283 名前:「姉」の物語[sage] 投稿日:2011/04/28(木) 01:08:26.11 ID:GBt9myjP
今日も兄さんは机に向かって「姉」を書いている。
兄さんの仕事は小説家…有り体に言えばポルノ作家だ。得意ジャンルはインモラルである。
兄さんの仕事を軽蔑するつもりはない。我が家の家計を支えるのは兄さんの小説だし
実は私自身、密かな愛読者である。だが、今書いているシリーズは、私には…とても辛い。
物語の中で主人公は実の姉と愛欲の限りを尽くすのだ。
執筆している期間、兄さんは書いている時間はもちろん休憩中も作品のことばかり考えている。
そして兄さんは自分の作品にのめり込みながら執筆するタイプだ。
結果として、兄さんは24時間「姉」との行為に思考の全てを注ぎ込んでいる。私にはそれが辛い。
その思いを私に向けて。小説に書いた行為の全て、際どすぎて書くのを諦めた行為の全てを私にして。
そう叫んで縋り付きたい衝動を抑え込んで日々を暮らす私は、兄さんの欲望を叩き付けてもらえる
「姉」が羨ましい、妬ましい。
幸か不幸か「姉」の作品はよく売れており、長期のシリーズ化が決まっている。
目の前にいながら、私から兄さんの心と兄さんと共に生きる時間を奪っていく「姉」が憎い。
馬鹿げているのは判っている。私は架空の人物に嫉妬しているのだから。私は狂っているのかも。
……でも、愛憎は理屈じゃないのよ。
世間がまもなく連休に入るというある日、私の忍耐は限界を迎えた。
私は、兄さんを私に縛り付けるためのロープと、「姉」を焼き殺すためのライターを携えて
書斎のドアをノックした……。
---Fin----
最終更新:2011年04月29日 14:48