三者三様

178 三者三様 sage 2010/08/10(火) 17:23:36 ID:rrXgiqUA

「あっ……」

 今日子は小さく声をもらした。
 バックの中に入れていたクッキーが割れている。
(どうしよう……せっかく早起きして焼いたのに……)
 おそらく手荷物保管所のアルバイトがぞんざいに扱ったのだろう。お弁当と水筒の下敷きになったクッキーの小袋はあきらかに変形し、実家のオーブンで大きめに焼いたクッキーは、もはや見る影も無く砕けてしまっているのが見て取れる。

 まあ週末の遊園地といえば、混雑するのも当然だし、手荷物保管所の仕事も平日の数割増で雑になるのもやむを得ないだろう。割れ物があるなら、むしろバッグへの詰め方自体をもっと考えるべきだったのかも知れない。
 それに、袋の中で砕けたくらいじゃクッキーの味は変わらないし、そんなことで不機嫌になるような相手といるわけでもない。
 だが、早朝五時から起きて、苦心しながら可愛らしい造型のクッキーを焼き上げた彼女の手間が無駄になったことは間違いない。
(せっかくのデートなのに……)
 今日子はちらりと隣を見る。
 そこには、十数年来のご近所づきあいの果てに、念願かなってようやく恋人になれた“彼氏”――幼馴染みの凛太郎が、壁にもたれて難しい顔で携帯を見ていた。


 それは去年のことだ。
 凛太郎が「付き合おう」と告白してきた時、今日子は、なすすべもなく泣いた。
 腰が抜けたように全身の力が抜け、何も言えず、現実感さえなかった。
 嬉しかったのだ。
 その圧倒的なまでの感情が、彼女から理性を奪い、ただの幼児に戻してしまったのだ。
 YESともNOとも言わずに、ただ小刻みに震えて、湧き水のように涙を流し続ける今日子を見て、彼は慌てふためき、何を勘違いしたのか携帯電話から救急車を呼ぼうとしたのも、あと何年か経てば「いい思い出」と言えるエピソードになるのだろう。
 なら、今日のこんな出来事も、やがては思い出すことも無い日常として記憶にうずもれてくれるだろうか。

 そう思うと、今日子は溜め息を吐き、気を取り直すことにした。
(ちょっと口惜しいけど、こんなことで私まで沈んじゃったら、折角のデートがパーになっちゃう)
 そう、今日はデートなのだ。
 楽しむ事を放棄したデートなど、親戚の法事と何も変わらないではないか。
 少女は笑顔で、保管所のアルバイトに「ありがとう」と言うと、そのまま“彼氏”のもとにぱたぱたと走り去っていった。

「凛太郎ちゃん、おまたせ。――誰から?」
 そう言いながら、彼の携帯を覗き込もうとした今日子に、大袈裟に顔色を変えた凛太郎は、とっさにかすれた声を出しながら携帯をポケットに仕舞い込んだ。
「ああ、その、なんだ、クラスの奴からだよ。宿題のレポート見せてくれってさ」
「ふーん、あやしいなあ」
 そう言いながら、今日子は悪戯っぽい目で、しげしげと凛太郎を見つめる。

 確かに今日の彼は、普段とは明らかに様子がおかしい。
 熱っぽく潤んだ――それでいてこっちをまともに見ようとしない目。
 気温に関係なく、流れ続ける滝のような汗。
 誰がどう見ても、少年が何か後ろ暗いものを隠しているようにしか見えない。
「まさか……どっかで浮気とかしてたりして」
 敢えてそう言ってみる。
 だが、その瞬間、それでも彼は真摯な光を瞳に宿し、叫んだ。
「おまっ……そんなわけないじゃないか!」

