、いいでしょー。しかも隠し味には、真帆奈へのお兄ちゃんの愛情がたーっぷり
と入ってるんだよ」
 そんな得たいの知れない物を入れたつもりはない。
「べつにたいしたことないよ。麗ちゃんの方が、俺なんかより料理は上手いと思うよ」
 玉葱を素早く微塵切りにして手際よく炒めていく手捌きや、熟練した技術が必要な肉の
焼き方など、麗ちゃんの腕前はいつもながら見事なものだった。
 つーか麗ちゃん、また腕を上げたな。
「そんなことないですよ。あんな美味しいハンバーグ、私一人では絶対に作れませんよ」
「いやいや、ちょっとしたレシピの問題だから。麗ちゃんの料理の腕だったら、もっと美
味しいハンバーグが作れるよ。もういつでもお嫁にいけるレベルだと思うよ」
「あらっ、本当ですか。ふふっ、だったらおにーさんがお嫁に貰ってくれますか?」
 中学生とは思えない艶っぽい声色で、麗ちゃんが爆弾発言。
 ブブーと紅茶を吹き出す真帆奈。
「いいよ。麗ちゃんがお嫁に来てくれるんだったら大歓迎だよ。うちには一人だけうるさ
いのがいるけど気にしないでね」
「ふふっ、これで真帆奈は私の妹になるのね」
「ならないもんならないもん! 真帆奈はお兄ちゃんだけの妹なんだからー! お兄ちゃ
ん、大切な妹の目の前で麗ちゃんを誘惑するのはいい加減にやめて!」
 お約束どおり、ガーと真帆奈が噛み付いてくる。
 そんなんだからいいようにからかわれるんだよ。
「ごめんね、真帆奈。私とおにーさんは、もう将来を誓い合っちゃったから……」
「しょ、将来を誓い合った!? 真帆奈という可愛い妹がありながら、な、なんてこと
を!? そんな犯罪的なことは、お天道様許しても真帆奈はぜーったいに許さないんだ
よ!」
「お前は今までなに聞いてたんだよ。そんなもんしてるわけないだろ」
「えっ!? そ、そうなの?」
「ふふっ、ごめんね真帆奈」
「うー、なんでそんなにいじわるなことばっかりするの!」
「なんでもかんでも信じるお前が悪い」
 砂糖をたっぷりと入れたアールグレイを啜った。
 心地よい爽やかな香りと、気品溢れる芳醇な甘さが口内で拡がった。
「あっ、そういえば五月会のことなんだけど、二人はどこか行きたいところある?」
「もう五月なんですね。今年もみんなで行くんですか?」
「雫と光は大丈夫って言ってたよ。麗ちゃんも行けるんだろ?」
「もちろん大丈夫ですよ。おにーさんの行くところだったら、私はどこへでもお供します
よ」
 時々この娘がどこまで本気なのかわからなくなるよな。
「真帆奈はどこか行きたいところないのか?」
「うー……」
 真帆奈はプクーっと頬を膨らませ、拗ねてる真っ最中だった。
「おーい、真帆奈さーん、聞いてるー?」
 膨らんだホッペをつんつんと突つきながら聞いてみる。
「うー……」
 子猫が唸る。
 アレをやってくれないと絶対に機嫌を直さないぞ、という固い意思表示だった。
 しょうがない奴だな……。


296 俺の妹がこんなとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/21(金) 21:20:35 ID:38TWQsbR
 真帆奈の頭をナデナデしてやった。柔らかい黒髪は、本物の絹のようにすべすべで優し
い手触りだった。
「エヘヘ……」
 途端に真帆奈の顔が破顔した。
 もう機嫌が直った。山の天気のような奴だな。
 麗ちゃんは、そんな光景を母性溢れる眼差しで見詰めていた。
「真帆奈はねー。うーん、お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいや」
 もっと自主性を持って貰いたいんだけどな。最近の子供は、まったく……。
「去年はどこに行ったんだったかな? えーっと、確か……」
「遊園地に行ったんじゃなかったんですか?」
「そうだよー。お兄ちゃんと一緒にお化け屋敷に入ったの真帆奈覚えてるもん」
「ああ、そうだったな。それだったら今年は……いっそのこと温泉にでも行ってみよう
か? なんだったら一泊してもいいし」
「温泉いいですね。私、みんなと一緒に行ってみたいです」
「真帆奈も温泉行きた~い。それでねー、お兄ちゃんと一緒に温泉入って身体の洗いっこ
