あなたに、妹を…

346 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/27(水) 02:04:49 ID:Bf1/fbkI
妹が二人になって数日。俺はてっきりコマも一緒に住むのかとも思ったのだが、家に居座る妹は相変わらず一人しかいない。
そして変わらず買って来るよりはマシな食事を振舞ってくれる妹には、俺が見ていない所での調理は許して居らず、不味くない料理の安全性を確保している。
結局、妹がいようが増えようが、生活するにおいてさしたる問題は存在しないようだ。
今までと変わった事なんて、ホントに数えるくらいしかない。
家でも学校でも妹と行動を共にして、いない時にはコマの相手をする。
一日一回の手紙のやり取りも、なんだかんだで楽しくなってきた。
今、地球には俺しか知らない宇宙人がいて、その宇宙人は俺の妹で、思ってたよりもずっと世界は楽しい所みたいだ。
そんな妹が、まだ11人も残っているってんだから、退屈だなんて言う暇も有りはしない。
ただ一つ贅沢を言わせて貰えるとするなら、
「兄さん、適度に精液を排出しないと体に良くないらしいよ。
 でも、一人ですると変な癖が付いちゃうかもしれないんだって。そこで二人でやるのはどうかな?」
コイツをどうにかしてくれないだろうか。
以前は「一人でやってろ」と迂闊にも助長させるような事をしてしまい、大変面倒な事になってしまった。
今回も当然面倒な事になってしまい、ただ寝るだけに多大な労力を支払うハメになった。
次回に備える何かを模索している内に、無情にも夜は更けて行く。

347 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/27(水) 02:06:35 ID:Bf1/fbkI
今日は先日の中間テストの返却日だった。
だったと言うからにはもはや大半のテスト結果が帰って来ている。
それにしてもテストってのは退屈でしょうがない。どれだけ頑張ろうと決められた範囲内でしか点を取れない……これが退屈で無い訳が無い。
が、これは自分に限った話だ。人のテスト結果、特に妹のテスト結果ともなれば、自然と興味をそそられる。
で、どんな感じかな?
「…………」
こちらに向けられた数枚の紙には、凄惨極まる惨状が広がっていた。
……宇宙人、ダメだなぁ。
「それは違うよ。宇宙人はダメじゃないの。
 兄さんも知っての通り、宇宙の技術は地球なんて比じゃないでしょ?」
まぁ確かに。明らかおかしなヤツが学校に居座ろうと文句を言われない程度には凄い。
「そう、宇宙の技術は凄いの。その気になれば生まれた時から一歩も動かずに生涯を終える事もできるくらいね。
 発達していった科学を更に発展できるような人間は一握りで、それ以外はなんでそんな事ができるかすら知らない人も多いよ。
 車はアクセルを踏めば動く事を知ってれば、アクセルを踏むとどんなメカニズムが働いているか知らなくても問題はないでしょ?
 だから、私は悪くないの。生きてく上で困らないの」
……科学の進歩も考えもんだな。しかし、点数悪くて恥ずかしいならそういや良いのに。
変な所で恥ずかしがるな。

348 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/27(水) 02:08:32 ID:Bf1/fbkI
午前中の授業が終わり、昼休みに入る。
逆に午前中の授業が終わらずに昼休みに入るなんて有りえるのか考え始めた時に、妹が険しい表情を浮かべ、急に飛び出していった。
止める暇も無かったが、止めるつもりも無かったのでどうでも良い。このパターンだとコマの登場だな。
どういう訳か、あの二人は同時に現われたのは最初の一回限りで、それ以降はどちらか一人づつとしか会わない。
一緒に生活している妹と比べ、圧倒的に過ごす時間が少ないコマだが、その少ないチャンスを無駄にした事は無かった。
二人は仲が悪いのかもしれない。が、そんな事より飛び込んで来るだろうコマに備え全神経を集中させる。
ギラギラと光る目を落ち着きなく動かす俺は傍目には危ない人間なんだろうが、幸いな事にこの時間に俺達兄妹に意識を向ける者は誰一人いない。
何でも、認識をほんの少し弄ってるだけだとか。これを小娘が簡単に使っている辺り恐ろしい。
当然小娘でも使える分、宇宙人には効果は薄いらしく、今話しかけて来る人間は必然的に宇宙人となる。
俺の知っている宇宙人は妹二人だけで、それ以外の声が聞こえたとするなら、それは多分、妹の妹にして俺の義妹、そして俺の妹になるだろう存在だ。
「確かに人間の頭の善し悪しは差が有りますよね。私も受けてみたんです。
 そんなに睨まないでくださいよ。別に何かするつもりは有りませんから」
などと、身長およそ五尺二寸の眼鏡をかけた女が、テスト用紙を点数が見えるようにこちらに向けながら俺に声を掛けてきたのだから、この眼鏡は、残念な事に俺の妹なんだろう。

