363 名前:意図操る妹 ◆lnx8.6adM2 [sage] 投稿日:2007/06/03(日) 07:14:26 ID:sieKQt3d
さて。
仮に極めて一般的な感覚で以って其処を見た者が居たとして。
彼または彼女はどのような感想へと至るだろうか。
先ずは、赤い。これだろう。
生命より流れ出たばかりの鮮血。
命の象徴たるそれは暗闇の中で徐々に熱を失って行き、
生の温もりと死の冷気を混在させる。
次は臭い、か。
血の臭気など常人が耐え得るものでない以上は当然だ。
経過した時間によっては腐臭さえ帯びる。
否。
己が吐瀉物のすえた臭いが先かもしれない。
そこには渇ききらぬ血と、死体となった肉があった。
「これはまた、随分と派手にやりましたね」
暗闇に足音が響く。
律動のように一定で、高く、鋭い。
女性の履物の音が闇を裂くように鳴る。
「臭い」
廃工場が、朽ちた倉庫か。
闇夜の降りる刻限、彼女はそんな場所にいた。
月光を浴びるのでもなければ星見のためでもない。
思考に浸りながらの散歩とも違う。
それは観察だった。
見届ける、と言う方が適切だろうか。
「本当、似合いの末路」
微かな月明かりに照らされる空間に辿り着いた彼女の前には、流血と亡骸があった。
双方共にまだ新しい。死んでるのは明白だが、警察が調べた後でないのも同様だ。
しかし、彼女の見た目がまだ成人にも満たない事実に反して、
死体を見ても表情には些かの揺らぎもなく、か細い喉は悲鳴の兆候さえ見せない。
何故なら、それは彼女がなした事の結果だからだ。
彼女が直接人間を亡骸に変えた訳ではない。
が、無関係かと言えば全く異なる。
二つの亡骸は、どちらもある学園の生徒。
着ている制服の柄から先輩後輩の間柄だ。
その死肉の有様は凄惨を極めている。
肉を抉り骨を斬り砕き眼球を抉り顔面を削ぎ皮膚を裂き臓腑を引き出す。
とても当人同士で殺しあった結果には見えないだろう。
凶器は鉈に鋸にと、その凶行を生んだ狂気は何だったのか。
プロにしては効率が悪過ぎ、素人にしては凶状が過ぎる。
まるで異教徒同士か近代以前の殺し合いだ。
死体に慣れている人間でもそう正視には堪えないだろう。
それを見て、彼女は笑っていた。
364 名前:意図操る妹 ◆lnx8.6adM2 [sage] 投稿日:2007/06/03(日) 07:16:28 ID:sieKQt3d
「っふふ・・・馬鹿な人達。
本当に滑稽に踊らされるマリオネットでしたね」
彼女もまたある学園の制服を着ていた。
死体のうち後輩が着ている物と同一の物だ。
同じ学園の制服を着た彼女が、学園の生徒二人の死闘の現場を訪れる。
偶然のはずもない。
「滑稽すぎて憐れむ事も出来ません」
警察の手が入ればいずれ知れる事だが、
死体達は生前はある学園の先輩後輩の間柄で、
ある一人の男子生徒を取り合っていた。
血塗れのこの場は、その痴情の縺れの果てである。
だが。
多く女は恋に生きると言われるとは言え、拷問を受けたような死体が出来上がるまで殺し合うだろうか。
否。
そこに、彼女の介入があった。
『彼女』は骸となった女性達が奪い合った『彼』の実の妹である。
彼女は片方に言った。
『あんな乳臭い小娘に兄を任せられません。
兄には大人の包容力を持った年上の女性が望ましいんです。
これから受験や様々な出来事の間に兄を支え、時に叱咤して育て上げてくれるような』
もう片方にはこう言った。
『あんな年増に兄さんは任せられません。
兄より先に学園を出て、どこか離れた場所へ進学するでしょう。
進学せずにあの年で就職と言うなら端から問題外ですし、
そうでなくとも遠距離恋愛など寂しいだけです。
兄に必要なのは、より長く身近で兄を支えてくれる人』
明言は避けて匂わすだけ、
そして互いにより有利と思い込ませつつも言質を与えないことで口には出させないようにし、
裏から二人の争いを過熱させていく。
後は簡単だった。
その成果が、目の前に転がっている。
彼女は笑った。
「包容力? 兄さんを支える? より長く身近で?