するの。お兄ちゃんったら、最近ぜんぜん真帆奈と一緒にお風呂に入ってくれないんだも
ん。昔は毎日一緒に入ってたのにー」
「私も一緒に入ってましたよね、オ、フ、ロ」
「それって子供の頃の話でしょ!」
 まだ真帆奈と麗ちゃんが小学生だった頃の話だ。麗ちゃんは、その頃からすでに今の真
帆奈くらいの胸の大きさだったんだけどな……。流石にこれはマズイと思ったよ。
「でもでも、恥ずかしがるお兄ちゃんも可愛いよ。温泉行ったら真帆奈がお兄ちゃんの身
体を隅々まで洗ってあげるね。エヘヘ……」
「……」
 あんまり深く考えずに適当に言ってみただけだったんだが、二人の食い付きはかなりい
いようだ。
「じゃあ雫に話しとくよ。でも、あの二人は一泊するの大丈夫かな?」
「雫さんも光君も部活頑張ってますからね」
「雫ちゃんと光ちゃんが泊まるのだめだったら、私達三人だけで泊まればいいよ」
 児玉姉弟は日帰りか……、それはちょっと可愛そうな話だな。よしっ、後で雫にメール
でもしとくかな。
「あらっ、もうこんな時間。私そろそろ帰りますね」
 ストレートのアールグレイを飲みきった麗ちゃんは、悠然と立ち上がった。
「えー、麗ちゃんもう帰っちゃうの」
「うん。また遊びに来るからね」
 なんだかんだでこの二人、本物の姉妹みたいに仲いいよな。いいコンビだ。麗ちゃんみ
たいなしっかりした娘が、見かけ意外はパッパラパーの妹のそばにいてくれるのは、正直
兄としては大変にありがたい。
「家まで送ろうか?」
「ふふっ、すぐそこなんですから大丈夫ですよ」
 麗ちゃんの家は、ここから歩いて三分もかからない。
「そっか、じゃあ気を付けて帰ってね」
「はい。今日は本当にご馳走様でした」
「麗ちゃん、またねー」
 俺と真帆奈は、玄関まで麗ちゃんをお見送りする。
 で、また一悶着が……。 
「こんなに素敵な夕飯をご馳走になったんだから、おにーさんにはなにかお礼をしないと
いけませんね」
「えっ、そんなのべつにいいよ」
「いーえ、それでは私の気が済みません」


297 俺の妹がこんなとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/21(金) 21:21:25 ID:38TWQsbR
 人差し指を唇に当て、なにかよからぬ悪巧みの麗ちゃん。
 もの凄く嫌な予感がするな。
「そうだ」
 麗ちゃんが、ちょいちょいと手招きしてくる
 はっきり言って聞きたくないな。
「今度、真帆奈に内緒で私の胸を触り放題にしますね。おにーさんなら特別に直でもしい
いですよ。ふふっ」
 やっぱりな……。
「麗ちゃん、だめだよー! 真帆奈に内緒でお兄ちゃんにそんなことさせたら、ぜーった
いにだめなんだからね!」
「あらっ、それなら内緒じゃなければいいのかしら?」
「内緒じゃなくてもだめなの! お兄ちゃんは、真帆奈のおっぱいだけで滾った欲望を満
足させてるんだからー!」
「あらっ、そうだったんですかおにーさん。それは残念です。ふふっ」
 もうどうにでもして頂戴。
「はいはい。麗ちゃん、早く帰らないと遅くなるよ」
「それではおじゃましました。真帆奈も、またね」
 ペコリと頭を下げた麗ちゃんは、先が尖った尻尾をフリフリしながらご機嫌に帰った。
「うー!」 
 で、うちの妹様は大変にご機嫌ナナメの様子だ。
「なに?」
「前々からずーっと思ってたんだけど、お兄ちゃんと麗ちゃんって、仲がよすぎるって真
帆奈は思うの……」
 ぶーたれながら真帆奈が言った。
 仲がいいというか、あれは遊ばれてるって感じだけどな。高校生を簡単に手玉に取ると
は、末恐ろしい娘だ。
「そうかなー、普通じゃないの?」
「普通じゃないよー! 真帆奈よりも麗ちゃんの方がホントの妹みたいだったもん!」
 麗ちゃんみたいな妹がいたら、お前とはべつの意味で大変だな。
「なにが言いたいのかよくわからんけど、妹はお前だけで十分だよ」
「ええっ!! そ、それは本気で言ってるの、お兄ちゃん!?」
「嘘ついても仕方ないだろ」
「ホントに妹は真帆奈だけでいんだよね! ぜーったいに他所で真帆奈以外の妹を作った
りしないよね!」
 どうやって俺が他所で妹を作るんだよ! そんなことは親父とお袋に言ってくれよ!