349 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/27(水) 02:10:14 ID:Bf1/fbkI
眼鏡をかけた人間の性根は、レンズのように曲がってしまっている。
これは俺の経験則だが、少なくとも今まで会った眼鏡はすべからく変態だった。つまり目の前の眼鏡も変態だろう。更に髪は緑ときている。日本人的感覚からはまともとは思えない。
ついでにテストの点数も俺と同じときている。宇宙人の知力なら-や満点以上を取ってみせろ。
それで何の用だ、大した事ない宇宙人の変態。
「さっきから変態変態と……違います」
黙れ変態! 眼鏡と話す事は特にない!
だが、話を聞いてやるくらいならしてやろう。
「はぁ。では言いますが、とりあえず子供を」
会って間もない人間に子供をねだるヤツを変態と呼ばず何と呼ぼう。
呆れに気付いている筈なのに、顔には余裕と自信が満ち溢れている。眼鏡をかけたヤツの傲慢な態度は何を根拠にしてるんだかわからない。
その自信を音に乗せて緑眼鏡が吐き出してきやがった。
「貴方がどこまで知ってるか不明瞭なので、一から話す事にしましょうか。長くなりますけど、よろしいですね?」
よろしくない。けど、どうせ俺の意志や人格は無視するんだろ?
「はい。お話が早くて助かります」
ついでに手早く済ましてくれりゃ一番なんだがな。

350 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/27(水) 02:11:42 ID:Bf1/fbkI
「私は、これでお兄様をずっと見ていたんです」
これで……? これはただの親父が残したってだけ……じゃなくて盗撮用アイテムだったな。うん。癖で未だに持ち歩いてしまう。
ネタが割れているのだから捨てた方が良いかもしれない。
「では、姉さん達のせいで犬臭い体を私が清めて差上げますから」
清める? 言葉の意味を飲み込めない。だってそうだろう? ここは教室なんだぜ。水だってクラスメイトが各自用意した飲み物くらいしかない。
何をするのか理解できなかった俺の耳に、周囲の雑音に紛れて衣擦れの音が入ってくる。
発生源は緑眼鏡だ。どうやって着てどうやって脱ぐのか傍目にはわからない白い服を一枚一枚剥していく。
何枚脱いでも忙しなく動く手が止まる様子は見えない。いや、それより何をしてるんだね君は。
「聞いてませんでしたか? 清めて差上げるんですよ」
清める、と言うのが何を指すのか理解できない。理解できないが、教室の中で女性が服を脱いでいるというのはなかなかに滑稽な光景だ。
俺がこの光景の一部と化す前に御暇させて頂こう。
「んふふ、ちょっと退屈させちゃいましたかね? でもお兄様は帰ったりしませんよね。私にはわかりますよ」
ああ、当然だろ。俺がナイリの事を置いて行ったりするもんか。
……なるほど、俺の行動を変えるくらいはちょろいってか。
いや、変わった訳じゃない。素直になっただけさ。俺が妹を、ナイリを邪険にしたりする筈がないだろ。
ああ、ナイリって名前なのか、この緑眼鏡。

351 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/27(水) 02:13:17 ID:Bf1/fbkI
「私達の種族が女性しかいない事はご存じですよね?」
緑眼鏡は、まず確認するように口を開いた。もっとも、俺の答えなんざ要らないんだろうが。その証拠に、俺の反応を待たずに語り出したんだからな。
「種を存続させる為には他の種族の子供を宿す必要があるのはお解り頂けますよね?
 ですが、それなら何故私達姉妹の父親全てが違うんでしょうか?」
……知るか。親父に甲斐性が無かったんじゃないのか。
そもそもただの一人も父親が一致しないだなんて聞いた事が無いぞ。
「ん~……惜しいです。正解は、母親が最低だからですよ」
反則じゃないか。身構えてたのが馬鹿らしい。
常にポーカーフェースを心掛けている俺だが、顔に出ていたのかもしれない。緑眼鏡は口許を掌で隠して笑ってやがる。お嬢様気取りか。
「真面目なんですね。わざわざ考えて貰いありがとうございます」
……どうにも居心地が悪い。さっさと続きを頼む。
「はい……えー、現在残っている私の種族は、姉妹全ての数と同じ十三人。絶滅の危機に瀕しています。
 このままではマズい。とでも遺伝子が反応したんですかね。絶滅しないように勝手に恋をするんです。あなたに」
なるほど。あの二人は、そしてこの緑眼鏡は、そんな都合により俺なんかをあてにしているのか。可哀相に。
「寂しいですか? あなたの今まで築いた物ではなく、ただ生まれだけで選ばれた事が」
全て解っている。とでも言いたげに眼鏡を光らせる。一々癪に触る女だ。
「お馬鹿さんですね。生まれや育ち、全て含めてあなたでしょう?
 ずっと見てきた私も保証してあげます。だから安心してください。私はお兄様が大好きですよ」
こちらに差出された手には、俺が肌身離さず持っているペンダントに良く似た物が乗っていた。

