521 名前:バットエンド ◆lnx8.6adM2 [sage] 投稿日:2007/05/14(月) 14:04:34 ID:UXgvR0Iw
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・!」
暗い、もう日もとっぷりと暮れた時間の夜道をひた走る。
追いかけているのはオレなのに、逆に追い詰められているような、逃げ出したくなるような不安を感じるのは何故だろう。
おかしい。
そう思い始めたのは、いつだっただろうか。
家の妹はちょっとブラコンの度がひどいんじゃないかと心配し始めた時か?
押入れの奥のエロ本に、買った覚えの無いものが混ざっているのに疑問を覚えた時か?
部屋にある、誰にも盗られるはずのない私物がなくなり出したのに気付いた時か?
妹の手料理に奇妙な味を感じ始めた時か?
洗濯籠に放り込んだオレの下着を、妹が異様な表情で手にしているのを目撃した時か?
夜中にふと目が覚めて、いつものように隣に潜り込んでいる妹の両手と太ももでホールドされた手の指先に湿り気を感じた時か?
そこそこ良い感じになっていたクラスメイトが、ある日突然、怯えるようにオレを避けだした時か?
その直後に、妹が何かとオレの女性関係に文句を付け出した時か?
こんなオレに告白してくれた女が、その日のうちに事故に遭った時か?
少しずつ、だけど着実に、行く先々でまるでオレを監視しているかのように妹の姿を見かけるようになった時か?
熱を出した妹の看病中に怖いくらい真剣に、何処にも行かずにずっと傍に居て欲しいと言われた時か?
久し振りに再開した幼馴染に酔った勢いで帰り際にキスされて、
その跡を見つけた妹が隙を突いてオレに手錠をかけ、呆然とするオレに恐ろしい表情で尋問を開始した時か?
そのことをアイツに話したら兄離れさせるべきだと言われ、
色々と実行してみたら妹に絶望したような顔で嫌いにならないでと土下座で懇願された時か?
数日後に上がらなかった成果を言いにアイツを訪れたら、
その日の晩に妹が裸で部屋に来てオレを押し倒しながら好きだと告げた時か?
あまりに唐突な妹の行動に怖くなり、家を飛び出した時か?
それとも。
家を飛び出した先で会ったアイツに部屋に上げてもらい、
今までの時間や距離や妹の妨害を越えてようやくアイツと結ばれて帰ったら、
泣きながらオレに抱きついた妹が凍りついた後によく分からないことを呟いて金属バット片手に飛び出した時か?
分からない。
オレが何時、何処で、何を、どう間違えたのか。
ただ。
オレに理解できるのは、アイツが危ないと言うこと。妹を止めないといけないということ。
だから、駆けた。
訳の分からない感情に突き動かされて、全身汗だくで足が動いてるのかどうか分からなくなるまで走った。
そして。
522 名前:バットエンド ◆lnx8.6adM2 [sage] 投稿日:2007/05/14(月) 14:05:26 ID:UXgvR0Iw
オレは間に合わなかった。
互いの昔を良く知る、だけど幼い日の別れが生んでしまった空白は大きくて、それを埋めるように惹かれ合っていた幼馴染同士。
その片割れが、転がっている。
越してきたばかりで、住み始めて一月と経っていない住居のドアが開いていた。
多分、アイツが自分で開けたんだろう。
今アイツの横に立っている妹を出迎えるために。
血に濡れた金属バット片手に心底愉快そうな笑みを浮べている妹を、迎えるために。
撲殺。
おそらくは金属製のそれが歪むまで何度も何度も打たれたのだろうアイツは、
もう昔の思い出のように遠い場所へ行ってしまった。
玄関に転がるそれに、原型は無い。特に念入りに打たれたらしい箇所は、既に顔の形をしていなかった。
オレの中で、何かの糸が切れた。
膝が折れ、地に手をつく。
「────────」
何か叫び声のようなものが遠くで聞こえる気がして、それが自分の声だと気付くのにしばらくかかった。
同時に、地に付いた手に影がかかる。
「あはっ♪ お兄ちゃん来てくれてたんだ。嬉しいけど、ちょっと残念かな?
あの害虫が泣き叫んでのたうち回るイイ所を見せてあげられなくて。
でも私、お兄ちゃんがあのクソ虫に犯されたって思うと、もう我慢できなくて。
つい一秒でも早くアレの呼吸を止めたくて頑張り過ぎちゃったよ。
使ったのがこれだったから、思いっ切りやった割には駆除に手間取ったけど。
跳ねたり痙攣しなくなっても生きてたし。本当、ゴキブリといい勝負だよね。
汚いし、生きてる価値なんてちっともないのにしぶとさだけはあるんだもんね」
見上げた先に、妹が立っていた。
笑っている。楽しそうに、嬉しそうに。
「でもお兄ちゃん。あの虫はいなくなったから、もう安心だよ?