「作らねーよ! つーか、なんでお前はそんなに妹にこだわるんだよ」 
「そ~れ~は~、お兄ちゃんと妹の関係は、絶対不可侵の神聖な関係だからなんだよ」
 さっぱり意味がわからん。もう付き合いきれんよ。さて、風呂でも沸かそうかな。
「あー! せっかく真帆奈がいいこと言ってるのに、なんで無視して行っちゃうの!」
「馬鹿なことばっかり言ってないで、風呂沸いたら先に入れよ」
「うー!」
 真帆奈の子猫のような唸り声を後にして、俺はバスルームへと向かった。


 風呂を沸かして夕飯の後片付けをしたら、俺のささやかなプライベートタイムが始まる。
いちいち学校であったことを報告してくる真帆奈は風呂に入ったので、暫くの間は静かだ
ろう。この時間を有意義に使うことにしよう。
 自分の部屋に行きパソコンを起動。鞄の中から今朝入手したDVDを取り出した。
 別に疚しいことをするつもりなんかないんだからね! ただ折角黒木にコピーして貰っ
たんだから、中身ぐらいはちゃんと確認しとかないと悪いしな。おっと、ちなみにゲーム
やアニメを勝手にコピーして人に渡したりするのはいけないことだから、よい子のみんな
は絶対に真似しちゃ駄目だぜ。キリッ。


298 俺の妹がこんなとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/21(金) 21:21:52 ID:38TWQsbR
 全部エロゲーだったので、とりあえず全部インストールしといた。
 エロゲーといっても雫みたいに馬鹿にするなよ。一般のゲームと比較しても遜色ない作
品だってかなり沢山あるのだ。まだまだ世間からは偏見が強かったりするので、市民権を
得るのは難しいだろうがな。それに、アグ○スから目の敵にされても文句が言えないよう
な作品があったりするもまた事実。エロゲーとは、横に狭くて果てしなく奥が深いものな
のである。
 ちなみに黒木の守備範囲はことの他広い。つーか広すぎる。一人で内野と外野を守り、
投手と捕手とバッターまで兼任しているようなもんだ。萌え、泣き、笑い、陵辱、触手、
ロリ、妹、姉、熟女、寝取られ……、とあらゆるジャンルの属性を装備している。
 俺なんか黒木と比べたら、まだまだファームで素振りをやってるひよっ子みたいなもの
だろう。特に妹物だけは、どうしても身体が受け付けないしな。つーか、実際に妹がいた
ら普通はNGだろ。更なる高みを目指し、自ら己の変態を日夜練磨する黒木には本当に頭
が下がるよ。
 とりあえずゲームを起動させてみた。
「ジブリール4か……」
 最近発売されたばっかりの新作ゲームだった。
 これって絵は随分とおしゃれだったりするんだけど、中身は陵辱とか触手がメインなん
だよね。俺はあんまりその手のジャンルが好きではないのだ。妹物ほど受け付けないわけ
ではないのだが、好んでやりたいとも思えない。が、ゲームを親切でコピーしてくれた友
人は決まって次の日に、
「どうだった、おもしろかったか?」
 と、子供のように純真な顔で感想を聞いてくるお約束があるので、そこでわざわざコ
ピーして貰っておいて、
「いや、まだ全然やってないんだよ」
 と、答えるのも大変に心苦しかったりする。
 であるからして、ある程度は感想が言えるくらいゲームを進めておく必要があるのだ。
するのが嫌でもな。小市民とは、細かい気を使う哀れな生き物なのだ。
 で、暫くゲームを進めてみる。
「しかし、なんだかんだ言っても、やっぱり絵は綺麗だよな……」
 ゲームの内容に関しては、ググればいいのでいちいち説明はしないが、これは食後のデ
ザートとして十分に使えそうだぞ……、というのが率直な感想だった。どっかのベースを