 周囲の人間がその大声に驚き、一斉にこっちを振り向いたのがわかった。
 でも、今日子はもはや、そんなものは気にならない。
 凛太郎が自分に、この顔を――この目を向けて叫ぶ限り、彼は自分を裏切らない。それは今日子にとって確信というより、ある種の信仰でさえあった。
「うん、知ってる」
 彼女はキスをしたくなる衝動を堪えながら、ごまかすように少年の腕にしがみ付いた。




179 三者三様 sage 2010/08/10(火) 17:25:11 ID:rrXgiqUA

 その後も二人のデートは続く。
 芝生の木陰でシートを広げて昼食を取り、砕けたクッキーをジグソーパズル代わりに遊び、ふたたび手荷物保管所にバッグを預けて、午前中に乗らなかったジェットコースターや観覧車、メリーゴーランドや急流下りなどのアトラクションに歓声を上げる。
 だが、凛太郎がいつもの屈託さが戻る事は無かった。
 頬を赤らめ、常に額は汗に濡れ、どこか遠い眼をしたまま、今日子の話もあまり耳に入らないようだった。何よりも彼が時折、何かを懸命にこらえ、死に物狂いで我慢しているような、――そんな切ない表情を浮かべているのを、今日子は何度も見かけた。
 そしてなにより、ときおり携帯を覗き込んでメールを打ち返しながら、凛太郎が後悔と罪悪感に満ちた目で自分を見ていたことを、彼女はちゃんと気付いていた。


「ねえ凛太郎ちゃん、怒らないから正直に言いなさい」
「え……?」
「今日、私に何か隠してるでしょう?」

 そう言われて、険しい顔で携帯を操作していた凛太郎は顔を上げた。
 むろん、その表情には焦りと困惑が同居している。
 何か隠しているかと問うて、こんな顔をされればバカでも図星を突いたと分かる。
(本当に……不器用なんだから……凛太郎ちゃんは……)
 そう思いながら口を開く。
「まあ、何を隠してるのかくらいは、私にもだいたい想像がつくけどね」
 と言うと、凛太郎は傍目に見ても分かるほど青くなった。それを見て今日子は勝ち誇ったように、ふふんと鼻で笑う。
「凛太郎ちゃん、あなたって今日ホントは――」
「お、おい今日子……」



「おなかが痛いのね?」



 弾かれたように爆笑する凛太郎に、今日子は不満気に頬を膨らませる。
「ちょっ……なによ~~、そんなに笑うこと無いでしょ~~」
「いや、その、うん、ごめん」
 腹を抱えて目を擦りながら、凛太郎は今日子の手を引き、抱き寄せると、優しく微笑み、
「今日子、愛してる」
 と囁き、そのまま衆目も憚らず、キスをした。

 さすがに今日子もその不意討ちに驚いたが、それは一瞬だけだった。
 瞼を閉じ、両手を幼馴染みの背中に回し、彼の唇と感情を受け入れる。
 どこからともなく耳に届くヴヴヴ……という振動音も、もはや気にならなかった。




「ただいま」
 と言ったところで、家が無人なのは分かっている。
 両親は明日まで帰ってこないし、妹もいないのは分かっている。
 そのまま凛太郎は深い溜め息をついた。

 部屋に入り、蛍光灯をつける。
 まだ時刻は夕方の五時。夜というには早すぎる時間だ。だが、日当たりの悪い凛太郎の部屋は、昼でも薄暗いので灯りをつけないと漫画も読めない。
 そのまま窓を開け、空気を入れ替えながら、道を挟んだ真向かいの家を見ると、二階の一室のカーテンが動くのを見て、なんとはなしに安心する。
 そこは幼馴染みの今日子の部屋。
 むろん、一緒に帰ってきたのだから、彼女の部屋に人がいるのは当然だ。だが、自分の恋人が無事に自室まで帰りついたという事を確認すれば、彼氏ならホッと安心の吐息をつくのは当然であろう。



