319 俺の妹がこんなにとびっきに変態なわけがない sage 2010/05/22(土) 22:59:23 ID:8caCP4BU
昼食は、涼介特製ラーメンに決定なう。
『サッポロ一番 みそラーメン』を使用する。
なんだインスタンとかよ、と侮るなかれ。ほんの少し手間を加えるだけで、普通に店で
注文するようなラーメンと引けを取らない美味しさになるのだ。実に簡単だから、ぜひ皆
さんにもやって貰いたい。
昨日の挽肉が残っているので、これをもやしとキャベツと一緒に炒める。で、塩と胡椒
で味付けしたら、はい完成。この肉もやしキャベツ炒めを卵を溶かして作ったラサッポロ
一番の上に乗せ、最後に決め手となるネギ油をかけるとあら不思議。激うまラーメンの出
来上がりなのだ。
ねっ、簡単でしょ。
「おはよ~……うにゃ~いい匂い~」
どうやら腹を空かせた妹クマが、匂いに釣られて巣から這い出てきたようだ。
「おはよう。こんな時間までよく寝むれるな?」
「寝る子は育つんだよ」
真帆奈は、寝起きのだらしないパジャマ姿のままテーブルの自分の席に着き、できたて
の涼介特製ラーメンをジーッと見詰める。今にも涎を垂らしそうな勢いだった。
「……食べる?」
「えっ、いいのー?」
「いいよ。俺のはまた作るから」
「わ~い、食べるー。だからお兄ちゃん好きー」
寝たいだけ寝て、食べたい時に食べる。まさに野生児だな。
「いただきま~す」
フーフーと麺を冷ましながら、真帆奈はラーメンをがっつき始めた。
「あっ、そういえばお前に荷物届いてるぞ」
「ぶーーっ!!」
吹き出しやがった!
「なにやってんのよ……?」
「ま、真帆奈の荷物、お兄ちゃんが受け取ったの!?」
「そうだよ。そこに置いてるだろ?」
俺が指差す先のアマゾンの箱を見て、明らかにほっとした表情になる真帆奈。
あからさまに態度が怪しい。
「なに買ったの?」
「えっ!? ……べ、べつにお兄ちゃんが興味のある物じゃないよ」
「だから、なに買ったのさ?」
「……さ、参考書だよ」
キョロキョロと真帆奈の目は熱帯魚のように泳いでいる。そんな目をして秋葉原を歩い
ていたら、お巡りさんに一発職質並の挙動不審さだった。
増々怪しいな。
こうなってくると荷物の中身がもの凄く気になってくるのだが、あえてそれ以上追求す
るのはやめにした。告白の件でもそうなのだが、なんでもかんでも真帆奈が自分のことを
俺に話す必要はないのだ。兄妹でも秘密があって当然。まぁ、こいつも少しづつ大人に成
長してるってことだな。
「そうか、参考書か。まぁ、あんまり無駄遣いはしないようにな」
「うん、わかってるよ~。ごちそうさまー」
早っ!
「もう食べたの!?」
「お兄ちゃんのラーメンすっごく美味しかったよ。じゃぁ真帆奈は部屋に戻るね~」
怪しげな宅配物を持って、真帆奈はそそくさと自分の部屋へと戻った。
うーん、なんだかんだ言ったけど、やっぱり気になるな……。
ズズーと麺を啜りながらそんなことを考えていると、携帯電話がニャーと鳴いた。
320 俺の妹がこんなにとびっきに変態なわけがない sage 2010/05/22(土) 23:00:22 ID:8caCP4BU
メール着信。
麗ちゃんからだった。
『お忙しいところすいません。実は真帆奈の携帯に電話が繋がらないので、おにーさんか
ら真帆奈に、こちらに連絡するように言って貰えませんか? お礼に今度、おにーさんが
リクエストするボヨヨ~ンな写真を送っちゃいます。メイドにしますか? 白衣にします
か? それとも、ハ、ダ、カ?』
こんなことでそんなお礼なんかしないでいいですから! もっと自分を大切にしないと
駄目なんだからね! まったく。俺があの児童ポルノ法違反画像を悪用したら、いったい
君はどうするつもりなのさ。まぁそんなことは絶対にしないけど、これは一回ちゃんと説
教しとかないといけないな。
俺は二階へと上がり、真帆奈の部屋のドアをノックした。
「おーい、真帆奈。入るぞー」
「えっ、お、お兄ちゃん!?」
ドアを開け部屋の中に入ると、真帆奈は丁度アマゾンの箱の封を切って、中身のブツを
取り出している最中だった。
「だ、だめーーっっ!!」
劈くような悲鳴を上げて、その取り出したブツを素早く背中に隠す真帆奈。
だがしかし、ほんの少しだけ隠すのが遅かった。
