469 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:01:46 ID:ZWfYgQ0D
「お~い、お迎え来てるよ~!」
窓際の席に座るクラスメートが窓の外に目を向け突然声をあげた。
クラスメートの声に皆が一斉に此方へ視線を向ける。
何時もの事だから気にしないが、正直めんどくさい。
「…あぁ、ありがとう」
声をかけてくれたクラスメートに軽く手を上げ、カバンを雑に掴み教室を後にすると、だるい足を引き摺り待ち人が居る校門へと向かった。
ロッカーで靴を履き替え、校門に向かって歩いていくと門の前で座っている女性が視界に入ってきた。
長い髪をサイドテールで纏め、フリルのついたピンクのワンピースを着た見知った女性…。
門の端っこにオドオドと隠れて一人一人通り過ぎる生徒の顔を一生懸命見ている。
いや、探しているのだ…。
「………あっ!」
キョロキョロと周りを見渡していた女性は、俺に気がつくなり不安な顔から一転満面の笑みで此方へ手を大きく広げ、一生懸命振りだした。
「見えてるって…」
小さく手を振り替えし、駆け足気味で女性に近づいた。
「たーくん、遅かったね!はい、雨振るから沙理が傘持ってきたよ!」
ピンクの傘を俺に手渡すと、なんの躊躇もなく隣に並んで腕に手を回してきた。
470 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:02:45 ID:ZWfYgQ0D
沙理とはこの女性の名前。沙理は自分自信の事を名前で呼ぶのだ。
「ねぇ、たーくんなんで遅かったの?いっばい待ったんだよ?」
腕にしがみつき大きな目で上目遣いでジーッと見つめて来た。
本来なら校門前で何やってんだと教師に怒鳴られるかもしれないが、教師達は皆事情を知っているので誰も何も言ってくる事は無い。
それどころか、微笑ましいモノでも見るような生暖かい目で見てくる。
「いや…まぁ、帰るか」
早くこの居心地悪い場から立ち去りたい。
「うん!あっ、たーくんちょっと待って!」
何かを思い出したように俺の腕から手を放すと、先ほど沙理が居た場所にまた戻っていった。
「ピーちゃんもたーくんを迎えにきたんだよ!ほらっ!」
沙理の手の中には
真っ白なウサギの人形が顔を覗かせていた。
ピーちゃんと言うのはこのウサギの名前だ。
数年前にゲームセンターであまりにも欲しがるので俺がUFOキャッチャーで取ってやった人形。
所々汚れているが、沙理の宝物らしい…。
なぜピーちゃんかと言うと、ウサギの人形が夢でピーピー泣いたからだそうだ。
471 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:03:40 ID:ZWfYgQ0D
数多くの生徒に見られて居るので、殆どの生徒は素通りするのだが中にはやはり変なモノでも見るような視線を投げ掛けてくるヤツも居る。
「なに、あれぇ?頭おかしいんじゃない?」
「顔は可愛いのにねぇ…彼氏の趣味?」
「シッ 、あんまり見ちゃ可哀想だって」
ワザと俺達に聞こえるように呟いているのだろう…後ろを振り返り睨み付けると慌てて目を反らし歩いていった。
「たーくん、どうしたの?」
きょとんとした表情を浮かべ首を傾げている。
「いや、なんでも無い…帰ろう」
ため息を吐き捨て、歩き出す。
沙理も慌てたように俺の腕を再度抱き締め、一緒に歩き出した。
周りから見たらちょっと痛いバカップルにでも見えるのだろうか?だとしたら本当に頭が痛い話だ。
だって俺達は…。
「なぁ、沙理…。別に毎日迎えにこなくても一人で帰れるぞ?」
「ダメ!沙理が迎えに行くの!たーくん一人じゃ危ないもん…それに沙理じゃなくておねーちゃんて呼ばなきゃダメでしょ!?」
そう、沙理は俺の二つ上…今年19になる実の姉なのだ。