弾いてそうな黒髪ロングもいるし、普通のエッチシーンもいくつかあるようだ。俺の下半
身のもう一つの人格が、ムクムクと鎌首を擡げようとしていたその時であった。
 そんな切ない事情を見透かしているかのように、携帯電話がニャーと鳴いた。
 メール着信。
 麗ちゃんからだった。
『今日は本当にありがとうございました。これは私からのささやかな感謝の印です。もし
もこれで満足できなかった場合は、メールください?』
 送付されていた画像を開けたら吃驚仰天。
「ぶーーっ!! 麗ちゃん、な、なんのつもりなのこれは!!」
 おそらく脱衣所の鏡に向かって写真を撮ったのであろう。上半身がスッポンポンの麗ち
ゃんが、その巨大で完熟した双子の果実を片腕だけで覆い隠し、ぱっちりと妖艶にウイン
クをしている犯罪スレスレ画像だったのだ。いや、これは場合によっては完全に児童ポル
ノ法違反だろう。
 お風呂上がりなのだろうか、麗ちゃんのピチピチとした柔肌はほんのりと桜色に染まっ
ており、髪はしっとりと濡れて色っぽく、ボヨ~ンと華奢な片腕からはみ出た下乳横乳は
まさに圧巻。ムンムンのお色気が、携帯のディスプレイの向こうからでも漂ってきそうだ
った。


299 俺の妹がこんなとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/21(金) 21:22:22 ID:38TWQsbR
「けしからん! まったく、けしからん!」
『麗ちゃん、女の子がこんなけしからん写真を男なんかに送ったら駄目だよ!』
 と、ドギマギしながら説教メールを送信した。
 すぐに返信が来る。
『ふふっ、おにーさんに歓んで貰えて光栄です。真帆奈には内緒ですよ?』 
 なんて怖い娘なの! まったく、女の子がこんなはしたないことしたら駄目なのに……
で、でも、こ、これは……エロイな。中学生がこんなにいやらしい身体をしてて本当にい
いのか? つーか、もう下半身の第二人格がパオーンと大変なことになってしまったんだ
けど……。
 もはや、ことは一刻を争う状態。俺は黒髪ロングキャラの手ごろなシーン回想を選択す
ると、自家発電に勤しむためおもむろにズボンをずり下げようとした。
 その刹那、
「お兄ちゃーん、ブラッシングしてー」
 と、バスタオルを頭に巻いた風呂上りの招かれざる妹が、俺のプライベートルームを急
襲してきた。
 慌てて俺は脱ぎかけていたズボンを履き、エロゲーを終了させた。まさに間一髪だった。
「ま、真帆奈!! 部屋に入るときはノックしなさいって言ってるだろ!」
「あっ、ごめんなさい。エヘヘ……」
 まったく反省の色なし。
 危うく修行中の俺とニアミスするところだったんだぞ……。まったく、想像しただけで
も身の毛がよだつじゃねーか。
「で、なんなの?」
「ブラッシングだよ、ブラッシングー」 
 真帆奈は、ドライヤーと愛用のブラシを手に持っている。
 これで俺に髪を乾かせというのだ、うちの妹様は。
「そんなこともう自分でやりなよ。俺は忙しいんだから」
 お兄ちゃんは、これからアリストテレスの形而上学についての論文を纏めないといけな
いから、お前に構っている暇などないのだ。
「えー、なんでなんで。いつもしてくれてるのにー。急にそんなこと言われても真帆奈困
るよー」
 そうなのだ。妹の髪を乾かすことまでもが、なぜか俺の仕事のようになってしまってい
るのだ。
「お前ももう中学生なんだから、自分でできることは自分でしような」
「だめだよー。ブラッシングの時間は、真帆奈とお兄ちゃんがマリアナ海溝よりも深い兄
妹の絆を確かめ合うとっても大切な時間なんだよー」
「俺にとっては全然大切な時間じゃないよ」