兄は、決して見てはいけない現場を目撃してしまっていたのだ。
「み、見た……??」
「……!?」
咄嗟にはなにも言葉が出てこなかった。
それほどの強烈な衝撃。
どこぞの霊能力者に無理やりエクトプラズムを引っこ抜かれたかのように、俺はその場
に立ち竦んで呆然としていた。
「はわわわわわ……!?」
そんな俺の素の反応で事実を突き付けられた真帆奈は、頭から湯気を出さんばかりに頬
を真っ赤に染めていく。
「あ、あの……そ、その、真帆奈……」
「ででで、出て行ってーっ!!」
「えっ!? ちょ、ちょっと待って、話せばわかるから――」
「いいから早く出て行ってーっ!!」
ぴょんぴょんとぬいぐるみ爆弾が飛んでくる。
「こ、こらっ、あぶないからやめなさいって、わぁぁっ!」
リョースケの特攻をもろに顔面で受け止めた俺は、そのまま後ろに倒れ込んで尻餅をつ
いた。で、ぬいぐるみの向こうで、バタンと激しくドアが閉まる音が聞こえた。
「あたたた……」
お尻を摩りながら立ち上がった。
見事な豪速球だったな。あんたドラフト狙えちゃうぜ。いやいや、そんなことよりも…
…。
「ま、真帆奈、その……ごめんな……変なタイミングで部屋に入っちゃって……。あ、あ
のさー。麗ちゃんからメールあったんだけど、お前に連絡して欲しいって言ってたぞ。お
前の携帯、電源入ってないんじゃないか?」
無言。
どうやら完全に拗ねてしまったようだ。
「真帆奈ー、聞こえてるかー?」
応答なし。
まいったな……。
「と、とにかくちゃんと伝えたからな。麗ちゃんに連絡するんだぞ」
321 俺の妹がこんなにとびっきに変態なわけがない sage 2010/05/22(土) 23:01:17 ID:8caCP4BU
そう言うと俺は、逃げるように自分の部屋に入ってパソコンを起動した。で、ググる。
暫くの間、静寂の部屋にカチャカチャとマウスが動かされる音だけが木霊した。そして、
ついに網膜に焼き付いた記憶を元に目的のサイトを見つけ出し、
「間違いない……こ、これだ……」
と、呻くように呟いた。
俺が現在見ているサイトは、陵辱系美少女ゲームで有名な某メーカーのサイト。
商品情報には、あられもない姿の美少女たちが白濁に塗れた画像と共に、こう宣伝文句
が書かれてあった。
『犯りまくれ! 嵌めまくれ! 射精しまくれ!
レイプの伝道師、あのザビエール正岡が驚天動地のグランドスラムレイプ!
世界中の女は、神が俺に与えたもうた玩具!!
猛々しい特大マグナムを肉悦の本能のままに雌穴にぶち込めっ! 無垢なる処女を犯し
尽くすのだっ!!
「レイプ!&レイプ!&レイプ!」 大好評発売中!!』
記憶と完全に一致。
真帆奈がアマゾンで購入した物とは、間違いなくこの『レイプ!&レイプ!&レイ
プ!』だった。
オーケ、わかった。とりあえず落ち着いて考えてみよう。真帆奈がなぜこんなエロゲー
を買っていたのか? しかも完全に陵辱系の抜きゲーだぞ。理解に苦しむな……。だいた
いグランドスラムレイプってなんなんだよ! お、おっと、いかんいかん、冷静になれ…
…。
まぁ、真帆奈もそういうお年頃なんだし、女の子でもこの手のゲームに興味を持ったり
するのかもしれない。……しかしだ。なんでよりにもよってこんな鬼畜エロゲーなんだ
よ! いくらなんでもザビエール正岡はないだろ! こいつはやっぱり教育上問題がある
だろ? 今は両親がいないんだし、唯一の保護者である俺が窘めてあげるべきなのだろう
か? 俺も黒木に焼いて貰ってエロゲーしてる身分だから、あんまり偉そうなことは言い
にくいんだけどな。
うーん……。あっ、そうだ! そういえば黒木にも妹がいたよな? もしあいつの妹が
この手のゲームを購入してたらどうするのか、それとなく聞いてみるか? うん、なにご
とも情報収集が肝心だな。
で、さっそく黒木の携帯にメールを送信。
『突然こんなこと聞いて悪いんだけどさ。もしお前の妹が内緒でエロゲーを買ってて、そ
れをたまたまお前が見つけたとしたらどうするよ?』
暫く待つ。
携帯電話がニャーと鳴いた。
さっそくメールを確認。
『断固脅迫する!!』
お前に聞いた俺が、三国一の大馬鹿だったよ。まったく。糞の役にも立たない悪友を持
ったもんだぜ。
さて、次の手はどうしたものか? 他にこんなことを相談できる相手といえば、やっぱ
り麗ちゃんくらいかな?