沙理は小さい時に車の事故が原因で能に障害を持っているのだが、俺が物心ついた時にはすでに今の沙理だった。
472 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:04:33 ID:ZWfYgQ0D
子供のような純粋な心を持ち、複数の物事を同時進行でこなす事を苦手とする。
だけど何事にも一生懸命で、多少の料理や買い物は一人でできるまでに成長した。
周りにいる女の子と差ほど変わらないのだが……一つ厄介な事がある。
――それは沙理の執着心と独占欲だ。
俺が赤ちゃんの時から沙理は俺を放そうとしなかったらしい。
小さい時からいつも近くに沙理が居た。
小学生の時だって、休み時間になれば何時も俺が居る教室まで足を運び、昼休みには一緒に給食を共にした。
そのせいで小学生の時は軽くイジメにもあった事がある。
俺の反抗期は多分小学生の時に始まり終わりを迎えているのだろう…。
小学生の時、一時期沙理を遠ざける行為を繰り返していた事があったのだが、沙理の行動が悪化しただけで改善などされなかった。
だから沙理が小学校を卒業した時はホッとした…やっと自分の時間が持てると…。
――だけど、甘かった…。
沙理は中学校を抜け出し、何度も俺に会いに来たのだ。
無論学校終わりには教室まで迎えに来た。
そんな事が親の不安を大きく煽り、仕方なく俺は沙理と同じ中学校に入学する事になった…。
473 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:05:23 ID:ZWfYgQ0D
まぁ、その時には既に小さいながらに運命だからと達観していたのを今でも覚えている。
そんな感じで勿論高校も同じ。
今年沙理が卒業したのだが、現状は変わらず沙理は俺から目を放そうとしない。
沙理の目にはいつも俺が写り10数年俺から興味が反れないらしい…。
家に到着すると、まず洗面所へと向かった。
鏡の隣には沙理が書いた、「かえったらうがいてあらいをしましょう」という文字がカラフルに書かれている。数年前に書かれたものなので漢字も使えていない。
と言っても19になった今でも日常的に使う数少ない漢字しか覚えていないのだが…。
「たーくん、おててだして」
沙理が隣に並ぶとニコッと笑い手を前に差し出すよう指示してきた。
沙理の言う通り、洗面器に手を差し出す。
「はぁ~い、手をぱーにしてぐたさぁ~い」
鼻歌混じりに石鹸を泡立てると、俺の指の間に自分の指を絡ませてきた。
沙理の指と俺の指がぬるぬると絡み合う…。
イヤらしく聞こえるが、小さい時からの習慣で俺の手は姉である沙理が洗う事になっているのだ。
「はぁい、今度はうがいで~す」
手を洗い終えると、今度はうがいをするために手の中に水を溜めた。
474 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:07:33 ID:ZWfYgQ0D
……無論、沙理の手の中に水が溜まっている。
無言のまま沙理の手に溜まる水に口をつけ、口に含む。
その様子をジーっと見つめる沙理。
視線に気がつきながらも、反応することなく口に含んだ水を洗面器に吐き出した。
「えらいね!それじゃあ、ご褒美にお姉ちゃんチューしてあげる!」
今日一番の笑顔を見せると、此方の許可なく顔を近づけてきた。
「大丈夫だから」
沙理の頭に手を置き、近づいてくる事を阻止する。
いつもなら適当に頬にキスをさせて機嫌よくさせるのだが、今日は疲れているのだ…笑ってキスできるほど余裕がなかった。
「……なんで?たーくん早くこっちにきて」
それが沙理には気に食わなかったらしい…笑顔が消え失せ下から睨み付けている。
「はぁ…夕食までちょっと寝るから…」
手を広げ俺を待つ沙理の隣を通り過ぎ、階段を上る。