180 三者三様 sage 2010/08/10(火) 17:26:38 ID:rrXgiqUA

 あれからすぐ、今日子はデートを中止して帰ろうと言い出した。
 それは至極当然だろう。
 今日子は他人に対する当然の気遣いができる娘だ。凛太郎が体調不良であると知りながら、それでも遊園地を引っ張りまわすような無思慮な真似はしない。むしろ帰宅してから、両親が帰ってくるまで看病につくとまで言い出したが、それは凛太郎の方で遠慮しておいた。
(これ以上あいつの前で恥をかきたくないからな)
 そう思うと、凛太郎は目を閉じた。
 彼の顔はいまだ流れ出る汗で濡れて光っている。だが、それが体調不良などに端を発するものでないことは、誰よりも彼が承知していた。


 不意に、ノックもなしにドアが開いた。
「お帰りなさい、お兄ちゃん」
 凛太郎の二つ年下の妹――蛍(ほたる)が、そこにいた。
「…………」
 凛太郎は何も言い返さない。
 お帰りもクソも無い。この妹が自分と今日子を尾行して遊園地までついて来ていたのを、彼は最初から承知していたのだから。

「デートは楽しかったですか?」
 そう言いながら蛍は淫らに笑い、遠慮もなく凛太郎の部屋に入ってくると、そのまま彼に断りなしにドアにカギをかけ、窓を閉め、カーテンをかける。
「…………」
 彼女のその行動の意味は分かっている。外部からこの部屋を隔絶するという“儀式”は、『もはや逃げられませんよ』という蛍の意思表示であり、たとえ両親が不在でも変わらない段取りなのだ。そして、やはり凛太郎としても、その瞬間は体を震わせざるを得ない。
 そんな凛太郎を横目に見つつ、ベッドに腰掛けた蛍は静かに呟く。

「でもねえお兄ちゃん、蛍は少し怒ってるんですよ?」

 凛太郎は大きく目を見開いて蛍を見る。
「なんで……命令には全部従ったじゃねえか……ッッ」
 妖しい光を眼に宿し、薄く笑う妹は答えない。
 こういう眼をした蛍は何を言っても聞く耳を持たないことを凛太郎は知っている。
 彼の頬に白い手を伸ばしながら蛍は囁く。

「最後のキスと愛の言葉は、余計だったんじゃないですか?」

 凛太郎は深く瞑目した。
 あれを咎められたなら、もはや彼としては言うべき言葉は何もない。
 遊園地での今日子への告白は、恋人を裏切り続けてきた凛太郎のたった一つの真実だったからだ。
 そして、それは蛍としても理解しているはずだった。彼女が何を命じようとも、今日子と別れろという指示にだけは絶対に従わないと、凛太郎はあらかじめ宣言していたからだ。そして、その言葉に蛍がどれほど怒りを覚えているのかも、彼は知っている。
 だからこそ、妹が“おしおき”として何を要求しようとも彼は甘んじて受けるつもりだった。

「とりあえず、立ってないで座ったらどうですかお兄ちゃん?」
 しかし蛍の表情に怒りは無い。
 むしろ“おしおき”の口実をむざむざ与えた兄を哀れむように笑いながら、自分が座るベッドの傍らをぽんぽんと叩く。
「…………」
 無言で妹を見つめていた凛太郎だったが、やがて意を決したように彼はそこに――妹の隣に腰を下ろした、まさにその瞬間だった――。

 ヴヴヴヴヴヴ…………!!!