……いやいや、それだと勘の鋭い麗ちゃんに真帆奈の秘密がばれてしまうかもしれない
な。こんなことであの二人の友情が壊れてしまっては元も子もない。そうなると、もちろ
ん雫に相談するのもアウトだ。そもそもあいつは、この手のゲームを毛虫のように毛嫌い
してるしな。今更かもしれないが、俺の交友関係の狭さがハッキリと露呈してしまったな。
そこで、ぐーと腹の中の人が悲鳴を上げた。
322 俺の妹がこんなにとびっきに変態なわけがない sage 2010/05/22(土) 23:02:14 ID:8caCP4BU
そういえば昼食の途中だったのだ。腹が減っては戦はできぬ。俺は再びキッチンへと戻
り、伸びたラーメンで腹ごしらえをすることにした。
「真帆奈さーん。ケーキ買ってきたんだけど一緒に食べないかー。お前の大好きなストレ
イキャッツのチーズケーキだぞー」
……反応なし。
あの卑しん坊のことだから、ケーキにころっと釣られるだろうと思って買ってきのだが、
俺の見通しが甘かったようだ。どうやらケーキ程度では惑わされないほどに、真帆奈の心
の傷は大きかったみたいだ。
「そんな部屋に閉じこもってないで、顔を見せてくれよ。俺はあんなこと全然気にしてな
いんだぞ」
できるだけ優しい声でドアの向こうに声を掛けてみたが、やはり返事はない。
「なぁ真帆奈ー、開けるぞー」
意を決して部屋の中に入ろうとドアノブを握って回してみた。が、押しても引いてもド
アは開かない。
「あれっ?」
ガチャガチャやってみたが全然無理だった。
鍵は付いてないから開かないわけはないんだけど、あっ、まさか!? つっかえ棒かな
んかで中に入れないようにしてんのか?
「真帆奈、開けてよ。ちょっと話があるんだけどさー」
ドンドンとドアを叩いていると、携帯電話がニャーと鳴いた。
メール着信。
真帆奈からだった。
『暫くの間、一人にしておいて……』
そんなそっけないメールだった。
それを見て俺はなんだかもの凄く心配になってき、間髪入れず真帆奈の携帯に電話をか
けた。
実際に顔を見て話せないことでも、電話越しなら大丈夫かもしれない。
プルル……ガチャ。
『おかけになった電話番号は、現在利用されていないか電波が届かない――」
電源切りやがった! どうやら真帆菜は、完全に篭城するつもりのようだ。これはべつ
の手を考えるしかないようだな……。
俺は自分の部屋へと戻り、一人作戦会議を行うのであった。
あっ、という間に日は陰り夜が更けた。
真帆菜はまだ部屋に閉じこもったままだった。せっかく作った夕飯の鳥の唐揚げも冷め
てしまった。結局一人で考えてみたところで名案など思いつくはずもなく、ただ悪戯に時
を浪費するだけだった。
だってそうだろう? 妹が鬼畜エロゲーを購入していた事実を知ってしまった兄の対処
方法など、どこのインターネッツを探して書いていなかったのだから。
藁にもすがる思いで某巨大掲示板にスレッドをそれとなく立ててみたのだが、
323 俺の妹がこんなにとびっきに変態なわけがない sage 2010/05/22(土) 23:03:01 ID:8caCP4BU
【ニュー速VIP+】 ちょっwww妹がエロゲー買ってやがったwww
1名前:名も無き地球外生命体
妹が内緒でエロゲー買ってやがって、それを俺が偶然見つけたら部屋に閉じこもりやが
った。めちゃくちゃ気まずい……。俺はこの先どうしたらいいのかお前らも考えろ。
2名前:名も無き地球外生命体
こんなクソスレでもオレ様が2ゲット!!
3名前:名も無き地球外生命体
それってなんてエロゲーよ?
4名前:名も無き地球外生命体
引きこもってるからそんな妄想するんだ。社会へ出ろ!!
5名前:名も無き地球外生命体
糞スレ立てんな! さっさと削除依頼出しとけよ!