「たーくんお姉ちゃんの言うこと聞けないの?!」
突然怒鳴り声が聞こえたかと思うと、襟首を捕まれ後ろに引っ張られた。
「ちょ、あぶなっ!?」
階段を上っていた俺は勢いよく後ろに転がりこんだ。
頭をぶつけなかったからよかったが、今のはかなり危なかった。
「おい、危ないだろバカ!」
475 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:08:26 ID:ZWfYgQ0D
文句を言いながら沙理を睨み付ける。
「たーくんお姉ちゃんに向かってッ!謝って!お姉ちゃんに謝ってよ!」
俺の上に馬乗りになると、首に噛みついてきた。
「痛ッ!?」
流石にこれは痛かった…身体の間に腕を差し込むとむりやり沙理を引き剥がした。
弾き飛ばされたように廊下に転ぶ沙理と距離を取る。
「はぁ…はぁ……あっ、大丈夫か沙理!?」
動かない沙理を見て我に返ると、慌てて沙理に近づき抱き寄せた。もしかしてどこかぶつけたのかもしれない…そう考えると背筋が凍りついた。
「たーくん殴った…」
「え……沙理?」
「たーくんお姉ちゃん殴ったあぁぁぁあ!うわぁぁぁぁぁん!」
突然子供のように大声で泣き出した。
抱き寄せる俺から逃れようと手と足をブンブンと振り回し暴れる。
「ご、ごめんごめん!俺が悪かったから…泣き止んでくれ沙理」
こうなると沙理は手がつけられなくなる…。
「もうたーくんなんか嫌い!!お姉ちゃんのたーくんそんなことしないもん!あっちいってよ!うわぁぁぁぁぁん!!」
顔を背けるとまた泣き出した。
こんな時はどうすればいいのか……長年一緒に暮らしてきたから分かってる。
476 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:09:19 ID:ZWfYgQ0D
「そっか…なら仕方ないな…バイバイ」
「うわぁぁぁっ、え?…たーくんどこいくの?」
おもむろに立ち上がり玄関に向かう俺に泣き叫んでいた姉が問いかけてきた。
「俺が嫌いなら家出しなyだめぇぇぇぇぇえ!!!」
瞬間移動の如く廊下にへたり込んでいた沙理が俺の背中にへばりつく。
「たーくん出ていっちゃやだぁ!」
玄関にある俺の靴を遠くに蹴飛ばすと、俺の身体を玄関から遠ざけるため、グイグイと引っ張り出した。
「たーくん迷子になると危ないからね?ね?お姉ちゃんもう泣かないからお姉ちゃんの部屋で一緒に寝よ?ね?」
「え…いや、一緒には寝なy「わ、分かった!お姉ちゃんは寝ないから!たーくんが寝るまでお姉ちゃんが子守唄歌ってあげる」
そう言う事では無いのだが……そんなことをしているうちにいつの間にか沙理の部屋に来ていた。
数多くのぬいぐるみと、ピンクでまとめられた可愛らしい部屋だ。
机の上には俺と沙理の写真が数多く飾られている。
何故か両親のものは一つも無い…。
「ほらっ、たーくん早く横になって!」
ベッドの上に座り自分の膝の上をポンポン叩いている……膝の上に頭を置けという意味だろう…。
477 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:10:12 ID:ZWfYgQ0D
拒否してまた泣かれたらたまらないので、仕方なく沙理のベッドに横になり膝の上に頭を乗せた。
柔らかい太ももと甘い匂いが身体を包む。
「ねんね~ん…ころりよ~……ふふ~ん~ん~…」
「知らないなら歌うなよ……本当に寝るからな?」
「うん…お姉ちゃんがたーくんの枕になってあげる……よしよし」
沙理の細い指が俺の頭を撫でる……不思議とすぐに意識が遠退いていった―――。
◆◇◆◇◆
たーくん、可愛い…私のたーくん…大好きなたーくん。
綺麗な髪…小さな口…ちゅーしちゃおっと…。
「ん……むにゃむにゃ」
くすぐったそうにしてる……ふふ…かわいい。
