妹はいるか?

273 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:47:17 ID:UaiYitAT
梅雨に入る直前の空気は、何処か生暖かく、それでいて肌寒い。
夜の空気には不思議が溢れている。そんな事を、不思議な妹を連れて思うのだ。何故こんな事になったのか……
「ああ……ずっと兄さんの家に上がってみたかったの。いつも狭そうにしてたよね」
余計なお世話だ。一人暮らしの男の部屋の、何がそんな嬉しいのかわからないね。
家に来るのも俺は渋ったのだが、有ろう事か泊まるつもりだったらしい。そこから交渉に交渉を重ね、ようやっと家に上げるだけに落ち着いた。
我ながら自分の交渉術には恐れ入るよ……
「あれ、お兄ちゃんそんなの食べるの?」
視線は幸せに比例した重量を内包するビニールに向けられている。
ああそりゃもうバリバリ食べるね!
「そーゆーの、体に良くないって父さん言ってたよ。せっかくだから私が作ったげるね」
ほう……手料理か。そりゃ作ってくれるのは嬉しい。
だが美味いのか、その前に食えるのかも怪しい。
変な宇宙生物何か食いたくないし、兄に愛を語る変態妹だ。何か混入しないとも限らない。
……よし、明日の朝、俺が見てる所でのみ許可する。
「ほんと? 楽しみにしててね。それじゃ、私今日先寝るから、添寝したかったらいつでも」

何が楽しいのか分からんが、微笑みなんぞ浮かべて余ってるスペースに布団を敷く。
……何か忘れてる気もするが、さっさと食って俺も寝よう。

274 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:48:39 ID:UaiYitAT
しまった、俺はヤツを泊める気は無かった筈だ!
思い至っても時既に遅し、時計の針は七時を指している。……いいや、朝食作って貰おう。ほれ、起きろ。
「ん……んーぁ。おはよ、兄さん」
おはよ。とりあえず顔洗って来るなりして朝食を作ってくれ。
「……うん、待ってて~」
フラフラしてて多少危なっかしい。危なっかしいが……これはもしや、便利な家政婦として役立つんじゃないか?
一家に一人宇宙人の妹!
……料理の監視しなきゃな。
意外にも、料理の腕前は語る所も無く、出て来た料理にも語る所は無かった。強いて言うとするなら昼食が大量に用意されたな。
「どうかな? いっしょーけんめいに作ったんだけど……」
ふつー。食えるよ。
「そうじゃなくて、他に何か言う事とか……」
そうだなー、朝は和食のが良いや。
「そう……」

ご馳走さまでした、と。さて、ちょっと早いが学校へ向かうか……言って置くがな、
「行ってらっしゃい、兄さん。はいお弁当」
……そうだよな。ついてくるなんて、普通は言わないよな。
髪と目の色がちょっと違うだけで、後は頭弱い意外は普通の妹だもんな。
見た目はデカいけど、中身はまだ子供なんだ……兄として、妹の見本になるようにしなきゃな。行って来るよ。

275 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:49:51 ID:UaiYitAT
学校。そこにはドラマが有る。
青春をそれと知らず謳歌できる瞬間が詰まっている。
例えばそれは夢だったり、例えばそれは恋だったり、或いは
「転入してきた片岡エリです。皆さんよろしくお願いします」
宇宙人の妹が転入して来る、なんてのもそうかもしれない。
「じゃあ、片岡さんは片岡君の隣の席に着いてね」
俺の方へ歩いて来る妹に、当然視線が集中する。
日本人離れした容姿は、やはり日本だと目立つ。そう言えば先生も、
「よろしくね、兄さん」
近い、近いよ。小学校じゃないんだから机をくっつけんな。そして兄妹で有る事を隠さなくて言いのか。
「ふふん。宇宙の英知ー。私達が兄妹なのも、こうして机をくっつけるのも当たり前の事として認識してるの。だから、仲の良い人が隣同士なら皆当たり前に机をくっつけるよ」
なるほど、宇宙すげぇ。

276 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:50:44 ID:UaiYitAT
そんなすげぇ宇宙の技術だが、転入生に休み時間になる度に質問攻めするのは当たり前の事らしく、縋るように俺へ視線を向けて来る。
それくらい想定して置け。無論転入生の兄としてそこそこ注目を集める俺には助けるなど不可能だがな!