クソ生意気にもお兄ちゃんのせーえきを搾り取った場所は念入りに壊したから、万が一にも幼虫なんて産まれないし。
あーよかった! 半分はお兄ちゃんの子供と言っても、あんな寄生虫みたいなのがぼこぼこ産まれる何て気持ち悪いしね。
ね、お兄ちゃんもこれで安心して私の傍に居られるよね?」
「・・・・・・ああ。そうだな」
そこにいるのが何なのか、もうオレには半ば分からなかった。
オレの知る妹ではないと思うし、だがやはりオレの妹のような気もする。曖昧だ。
見えるものも聞こえるものも、どこかぼやけている。
正常に頭に入ってこない。言葉も思考も何もかも、正常に頭から出て行かない。
「良かった! お兄ちゃんの役に立てて。あ、でもね?
今度のことで、私思ったの。お兄ちゃん、聞いてくれないかな?」
「・・・なん、だ?」
全身に力が入らないのに、ピリピリと指先から全身に痺れが広がっていく。
濁った視界が、眼球の端の方から黒く染まり始めていた。
何かがおかしいのは理解できるが、何もおかしいと思えない。
523 名前:バットエンド ◆lnx8.6adM2 [sage] 投稿日:2007/05/14(月) 14:06:50 ID:UXgvR0Iw
「お兄ちゃんと私が本当に結ばれるには、こうするしかないと思うの」
視界が揺れた。
触覚ではなく、視覚で体が横に倒れたことを捉える。
痺れた全身で、側頭部だけがひどく熱い。
目を下に向けると、妹がさっきまで杖のように地面を突いていた金属バットがなかった。
「私はお兄ちゃんを大好きだし、お兄ちゃんが私を大好きなのも知ってるけど、ね?
やっぱり、アレみたいなお邪魔虫はどこにでもいるから。
私がどれだけお兄ちゃんの傍で頑張っても、
誘蛾灯に集るみたいにお兄ちゃんに寄って来る羽虫は必ず居ると思うの。
万が一にでも、またアレみたいなのにお兄ちゃんが犯されるのは嫌だし。
お兄ちゃんも、一度でも私に悪い虫がつくのは嫌でしょう?
だからね。このまま、出来るだけ綺麗なうちにお兄ちゃんを殺して、私も死のうかなって。
いい考えだと思わない? お兄ちゃん。」
「・・・・・・」
段々と、視界が黒く、暗くなる。
奇妙な痺れもなくなって、まるで全身が無くなったように何も感じない。
口が動いたのか、何か声が出たのかも分からない。
「そうだよねっ! うん。じゃあ出来るだけ早く、痛くないようにやるから。
大丈夫。私もすぐお兄ちゃんの後を追うからね。
ないと思うけど、さっき殺したアレが地獄から這い上がってお兄ちゃんを追ってくるかもしれないし。
あははっ。
私はどうやって死のうかな・・・・・・そうだ!
お兄ちゃんが死んだ後に舌を噛んで、それでキスしながら死ぬのってどうかな?
舌を噛み切ったらでぃーぷなのは無理そうだけど、お兄ちゃんの体に折り重なってお兄ちゃんと両手の指を絡めて、
私の血と唾液をお兄ちゃんの中に流し込みながら死ぬの。
あはっ! 我ながらいい考え。そうしよっと・・・・・・考えただけで濡れてきちゃう」
妹の声も小さくなってきた。今はもう、微かな視界と何処かに遠ざかるような感覚だけがある。
アイツのように僕もココからいなくなるのだろう。
妹の手によって。
「うふふ────気持ちいい。あは、あははっ! あははははははははっ!
あははははははははははっはははあはははははははははははははははは────じゃあまたね、お兄ちゃん」
見上げる。
真っ黒になる視界の中、最後に見たもの。
それは、血に濡れ光る金属バットだった。
バット
ルートA キモウト 撲殺エンド
選択肢 A『ああ、愛してるよ』 B『いや、兄妹でその表現はおかしいだろ』 に戻りますか?
→ 『はい、キモウトに会いに逝ってきます』 or 『いいえ、キモ姉を探しに旅立ちます』
続かない。
むしろ続けて下さい。
最終更新:2007年11月01日 12:57