 虫の羽音のような振動音が部屋に響き、凛太郎は思わず白目をむいた。
「ひうっ!!」
 思わず間抜けな声を上げてしまったが、もはや格好をつけてはいられない。尻に体重がかからないように咄嗟にうつ伏せになろうとするが、そんな兄の髪を妹は鷲掴みにすると、頭を引っ張って抱え起こしながら、
「蛍は、座れと言ったんですよ? 誰が寝ていいと言いました?」
 と、耳元でそう囁く。




181 三者三様 sage 2010/08/10(火) 17:27:59 ID:rrXgiqUA

「さぁて、お兄ちゃん、そろそろ始めましょうか」
 楽しそうにそう言いながら蛍は、凛太郎に見せつけるようにポケットからリモコンを取り出した。それも一つではない。リモコンは全部で二つあった。それが何であるかは、凛太郎は骨身に刻まれた刺激とともに教え込まれている。
「やっ、やめっ!! これ以上パワーを上げられたら……ッッ」
 だが、そんな兄の叫びを、妹は嘲笑うように無視して、一つ目のリモコンのつまみを最大まで捻る。
「ダメです。蛍はもっとブザマなお兄ちゃんが見たいんです」
「あああああああああああッッッ!!」
 俎上の魚のように跳ね回る彼の背中に蛍はしがみ付き、無理やり彼を座らせる。臀部に――早い話が肛門に彼自身の体重がかかるようにだ。そして、その上で、二つ目のリモコンのつまみを最大にする。
「~~~~~~~~~ッッッッ!!!」
 もはや凛太郎は声も出ない。
 そのバイブレーションは、一個目のリモコンが与える刺激とは比較にならなかった。
 尻の奥から内蔵を貫き、脳に電流が直撃するような快感を前に、凛太郎はのたうち回り、もがき苦しんだ。



 もはや全身に力が入らない。こうなってしまっては例え腕ずくでも蛍に逆らえないだろう。肛門だけではない。この妹は凛太郎の肉体に点在する快楽のツボを、すべて知り尽くしているのだから。
 もし蛍がその気になれば、薬も器具も命令さえも使用せず、純粋な愛撫だけで自分を射精させることも可能だろう。少なくとも性的テクニックという点だけなら、蛍は今日子をはるかに凌駕していることは間違いない。
 だが、魂まで売る気は無い。
 僅かに残った理性で、凛太郎はそう誓う。

 蛍が自分を兄としてではなく「男性」として愛しているのは知っている。
 だが、凛太郎が愛している「女性」は蛍ではなく、あくまで今日子なのだ。
 だから、肉体は裏切っても心までは絶対に裏切らない。
 それだけが凛太郎に残された、最後の矜持だった。
 だが、それを知ってなお、蛍は嗤う。
「いずれ、お兄ちゃんの身も心も蛍のものにして見せます。あの女の前で、蛍に愛を誓わせて見せます」
 そう言って憚らない。
 妹の笑みに慄然としながらも、凛太郎は唇を噛んでこらえる。
 それ以外にできることなど無いのだから。



 自分のベッドで、犬のように四つん這いになった兄。
 ジーンズを膝まで下ろされ、女の子のような形のいい臀部を後方に突き出すように彼は座らされている。そんな凛太郎の尻肉を掌で軽く叩きながら、蛍は笑う。
「ふふふふ……まるで土下座しているみたいですね」
 そう言いながら、蛍は彼の尻の中心――菊座に深々と突き刺さったバイブレーターの底部をちょんと指でつつく。

「かはっ!」

 兄が、まるで喀血でもするように身悶えるが、無論、その声は病苦の末のものではない。脳が苦痛と勘違いするほどの、ほぼ100%に近い快楽刺激――前立腺に直接当たるように挿入された性的玩具が与えるエクスタシーによるものだ。
 蛍自身が手塩にかけて開発した凛太郎のアナルだ。そこらのヤリマン女の膣口に匹敵する感度があるのは承知している。
 そこに刺さった“それ”を、人差し指・中指・親指の三本指でつまむと、蛍はまるで焦らすようにゆっくりと、彼のアナルから引っ張り出す。
「あああああ……」
 兄の全身が、ふたたびマラリア患者のように震えだす。
 無理もないだろう。リモコンのつまみはもはや最大にしていないが、それでも最低限の振動はさせっ放しだ。それを引っ張り抜こうとするなら、やはりかなりのエクスタシーが、そこには発生しているであろう。
「ふふふふ……」
 歯を食いしばりながら快感を堪えている兄の顔を想像するだけで、蛍自身もイってしまいそうになる。実際、自分の股間がノンストップで体液を分泌しているのが手に取るように分かる。