「やっと昼休みだねぇ。お弁当出して。一緒に食べよ」
おいおい、そんな事言っても、どうせ人に囲まれて……ない。
「やっぱり、兄妹でお弁当食べるのは常識だよね」
おまえはホントにどっかおかしいよな。
「はい、あーん」
ところで、八十年三食三十分だったとして、時間にすると2563200分に及ぶ。
確かにゆっくりと食事を取る事も大事だろう。だが、人生は食事だけが全てじゃない。如何に早く食事を終わらせるかも重要じゃないだろうか。
ってな訳でご馳走さまでした。
「……口早く動かすの、ヒャザーみたいで、兄さん可愛い……」

この日はもう特別な事は何も起きなかった。精々知らない人間が妹の事でやたらと馴々しくするのを煩しく思った程度で、結局二人で帰って二人で同じ家で寝る。それだけだ。

277 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:51:46 ID:UaiYitAT
結局二人で登校する事となった二日目。てきとーな話題を相槌も打たずに聞いて歩くのが最近のマイブーム。主に昨日の帰りから。
一応ちゃんと聞いてはいるんだ。頭に入らないだけ。自己弁護終了。良心も納得してる。
新たな当たり前にクラスメイトが添うように、俺も新たな当たり前に慣れつつ有るのかもしれない。
当たり前に下駄箱を開ける。と、封筒? ……悪戯か。一応後で確認しとこう。
「どうかした? 何か有ったの、兄さん」
何もねーよ。何か有ったら真先に頼るから。
「そ、そう? 約束だからね。私も何も無くても兄さんに頼るからね?」
迷惑だ……いや、こいつがどうしようも無い事を俺がどうにかできるとは思えない。……なるほど、案外正しいな。
まぁいい。御不浄に行くとしよう。そこ以外で封筒を開けるのは面倒だ。
「一緒に行って良い?」

278 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:53:02 ID:UaiYitAT
『ずっと見てました。ほうか後、体育かんうらで待ってます』
以上が手紙の内容だ。差出人不明な時点で行く気が無くなる。
その上呼び出す場所が人目に付かない場所なのは、やましい事をすると表しているも同然。
字が丸っこいのは女性っぽい雰囲気あるが、使っている漢字量からは知能の低さが滲み出ている。
それになにより、俺は小学生の時、これに酷似した物をラブレターみたいなハッピーアイテムと勘違いしてクラスの笑いものにされた事も有る。
あれ以来手紙の類いの誘いは6つ全て無視して来た。今さら行く理由も無いだろう。

「あ、兄さん。遅かったね……何か合わないの有った?」
いや、十分食えるの出して貰ってるよ。気にするな。
「そう……じゃあ、えっと、トイレに確認しにいって良い?」

その日結局俺は体育館裏に向かわなかった。
それで終わったと思ってたんだ……

279 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:55:31 ID:UaiYitAT
『昨日来てくれないなんて、お兄ちゃんひどい~!今日も同じ所で待ってるからね!約束だよ!』
下駄箱で見付けた物だ。どうやらこの程度の漢字なら楽に書けるらしい。
俺にはお兄ちゃんと呼んでくれる妹はいないんだが、一応聞いて見るか。
手紙とか最近出したか?
「伝えたい事は体と口で伝えるから、あまり使わないなぁ」
なるほど……昨日ホントに体育館裏に誰かいたのか?
……いや、妹と帰る所を見られただけかもしれない。
そうだ、差出人はきっと妹狙いなんだ。
だから俺を体育館裏に呼び出し、妹が一人になった所に声を掛ける……と。
これなら妹を見張っていれば俺が来たかどうか判断できるから、わざわざ体育館裏で待つ必要もない。
そうと判れば怖い物は無い。今日も行かずに帰るとしよう。
「そうだ兄さんは知ってる? 死体って精液を入れたら復活するかもしれないんだって。
 兄さんになら、生きてる内にされても良いよ……」