うふふふふふっふふあはあはははははははははははははははっ!!
愚か過ぎて爆笑物ですよ!
誰よりも兄さんの世話をして誰よりも兄さんを支え続けて誰よりも長く兄さんの身近に居たのは、
この私なのにっ!」
365 名前:意図操る妹 ◆lnx8.6adM2 [sage] 投稿日:2007/06/03(日) 07:18:56 ID:sieKQt3d
笑いが止まらない。
邪魔者は排除した。
彼女の愛する誰よりも慈愛に溢れた兄とて、よもや腐り出した肉塊に情を抱いたりはすまい。
一人勝ち。
いや勝負にさえなっていなかったのだ。
あらゆる点でアドバンテージを握り、それでいてなお努力を怠らぬ彼女に敗北などありえない。
戦場で最後に立っていた者を勝者とするなら、
全員が殺し合い死に絶えてから戦場に入った彼女は最高の勝利者だ。
「これで兄さんが私を見てくれる────────また私だけを見てくれる!
私の笑顔で起きて私の料理を食べて私にお礼を言って私と手を繋いで歩いて私とお弁当を食べて
私と帰りながら買い物に付き合って私の残り湯のお風呂に入って私と同じベッドで寝てくれる!
っああ・・・・・・私は幸せです兄さぁああんっっ!!」
余りの喜悦に涙が滲み、愉悦に蜜が溢れる。
兄を、戻って来た彼との思うだけで果てそうだ。
舐めしゃぶる指を伝って唾液が落ち、粘る蜜で下着がしとどに濡れる。
意志は兄と過ごした過去、兄と過ごす未来へと飛び、瞳は忘我の輝きを宿していた。
胸が張り詰め、抑え切れぬ情愛が二つ並んだ突起を更に尖らせる。
涎に塗れた右手を引き抜き下腹へ、左手を胸へとやった。
突き込んで蠢かせ、鷲掴んで弾き上げる。
「っあ・・・にぃ、さぁ・・・んんんんんんんん~~~~~~っっ!?!!」
果てた。
虚ろな瞳で首を上向かせ、指を引き抜いた際に垂れた唾液が口から喉下まで濡れ光る軌跡を描く。
空腰を打つ下腹からは流れ出すように雫の糸が伝い、がに股の膝の間を垂直に落ちていた。
愛情で死ねると思った。
焼き切れて断線した意識が繋がりを求めて漂う中、記憶に裏打ちされた確固たる兄の姿に抱かれて眠る。
死人に口はなく、敗者を前に勝利は甘美に酔い痴れていた。
「さてと」
暫くして。
彼女は身支度を整え、骸の横たわる場を後にする。
結果だけ確認できれば、後は毛程の関心もなかった。
もう邪魔者はいない。
そして、あの優しい兄は知人の死にひどく気落ちするだろう。
彼女はそれを慰めるだけ。
手を汚すことも無く。戦場に立つことも無く。
それでいて、最後は勝利者となる。
「ではさようなら。泥棒猫にもなれなかった雌猫さん達。
貴女達の愛情モドキ、勘違いの押し付け恋愛なんて私が相手をするまでもありませんでしたね」
兄のためを想えばこそ。
兄を取り合って間に挟まれた兄を苦しめるような者達など生かしておけない。
「それでは」
掃除は終わった。
嘲笑を浮べながら慇懃に一礼してその場を去る。
知人二人の死を知った彼が体調を崩すほどショックを受け、
それを学校を休んだ彼女が付きっ切りで看病するのは翌日以降の事。
最終更新:2007年11月01日 22:16