「もうすぐ…たーくんが学校卒業したら……ずっと一緒だからね…お姉ちゃんが守って上げる…」
たーくんの頬っぺたをベロッと舐めてみた…ちょっと酸っぱい…でも美味しい。
「はぁ、たーくん…大好き…たーくんたーくんたーくん」
何度も顔を舐めてべとべとにする。
「たーくんお口あ~んして……はむっ」
たーくんの口を少しあけると、その隙間から舌を差し込だ。
「ちゅっ…はむ…あはぁ…ッん」
たーくんの歯に舌を擦り付けてみる…。
478 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:11:01 ID:ZWfYgQ0D
ちょっと苦しそうにたーくんが顔を動かした…。
慌てて顔をあげる。
「………」
まだ寝てる…でももうすぐ起きるかも知れない。
また口を…今度はもう少し大きく口を開いてみる。
「たーくん…お姉ちゃんのほしい…?」
「……」
返事は無い…でも欲しいって言ってるみたい。
「ん…たーくん…むっ」
口にいっぱい溜めた唾をたーくんの口に垂らす。
それと同時にたーくんの口の中にお姉ちゃんの舌を押し込んだ。
「たーくん、たーくんッはぁ、はぁ、お姉ちゃん美味しい?お姉ちゃんたーくん美味しいよ?」
たーくんの口がべとべとになっちゃった…。
それを舐めて綺麗にする…。
「こんなにべとべとにして…もう……たーくんはお姉ちゃんが居ないとダメだもんねー?」
たーくんはいつまでたってもたーくん…私のたーくん。
「沙理ちゃん…何してたの?」
沙理の部屋の中にいつの間にかお母さんが立ってた。
「……なに?たーくん寝てるから出ていってよ。起きたらどうする?それにお母さん、たーくんに近づかないでって言ったでしょ?」
「でも…沙理ちゃん…今たかしに…」
「お母さん、お父さんの所に……行きたいの?」
479 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:11:51 ID:ZWfYgQ0D
「ヒッ!?」
お母さんがその場に座り込んだ。
たーくん起きたらどうするの…本当に辞めてほしい…勝手にたーくんに近づくの。
「んっ……あれ…今何時?」
お母さんの声でたーくんが起きちゃった……
「……たーくん起きたじゃない…どうするのよ…」
だからお母さん嫌い…いっつも邪魔して…沙理とたーくんの邪魔…そう…邪魔…。
「あれ…母さん帰ってたの?てゆうかなにしてんの?」
たーくんが立ち上がりお母さんに近づく。
たーくんがお母さんの肩を掴んだ。
たーくんがお母さん触った。
たーくんがお姉ちゃん以外の人触った!!!
「お母さん今から用事があるんでしょ…?沙理とたーくんは二人で…ずっと二人で大丈夫だからお母さんもう行っていいよ…」
「はぁ?沙理なにいってんだ?母さんは今帰っy「そ、そうね!おかっ、お母さん出張にいかな、なきゃ!二人で、仲良くしなさいよ?じゃ、じゃあ!」
「え?あ、母さん!……なんだよ…久しぶりに母さんの手料理食べれると思ったのに…」残念そうな顔…そんな顔しないで?
たーくんはお姉ちゃんがずっと一緒にいてあげるから…。
480 私はお姉ちゃん ◆ou.3Y1vhqc sage 2011/02/10(木) 22:13:03 ID:ZWfYgQ0D
「たーくん、お姉ちゃんが料理作ってあげる!」
たーくんの腕を掴んでリビングにかけ降りた。
たーくんの料理はいつも私が作ってる…お母さんがいなくてもたーくんは生きていける……だけどたーくんはお姉ちゃんが居ないとダメ。
料理もお風呂も……おトイレも…赤ちゃんの時からたーくんは私だけ。
私もたーくんだけ。
「たーくん、ずっと一緒だからね!」
「ははっ、なんだいきなり?」
この笑顔だけは誰にも渡さない…誰にも絶対に…。
最終更新:2011年02月21日 20:44