髪噛みハンバーグ

469 名前:髪噛みハンバーグ[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 16:55:55 ID:hHRYltAq
ウチの姉貴は料理が上手い。
ウチの姉貴の料理は美味い。
特にハンバーグが最高だ。
これだけで店が開けると言うレベルで、
オレはガキの頃からよくせがんで作ってもらったものだった。
それを餌に割と無茶な要求をされたりすることもあるが、
大抵は対価として納得できる取引だった。

長年かけて餌付けされてしまったような気もするが。

「えへへぇ・・・ヒロちゃん、美味しい?」

姉貴が、ハンバーグにかぶりつくオレを見て微笑んでいる。
何がそんなに楽しいのか知らないが、ご機嫌なようだ。

「ああ、美味いよ。いつも通り最高のハンバーグだ」

どうも恥ずかしいセリフのような気もするが、
正直言ってセリフをあれこれ考える時間が勿体ないので気にしない。
姉貴には悪いが、今は会話より食うこと優先である。
その方が作った側としても嬉しいかもしれないし。

「えへっ、そっかぁ。じゃあヒロちゃん、沢山食べてね」

「おうよ」

言われるまでもない。
楕円の物体は既に二つ胃袋に収まっているが、まだオレの箸は止まらない。

「あっ、そうだヒロちゃん。
 お姉ちゃん、ちょっとヒロちゃんに聞きたいことがあるんだけど。
 いいかなぁ?」

「ん?」

箸と口は止めずに視線だけ向ける。

「その・・・えっとねぇ?」

急にもじもじとし出す姉貴。
何だ?

「今日・・・お姉ちゃん、ハンバーグ作りにちょっと失敗しちゃったのぉ」

なぬ? 姉貴がハンバーグ作りに失敗だと。それは一大事だ。
・・・だが待てよ。これでも長年姉貴のハンバーグを食べてきたオレである。
何か失敗したなら食べた瞬間に分かるはずだが。

「特に・・・・・・変な味はしなかった、な。姉貴、何を失敗したんだ?」

「髪の毛」

へ?

「ボウルの中で混ぜた材料を捏ねてる時に、お姉ちゃんの髪の毛が中に落ちちゃったの。
 お姉ちゃん、ヒロちゃんに美味しいハンバーグを食べさせてあげたくて、
 一生懸命捏ねてたから気付くのが遅れちゃってぇ。
 一度捏ねてから気付いて慌てて探したんだけど見つからなくって、
 でも新しく作り直すのも無理だからそのままハンバーグを作っちゃったの」

470 名前:髪噛みハンバーグ[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 16:57:11 ID:hHRYltAq

「ええっと、姉貴。つまりは、何だ?」

オレの食った、或いはこれから食うハンバーグは姉貴の髪の毛入りであると?

「うん。でも、それだけじゃないのぉ」

この上まだ何かあるのか?
流石に箸を止めたオレに、姉貴は左手を差し出してきた。
中指に絆創膏が巻かれている。

「お姉ちゃん、ハンバーグを捏ねる前にちょっと指を包丁で切っちゃったのぉ。
 でもでも、本当にちょっとだったしあんまり痛くなかったから、
 そのままハンバーグを捏ねたの」

ほほう。それで?

「だからぁ、今日のハンバーグにはお姉ちゃんの髪の毛以外に血も入ってるの」

ああ・・・それはまあ、うん。
怪我してまで好物作ってくれたんだから、オレは気にしない。
髪の毛も、別に気付かなかったしな。
次から気を付けてくれればいいさ、姉貴。

「えへっ、ありがとう。ヒロちゃんは優しいねぇ。いい子いい子」

子供扱いはやめろ。

「了解、ヒロちゃん。でもぉ・・・これは癖になりそうかも」

急にうっとりとした表情になる姉貴。
何事だ。つーか何のことだ。

「だって、ヒロちゃんの口に私の体の一部が入ったんだよぉ?」

随分と生々しいな、オイ。

「ヒロちゃんが私の髪の毛を食べて、私の血を飲んで。
 ヒロちゃんに食べられた私の一部はヒロちゃんのお腹の中で消化されて、
 ヒロちゃんの体の一部になるんだよぉ?
 えへ。えへへ。
 それって、ヒロちゃんの体が少しだけ私の体と同じになるってことだよね。
 ヒロちゃんの体の一部が私になって、
 ヒロちゃんが私に、私がヒロちゃんに近付くってことだよね?
 家族で、姉弟で、同じ血の流れる二人がもっともっと一緒になるってことだよね?
 えへっ。
 えへ、えへっへへへへへへぇ」

もじもじぐねぐねと身を捩る姉。
が、唐突にその動きを止めると、嫌に真剣な目でオレを見た。
オレを見詰める姉貴の目には濡れたような、熱に浮かされたような光がある。

姉貴は、ゆっくりと口を開いた。

「ねえヒロちゃん。
 私は────────私の体は、美味しかった?」

姉貴よ。
オレは生まれて初めて、アンタの作ったハンバーグを吐きたくなったぞ。

471 名前:変名おじさん ◆lnx8.6adM2 [sage] 投稿日:2007/06/05(火) 17:00:55 ID:hHRYltAq
投下終了。

ぶっちゃけ確信犯です、本当にありがとうございました。

彼が気付かなかったように、ハンバーグは『いつも通りの味』でした。
あとは・・・・・・脳内補完でお願いします。

本当はキモウト用にとっておいたネタなのですけどね。
ご希望に適ったならば幸い。

ではまた、次の投下にて。

472 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2007/06/05(火) 17:05:19 ID:hHRYltAq
ちょっとミス。
>お姉ちゃん、ちょっとヒロちゃんに聞きたいことがあるんだけど。

お姉ちゃん、ちょっとヒロちゃんに言わなきゃいけないことがあるんだけど。

に訂正して読んで下さい。すいませんでした。

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最終更新:2007年11月01日 22:18
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