182 三者三様 sage 2010/08/10(火) 17:29:34 ID:rrXgiqUA

 濡れたような音を立てて“一本目の遊具”が、彼の臀部から排泄された。
 どう客観的に見てもアナル用のものではない。
 それはAVで見かけるような太さも長さも兼ね備えた、本格的なバイブレーターだった。
「うっわ~~、すっごい匂い……」
 出かける前に、蛍の手によるエネマジリングで綺麗に腸内洗浄された凛太郎ではあるが、やはりバイブからはムッとするような糞臭が匂う。朝から10時間以上も直腸内に挿れっぱなしだったのだから当然だろう。
 だが、彼女は目をそむけるような真似はせずに、ウェットティッシュで綺麗に拭う。勿論あとで兄の肛門に再使用するためだ。

 ぱっくりと直径2センチほどに開いた凛太郎のアナルには、まだ蛍が仕込んだ人工物が残っている。コードレスの電動性具を二個仕込めば、与えられる振動は二倍どころか数倍に跳ね上がるからだ。
 蛍は無雑作に指を突き入れると、彼の直腸内をまさぐり始めた。
「あっ、ああああっ、ほたっ! ほたるぅぅううう!!」
 ブザマな声を上げる兄がひたすら愛しいが、これは愛撫ではない。肛門に入りっぱなしの“二個目の遊具”を取り出すための捜索であり、回収行動なのだ。
「ちょっ……ダメですよお兄ちゃん、そんなに暴れちゃ、取れなくなっても知りませんよ」
 そう言いながら優しく微笑むが、むろん蛍には、その遊具が本当に取れなくなったところで問題は無い。むしろ、兄妹二人で病院の肛門科に出かけ、兄に羞恥プレイを強要するのも一興かなとさえ思っている。
 だから指先にパールローターの硬い感触が当たった時、思わず失望の溜め息を漏らしたほどだった。



 バイブレーターとパールローター。
 この二つの性的遊具を凛太郎の肛門に仕込み、その恋人を名乗る忌々しい幼馴染み――今日子とのデートに行かせたのは、当然ながら蛍の意思だ。
 むろん、蛍はそれだけで済ます気は無かった。
 約束時間よりも一時間も早く待ち合わせ場所の公園で待機していた――そんな健気な“彼女”を横目に見ながら、その公園のトイレでの自分とのセックスを兄に強要し、「今日子よりもいいです」と言わせながら膣内射精をさせたのも気持ちよかった。
 二人が合流し、遊園地に着いてからは、兄の肛門内のローターとバイブを遠隔操作して羞恥プレイを味わわせ、さらにお化け屋敷やトイレで独りになるようにメールで指示し、早朝と同じく今日子を横目に見ながらのセックスも愉快だった。
 極めつけは帰りの電車だ。週末の満員電車の混雑に乗じて、兄のアナルを背後から、まるで痴漢モノのAVのようにジーンズに直接手を突っ込んで、たっぷりイジめてやったのだ。
 懸命に快感を堪えながら、今日子との世間話に相槌を打っていた兄の姿をミラー越しに見ていた蛍は、その光景だけで絶頂に達しそうになったほど興奮していた。

 当然の話だが、兄とのプレイは今日に始まった事ではない。
 家に帰れば二人は兄妹だ。誰憚ることなく家族として、同じ時間・空間を共有できる。バスルーム、トイレ、キッチン、そして互いの部屋など、自宅に存在する全ての空間が二人のプレイルームだ。親の目を盗みながらセックスした回数など、もはや数え切れないと言ってもいい。
 むろん、それらは全部強要だ。兄が自らの意思で蛍を抱こうとした事など一度もない。
 だが、そんな事は彼女にとっては問題ではない。
 兄とのセックスは蛍にとっても最高に気持ちいいし、兄にとってもそうであろうと予測できる。それに体を重ねる事で、少しでも彼が、蛍の肉体に今日子以上の価値を認め、耽溺してくれたなら、もはや何も言うべき言葉はないのだから。