280 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:56:40 ID:UaiYitAT
『どうして来てくれないの?わたしはお兄ちゃんの事大好きなのに……今日も待ってるからね、絶対来てね?』
ふむ……今日もか。
こいつも懲りないヤツだ。
昨日一昨日と普通に帰ったからな……今日は変則的な何かが必要かもしれない。
「ねぇねぇ兄さん。こんにゃくを固めた物が喉に詰まると大変なんだってね……。
 それで、他意は無いけど買ってみたんだ。兄さんが喉に詰まったら吸出してあげるから、兄さんもしてくれるよね」
そうだ、今日暇か? ならちょっと二人で学校残らないか?
「ひ、暇……だけど。ま、まま、まさか、人口呼吸の練習?
 それだったら歯磨かないと……昼休みの内に歯ブラシとガム買って来よ。
 あ、兄さんはそーゆーのしなくて良いから。私が綺麗にして上げるから、どれだけ汚れてても……でも他の女の汚れは付けないでね?」

281 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:58:28 ID:UaiYitAT
『待ってたのに~……今日も待ってるからねっ!来なかったら明日絶対ふき出させてやるんだから!少しでもふき出したらかならず来る事!』
昨日帰ったのは七時……宇宙パワーも炸裂してたから、ホントに俺を待ってた可能性も出てきた。
そこまで俺を憎むヤツに心当りなんざ無いが、こーゆーのはいつだってやられた側の方が覚えてるもんだしな。
しかし不気味だな……こうやって毎度毎度手紙を出されて、それに返事もしないだなんて。
自分が酷く不義理なヤツに思えてくる。
それに、この手紙にも、下手なりに想いが込められている。こんな出会いでなければ、友と呼べたかもしれない……惜しいヤツだ。
「ネット上にデータを保存するサービスは全て著作権侵害で違法になるみたいだよ。
 これに倣って、兄さんを脅かす存在は全部兄権侵害で違法にしたらどうかな。
 まず、学校はノイズが多すぎるから廃止でしょ。担任の──」
エリ、今日の夜は美味いのが食いたいな。先に帰ってさ、最高に美味いの用意しててくれるよな?
「──うん! 約束する。残さず食べてね。それと、デザートは私だから!」

282 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 17:59:44 ID:UaiYitAT
決戦の時、だな。
この手に持った封筒一つ。掴み取るのは栄光かはたまた……
昨日の様子から察するに、さぞかし面白いネタが書いてあるんだろう。
そして、わざわざ妹を先に返したにも関わらずこの手紙が有るって事は、狙いはどうやら俺一人みたいだ。
いざ、勝負!

『月刊爪切り』

月刊と名乗るからには月に一度は刊行しているのは間違いない。
しかし爪切りの雑誌をそんなハイペースで出して一体誰が買うって言うんだ。
なにより、こんなくだらないネタで身構え過ぎてた俺が噴出してしまった事が何より憎い。
冷静に考えるまでも無く、つまらない。
だが、笑っては行けないと思わせた時点で、この勝負の決着はついていたのか……。
完敗だ、チクショー。約束通り、放課後の体育館裏に行ってやるさ。
「社長は下の者に猥褻な行為をしても良いらしいよ。妹は兄と対等だけど、やっぱり兄の方が立場としては上だよね。
 お嫁さんに採用してあげるって言いながら猥褻な行為を働かれたら、私きっと逆らえないな……」

283 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 18:01:01 ID:UaiYitAT
妹を撒くのに一時間程掛かったが、傷の一つも無く無事体育館裏に到着した。
さて、鬼が出るか妹が出るか。
「お兄ちゃーー…………ん!」
どうやら出たのは妹のようだ。
弟である可能性も0じゃないが、俺には弟はいない。
いや、妹もついこないだまでいなかったんだから、弟が出て来てもおかしくはないか。
「あわわ、お兄ちゃん? 大丈夫? 何処見てるかわかる?」
何を見てるってグラサン掛けたお昼の顔の人が脱皮する所を……
「お兄ちゃんしっかりして、グラサンは学校にないよ」
鼓膜に響く渇いた音と、頬に残る熱が夢心地から残酷なまでの現実へと引戻してくれる。
ついでに頭から突込まれた腹が痛く、鈍痛の上には俺を『お兄ちゃん』と呼称する女の子がいた。
俺をお兄ちゃんと呼ぶからには妹に近い存在なんだろうが、兄と呼ばれる程親しい知り合いは俺にはいない。
飽きずに手紙を送って来る変態だ。観察しない訳にはいかんな。
まず気になるのが体重……馬乗りになられても重くないな。
当然それに合わせて身長も低い。
推定年齢11歳? 服は体のラインがわかる大胆なスーツ。……未来系の。
全体的なカラーはオレンジやイエローで、頭には犬みたいな耳が生えている……なるほど、確かにこれくらい変人なら、俺の妹を名乗っても良いかもしれない。