352 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/27(水) 02:16:51 ID:Bf1/fbkI
「さぁ、お兄様。どうぞご覧になってください。お兄様の為に、13年間磨き続けてきたんですよ」
ああ、綺麗だよナイリ。
教室の安いライトで照らされ輝く白い肌、緩やかに上下するふくよかな双丘、その上で呼吸に合わせて震えている薄桃色の突起、それら全てがたまらなく愛しい。
「まぁ……お兄様ったら……そんなに見詰められたら、私……」
自分から見せ付けて来た癖に、恥ずかしいのか赤く染まった顔を逸してしまう。
それでも、伺うようにチラチラ視線を動かす俺の妹が、どうしようもなく可愛らしい。
俺が見て、俺を見て、お互いに愛を確認し合う。これこそが兄妹の正しい在り方じゃないか。
血の繋がりが兄妹足らしめる訳じゃない。決して切れない男女の絆こそを、兄妹と呼ぶのだろう。
そんな煮立った思考の俺と、13歳の平均どころか成人女性を大きく上回る胸囲を持ったナイリを、冷静な俺が観察していた。
自分がもう一人いる感覚、この教室の連中もそうなのか興味が有ったが、それよりかは今の状況を打開する方が先だろう。
まず、体は動かない。口も自由にならない。
なるほど、確かにこれは俺にはどうする事もできなそうだ。
しかしこのままでいる訳にはいかない。俺は何故か、大人の女の体に嫌悪感を持っている。
誤解のないよう言って置くが、幼女愛好の趣味もない。当然同性にもな。
何故か知らないが、女らしい体付きが、頭痛や吐気を伴う程嫌いでしょうがないのだ。
つまり俺は今、地獄にいる。打開する為に取る行動は一つしか無い。
さぁ、助けろ俺の妹よ!

353 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/27(水) 02:19:10 ID:Bf1/fbkI
『現実は小説より奇なり』
ああ、正しくその通りだと思うね。
結論から言うと、強く願っただけの俺の思いは、エリにもコマにも届きはしなかった。
だが、俺がこのまま父親になってしまうような事態には、結局到らなかった。
では何が起こったのかと言うと、余りに荒唐無稽過ぎて俺には上手く説明する事ができない。
それでも説明しなきゃならないな。
まず始めに、光が俺を包んだ。光量を把握してる時間が無かったが、多分教室程度は満たしてたんじゃないかね。
次、最終工程。俺が目を開けると、そこにはデカい蛹が有った。
緑色で、薄い網目状の模様が走り、教室の光や窓から差込む光で透けて見える中身は液体状。
時折『お兄様』と鳴声を発する所から推察するに、これはナイリなんだろう。
…………とりあえず、脱ぎ散らかされている服を家に置いて来よう。
まぁ、俺は家に帰った途端疲労任せに寝てしまったのだが、嫌悪感や体の不調から開放されて気が緩んでしまったんだ。仕方ない。
流石に一日に何人もの妹の相手をする力は俺にはまだ養われて無いらしい。
『15年間兄さんの為に~』とかなんとか言って全裸で布団に入って来るヤツが煩しかったりしたせいで、ナイリの事を忘れてしまっていたのも、きっと仕方ない事だ。

354 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/27(水) 02:24:24 ID:Bf1/fbkI
さて、翌日。もう俺は地球人と挨拶をする習慣を失ってしまったようだ。
誰も俺がいる事に気付いていない気すらしてくる。
だが、それは既にどうでも良い。問題が有るとすれば今日は平日で、平日には学校が有り、学校の空き教室でデカい蛹を見付けてしまった事だろうか。
五秒に一回、規則正しく『お兄様』と囀るその蛹は、公共良俗反する落書きで埋め付くされていた。
筆跡は三種類、一つは今も手にしている妹の手紙と同じ文字。二つ目は昨日見た妹の答案と同じ文字。最後の一つも、何処か忘れたが、いつだったか見た字に酷似している。
だが、これを見た事が有るという事実は大切だ。たとえ中身がわからなくても、どうなるかを理解していれば問題はないって事だからな。
だから、ナイリが何故蛹になったのかわからなくても、今は安全だと理解していればそれで良いんだろう。

雨の降らない梅雨、夏の到来は未だ遠く、新たな妹の来訪は、近い。そんな予感めいた物を、三つ目の字を眺めながら、強く感じたのだ……

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最終更新:2007年11月01日 21:50
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