 そして当の今日子はと言えば、まさに哀れむべき事に、凛太郎と蛍の関係に何も気付いていない。
 兄の凛太郎が懸命に快感を堪えながら平常を装っている姿も、うっとりするほど素敵だとは思うが、それ以上に、現在進行形で恋人を寝取られているとも知らない今日子の間抜け面が、蛍に圧倒的なまでのカタルシスをもたらすのだ。
――あなたが愛を捧げている男は、あなたではなく私に支配されているのですよ?
 そう言ってやりたくて仕方が無い。

 凛太郎が愛しているのは、あくまでも自分ではなく、今日子であることを蛍は知っている。
 だが、それが何だと言うのだ。
 二歳年下の実妹に性的に支配されたこの兄が、どれだけ抵抗したところで、無駄な話だ。いずれは自分がいなければ夜も眠れない体にしてやればいい。そうなれば、彼の愛などたやすく手に入るだろう。
 むしろ、この哀れむべき「恋敵」を横目に憫笑しながら、懸命に抵抗する兄を蹂躙できる今の関係こそ、蛍にとっては程よく刺激的な理想の関係とさえ言えるだろう。



183 三者三様 sage 2010/08/10(火) 17:33:38 ID:rrXgiqUA

「さあ、お尻は綺麗になりましたよお兄ちゃん」
「あ……ありがとうございます……っっ」
 蛍に尻を向けながら、おずおずと振り向き“躾”のとおりに妹に礼を言う凛太郎。
 そんな兄は、まさに震えるほどに可憐で愛らしく、握り潰したくなる程にセクシャルな空気を漂わせている。いや、もはや蛍としても我慢できなくなっていた。

「こっちを向きなさい」
 そう指示する。
 圧倒的なまでの羞恥に頬を染めた兄が、のろのろと仰向けに横たわり、そこにはすでに石のように硬くなっているペニスが、股間から聳え立っているのが見て取れる。
「あらあら、実の妹相手にこんなに堅くしちゃって……本当にみっともないですねえ」
「…………」
「ふふふ、少しは今日子さんに悪いとは思わないんですか?」
 その名前を出すと、さすがに兄は一瞬痛みを堪えるような表情をする。
 それが蛍には激しく気に入らない。
「お兄ちゃん、蛍を愛してるって言って下さい」
 そう言いながらペニスを掴むと、凛太郎の表情はさらに絶望的なものになった。
 だが、もちろん蛍は容赦する気など無い。
「言いなさい」
 命令に力を込めながら、ゆっくりペニスを上下に擦る。

「……おれは蛍を……愛しています……」

「聞こえませんッッ!!」
 声を荒げながら蛍は、ペニスをしごく右手に力を込めた。
「そんな小さい声で、蛍の心に届くと思っているのですか!? もっと心を込めて言いなさいッッ!!」
「愛してます愛してます愛してますぅッッ!!! おれは蛍を愛していますッッ!!!」
「もっとッ!! もっともっと心を込めなさいッッ!!」
 叫びながら、兄のペニスを自分の股間にあてがうと、蛍はそのまま体重を落とした。

「ひはっ!!」

 肺の中の酸素が一瞬にして吐き出される。
 オナニーなら、たっぷり絶頂二回分はあっただろう。
 それほどのエクスタシーが蛍の脳髄を瞬時に焼き上げる。
――ああ、気持ちいい……ッッ!!
 やはり、この兄とのセックスは最高だった。
 蛍はたまらず腰を振る。そのたびに快楽の高圧電流が神経を焦がす。