 むしろかなりめんどくさい。
「なんでそんなこと言うのー! お兄ちゃんは、真帆奈のことを愛してないのー!」
 ワーワーと地団太を踏む真帆奈。
 しかし、うるさい奴だな……。
「わかったわかった……もうやるよ。ほらっ、そこに座りな」
 あんまり甘やかすのもこいつのためにならないんだろうが、俺がやらないとちゃんとド
ライヤーを使って乾かさない可能性もあるしな。
 女の子の髪の毛は、非常にデリケートなのだ。濡れたまま状態ので放っておくと、キ
ューテクルが破損してすぐに痛んでしまう。特に真帆奈のように柔らかな髪質は、毎日の
ケアが肝心なのである。
「やったー。だからお兄ちゃん好きー」
 真帆奈は頭に巻いたタオルをはずし、クッションの上にペタンと女の子座りした。華奢
な背中が濡れた黒髪に覆い隠された。濡れた髪をブラシで梳くと髪が痛むので、まずはド
ライヤーで乾かすことにする。真帆奈は鼻歌交じりにご機嫌なご様子。ドライヤーのスイ
ッチオン。手早くやってしまいますかね。


300 俺の妹がこんなとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/21(金) 21:22:53 ID:38TWQsbR
 まぁなんだかんだ言っても、それほど真帆奈の髪を乾かすのは嫌ってわけでもないんだ
けどね。これでこいつの髪が綺麗になるんだったら、なにも文句は言わないよ。よく訓練
された黒髪ロンガーとしては、痛んだ黒髪を見るほど心が痛むことはないのだ。
「お前、髪伸びたよな」
「これはね~、お兄ちゃんのために伸ばしてるんだよ」
「えっ、そうなのか……」
「そうだよ~。お兄ちゃんが髪が長い女の子が好きって言ったから、真帆奈はそれから
ずーっと髪を伸ばしてるんだよ」
 そんなこと真帆奈に言ったかな……。
「まぁ、伸ばすのはべつにいいんだけど、毎日きちんと手入れしないと綺麗な髪にはなら
ないんだぞ」
「それはお兄ちゃんがちゃんとやってくれるから、真帆奈は安心だね」
「あのなー、俺だっていつまでもお前の面倒は見れないんだから、お前がお嫁に行ったら
自分でなんでもしないといけないんだぞ」
「真帆奈はずっとお兄ちゃんのそばにいるから平気だよー」
 当たり前のようにおっしゃりやがる真帆奈。
 つーか、こいつ本当に告白とかされてんのかな? まぁ確かに兄の目から見ても、見た
目はいいと思うよ。ちょっと子供っぽいけどな。でも、後二、三年もすれば、あの東郷さ
んと正面から張り合えるくらいになるかもしれないな。中身の方はいつまでたっても成長
しそうにないけど……。
「お前さー、学校で告白されてるんだってな?」
「えええぇぇーっ!! ななな、なんでお兄ちゃんがそんなこと知ってるの!?」
 予想外の驚き方だった。
「なんでって……聞いたから……」
「ま、まさか、麗ちゃんから!? うー、お兄ちゃんには絶対に言わないでって口止めし
といたのにー!」
「いや、麗ちゃんから聞いたんじゃないよ。風邪の噂でちょっと耳にしたんだよ」
 べつに深い意味はないが、あえて雫から聞いたとは言わないことにした。
「べ、べつにお兄ちゃんに隠しごとしてたわけじゃないんだよ! みんな断ってるんだし、
いちいちお兄ちゃんに報告する必要ないって思ってただけなんだよ! 本当だよ!」
「なんだ、断ってるのか?」
 ちょっとだけ、ほっとした俺がいた。ほんのちょっとだけなんだからね! だいたいみ
んなって……いったい何人から告白されてんだよ。
「当たり前だよー! 真帆奈がお兄ちゃん以外の男の人と付き合うわけないもん!」
「いやいや、兄妹は付き合えませんから」
「うー、またそんないじわるなこと言うし……」