284 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 18:02:14 ID:UaiYitAT
で……コマだっけ?
義妹で良いの?
「うん。わたしね、お兄ちゃんに会いに来たの」
そっか。じゃあ目的達成だな。それじゃもう良い?
「ううん。ダメ。お兄ちゃんと、子供作るの」


あ、足は肉球付いてそうだ。触りたいなぁ。靴とか履けなさそうだ、犬みたいな足だし。
「お兄ちゃん、おねがい……」
お願いされてもな……そもそも、妹な訳だろ?
それに、そんな体ちっちゃいんじゃ……
「妹だけど、お兄ちゃんの妹の妹だから、お兄ちゃんとは血が繋がってないよ」
……あぁ、十二の義妹の一人か。そんな話覚えちゃねぇよ。
「それにね、わたしはもうせい体だから、これより大きくならないんだ。」
成体……? ……因みに年齢は?
「14才」
血は繋がってない、体は大人。一見問題は無い……が、14の子供に手を出す訳にはいかんよな。
そも、俺で有る必要は有るのか……
「後ね、わたしたちをにんしんさせるには、とくしゅないでんしがひつよーなの。もちろん、お兄ちゃんはそれを持ってるよ」
へぇ、妹の親……つまり親父がそうだったからか。運が言いのか悪いのか。

285 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 18:03:27 ID:UaiYitAT
残る問題は恋愛感情か。
外見には問題無し。愛くるしい顔や仕草が保護欲を刺激する。
更に何年経とうと成長しないとの事だ。
つまり、五年もしたら……だ。
五年だ。五年経ったら前向きに考えるよ!
「それって……」
皆まで言うな! さぁ、お兄ちゃんの胸に飛び込んでおいで!
「お兄ちゃあーん」
左右で結んだ髪が一歩ごとにピコピコ揺れ、同様に耳も上下する。その全てが可愛らしい。
横から滑り込み、母親が同じ妹を蹴り飛ばす妹にも見習って欲しいものだ。
「あうぅ……痛いよ」
あ~、よしよし。大丈夫かコマ。
「兄さんの挙動が不審だったから来てみれば……何なのこれは」
……なんだろうかこの状況は。
コマが妹に怯えるのは、まあわかる。いきなり跳び蹴りかますようなヤツに怯えるなと言うのも無理が有る。
しかし妹は、何故にこんな不機嫌なんだろう。……独占欲か。なるほど。
それが解った所で、俺には理解できない言語で会話している二人に割り込む勇気は無いがな!

286 名前:運命の赤い超紐理論[sage] 投稿日:2007/05/30(水) 18:05:17 ID:UaiYitAT
意味不明な会話が終わる。何を話してたのか気になる所だが、コマが名残惜しそうに振り返りつつ帰った所を見ると、妹の勝ちのようだ。
……五年後が楽しみだ。
「何考えてるの、に・い・さ・ん?」
いや、ちょっと五月晴れについて考えていた。
「五月晴れ……? 五月に晴れる事?」
ああ、多分そうだ。五月の晴れの日が、俺は好きなんだ。
「ふーん。じゃあ、私も好きになるね」


何か言いそうにしていたが、大した事は言われずにその日は終わりを迎えた。
それよりも、次の日にも手紙を出された事の方が驚きだね。
『五月晴れは、梅雨の合間に晴れる事で、今は五月かんけいないんだよ。
 べんきょうになって良かったね、お兄ちゃん』
妹のいない時に俺に手紙を手渡し、照れたように走り去る。
それを後ろから眺めていると、どうしても目を惹くのはピコピコ動く耳と髪。
妹ができて一週間が経とうとして、俺には一人、妹が増えた。

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最終更新:2007年11月01日 21:47
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