「あはっ♥ そうですよお兄ちゃんっ♥ もっともっと! もっともっと言って下さいっ♥」
「あいしてますあいしてますあいしてます……おれはほたるをあいしてます……」
「次は謝罪ですっ! お向かいに住む恋人さんに聞こえるように言いなさいっ!! 裏切ってごめんなさい今日子って、誠意を込めて言いなさいっ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……あああああっうらぎってごめんなさいうらぎってごめんなさい!!」

 混在する快感と絶望に押し潰されたような表情であえぐ兄。
 それを上から見下ろしながら好き放題に腰を振り、犯す蛍。
 数瞬後、子宮に直接打ち込まれる粘弾の熱さに、彼女は眼前が真っ白になった。




(ああ、二人ともイっちゃったんだ……)
 そう思い返した瞬間、今日子は自分自身も同時に絶頂に達していた事にようやく気付いた。
 ノートパソコンの画面を見ると、ベッドの上の二人はぐったりと動かない。
 傍目に羨ましくなるほどの相性の良さだ。おそらく彼らが実の兄妹である事実も無関係ではなかろう。
(実の姉妹とのセックスが一番気持ちいいって言ったのは、確かローマ皇帝の……誰だったっけ……)



184 三者三様 sage 2010/08/10(火) 17:34:37 ID:rrXgiqUA

 そんなとりとめの無いことをぼんやり考えながら、今日子は濡れた指先と股間をウェットティッシュで拭い、膝まで下ろしたショーツを穿き直そうとして――その場に脱ぎ捨てた。
 そのショーツは、すでに今日子自身の愛液でじっとりと重くなっていたからだ。面倒くさそうに溜め息をつきながら、ドレッサーの下の引き出しを開け、新しい下着を取り出す。
(まあ、仕方ないか。朝から濡れっ放しだったし……)
 なにしろ、尻にバイブを仕込まれた恋人と一日デートしていたのだ。今日子でなくとも興奮してしまうのは無理もないだろう。
 たとえ恋人を責めていたのが自分ではなかったとしても、だ。



 結論から言えば、今日子はすべてを知っている。
 自分の恋人であるはずの幼馴染みが、実の妹に性的に支配されているという事実――その発端も、経過も、そして現状も。
 むろん、今日のデートが、蛍の監視下に置かれていたことも、最初から承知の話だ。
 言うまでも無いが、今日子がすべてを知っているという事実を、あの兄妹はまるで気付いていない。


 幼馴染みというのは、便利なものだ。
 物心ついた頃から家族ぐるみの付き合いであるため、ほとんど互いに親戚扱いと言っても過言ではない。だから凛太郎の母親に「ちょっと預けたものを取りに来たんです」と言えば、彼の外出中に部屋に入室する事など簡単だった。
 とは言え、今日子が凛太郎の部屋にカメラと盗聴器を仕掛けたのは、何も蛍とのセックスを監視するためではない。仕掛けたのは今よりもっと昔――数年前の話だからだ。
 理由は、あらためて言う必要もないだろう。
 今日子は凛太郎が好きだった。だから彼の日常を覗いて見たかった。――それだけだ。
 だから、凛太郎の盗撮映像をおかずに自慰にふけるのも、今日子にとっては数年来の習慣であり、それは凛太郎本人と男女交際するようになった今でも変わらない。

 だから今日子は、蛍という少女が凛太郎に向ける熱っぽい感情にも当然気付いていた。それと同時に、自分に向ける確信的な敵意にも。
 だが、今日子はしょせん、蛍を相手にする気はなかった。
 凛太郎にとって、蛍はやはり妹でしかなく、それ以上の存在にはなりえない――という厳然たる事実を知っていたからだ。そして、その残酷な事実は、誰よりも蛍自身が理解しているはずだった。今日子はむしろ、そんな蛍に同情を禁じ得なかったくらいだ。