 まったくの正論だと思うんだけどな。
「……お兄ちゃんは、真帆奈がお兄ちゃん意外の男の人と付き合ってもいいって思ってる
の……?」
「そりゃー、いずれはお前にも好きな人ができるだろうし、そうなれば付き合うことにだ
ってなるだろ」
「いずれのことなんか聞いてないの! 今お兄ちゃんがどう思ってるのか真帆奈は知りた
いんだよー!」
 俺がどう思ってるかね……。まぁぶっちゃけ、こいつが恋人を作るのはまだまだ早いと
思うよ。べつに俺が寂しいとかそんなレベルの話じゃなくてだな。もう少し落ち着いてか
らにして貰いたいってのが俺の本音だな。でないと心配で胃に穴が開いちゃうよ。
「そういうことに興味がある年頃だとは思うけど、べつに無理して付き合う必要はないん
じゃないかな。まぁ、お前もそう思って断ってるんだろうけどな」
「……お、お兄ちゃん……真帆奈は感激してるよ!!」


301 俺の妹がこんなとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/21(金) 21:23:37 ID:38TWQsbR
 えっ? そんな興奮するようなこと言ったかな? 
「な、なにが?」
「『お前は俺の女なんだから、他の男と付き合うなんて絶対に許さねーぞ!!』ってお兄
ちゃんは言いたいんだよね!」
「そんなこと言ってないよ! だいたいなんなのそのキャラ設定は! 俺ってそんなこと
いうキャラじゃないじゃん!」
 真帆奈は俺の言葉を自分に都合よく解釈する癖があるので時々困る。
「安心してお兄ちゃん、真帆奈はお兄ちゃん一筋なんだからね! 真帆奈の身体を自由に
していいのはお兄ちゃんだけなんだよ!」
 しかも全然聞いてないし!
「はいはい、もう馬鹿なことはいいから」 
「バカなことじゃないのにー」
 そんな一銭の得にもならない話をしながらも、俺は真帆奈の髪にドライヤーを当て続け
ていた。これだけ長いと乾かすだけでも結構な労力なのだ。
「だいたい乾いたんじゃないかなー?」
 照明に照らされた真帆奈の黒髪は、まるで鮮やかに光り輝く黒曜石のようだ。その黒曜
にブラシを入れて優しく梳いていくと、シャランと硝子のような音色が耳朶を掠めるよう
な錯覚を覚えた。
「うにゃ~、これ気持ちいい~。し~あ~わ~せ~」
 ほにゃー、といった感じで、真帆奈は全身を弛緩させた。
 妹様に歓んで貰えて兄も幸せだよ。決して皮肉ではないよ。達観しているだけだから。
「ね~、お兄ちゃん~」
「んー?」
「お兄ちゃんは、おかしな女の子から言い寄られたりしてないよね?」
 おかしな女の子がどんな女の子なのか、皆目見当がつかないよ。
「生憎そんな幸運に巡り合ったことは、生まれてから一度もないな」
 いったいこの兄妹格差はなに? まさに格差社会の縮図がここに存在するな。
「ほんと~?」
「嘘なんか言っても仕方ないだろ」
「ふふっ、よかったー。女の子にはくれぐれ気を付けないとだめだよ。お兄ちゃんに言い
寄ってくる女の子は、後で必ず壺とかお墓とか買わせたりするんだからね」
「俺には詐欺師しか言い寄ってこないのかよ!」
「それから睡眠薬を無理矢理に飲まされて、その後、練炭で……うー、これ以上は真帆奈
は怖くて言えないよ!」
「殺されちゃうのかよ!」
「だ~か~ら~、真帆奈意外の女の子はみんな敵だって思わないとだめなんだよ。わかっ
た、お兄ちゃん」
「なんでお前は俺がブルーになることばっかり言うんだよ!」
「真帆奈はお兄ちゃんのためを思って忠告してあげてるだけなんだよ」
 どう考えてもいやがらせにしか思えん。
「もういいよ……。つーか終わったぞ」
 こんな酷い仕打ちを受けながらも、妹の髪を綺麗にブラッシングし終えた。