6名前:名も無き地球外生命体
マジレスすると、肛門に指を突っ込んでその匂いを嗅いでみろ。それですべて解決だ。
こんな感じでまったく話にならなかった。
これ以上真帆奈を待っても部屋から出てこないので、仕方なく一人で夕飯を食べること
にした。
静かだった。普段はうるさいほど真帆菜がペラペラとしゃべるので、余計に静かに感じ
た。思えば一人で夕飯を食べるのなんて、生まれて初めての経験かもしれない。冷めた唐
揚げもあまり美味しくなかった。
あんなうるさい奴でも、いなかったらいないで寂しいもんだな……。今まで真帆奈が理
不尽に怒って拗ねたこと(俺が珍しくバレンタインで義理チョコを貰った時とか)は何度
もあったけど、部屋に閉じこもって出てこないのなんて初めてなんだよな。原因が原因だ
けに顔を合わせづらいのはわかるけど。これで真帆奈が、本当の引きこもりにでもなった
りしたらどうしよう……?
本日何度目かの溜息を吐いたところで、携帯電話からG線上のアリアが奏でられた。
電話の着信だ。
真帆奈からかと思い、俺はマッハで携帯に出る。
「もしもし、真帆奈か!?」
『はぁ? ちがうわよ、私よ』
電話の主は雫だった。
「なんだ雫か……」
『な、なんだとはなによ。人がせっかく電話してあげたのに!』
「悪い……。で、なによ?」
『温泉の件なんだけどさー。部活の休みもありそうだし、私は大丈夫よ』
「温泉……ってなんの話?」
『はぁ!? アンタ昨日言ってたでしょ! もう忘れたの!』
あー、五月会のことか。昨晩、雫にメールしといたんだった。
「そうだったそうだった。思い出したよ」
『ったく。ボケてんじゃないのアンタ?』
悪いけど今はそれどころじゃないんだよ。
「それで、光の方はなんて言ってるんだ?」
『真帆菜ちゃんと一泊できるんだから、あの子、殺されても来るわよ。今から興奮で寝れ
ないんじゃないかしら』
「そうか……」
健気な話だ。ただ今のこの現状では、果たして真帆奈は俺と一緒に温泉へ行くと言うだ
ろうか? もしも行かないと言った場合は、真帆奈を一人で家に残していくのは論外なの
で、俺も温泉へは行けなくなる。うーん、困ったな……。
『なによアンタ、元気ないわね。なんかあったの?』
324 俺の妹がこんなにとびっきに変態なわけがない sage 2010/05/22(土) 23:04:14 ID:8caCP4BU
「えっ、いや、べつになにもないけど……」
待てよ。雫には光という弟がいるんだし、姉弟喧嘩をした場合の仲直り方法とかに詳し
いかもしれんな。兄妹とは微妙に立場が違うけど、なにかの参考になるかもしれない。
「いや、その……実はなんだけどさ……。真帆奈とちょっと喧嘩みたいなことしちゃって
さ。それで、あつい部屋から出てこないんだよ……」
『あ~、そういうことね』
「うん。それでなんだけど、なんか上手く仲直りする方法とかないかな?」
『いったいなにが原因なのよ?』
「えっ!? そ、それは、ちょっと言えないんだけどな……」
『原因もわからないのにアドバイスしようがないでしょうが』
まったくの正論だった。
「いや……、一般論でいいんだよ。雫と光が喧嘩した時は、どんな感じで仲直りしてたん
だ?」
『私と光? まぁ昔はよく喧嘩したけど、最近はあんまりしないわよ。お互い忙しいし
ね」
「昔はどうっだったのよ?」
「えーっと、どうだったかなー? うーん……次の日になったら普通に話してたと思うけ
ど』
「……そんなに簡単なもんなの?」
『うちはそんなもんよ』
なるほど。頭の中がプロテインでできているような姉弟に聞いても、なんの参考にもな
らないわけだ。
『だいたい私は前々から言ってんでしょ! いい加減にアンタはシスコン卒業しなさいっ
て!』
「だから俺はシスコンじゃねーよっ!」
『シスコンよシスコン。そうじゃなかったらちょっと妹と喧嘩したくらいで、そんな死に
そうな声出さないわよ』
えっ、マジで!? 今の俺はそんな声してるのか?
『だいたいアンタ達兄妹って仲がよすぎるのよね。普通はそんなにベタベタしたりしない
もんだんだから。まぁ、べつに仲がいいのは悪いわけじゃないけどさー。でも、アンタ達
の場合はちょっと異常に仲がよすぎなのっ。ものには限度ってもんがあんでしょうがー
っ』
なぜだか知らないが、また説教が始まってしまった。
「お前はどこでなにを見たのかしらんけど、俺は真帆奈とそんなベタベタしてるような覚
えはないぞ」
『嘘ばっかり。私は麗ちゃんから色々と聞いて知ってるんだからね!』
情報源は麗ちゃんだったか。きっとあること面白おかしく吹き込んでるに違いないな。
そんな時であった。
「お兄ちゃん……」
と、俺が携帯電話に集中していたところで、背後から思わぬ人物の声が聞こえた。
最終更新:2010年06月06日 20:12