 だから、その日――パソコンのリアルタイム盗撮に、蛍が凛太郎に何かを飲ませ、そして意識を失った彼を拘束し、まるで強姦するように処女を捧げている画像が映し出されても、驚きこそすれ、心のどこかで「ああ、やっぱりこうなった」と思ったのも事実だった。
 特に凛太郎が今日子と交際するようになって以来、蛍の様子には、どこか狂的な雰囲気さえ漂っていたのだから――。

 それから、この兄妹の関係の推移を、今日子はずっと見ていた。
 凛太郎は不器用な男だ。たとえ逆レイプに等しい行為であっても、妹の処女を散らしてしまった自分自身を容易に許すはずが無い。
 だから、そんな彼の責任感を逆手に取り、蛍が兄を脅迫したのも、――そして凛太郎が、そんな妹に膝を屈して、性奴隷のような現状に甘んじているのも、やはり今日子にしてみれば、どこか予想通りの成り行きだといえた。

 むろん、恋人である自分以外とのセックスに喘ぐ凛太郎に、怒りを覚えなかったと言えば嘘になる。生まれてこのかた想い続けてきた男性が、理由はともかく、他の女と寝ているのだ。むしろ怒りを覚えない方が人間としてどうかしているとさえ言えるだろう。
 だが、やがて今日子は、自身に奇妙な性癖が有ることに気付いた。

 NTR属性――ネットの世界でそう呼ばれている性癖だった。

 そして、今日子は凛太郎と蛍を観察する事に夢中になった。
 凛太郎の全身の性感帯を開発し、喘がせ、悶えさせ、泣き叫ばせる蛍。
 実の妹とそんな爛れた関係を結び、罪悪感と葛藤に苛まれながらも、恋人たる今日子相手には償いのように愛を囁き、誰よりも優しくしてくれる凛太郎。
(これって、結構刺激的な関係かも……)
 今日子はいつしかそう考えるようになっていった。



185 三者三様 sage 2010/08/10(火) 17:37:10 ID:rrXgiqUA

 むろん、信頼がなければ、こんな発想は浮かばないであろう。
 どんなに蛍に汚されようが、そんなことは今日子には関係ない。
 凛太郎は、最後には必ず今日子を選ぶはずだからだ。
 むしろ、蛍は兄を理解していないのではないか、とさえ彼女は思う。

 前述したが、凛太郎はあくまで不器用な人間だ。
 彼が妹に逆らえないのは、あくまで脅迫されているからに過ぎない。
 たとえ、どれほど妹の肉体に耽溺したとしても、それを理由に今日子を捨てるような事だけは絶対にしない。肉の快楽に溺れて、自らが誓った愛を放棄するような無責任な真似は、凛太郎という男が最も嫌悪すべき行為だからだ。
 蛍は、どうとでもなると考えているようだが、それは甘いと言わざるを得ない。むしろ、肉の相性を自覚するほどに、そんな快楽ごときで実妹との関係を肯定してしまうような自分を、凛太郎は決して許さないだろう。

 それに、世間体というものもある。
 近親相姦というものが、あくまで世間的には絶対の禁忌であり、その関係の暴露が自分のみならず、蛍自身の将来に多大なる影を落とすことは間違いない以上、凛太郎が、妹を女性として選ぶことなど絶対にありえない。
 まあ、もっともそれは今日子にとっても最後の切り札でもある。
 いざとなれば、兄妹の肉体関係を、彼らの両親に密告してやればいい。凛太郎兄妹の父親は警察関係者だ。自分の子供たちの非常識な関係を認めるような真似は、社会的に考えても、決してできないだろう。

(まあ、せいぜい今の内にお兄ちゃんに甘えておくんだよ、蛍ちゃん)
 薄い笑みを浮かべて今日子はノートパソコンを閉じ、熱いシャワーを浴びるために自室を後にした。


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最終更新:2010年08月30日 04:17
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