 偉い兄だろ。
「えー、もう終わり?」
「そうだよ」
「うー」
「そんな物欲しそうな目をしたって、もうやんないからね」
「わかった……。お兄ちゃんのブラッシングが気持ちよすぎて、真帆奈なんだか眠たくな
っちゃったよ……」 
「そっか、じゃぁ部屋に戻ってさっさと寝なさい」


302 俺の妹がこんなとびっきりに変態なわけがない sage 2010/05/21(金) 21:24:20 ID:38TWQsbR
 お兄ちゃんには、これから荒修行が待ってるんだからな。
「うん、そうする……」
 これで漸く先程のプライベートタイムの続きかと思いきや、なんとこのお嬢様は、俺の
ベットの中に潜り込みやがった。
「……」
「うにゃ~、お兄ちゃんの匂いだ~……いい匂い~……。お兄ちゃ~ん……早く来て…
…」
 俺は、猫のように真帆奈の首根っこを捕まえると、ポイッと部屋の外へ放り出した。そ
して素早くドアを閉め、不審者が中に入ってこれないようにドアを押さえた。
「うー、なんでこんなひどいことするのー! 真帆奈をこんなにも甘い言葉でその気にさ
せておいて、こんなのやるやる詐欺だよー! おにー! あくまー! ひとでなしー!」
 意味不明なことをワーワーと喚きながら、ガチャガチャとドアノブを回す真帆奈。
 去れ!!
 暫くの間真帆奈は、一人虚しくドアと格闘していたが、漸く俺の気迫が通じたのか、
「うー!!」
 と、いつもの捨て呻き声を残して自分の部屋へとすごすごと帰った。
 はぁ……、なんかやることやる前に疲れちゃったな。俺も風呂に入って寝ることにしよ
う……。
 そんなこんなで本日も平和な一日が終わりを告げた。
 おおむね乃木家の日常は、いつもこんな感じだったりする。
 日常にスリルとサスペンスなんていらないよね。
 やっぱり平凡が一番。
 どうか明日も平和で平凡な一日になりますように。


 主婦の朝は早い。
 学校が休みだからといっても、兄は妹様のように暢気にいつまでも寝ていられるわけで
はないのだ。
 溜まった洗濯物を洗わないといけないし、家の掃除や日常用品の買出しもしなければな
らない。散らかすだけ散らかして後片付けをしない人間が約一名いるので、俺が働かなけ
ればこの家はあっという間に廃墟になってしまうだろう。
 さいわい昨日に続いて本日も快晴なので、洗濯物がよく乾いて大変に気持ちいい。トイ
レ掃除をしながらそんなささやかな小市民の幸せに浸っていると、ぐーと腹時計が鳴った。
携帯電話で時間を確かめてみると、そろそろ正午になりそうな頃合。働いていると時間が
たつのが早く感じる。そろそろ真帆奈が冬眠から目覚める頃なので、昼食の準備に取り掛
ろうとしたところで、
 ピンポーン。
 と、インターホンが鳴った。
 玄関に出ると佐川急便だった。青と白の縞々佐川ルックのやたらと元気な若い運転手か
ら宅配物を受け取った。アマゾンからだった。真帆奈宛になっている。最近よく真帆奈宛
に荷物が届くのだ。いったいなにを買っているのか気にはなるのだが、兄妹とはいえプラ
イバシーがあるので中身を確かめるわけにもいかず、真帆奈が起きて来たら渡そうと宅配
物をキッチンのテーブルの上に放置した。
 この真帆奈宛の一つの宅配物が、後に俺達兄妹の運命を変えてしまうような重大な事件
の発端となるなんて、この時の俺は、まったく想像すらしていなかった――。

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最終更新:2010年06月06日 20:11
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